第6話 革命の果てに
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「では、今回の司会進行はわたくし放送部長の荒島 嵐がお送りしまっせ!!チェケラ!!」
遂に始まった俺の高校生活の掛かった大事な刻。
しかし、体育館の舞台に立つ放送部部長と名乗った荒島 嵐という奴のあまりのテンションの高さに、そのことを忘れてしまいそうになる。
にしても、チェケラって……古っ!!
もう少し時代に乗ったような言葉をつかえよ……チェケラはない……。
倍返しだとか、じぇじぇじぇとか、今でしょ?とか、そこらへんに……でも、倍返しされたらヤバイし、副会長になるなら今でしょ? なんて言われたらノリで成っちゃいそうだよな……。
うん。やっぱりチェケラでいいよ。チェケラ!!
「体育館の皆盛り上がってるか!!」
荒島先輩がそうマイクを使って体育館にいる生徒に声をかける。
体育館は一面を人、人、人で埋め尽くされ、ぎゅうぎゅうに座っている。
舞台から、見て右側から1年生、そして俺の所属する2年生、そしてそして左側には最高学年の3年生の先輩方が腰を下ろしている。
そして、その両脇には各学年の担任の先生、そして教科の先生が立ち、こちらを見つめている。
そんな注目を浴びている生徒会副会長の信任式が今始まる。
『もちろんだ!!』
体育館に響き渡る人の声。
それは反響して、あちらこちらから聞こえてくる。
みんな盛り上がってるな……俺は盛り上がってないけど……。
体育館を包み込むような熱気に押し潰されそうな気持ちになる俺。
そしてこんな中でふざけた演説をするなんて考えるとお腹が痛くなってきた。
くそっ……腹がいたい。
それに止めを指すように緊張の波が押し寄せてくる。
「じゃあ始めるぜ!まずは生徒会副会長に推薦された奴に挨拶をお願いするぜ!爆発四散しろや!!」
うん。突っ込みどころ満載だけど、突っ込んだら負けな気がするから無視しよう。
俺は座っていた椅子を立ち上がると、右手に挨拶文の書いてある紙を持ち、舞台の上に立った。
その瞬間、生徒の注目が舞台に集まる。
雑談や先生に隠れてケータイ弄っていた不良そうな男もみんなこちらに視線を移した。
そこから生徒会の関心の高さや、権力の強大さを感じることが出来た。
俺はそれらを一瞥すると、舞台の上にあった机の前に立ち、一礼する。
そして、全校生徒の注目を一手に浴びて、紙を広げる。その手には大量の汗がにじみ出ていた。
くぅ……緊張するな……そ、そんなに見るな。
マイクに手を掛け、口を開いて呼吸とも声かも分からない音を出した。
「は、初めまして、この度生徒会副会長に推薦していただきました。2年の佐藤 翼と申します。よろしくお願いします」
最初は噛みそうになったが、何とか最後まで言えてひと安心だな。
顔に安堵の表情を浮かべる。
しかし、建前って大変だよな……別に好き好んで生徒会副会長に推薦されたわけじゃないのに、建前上そう言わないといけない。人間ってめんどくさいわ……本当に。
自分の言葉を思い出して、そう感じた。
例えば、他人の家に遊びに行くとき、母親はお菓子持っていきなさいというが、それは建前だ。
だっていつもはお菓子は私達のおつまみだとか言って、お菓子に手さえ触れさせてくれないのに、その時だけ触れさせてくれるなんて不自然だ。
それは建前による作用としか言いようがない。
『なんだよ……お前かよ……』
先ほどの盛り上がりが一気に消え失せ、まるで南極にいるんじゃないかと錯覚するぐらい空気が冷たく感じた。
季節は梅雨明けの七月上旬。気温はそろそろ夏日を突破しそうな勢いで上昇しているこの頃に、このような寒さを感じるなんて俺は病気なんだよな?そうなんだよな?別に俺が嫌われてるとかじゃないんだよな?
自分を守る体の機能が働いた俺は、酷く取り乱してしまった。
辺りは静寂に包まれ、生徒の視線は体育館の床や友達の顔にしかない。
司会進行の荒島先輩も口をポカンと開けて、放心している。まさか、俺が生徒会副会長に推薦されたなんて信じられないという顔だ。
うん……分かってはいたけど……ここまでくると逆に清々しい気分になるな……クスンクスン。
そんな状況を打倒しようと俺の横の席に鎮座していた、朝ノ山高校生徒会会長、高橋 桜が席を立ち上がると手を大きく振り上げ、宣言した。
「今回の生徒会副会長の信任は、朝高独自信任方式を採用致します。その名もクリアゲット」
「クリアゲット?」
『クリアゲットきたぁぁぁ!!』
「分かりましたぜ!!では、今回の信任方式はクリアゲットに変更させていただくぜ!!」
盛大に無視された……今日のメインなんですけど……うん。どうでもいいよね……。
「あの……演説はどうなるんですか?」
クリアゲットについては後で聞くとして、演説はどうなるのか知りたい。
「演説は無しだ……その代わりのクリアゲットだからね」
何も気にすることなく、しれっとそう答える桜。
演説がないだとぉぉぉ!! それじゃあ俺の苦労はなんだったんだよ……。(まぁ、文は椿が考えたから、良いんだけどさ……暗記に費やした俺の時間を返せ!!)
