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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第7章 ついにその時が!
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~その2~ 優しい一臣様

 男の人との免疫がない分、言っていいことと悪いことの区別もついていなかったのかもしれない。

 とにかく、とんでもないことを口走ったっていうのだけは、一臣様の反応でわかってしまった。


 しばらく、一臣様はかたまっていた。そのうち、我に返ったようで、

「え?」

と聞き返してきた。


 今のは、なかったことに。なんて、言い分けできないよね。それに、私、本気で覚悟決めてきたんだし。

 そうだよ。覚悟決めて、勝負下着まで履いたんだから。レースのビラビラ…。透け透けパンティ。


「優しくしてくださいだの、疼いちゃうんですだのって聞こえたけど、俺の幻聴?」

「い、いいえ」

「からかってるのか?」

「いいえ。まさか」


「あ!まさかと思うけど、お前の部屋に龍二が来て、俺のことを誘えだの、抱かれろだの、とんでもないこと言って来たのか?また、立川をクビにするだの、そういう脅しをかけて…」

「い、いいえ!!」

 私は、首を思い切り横に振った。


「じゃあ、なんだ。お前に何が起きたんだ。あ、無理をしてそんなことを言っているのか?俺のためか?それとも、一人で寝るのが怖いからか?」

「怖いです。それに、寂しいです。寂しくて寂しくて、いつまで別々に寝ないとならないんだろうって思ったら、とっても、悲しくなって」


「それで、抱かれる覚悟で、こっちの部屋に来たのか?」

 一臣様の声がやたらと優しくなった。

「……。一臣様の部屋に来たら、押し倒されたりしちゃうかもって、思いました」


「うん」

「力づくでとか、無理やりとか、そういうのは、やっぱり怖いし、嫌です」

「うん」

「でも…」


「でも?」

 一臣様の私の腰に回した手に、力がこもった。

 ドキ!


「で、でも。一臣様、痛いかもしれないけど、優しくするって前に言っていましたよね?」

「ああ。言った」

「そ、それで…。私…」

 言葉、続かない。なんて言ったらいいんだろう。


 チュ。

 一臣様がいきなり、私の髪にキスをした。それから、私を抱きしめてきた。

 うわ。うわわわ。

 キュキュキュキュン!


「無理はしないでもいいぞ」

 え?

「そんなにいきなり、覚悟決められないだろ?」

 ううん。決まった。決まりまくってる。今も。


 あ。でも、簡単に覚悟が決まるのって、変?変なの?

 やっぱり、疼いたりしちゃうのって、変なの?!


 でも、抱きしめられてる今も、胸の奥がキュンキュンしてる。

 それに、一臣様が優しく髪を撫でてきて、さらに。


 キュン!


 うわ。ギュって抱きしめてきた!

 もう、ふわふわ、体が溶けそう…。

 

「隣で寝るか?俺、襲わないでいられるかどうか、自信ないけどな」

 え?

「お前、めちゃくちゃ可愛いし。やばいけど、いいのか?」

「はい」


「…だから、そこで、はいって、可愛く返事するなよ。今すぐに、押し倒したくなるだろ」

 え?

「無理やりですか?」

「ああ」


「力づくで、ですか?」

「ああ」

「だ、ダメです」

「わかってるよ。しないよ」


 一臣様はそう言うと、ソファから立ち上がった。

「俺も、パジャマに着替えてくる。お前、先にベッドに入っていていいぞ」

 きゃ~~~~~。


 その言葉だけで、腰抜かしそうになった。

 ドキドキドキドキ。どうにかソファから立ち上がり、ベッドまで歩いて行った。それからも、ドキドキしながらベッドに寝っころがった。


 布団ははかけておくべき?

 パジャマは着ておくべき?それは、当然だよね。だって、一臣様が脱がしてくれるんだよね。

 

 あれ?一臣様、バスローブから、パジャマになるんだ。わざわざ。バスローブのほうが脱ぎやすいのに。


 って。何を考えてるんだ。

 バク。 

 バク。

 バク。


 し、心臓の音が、部屋中に鳴り響いているかも。ど、どうしよう。

 バクバクバクバク。

 うわあ。今度は早くなりだした。


 早く一臣様、来て。このままだと、心臓が壊れる。壊れる前に、ぶっ倒れる前に抱いてくれないと、本当に壊れる。

 ひゃあ!抱いてくれないと、なんて言ってた!!!

 恥ずかしい!!!


 バタン。バスルームが閉まった音がした。

 来た!!!! 

 来た!来た!どんどん、近づいてくる。


 白のシルクのパジャマだ。髪はほんのちょっとまだ、濡れているみたいだ。毛先がくるくるしている。

 ドキ。ドキ。ドキ。ドキドキドキドキ。

 し、心臓が~~~~~。


「おい。ど真ん中にいすぎだろ。俺が寝れない」

 え?

「もう少し端に行けよ」

「……はい」


 あれ?

 一臣様は電気を消した。そして、ベッドに入り、私と一臣様に布団をかけた。


「おやすみ、弥生」

 私のおでこにキスをすると、一臣様は背中を向けた。


 あ、あれれれれ?

