Reason〜第2章〜
今回は時間が出来たので、一気に書き上げました。良かったら読んで頂けたら嬉しいです。
【Reason】〜第2章
ゲートが開いた後、静かに屋敷へと足が運ばれていく。
その先に着物を着た女の子が立っていた。白地の着物に蝶が飛び椿の華が咲いている柄で、パッと華やかな柄だ。そして、その女の子は肩までの腰までの髪の毛を降ろしており、頭には綺麗な花飾りと簪が刺さっている。目の色が日本人離れをしており、金色寄りの焦げ茶色の混ざった綺麗な目だった。
多少フラつきながらも、その神秘的な雰囲気に見入る。
「すいません、朝早くに。実は道を尋ねたくって……」頭を一度下げる。
「先程も申しましたが、貴方がこちらを尋ねたのは必然なのです。気にしないで下さい。主人が待っておりますので、こちらへ」その女の子が後ろを向くと同時に、玄関のドアが静かに開かれる。
えっ?今玄関のドアに触れて無かったよね?なのに、何で扉が開くの?頭が未だに倦怠感に見舞われてても、その疑問点を感じた。
「どーして?」咄嗟に出た一言だった。
「さぁ、こちらへ」その女の子は見た目は小学生ぐらいの身長と見た目だが、口調は大人そのものだった。感情が読めないって言うか。
その女の子は私の歩みを促す。
さっきまで、酷い倦怠感が今は感じられない。どうして?どうして?頭の中で疑問が膨れ上がって行く。
「その貴方の疑問は、貴方が求めるなら主人が答えます。ですが、貴方が求めない限り主人は一切応えません。その言葉選びは、くれぐれも慎重に……」その女の子は私の前を歩きながら話してくる。
「言葉選びって……私は、ただ単に道を尋ねたかっただけです」少しの間を置いて女の子は肩を竦めながら答える。
「さぁ……」さぁって何?何かイラっとする言葉に内心ムカっとした。
そこで、新たな異変に気付いた。その女の子の足元に目が釘つけになった。
その女の子はタビに、草履を履いている。そこまでは、理解出来る。問題は、そこからだった。
その女の子の履いてる草履が床から数十センチくらい離れてる。正確には【浮いている】だった。
そこで、疑問が確信に変わった。
その女の子は一切歩いてないのだ。人間は歩くと両足が必然的に膝が上がり、頭や肩の位置が動くはず。
それが一切無かったのだ。【浮いた】まま【移動】しているのだ。
それに気付いてからは、足元を見ないようにした。
うん、帰り道を聞いたら即行で帰ろう‼︎強く思った。余計な物は見ていませんスタイルで行こうと自然と両手を握り締める。
「こちらになります」女の子が立ち止まり振り向く。
洋館には不釣り合いな襖が待ち構えてた。その襖が静かに開かれる。
襖の奥から艶っぽい女性の声が聞こえてきた。
「よぅ来なさった。中に入りなさい」声だけ聞く辺り、成人してる女性の声がする。酷く色っぽい声だった。
一歩室内に入ると、広い和室だった。遠くで水が流れる音がする大きな日本庭園が見える。
部屋の奥に和服を着た女性が和服を少し着崩した様にすわっている。
「よぅ来なさった、立ってないで座りなされ。それとも立っている趣味があるなら、これ以上座る、立つの討論はするつもりは無いがぇ」そー言うと、カンと音が響いた。
その女性が煙管を叩いた音だった。その着崩した和服から胸元の谷間がチラチラと見え太ももが見えていた。だが不思議な事に、下品さは全く感じない。神秘的な女性だった。
唖然とその場を見ながら、足元にある座布団に慎重に座ってみる。その座布団はフカフカだった。
「わらわは、この屋敷を統べる者。【芙蓉】と申す者ぇ。そなたが、この屋敷を訪れたのは偶然では全くない。必然だったのぇ」又煙管をカンと鳴らす。
「はぁ、必然か偶然かは存じ上げませんが、帰り道をお尋ねしたいのです。朝方に起こす形になって申し訳ないのですが……」一応頭を軽く下げる。
「それが、そなたが求める答えかぇ?まず、この屋敷に時間の概念が全く無い為、朝方とか無い気を遣う必要は一切無いぇ」そー言うと、芙蓉さんは煙管を咥えると煙を吐き出す。実に綺麗な立ち居振る舞いだった。
同じ同性としても憧れてしまう。
フゥ〜と煙を吐き出すと、芙蓉さんが姿勢を直す。その度に目線のやり場に困る。
同じ女でも、この差は何⁉︎と思ってしまう。