その瞬間、俺の右手に持っている紙はゴミ同然の
物になった。紙はリサイクルしようね?
「で、何するんですか?」
諦めのような気持ちが俺を包み込んだ。
「クリアゲットとは究極的にギリギリな質問や行為をしてもらうという悪魔のゲームだぜ!!」
なんで貴方はそんなにテンション高いんですか?
「アウト!悪魔のゲームとか生徒にやらせて良いものじゃないよね?」
俺は担任の川原先生に助けを求めた。
先生なら助けてくれますよね?
一筋の願いを込めて、川原先生に声を投げかける。
「別にいいんじゃないんですか?死なない程度なら」
「先生なんて嫌いだぁぁぁ!!」
くそっ!!退路は絶たれた。
「じゃあクリアゲットを始めるぜ!!野郎共準備はいいか!!」
『うおぉぉぉ!!待ってました!!』
だから……なんでそんなにテンションの差をつけるんですか?そんなに俺のこと嫌いですか?
目から涙が出そうになり、慌てて拭き取る。
体育館のテンションゲージは最高潮に達し、先ほどの南極のような寒さは一掃された。
まぁ、俺は南極のままだけど……。
しかし、その言葉は誰にも届かない。
「準備はいいか?佐藤 翼!!」
「お、おう……はい」
くそっ!!テンションが上がらない……。
俺の心の中のマグマはグツグツ煮えたぎっているに……。
「じゃあまずクリアゲットについて説明するぜ!!」
「お、お願いします」
「クリアゲットは全三問の質問に答える。しかし、質問は究極的にギリギリなラインのプライバシーに関わることだ。しかし、質問に対する拒否権は認められないぜ!!」
「拒否権が認められない?」
クリアゲット恐るべし悪魔のゲーム。
まぁ、簡単に説明すると。
拒否権がないから、ただ答え続けるゲーム……ってか、これイジメなんじゃないか?
嫌な間隔が俺を駆け巡った。
「じゃあ大一問!!貴方の好きなエロゲはなんだ?」
「お、俺エロゲなんてやったことないんですけど……」
むしろ美少女ゲームすらやったことないし……。
「嘘つくなよ!!あるだろ?」
「ないです」
「ないだろ?」
「あります……って!!ないわ!!」
くそっ…なかなか上手い誘導尋問じゃあねぇかよ……危なかった。
「あるらしいぞ!!」
情報操作って怖いわ……本当に。
「じゃあ大2問だ!!佐藤翼の黒歴史をひとつ答えろ!!」
ほうほうなるほど……黒歴史を言えばいいのか。
しかし、荒島先輩それは俺にとっては優しい質問ですよ?
俺に黒歴史を聞いたら、一時間は話せるほどあります……マジで何を話したらいいのか……分からない。
小学1年生の頃、う○こを便器じゃあなく床にしちゃって、あだ名が「フロアダスター」になったり、中学二年の頃に、間違って女子の体操服を着て、あだ名が「オカマン佐藤」になったり……うっ!!もう死にたい……お嫁にいけない……。
「高校1年の頃、わざとじゃないんですけど……女子のスカートを……下ろしてしまい……その女子から「エロニスト」と呼ばれ、警察に通報されたことです……」
「……」
荒島先輩は固まった。
『……きも』
全校生徒の視線が異物でも見るかのような目に代わり、何処からか悪口も聞こえてくる。
ヤバイ……チョイスミスったか……。
体育館を再び包み込む静寂は、先ほどよりも深く厳しい空気感がした。
そして、舞台の上に立つ俺を敵を見る目で見る、女子。
胸を隠し、スカートを抑え、警戒している。
その隙間から見える個性豊かな下着、太陽のような赤、海のような青、そして大地のような緑など様々な色をしている下着の数々。そこには十人十色の性格の違いが見て取れた。
「そうか……それは確かに黒歴史だな……レベルが高い……」
荒島先輩がなんとか生き返った様子だが、テンションがやたらと低い。
これも俺の黒歴史の効果か……凄まじいな。
「じゃあ最後の大三問……」
遂に最後の質問か……何が来るんだろう。
貴方は童貞ですか?→はい。
貴方はロリコンですか?→はい。そして、シスコンです。
よし、準備は出来た……こい!!俺に答えられない質問などない。
荒島先輩の口がゆっくりと言葉を発する。
「佐藤翼の好きな人は誰だ?」
