~その11~ 色っぽい私?!
「じゃあ、弥生。元気でな」
葉月や、卯月お兄様が私にそう言って、正面玄関から出て行った。如月お兄様は一臣様に、
「弥生を泣かせるなよ」
と、怖い顔でそう言うと、私には頭を優しく撫でながら、
「辛いことがあったら、すぐに報告して来い」
と言ってくれた。
ないと思うけど、「はい」と素直に頷いておいた。
父はしばらく総おじさまと話をして、それから、
「弥生、皆さんに迷惑をかけないように、頑張るんだぞ」
と私の頭を撫でると、お屋敷を出て行った。
「じゃあね、弥生ちゃん。元気でね」
「弥生、もう戻ってくるんじゃないぞ」
祖父と祖母もそう言うと、父の後を追って出て行った。
私と一臣様と、総おじさまは、みんなが車に乗り込んで、その車が発進するまで見送った。
やれやれと、一臣様は首を回したり、肩を回したりしながらお屋敷の中に入った。
「そうだ。総おじさまってなんだ?親父」
「それは、弥生ちゃんに聞きなさい。じゃあ、僕も疲れたから、もう寝るよ。おやすみ、弥生ちゃん」
総おじさまは、私ににっこりと微笑んでそう言うと、階段を上がって行った。
「なんなんだ。いったい何がどうなってるんだ」
そう言って、一臣様も私と一緒に2階に上がった。そして廊下を進もうとして、その暗い廊下に京子さんがいるのを発見した。
「うわ!びっくりした」
京子さんはまだ、ドレス姿で、暗がりの中にいるから、一瞬幽霊に見えてしまった。
「ど、どうなされたんですか?京子さん」
一臣様は顔を引きつらせながらそう聞いた。
「一臣様」
いきなり京子さんは一臣様に抱きついた。
うわ!抱きつかないで。と思った次の瞬間、京子さんはものすごいことを言いだした。
「わたくしは、元気です。その証拠にわたくしを抱いてください」
「は?!」
私も一臣様も、同時に聞き返してしまった。
「まだ、一回も殿方に触れさせたことのない体です。でも、一臣様に捧げるために、わたくしは」
「ちょ、ちょっと待ってください。京子さん、言っていることが支離滅裂ですよ?」
一臣様は、自分の体から京子さんをべりっと剥がすとそう言った。
「一臣様に抱いていただいても、わたくしの心臓は壊れません」
え?
私は壊れそうなくらい、バクバクしたけど。って、そういうことじゃないよね。
「そうですか。でも、僕が心配したのは、赤ちゃんを産むという行為ですよ。母体にはかなりのリスクがともなうんですよ?」
「大丈夫です。もう手術で元気になったんです」
「……僕は、一人だけではなく、最低二人は子供が欲しいですし、元気に子育てもしてほしい。こんなことを言ってはなんですが、京子さんから言い出したことなので、はっきりと僕も言いますが、結婚したら、奥さんになる人とは、セックスも大事にしたいと思っているので、何度もしますよ。京子さんにはそういうことは、無理だと思います」
「いいえ」
京子さんはまた、一臣様に抱きつこうとした。
「申し訳ないが。父の話も聞いていましたよね?不本意ですが、僕はやはり、上条家の人間と結婚しないわけにはいかないんですよ」
そう言って、また一臣様は京子さんの体を離した。
『不本意』と言う言葉に、私のほっぺがぴくりとしたけど、一臣様は気がつかなかった。
「それって、政略結婚ですよね?会社の犠牲になってよろしいんですか?」
ああ。やっぱり。京子さんもそう思うんだ。
「僕には、会社を守るという義務があるんです」
「一臣様はそれでよろしいんですか?」
「は~~~~~。じゃあ、この際、はっきりと言っちゃいますよ。ぶっちゃけ話」
うわ。一臣様、いきなり表情が変わった。眉間にしわがより、ああ、面倒くさいっていう顔をして話を続けた。
「俺には誰だって同じなんです。悪いですけど、たったの1~2日で、相手のことなんかわかるわけがないし、まあ、やよ…。上条弥生は好みではなかったくらいのことで、嫌っているわけでもないし」
