~その12~ 男の一臣様
ベストを脱いで、真っ白なシャツのボタンを全部外すと、
「なんで、じっと俺のことを見ているんだよ」
と一臣様は言いながら、私の上に乗っかってきた。
「え?み、見ていません」
「見てただろ。うっとりと…」
ばれていたか。
「だって…」
シャツは脱がないの?前、はだけたままでシャツを着ているっていうのも、やたらとセクシーだ。
ドキドキ。そんなセクシーな姿のまま、一臣様は私にキスをしてきた。
ひゃ~~。大人のキスのほうだ。それだけで、もうとろけてしまう。
ほわ~~~~~~~ん。宙に浮いている気分だ。
あ!耳にキス!ビクンって体が反応してしまった。そういうのって恥ずかしい。
それから首筋にキスをしてきて、長襦袢の胸元を一臣様は広げてきた。
「色っぽいよな。お前、バスローブより、こういうのを着たほうが色っぽいんだな」
ドキ!なんか、すごいことを言われたかも。
そして、胸の谷間に顔をうずめ、キスをする。
ひゃ~~~。胸の奥がうずって今、疼いちゃった。
ドキドキドキ。胸は高鳴るのに、その奥ではうずうずうずって、疼きがだんだんと表面に出てこようとしている。
するっと腰ひもを一臣様はほどくと、するりと長襦袢を脱がせていく。
うずうずうずうず…。ドキドキドキドキ。それからの展開をドキドキしていると、
「あれ?まだ、下に着てるのか?」
と一臣様が普通に話しかけてきた。
「…これは、肌襦袢です」
ちょっと、気持ちがしらけちゃった。うずうず、ドキドキしていたのにな。
「何枚着ているんだよ。下のは…、裾よけ?」
「はい」
「薄いピンク色なんだな。やたら色っぽいな」
ドキン。一臣様の目も熱っぽい。あ、またドキドキ、うずうず。
でも、一臣様は肌襦袢を脱がせるのに、苦労し始めた。
「これ、どこで紐結んであるわけ?」
「…ここです」
また、しらけちゃった。ドキドキしていたのになあ。
私は、しかたなく自分でその紐をほどいた。紐がほどけると、胸があわらになってしまった。
うわ…。なんだか、自分で脱いじゃったみたいで、やたらと恥ずかしい。しらけていたのに、また一気に胸が高鳴ってしまった。
そして、ゆっくりと一臣様は肌襦袢も脱がすと、なぜだか、上半身を起こして私をじっと見ている。
なな、なんで?なんか、変?あ。裾よけだけになっているから、かなり間抜けな恰好なの?
どうしよう。恥ずかしい。
視線に耐えられず、思わず両手で胸を隠すと、
「うわ。ますます色っぽいぞ」
と、一臣様はそう言って、「う!」といきなり鼻をおさえた。
まさか、鼻血?
「俺、鼻血出ていないか?」
一臣様がおさえていた手をどけた。
「出ていません」
「そうか。今、やばかったんだけどな」
「……」
なんで鼻血?
「こういうの、前にビデオで見たことある。時代劇物のエッチビデオ」
え?!!
「上だけ裸で、下は、この裾よけってのをつけてて…」
どんなビデオ観ていたのよ!もう!
「…で、そんな胸だけ手で隠されたりしたら、よけい色っぽくなるだろ。あほ」
そんなこと言われたって!
「それで、この裾よけはどうやって脱がせたらいいんだ?また、紐が付いているな」
「これは…」
また自分で脱ぐみたいで恥ずかしい。そう思いつつ、躊躇していると、
「あ、この下何もつけていないんだっけ」
と聞いてきた。
「はい」
頷くと、するっと裾よけの隙間から手を、一臣様が入れてきた。
「駄目!」
「なんで?」
「なんででも、駄目です!」
そう言ってもきかないで、今度は裾をまくってきた。
「駄目!」
「だから、なんでだ?」
「だって」
すごくスケベな感じがあるもん!