「それで?わらわの答えに答えたのかぇ?道案内なら、ここまで、そなたを連れてきた雫でも出来た事。ここまで来た事への回答にはなっておらんぇ。さて、本来なら自分から促すのは好かんぇ、せん事ではあるんぇが、そなたわらわに何か差し出せる物は無いかぇ?」そー言うと、芙蓉さんの頭に差されてる簪がシャリーンとリズミカルになる。鈴が付いているタイプの簪だった為響き方が違った。
「何か?差し出せる物?」
「その通りぇ、何かを求めるなら何かしらの対価を支払うのは当たり前ぇ」チャリーンと又簪の鈴が鳴る。
でも確かに、その通りだった。正論を言われて、自分の手元を探してみるが……
しまった‼︎散歩だったから財布とか持ってる訳無かった。ましてや、鞄とかも持ってる訳でも無く。
ダウンコートのポケットを手探りで探してみる。
布っぽい感触がした為、取り出してみると御気に入りのハンカチが出てきた。
「あのぉ、余りにも唐突に出掛けた為鞄はおろか、お財布も持ってない状態で今差し出せるのが、御気に入りのハンカチぐらいしか無いんですが、それでも構わないでしょうか?」
「ハンカチかぇ、そのハンカチから温かい気持ちが伝わってくるぇ」
う?温かい気持ち?特に思い入れがある訳では無かったが、このハンカチを持ちながら行動すると割りかし何とかなっていた感じがする。でもバーゲンで惹かれる様に買ったハンカチだった。
それを見ず知らずの人に渡すのは、自分の中では惜しい気持ちもあったが……背に腹は変えられない。仕方ない。
「そのハンカチで請け負ってあげるぇ」芙蓉さんが静かに首を傾ける。その行動で、簪の鈴が鳴り響く。
「それを、わらわぇ」言われた為、広い和室の中をオズオズと移動しながら、芙蓉さんの開かれた右手の上に置く。
そー言うと、芙蓉さんは片手で持っている煙管を大きくカンと鳴らすと、煙管を咥え大きく吐き出す。
「フゥ〜そなた、奇妙な悩みを持っているのでは無いかぇ?」
「えっ?」奇妙な悩みって……時々みる夢かな?って口には出さないでいると芙蓉さんが続けて話し出す。
「それは、今そなたが思い浮かべた事ぇ〜その夢は、そなたに大きな試練を与えるぇ。ただ、そなた夢な為起きたら記憶に無いのでは無いかぇ?」
「そうです、何でか嫌な夢を見るんです。でも起きたら、記憶に無い上それから半日以上は倦怠感に見舞われてマトモに身体も思考も働かないんです」どーして芙蓉さんは分かったんだろう。
「その夢を起きてから覚えてないから、起きてる症状ぇ。そなた、その夢は……そなたを大きく助けて、さらに大きな試練として降りかかるぇ。これも何かの縁ぇ、そなたが今回見た夢を助ける物を授けるぇ。この水晶を枕元に置くのぇ」そー言うと、持っていた煙管を置くと帯元に刺していた扇子を取り出すと、私に扇子を向け付いてる鈴が鳴ったと同時に、私の手元が光った。
黄色に光ったと同時に、手元に薄紫の水晶が存在してた。
芙蓉さんを見ると、芙蓉さんがニコッと笑いかけて来た。
「そなたとわらわは、ここに縁が結ばれたぇ。又何かあれば、来れば良いぇ。そなたが強く望めば、この屋敷への道は開かれるぇ」
そー言うと、徐々に周りの見えてる物がボヤけ初めている事に気付いた。
「芙蓉さん、これは⁉︎」
芙蓉さんの姿が見えなくなって行く。
「そなたが望んでいた帰り道ぇ、そのまま身を委ねるぇ」大きくカンと音がした。周りの輝きが一段と強くなる。そのカンと音したのは煙管だと分かった。
眩しさが強過ぎて、目を思いっきり閉じる。
数分だったのか?数十分だったのか?分からないが、目を閉じていると辺りから車の音が聞こえてくる。
え?思わず目を開けると、そこは元にいた住宅街だった。
行き交う人が怪訝な目で私を見ている。路上で立ち止まっていたら、それは確かに変な目では見られるよねって気付くと、元来た道を戻りながら自宅のマンションへと小走りで走る。
帰宅して、玄関を閉めると……さっきまでの事を思い出す。
芙蓉さん……不思議な人だったなぁ。私が普段誰にも言ってない事を言い当てたし。
ダウンコートのポケットに手を入れると紫の水晶があった。
これは芙蓉さんとの事は事実だったんだと思える物的証拠だった。
ハッと気付く。時計に目が釘つけになる。朝の6時は過ぎていた。
うそーんと慌てだした。
言われた通りに、枕元に水晶を置いて会社へとダッシュする。
周りは静かな住宅街から、慌ただしい日常へと1日がダッシュして行く。
私の身体の倦怠感は全く落ち着かないまま、1日がダッシュして行く。紫の水晶が、私の何の役に立つのか?それは分からないが、変わりゆく自分の日常を心地良いと受け入れる自分が、確かにそこにはいた。