嫌っていたけど、最初は思い切り。でも、黙っておこう。
私は2人の会話を聞いていていいものかどうか、その場で悩んでいた。でも、なぜか一臣様が私の腕を掴んでいたので、動けずにいた。
「タイプで言えば、あなたや、麗子さんが俺のタイプだ。それも従順で言うことを聞いてくれそうなのはあなただった。理由はそれだけです」
「え?」
「親父の言うとおりにするのも悔しかったっていうのも、正直あります。だから、上条弥生は除外視していた」
「………」
「受け入れるしかないんなら、受け入れますよ。俺もいい加減大人ですからね?跡継ぎを作らないとならないと言うなら、上条弥生も抱きます。上条弥生なら、元気にポコポコ赤ちゃんを産んでくれそうですしね」
ポコポコ。また言われた。そんなに簡単に産みそうなのか?私って。
「ひどい。弥生さんをなんだと思っているんですか?」
「弥生だけじゃなく、どんな女だって同じです」
あ。なんか、わざと自分を悪く言ってるんだ。一臣様。自分を軽蔑させて諦めさせようとしているのかも。
「じゃあ、龍二様が言っていたこと、本当ですか?」
「俺が女に手の早い最低な男だって?」
「そ、そうです」
「本当ですよ。ずっといい顔してましたけど、こいつはそれも知ってます。なにしろ、俺の会社で秘書をしているんだから、俺がどんな女と付き合っていたかも、全部知ってます」
「え?!」
「な?京子さんが思うような、そんな男じゃないよな?俺は」
「はい」
あ。即答しちゃった。ちょっと一臣様、へそ曲げた?片眉、思い切りあがった。
「でも、弥生さんはそれで…」
「いいそうですよ。こいつも、あなた動揺、俺を一目見た時から惚れちゃったらしいから。俺のストーカーなんです」
ばらしてくれた~~!!!酷い。
「え?」
「だから、俺に抱かれるのも平気だし」
平気じゃないよ。平気じゃなかったじゃない!む~~~~。
「俺の子供も喜んで産みますよ。ポコポコと」
ああ。もう、さっきからみんなして、ポコポコって…。
「……。で、でも」
「まだ何か?京子さんはもっと、誠実でお優しい男性のほうが合っていると思いますよ?体のためにはセックスも強要しないような」
「え?!」
京子さんはしばらく顔を青ざめさせ、それから、
「では、弥生さんは」
と私を見た。
「……あなたも見たんでしょ?俺の部屋にこいつが入ってきたのを」
「え?では、やっぱり」
次に一臣様を見た。
「その通りです。据え膳食わぬはなんとやらって言うでしょ?俺は、去る者追わず、来る者拒まずの最低の男ですよ?わかったら、どうぞ、今日中にご実家にお帰り下さい。もう、大金麗子さんも、長谷敏子さんも、お帰りになりましたよ。選ばれなかったら、ここにいる意味がないですからね」
「……」
京子さんは目に涙を浮かべ、
「わたくしは、ずっと一臣様のことを思い違いしていたんですね」
と、そう言って、泣きながら部屋に戻って行った。
「弥生、俺の部屋に来い」
なぜか、一臣様はそう大きな声で言うと、私を一臣様の部屋に入れた。
なんで大きな声で言ったのかな。
「龍二が、そっとドアを開けて聞いてた」
「え?見えたんですか?」
「ああ。わかった。それで、お前を盾にして、京子さんからは見えないようにしてた」
あ。それで私の腕を掴んでその場から動けないようにしていたのか。
「あいつが、今後、京子さんにどう接していくかは知らないけどな。とりあえず、お前のことは俺がいやいやながらも、受け入れたと思っているだろ」
「……酷いです」
「え?何がだ?」
「だって、何回も、ポコポコ産みそうって」
「ああ。それは本当のことだろ?俺はお前に俺の子供を、ポコポコ産んでほしいぞ?」
「……」
ポコポコって。あれ?でも、今の嬉しいことを言ってくれたんだよね。
「弥生…」
一臣様がそっと抱き寄せた。
「今日のお前、綺麗だな」
え!?本当に?わあ。嬉しい!