「脱がなくていいぞ。このままで」
「え?」
「そっちのほうが色っぽいし」
いや。なんかそっちのほうが、変態っぽい。
「ぬ、脱ぎます」
「なんでだよ」
「だって、なんか嫌です」
「お前、全裸になると狸みたいだし、こっちのほうが色気出るって」
たぬき?!狸って言った?
犬、猫、小動物から、とうとう狸?それも、オールヌード姿が、色気もない狸?!
ガーーーーーン。岩、久々おっこちてきた。ものすごいショック。
「ひどいです。狸って」
「可愛いってことだぞ。可愛いけど色気がない」
ガ――――ン。それって女としてどうなの?さらにショック!
「な?だから、つけたままでいいぞ」
「脱ぎます!」
意地でも脱ぐ!
私は、紐をほどいて、自分からするすると裾よけの前を広げた。
「……。そ、それはそれで、かなり…やばいぞ」
「え?」
「う!鼻血出ていないよな?」
「出ていません」
「危なかった。俺が高校生だったら、絶対鼻血出してた」
え?何それ…。
「弥生!」
ガバ―――ッ!
うわあ!上に思い切り覆いかぶさってきた。
「お前、色っぽすぎだ」
え?え?だって、さっき、脱いだら狸だって…。
ちょ。ちょっと待って。キス、なんかいつもより強引。それに、息が荒い。
うわ~~~!!!ちょっと待って~~~!!!胸を触ってくる手も、いつもと違うよ~~!!!
嘘、嘘、嘘、嘘。なんか、一臣様が、思い切り男になってる!どうしよう。
ガバっと一臣様は私の上から起き上がった。
良かった。落ち着いてくれたんだ。と思っていたのもつかの間、一臣様はシャツをぽいっと脱ぎ捨て、ガチャガチャと勢いよくベルトを外してタキシードのズボンを脱ぐと、パンツもぽいっと脱ぎ捨て、またガバッと私に覆いかぶさってきた。
うわ~~~~~~~~~~~~~~~~~~。なんかのスイッチ、入れちゃったのかも?!
どうしよう~~~~~~~~~~~~~!!!!
激しいのはまだって言っていたよね?そのうちって。
なのに、まさか、もう?!
でも、抵抗がまったくできなくなってる。
怖いのに、何も言えない。されるがまま。
どうしよう。ってそればっかり、頭の中で繰り返す。
ひえ~~~。こんな一臣様は、初めてだ~~~~~。
優しくない。息が荒い。力、強い。体重全部かけてくるから、すごく重い。
「弥生」
私の名前を呼んで、キスをしてきた。
「ん~~~~」
キスまで、なんだか力強い…。何度も、キスをしてきて、私の顔をじっと熱い視線で見てきた。
ドキン。
「弥生…。悪い」
落ち着いたの?我に返ったの?おでこにチュッて優しくキスしてきたし。
良かった。優しい一臣様に戻ったんだよね。
「今夜は…、俺、優しくするのは無理だ」
へ?
「激しいのも、いいよな?弥生」
え~~~~~~~~~~~~~~~~~~?!!!
ダメダメダメダメ。駄目!!!
駄目!!!!!
って、何度も言ったのに、聞いてくれない。
うわ~~~~~~~~~~~~~~~~………!無理だってば~~~~~~~~~!
って。あ。あれ?
た、確かに。昨日や今朝とは違うけど、乱暴しているわけじゃない。キスも全身してくるけど、昨日よりちょっと息が荒いっていうだけだし、ギュウって抱きしめてくる力が増しているだけ。
ホ…。もっと、乱暴にされたり、無理やり感があるのかと思ってびびっちゃった。
胸に顔をうずめてくる一臣様は、ギュウって私を抱きしめてくるから、思わず私も、ギュウって抱きしめ返してしまった。
うひゃあ!なんか、思い切り抱きしめあっているのって、ドキドキしちゃう!
それに顎にかかる一臣様の髪が、ちょっとくすぐったい。
またキスをしてきた。舌が熱く絡み合ってきた。
うわ~~~~~~~~~。溶けた。もうトロトロに溶けた。
これ、まさか、2日目にして、中級編までいってる?上級編までいっちゃった?
