3年生 こうして俺の夏は終わった
やっと夏休みが終了だ!
麗君と紅茶を飲んでいるときにそれは起こった。
ドッペル襲撃班、最後の記憶統合である。
(あいつらなにやってんだ! クソ! ゲテモノ食の記憶を持ってきやがって、吐くな俺! 根性999を舐めるんじゃねぇ!)
一瞬、動きを止めたが根性で耐える。
『執事たるもの、常に優雅であれ』と教育されているし、今噴出すと麗君の顔が大惨事になる。
「どうかしたの?」
「いや、問題ない。俺は正常だ」
「?」
(ふう、何とか耐えれたか。さて、明日には近くの都市で回収されるからこの旅行も終わりか)
全部ドッペルに任せたとはいえさすがに堪えた、何せ自分の死んだ記憶が数十人俺の中に統合されているのだ。普通の人間なら発狂物であるが、私には根性999があるし体調パラメータでその辺をカバーできているので大丈夫だった。
さて、脱出に際して準備をしておくか・・・
「麗君、明日の脱出の際には変装してもらうぞ」
「うん、確かにそのほうが安全だね」
「じゃあ、明日はこれに着替えてくれ。一応君なら問題ないと思うが・・・」
そういって俺は白のワンピースと下着一式、それに胸用の詰め物を袋から取り出して渡した。
「え?! これって女物じゃ!」
「ああ、麗君には女装してもらい敵の目をごまかして一気に目的の都市まで移動する」
「//分かったよ、ボソ(うん仕方によね?緊急回避だし今これ着ても問題ないよね?)」
「? とりあえず明日に備えて今日はもう休もう」
「うん!」
何故か顔を赤らめつつ嬉しそうな声音で返事をする麗君がいた。何がそんなに嬉しいのか俺が買ってきたワンピースを広げて見ているのでそっとしておき、別室のベッドへ向かった。
翌朝、俺も若干の変装しつつ麗君の部屋へ向かった。
「麗君、入るよ?」
そうして部屋の扉を開け中へ入ると、美少女がいた。正確には女装をした男の娘だがその完成度が異様に高く、そこらへんの女子は足元にも及んでいない。レベルで言うとヒロイン達の中でも上位に位置するんではなかろうか?
「あ、どっどうかな? がんばって見たんだけど・・・」
「あっああ、なんていうか、分かっていたけど美少女になっちまったな・・・」
「そう? でも変じゃない?」
そういって麗君はその場でクルリとターンをし、それにつられてワンピースの裾が太ももまでめくれあがる。しかももう少しで下着が見えそうなギリギリのラインで、なんかとってもいけない気分になりそうだ。
(やっべぇ! 彼は男、彼は男、彼は男! よし、煩悩はされ?!)
俺が何か開いてはいけない扉から逃げるように精神集中をしていると、麗君は俺の手を取って顔を赤らめながら外へ出ようと声をかけてきた。俺も何故か手をつないだまま抵抗もせずに外へ出た。
「じゃあ私の護衛、お願いしますね?」
「え? 口調まで女言葉になってる?!」
「ウフフ、だって今の私は女の子ですもの、当たり前です」
「まぁいいか。折角変装しているのに口調でばれても困るしな。ではお嬢様、お手をどうぞ・・・」
俺は左腕を差し出しつつ麗君の右隣に立つ。婦女子へのエスコート、とりわけ令嬢へのマナーは執事長より厳しく教えていただいた。おかげでどこの財閥の令嬢相手にしても完璧にエスコートできる自信がある。
「ありがとうございます」
麗君はそっと俺の腕に手を絡めて一緒に歩き出した。しっかしなんだな、俺の初デート(オリジナルに限る)が男の娘か・・・
感慨にふけっていると、麗君も恥ずかしいのか顔を赤らめながら一緒に町を歩いている。
ボソ「初デート、初デート、彼と学生のうちにデートできるなんて・・・」
こうして俺は無事に私設SPの待つ都市へ移動を無事に完了させた。その後、旦那様よりお褒めの言葉をいただきつつ「卒業後、期待しているぞ?」と言われた。
高校最後の夏休みは波乱万丈の経験をつんで幕を閉じた。まったく、なんで学園シュミレーションなのにテロリストと戦うことになったんだか・・・
後は卒業式だ!
伝説の樹の下で待っているのは誰だ!
以下、駄文。もしドッペル達を本気で使用したらこんな感じ?
if編
俺と麗君が目を覚ますとそこは見知らぬ天井だった。しかもヨーロッパにいたはずなのに気候が違って熱くじめっとしている。
(しまった、現在位置が分からん。だが誘拐されたことだけは確かだ)
俺は麗君をなだめつつ、見える扉の向こう側にドッペルを10体作成した。その突如、扉のほうから喧騒が発生し、ドッペルから情報が伝わってくる。
(見張りを無効化したため追加の兵員をよろしく)
(OK!常に補充するからこの場所の制圧開始! 武器庫と足の確保、それと情報をよろしく)
俺はドッペルを常に生み出しつつ、情報を集めこの場所と敵勢力を駆逐していく。その間、ドッペルが何十人も死ぬがそのたびに記憶の統合が行われ情報と経験が蓄積され、強化された俺のドッペルが作成されてゆく。
3時間後、この基地には俺と麗君とドッペルしかいなくなった。敵は情報を聞き出し次第、天に昇ってもらい今頃は入国拒否で地獄に堕ちたことだろう。
「麗君、そろそろ帰ろうぜ」
「え? でも外にはテロリストたちが・・・」
「ああ、すでにいなくなってる。あれだよドッキリだったんだよ!」
などと適当なことを言いつつ麗君と連れ立って基地を出てゆく。ちなみに赤い染みだとか動かなくなった人型だとかはドッペル数百人体制で掃除をして綺麗にしている。
(執事の心得、『去るときは来た時よりも美しく』ですよね、執事長?)
こうして麗君の誘拐事件はあっという間に解決した。後にいろいろ聞かれたが、
「執事としての嗜みです」
全てこれで乗り切った。ちなみに執事長は『君もようやく一流の執事ですね』とにっこりと笑っていた。すげぇな執事!