「やっぱり、寸胴だし短足だしなで肩だし、着物似合ってるな」
ガック~~~~~~~~~~~~。一気にテンション下がった。
「このピンクの色、お前に合っているし、花の柄も合っているぞ」
「子供っぽくないですか?」
「いいや」
「でも、色気ないですよね?」
「そんなことはない。着物はお色気満載だろ。たとえば、うなじ。それから、こんなところからするっと手を入れたり、着物がはだけたりすると、ゾクッとする」
うぎゃあ。一臣様が着物の裾をまくりあげてきたから、足が見えてる。
「な?ミニスカート履いて出ている脚より色気がある」
「駄目です!」
「なんでだ?脱がしてもいいだろ?ああ、俺、あれを一回してみたかったんだ。帯の端もって、あ~~れ~~ってぐるぐる回すやつ」
もう~~~!いきなり、エロ度満載?スケベに変身?
「駄目です。ちゃんと脱いで、ちゃんと畳まないと、帯も着物も痛んじゃいます」
「ちぇ」
ちぇ?今、舌打ちした!?
「まあ、いいけどな。今日は、紐パンだよな?早く着物脱いで、パジャマに着替えろよ。あ、なんなら、下着だけでもいいぞ」
「そ、そんな姿で一臣様の前に行ったりしません!」
もう~~~~!もう~~~~~!もうちょっと、ロマンチックなことは言ってくれないの?着物だって、結局スケベ発言しただけで、私を褒めてくれたわけじゃないし。
なんだかなあ。誰でもよかったのかもって、本気で疑っちゃう。子供さえ生んでくれたら、誰でもよかったの?
私の部屋に行って、着物を脱いだ。それから、ちゃんと帯を畳んだり着物を畳み、片づけた。あとは長襦袢と裾よけを脱いで、普段着になったらいいだけ。
「それも色っぽいな。いや、それがいい。そのままこっちの部屋に来い」
え?!
一臣様がドアを開け、私の部屋に来て突然そう言った。
それ?って、長襦袢?!
「なんだよ。弥生もそういうのを着ると色っぽいんだな」
はあ?!
ちょっとちょっと。いきなり私の手を取って、意気揚々と一臣様は歩き出しちゃったけど。
「待ってください。まだ、パジャマと下着用意していないです」
「ああ。いらない」
「え?ど、どうしてですか?」
「そのままでいい」
「なななな、なんで?」
「その色っぽい姿のまま、お前のこと抱くから」
ひょえ~~~~~~~~~~っ!!!
「ままま、待ってください!私、いっぱい汗かいたし、お風呂は入ります!」
「どうせ、もっと汗かくから、あとでいいぞ」
「よくないです、私汗臭いです」
「弥生の汗の匂いなら、俺は気にしない」
「私が嫌です。気にします」
「俺の汗の匂いをか?じゃあ、俺だけシャワー浴びたらいいな?」
「一臣様の汗?」
うっとり。
「なんでそこで今、うっとりとした?俺の汗の匂いは好きなのか?」
ハッ!私って変態?!
「い、い、いいえ」
でも、まだ一臣様はタキシードだ。タキシードの上着は脱いでいるけど、ベストは着ている。
それからタイは外しているけど、シャツの第二ボタンまで開いていて、ベストも前を開けているから、やたらセクシーだ。
バスローブを着て現れる一臣様もセクシーでいいけど、できたらまだ、このタキシードは着ていて欲しい。
いや、正確には、このタキシードを脱いでいく姿が見たいような…。
うわ。今のうそ、うそ!今の私の思考はキャンセルです。
そんなところは、見たくありません!
う~~~~!やめて。勝手に妄想するのは。でも!
妄想モードに、今入っちゃった。一臣様がベストを脱ぎ、シャツのボタンを一つずつ外していく。真っ白なシャツからは、引き締まった一臣様の体が現れる。
ドキ!
そこで、今度は私が脱がされちゃう?ううん。まずはベッドにこのまま押し倒されちゃう?私のほうが先に脱がされて、私はベッドの上に寝かされたままで、一臣様が脱ぎ出す?
それを見れちゃうの?
駄目!!!