初級編じゃないよね?
それはやっぱり、女の人と付き合い慣れているから、こんなに早い展開なの?それとも、これが普通?
ギュウ。また思い切り抱きしめられた。
「弥生…」
耳元で名前を呼んで、耳にキスをしてきた。それに耳たぶを甘噛みされた。
ひゃあ!
駄目だ~~~~~~~~~~~。もしや、こういうのを、「落とされた」っていうのかな。
うっとりと一臣様の目を見た。一臣様の瞳に私が映っている。瞳に映った私は、トロンと目をハートにしている。
やっぱり。落とされちゃった。
ギュウ。私も抱きついた。
「一臣様」
耳元でそう囁いた。そして、
「大好き」
と、聞えるか聞こえないかの声で囁くと、
「俺もだ。愛してるぞ」
と、そう一臣様は言ってくれた。
ひゃ~~~~~~~~~。愛してるって、言ってくれた~~~~~~~~~。
嬉しい~~~~~~~~~~。
また、溶けていっちゃうよ。
ギュウ、と抱きしめると、ギュウっと抱き締め返してくれる。それを何度も繰り返し、何度も情熱的なキスを繰り返した。
一臣様は私の上から起き上がると、私の体の下にそのまま下敷きのようになっている肌襦袢や長襦袢、そして裾よけを優しく私の下から、するっと引き抜いた。
「これは、しわくちゃになってもいいのか?」
「はい。洗えますから」
「そうか」
そう言うと、それをくるっとひとまとめにして、ぽいっと床に落とした。そして私の隣に寝っころがると、腕枕をしてくれた。
腕枕!ちょっと夢見ていたんだ。叶っちゃった。
ドキドキ。ドキドキ。胸が高鳴っている。一臣様の体に腕を回してみた。あ。さっきよりさらに、接近できた。
なんでだか、わからない。いつもなら、こんなに大胆に一臣様に抱きつけない。でも、抱かれたあとって、なんで大胆になれちゃうのかな。
「弥生。理性ふっとんで、悪かったな」
「いいえ」
「怖かったか?」
「……い、いいえ」
「本当に?」
「はい。全然怖くなかったです」
「なんだ。そうか。激しくても大丈夫なんだな?じゃ、今度はもっと」
「い、今くらいので、これ以上はちょっと無理です」
「なんだ…」
あ。なんか、思い切り残念がった?これ以上激しいって、どうなっちゃうの?
…。って今、妄想しようとしちゃった。危ない!
「お前、色っぽかったな」
「狸じゃないんですか?色気も何もないんじゃないんですか?」
「そんなことなかったぞ。お前の体の下にある、裾よけとか、薄いピンクでそそられたし」
そういう演出あっての色気なわけね。私自身じゃないわけね。
「それに、裸なのに足袋だけ履いているっていうのも、そそられたし」
「え?!」
わ~~~~~~~~~。本当だ。なんか足が変だと思ったら。足袋履いてた。
「きゃあ」
「何だよ、今さら恥ずかしがるなよ。履いていること気が付いていなかったのか?」
「はい」
私は起き上がり、ベッドに座ったまま足袋を脱ごうとした。でも、じいっと横で一臣様が見ていて、素っ裸だったことを思いだし、
「み、見ないでください」
と、背中を向けた。
「なんで今さら、恥ずかしがるんだ?こっち向けよ。脱がしてやるから」
ええ?
くるっと私の体を一臣様のほうに向けると、私の足を持って、足袋の留め金を外しだした。
うわ。これ、変な図になっているよね。だって、私全裸…。
どうしよう。胸とか隠す?あ。掛け布団で体を隠したらいいんだ。でも、掛け布団まで、一臣様、床にほっぽり投げていて、ベッドの上には何もない。枕くらいしかない。
「はい。反対の足」
片方の足の足袋を脱がされ、もう片方の足も一臣様のほうに向けた。
もじ…。どこをどう隠していいのかもわからず、枕を引き寄せ、枕に抱きついて目を閉じた。目を開けていると、素っ裸の一臣様が視界に入ってしまう。
「木に抱きついているコアラみたいだぞ」
え…。
狸の次は、コアラ……?