と。口を走らせたのだ。
「す、好きな人!?」
分からない……俺に好きという感情は今は理解できない。
しかし、この質問は考えてなかった。
「佐藤くん!!」
そんな絶体絶命の状況の俺に入ってくる天使の声。
その声はいつも聞いているはずなのに、なぜか新鮮味が感じられた。
不気味なオーラを放ち、青い長い髪を肩まで垂らして、いつも無表情無感情の美少女。
革命軍の同胞、中村 椿の声だった。
体育館中央の2年生の列から立ち上がり、俺の方に視線を向ける椿からは、いつもの不気味さが感じられず、何処にでもいる女の子という印象を受けた。
「わ、私は佐藤くんの事が……大好き!!」
体育館にこだまする椿の透き通った声。
「なんだってぇぇぇ!!」
『なんだってぇぇぇ!!』
いきなりの告白に心臓が張り裂けそうになる。
そして、体育館にいる全校生徒からは大きなどよめきが起こった。
「ちょっと待ちなさいよ!!抜け駆けはズルいわよ」
そんな状況の中、横にいた桜が椿に抗議する。
その目には炎が燃えたぎっている。
おいおい……まさか止めろよ……。
「私の方が翼のこと大好きよ!!愛してるわ!!この人になら私の全部あげられるわ」
『なんだってぇぇぇぇぇぇぇ!!』
「きたれり修羅場……終わった俺の高校生活」
桜のカミングアウトで更にどよめき立つ体育館。
男子から俺に向けられる視線には刃物のような鋭さと殺気を感じる。
一方で、女子からは暖かな目が送られている。
もう女子は諦めたという様子だろう。
目死んでるし、泡吹いてる人とか白目向いている人とか大変なことになってんな……。
そんな時、体育館のドアが勢いよく開けられた。
いきなりの出来事に全校生徒の視線は釘付けになる。
そこに見えるのは一人の女子の姿。
紙は緑のぐるぐる団子、耳には輝きを放つピアスが、そして顔には完璧に化粧が施されたイマドキビッチ女子。
朝ノ山高校のマドンナが高橋 桜。朝ノ山高校のプリンセスが中村 椿。そして、朝ノ山高校のアイドル……姫島 菊。それが今集結した。
「サトルンティウス!!私と付き合いなさい」
『なんだってぇぇぇぇぇ!!』
「あぁ、悪いそれは断る」
姫島 菊。俺の幼馴染み。
家柄は日本に昔から続く名家、姫島家。
頭脳明晰、成績優秀、文武両道、才色兼備、という高橋 桜にも劣らない完璧超人。
そして、この朝ノ山高校の生徒からはアイドル的存在として親しまれている。
しかし、俺は知っている……この女の適当さを。
部屋が汚い……美少女だけど汚い。
だから、きれい好きな俺は菊とは付き合えないのだ……贅沢ですいません……。
「な、なんでですの?やはりそちらの二人の幼馴染みの方がよろしいのですか?」
「はっ?二人?」
俺の頭の中に疑問符が浮かんだ。
「高橋桜と中村椿のことですわ」
「椿が幼馴染み?嘘だろ?」
「嘘なんてつく意味ありまして?」
「あの……生徒会副会長に決定しましたので……おめでとうございます」
「えっ!?あっ、はい」
知らない内に生徒会副会長信任会は終了していたらしく、俺は生徒会副会長になってしまった。
しかし、今の俺にとってさほど重要な事ではなかった。
それよりも……いきなりハーレムみたいになっちゃったんだけど……どうするべ?
しかも、マドンナ、プリンセス、アイドルという学内最高クラスの美少女達に好きと言われてしまった事実。
高橋桜、中村椿、姫島菊という3人の幼馴染みで
あったという衝撃の事実。
俺の人生いったいどうなってるんだ?
「翼、私と付き合うよね?」
高橋桜が俺にそう言ってくる。
「佐藤くん。私と付き合って欲しいな」
中村椿が笑顔でそうお願いしてくる。
「サトルンティウス。私と付き合いなさい」
人の名前を言い返したあだ名で、俺にお付き合いを強要する姫島 菊。
「青春ラブコメが来たぁぁぁ!!」
全校生徒の視線の中で、そう叫ぶ俺。
その瞬間、辺りは悲鳴と怒号で埋め尽くされた。
さぁ、遂に物語が動き始めますよ。
学園物の定番、幼馴染みとの恋。
うぅん……楽しみだな……。
恋愛したことがない紀州が描くラブコメはどうなるのか? こうご期待ください。