キュキュキュンって、妄想だけで疼いた!もう私ったら完全に変態かも。
「弥生?」
「……」
「や、よ、い!なんだって、いきなり黙り込んで赤くなった?変な妄想中か?!」
「ごめんなさい、そうです」
うわ。今、私、思い切り正直に答えたかも。
「妄想していたのか?いったいどんな?俺に、その着物の下着、脱がされるところか?」
「いいえ。あ、言っておきますけど。長襦袢って言うんです、これ。で、下着は着ていますけど、まったく色気ないですよ」
と、冷静になってそう言った。
実は、私の妄想を悟られないように、わざと冷静を装って、そう言ったんだけど。
「パンツは?着物用のとかあるのか?それも、色気のないパンツか?」
「パンツは、パンツの線が見えないように、着物の時いつも履いてない…」
「え?ノーパン?」
ぎゃあ!自分でばらしちゃった!やばい。
「ま、まじで、さっきからずうっとノーパンなのか?」
「………い、い、いいえ」
「じゃ、見せてみろ」
「駄目です!!!!」
「履いてるなら抵抗しないでもいいだろ?」
「違います。いいえって言ったのは、パンツのことじゃなくって、えっと、下着はつけているから」
「パンツじゃない下着?まさか、ふんどし?」
「違います!裾よけです」
「裾よけ?なんだ、それは。どういうものだ。見せてみろ」
え?
一臣様の部屋のドアをバタンと閉め、一臣様は私を壁に押し付けた。
え?なんで?
うわ!長襦袢の裾、めくってる?
「駄目です!」
ノーパンだってば!言ったのに。
「なんだ。また同じようなのが出て来たぞ。何枚この襦袢ってやつを着てるんだよ」
「それが裾よけです」
「これが下着?」
「はい」
「え?ってことは、この下は?」
一臣様は裾よけもまくって、手を入れてきた。
「きゃ~~!駄目です!」
「何もつけてないのか?」
「そう言ったじゃないですか!」
「すげえな。着物って。エッチしやすくなってるんだな」
「違います。そういうわけで、つけてないわけじゃないんですっ!!!」
変態。変態だ!そう叫んでみようかな。
でも、私も一臣様の、タキシード姿にこんな状況なのに、うっとりしちゃうから、人のこと言えない。
うわ。手、お尻に到達した!ぎゃあ!
「あ、本当だ。パンツ履いていないんだ。ふんどしも」
だから、言ったのに!
「駄目。手、駄目!」
「駄目って言われると燃えるんだって」
じゃあ、どうしたらいいの?!
うわ!キスもしてきた。
それも、舌が入ってきた…。駄目だ。これ、力が抜けて抵抗できない。それに、腰が抜ける…。
ガクン!立っていられなくなり、その場にしゃがみ込むと、一臣様は黙って上から見下ろしたままだ。
なんで?いつもだったら、優しく抱き留めてくれるか、持ち上げてくれるかしてくれるのに。
なんか、一臣様、性格が変わっちゃったとか?
「それ、色っぽいな」
「え?」
「襦袢と裾よけから、太ももが見えてる図…。やたらと色気があるな…。それに、襦袢の胸はだけてるし、お前バスローブだと色気ないのに、それだと色気が出るんだな」
ハッ!そうか。上から見下ろしていたのは、胸がはだけてて見えているからか。
ますます、変態!でも、力が抜けてて立てない。
一臣様はしゃがみ込むと、太ももを手て撫でた。
「ひゃ!」
うわ。私、なんて声をあげてるの?恥ずかしい。
真っ赤になると、
「お前、色っぽいのに可愛い」
と言って、耳にキスをしてきた。
うわ~~~~~~~~。目の前の一臣様だって、十分色っぽい。鎖骨見えてるし、コロンの匂いもしているし。
それから、ひょいっと一臣様は私をお姫様抱っこした。私は慌てて一臣様の首に腕を回した。
「なんか、いいな。今日の弥生」
「え?」
一臣様、顔にやけた。
「江戸時代かなんかで、初夜を迎えましたって感じでいいよな」
「………」
やっぱり、発想がすけべ。
にやつきながら、ベッドに私を寝かせると、一臣様はベストを脱いだ。それから、真っ白なシャツのボタンを一つずつ外しだした。
うっとり。
色っぽいのは一臣様の方。タキシードを着たお屋敷の主かな。じゃあ、私は…。
って、なんだって、想定を考えて、妄想しようとしているの?これじゃ、一臣様と変わらない変態だよ。
一臣様は堂々と口に出している分、明るいスケベ。でも私は内緒にしているから、むっつりスケベ?
って、ことは何?私のほうがよりスケベ?だったりする?
うひゃ~~~~~~~~~~。