する…と、もう片方の足袋も脱がされた。そして一臣様は、私のつま先から、つつーと指で太ももまでなぞってきた。
「ひゃ!」
私は肩をすぼめた。
「弥生って、感じやすいな」
え?!
「そ、そ、そうなんですか?」
「ああ」
うわ。やめて。太ももを撫でるの…。それから、一臣様は私にキスをして、
「汗、かいたから、風呂一緒に入ろうな?」
と言って来た。
はあ?!
「一人で入ります」
「駄目だ」
「だ、駄目じゃないです」
「一緒に入るんだよ。当たり前だろ?」
なんで当たり前?!
「あ。今までも、こういうことをしたあとは、女の人と一緒にお風呂…」
「入ったことないぞ。一回もな」
「え?」
「だって、面倒くさいだろ?一人で入ったほうがゆっくりとできるし」
「……じゃ、じゃあ、お一人でお先にどうぞ」
「だからっ!いつも言ってるだろ?お前は違うんだよっ!!!」
「い、いえ。遠慮しないでお一人でどうぞ」
「お前だろ?遠慮しているのは。本当は一緒に入りたいくせに」
「いえいえいえいえいえ」
「俺が服脱ぐときも、うっとりと見つめているくせに」
それとどういう関係が?!
「俺の背中とか、胸、洗えるんだぞ?さあ、どうする」
私を変態扱いしてる?もしや。
けど。
背中、流せるの?一臣様の?
それも、ちょっと夢見てた。結婚したら、旦那さんの背中を洗ってあげて、
「お仕事お疲れ様でした」
とか言って、一臣様の広い背中にお湯をかけたりして。
でも、その妄想では、私は服をちゃんと着ているの。できたら、着物。タスキをして、お背中流すんだ。
っていう、大正ロマンチックな、妄想をしていたけど、その妄想では私まで裸っていうことはないし、一臣様の胸まで洗ったりはしないし、一緒にバスタブにだって入らない。
「入るぞ」
グイッと、腰を掴んで私は立たされた。抱きついてた枕は、一臣様に抜き取られ、ポイッとベッドに投げ捨てられた。そして裸のまま、バスルームに連れて行かれた。
待って、待って。と言ったって聞いてくれない。
わあ。一緒にお風呂?一緒にジャグジー?ダメダメ。腰砕けになる。絶対に私、のぼせる。無理無理!
でも…。一緒に入って一臣様の背中や、胸を洗ってあげたりして…。一臣様の肌に直に触れちゃったりして…。そ、それはちょっと、嬉しいかも。って、私はやっぱり変態か?!
あれ?でも、私が洗うだけ?まさか、私の体は一臣様が…?
「わ、私は…」
「なんだ?」
「私の体は…」
まさか…ね。
「洗ってやるぞ?」
ひょえ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!
一臣様が私を?
駄目だ。絶対に私、ぶっ倒れちゃう。
でも。体を洗ってもらうのって、やっぱり、優しく洗ってくれるのかな。
うわ。だから、やめようよ、妄想は。一臣様が優しく体を洗ってくれるところを妄想しそうになった。タオルに石鹸つけて、背中をゴシゴシと…。腕や、首も。
「前は自分で洗います」
とか言って恥ずかしがって…。それで…。
グイッ!
バタン。
あれ?
うわ~~~~。妄想の世界に浸っていたら、ドア閉められてた。そしてシャワーを出して私の体にあったかいお湯をかけ、それを壁にあるホルダーにひっかけると、一臣様は石鹸を手にした。
ひゃあ。私から洗うの?あれ?でも、タオルどこにもないけど。
え?
手で?!
ぎゃ~~~~~~~~~~~~~。私の妄想をはるかに超えてた~~~~~~~~~!
手に石鹸つけて、いきなり胸を洗って来た!
「ややや、やめてください」
「動くな。洗えないから」
きゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。
きゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。
きゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!
心の中で騒いでいるうちに、一臣様は私の全身を洗い終えていた。
ヘナヘナ。やっぱり。腰砕けた…。