 なんで?!


 抱きしめても来ないし、背中向けたままだ。このまま、まさか、朝まで寝ちゃうの?


 でも、さっき私、清水の舞台から飛び降りる勢いで、大告白をしたよ。

 優しくしてとか、疼くとか。一臣様の目がまんまるになるような、すっごいこと言ったのに、なんで?


 だ、抱いてくれないの?もしかして。

 え?なんで???


「か、一臣様」

「ん?」

「あの」

「なんだ?」


 背中を向けたまま、一臣様は返事をした。

「あの。私…」

「うん」

「……。か、覚悟をしたから、今日は透け透けのレースのパンティ履いたんです」


「…………」

 一臣様は黙り込み、しばらくしてから、

「え?」

と頭の上から出たかもしれないというくらい、高い声で聞き返し、こっちを向いた。


「透け、透け?レース?」

 コクン。一臣様のほうを見て、黙って頷いた。

「う…」


 う?

 う…と言ったきり、一臣様は鼻をおさえている。


「あほ。お前、そういうことを、そういう可愛い顔で言うと…」

 鼻をおさえたまま、一臣様はそう言って、

「俺、鼻血出てないよな?」

と鼻から手をどけた。

「で、出てません」


「………やばいぞ」

「え?」

「襲いそうだ」

「え?」


「理性吹っ飛ぶかも。いや、もう吹っ飛んだ」

 ええっ?


 ガバッ!

 突然、一臣様が私の上に乗っかった。

 え?


 え?え?え?

 理性、吹っ飛んだ?!

 

 うぎゃ~。まさか、力づく?無理やり?強引に?襲われちゃう?

 頭、真っ白!


「や、一臣様。や、優しく」

 そう必死に言おうとして、口を開いた。その瞬間、一臣様がキスをしてきた。


 うわ~~~~!!!!

 舌!!!!!!


 一臣様の…舌!

 ど、どうしよう。でも、押し返すこともできない。

 

 両手首を、一臣様に掴まれていた。体の上から、体重を乗せてきているから、まったく身動きが取れない。

 このまま、まさか、力づく?

 優しさも何もなかったりしないよね?


 怖くないよね?痛くないよね?ううん。もう、怖いよ。


 ギュウ。手に力が入った。握りしめているから、汗ばんだ。体がかちこちにかたまった。

 頭の中は、どうしようってそればっかり。


 でも…。

 

 舌…。私の舌と絡み合ってる?

 うっわ~~~~。


 ふわふわふわふわ。いきなり、雲の上にいるみたいに、体中が宙に浮いた。

 ううん、浮いてない。浮いたみたいになってる。


 いつものキスより、もっと、もっと、もっと、ふわふわする…。意識がふわって、溶けていきそうだ。


 チュウ…。私の下唇を優しく吸って、一臣様は唇を離した。そして、チュッと私の鼻の頭にキスをした。


 それから、顔をあげ、私の顔をじっと見ている。

「お前、可愛すぎ。理性吹っ飛んだだろ」

 キュン!めちゃくちゃ優しい声だ。それに、目もめちゃくちゃ優しい。


「大人のキス、気持ちよかったか?」

 コクン。黙って頷いた。

「だよな?最初、力が入ってた手も体も、どんどん抜けていったもんな?」


「わ、わかるんですか?」

「わかるよ。当たり前だろ」

 そう言うと、一臣様は耳にキスをしてきた。


 うわ!くすぐったい。体が、思わずよじれた。

「耳も、気持ちいいんだろ?」

 ドキン!


 ふわ。頬を優しく一臣様は撫でた。そのあと、私の前髪を優しくあげて、おでこにチュッとキスをしてきた。

 それだけでも、キュキュキュンって胸が疼いてしまう。やっぱり、私、変だ。


「弥生」

 ドキ!

「はい?」

「全部、任せていいから」

「え?」


「俺に、体預けてていいから」

 ドキ!

「優しくするから」

 そう言うと、また一臣様はキスをしてきた。


 舌…。一臣様の舌までが優しい…。

 とろけていく。

 意識もとろけていく。


 指先、手、息、唇、舌。全部が優しい。


 ドキドキと、キュンキュンと、甘酸っぱい想いと、ふわふわと、全部が混ざり合う。


「弥生。お前、可愛いな」

 時々、一臣様が囁くように優しく言う。


 パジャマのボタンを外すのも、ズボンを脱がせるのも、ブラのホックを外すのも、パンティを脱がせるのすら、一臣様は優しいし、動きがとってもスムーズだ。


 ああ。そういえば、言っていたよね。全部、任せたらいい。体、預けてていいからって。


 ドキン。ドキン。ドキン。

 キスを体中にされるたび、そこが脈打つ。


 一臣様の手が触れるたび、キュンって胸が疼く。


 一臣様が優しく私を見つめているのを感じただけで、胸がいっぱいになる。

 心がどんどん満たされていく。


 なんだって、こんなに、全部全部優しいんだろう。

 私が想像していた一臣様より、もっとずっと優しい。


 そして…。

「痛い!」

 想像していた以上に、痛かった。


 だけど、

「力抜いて、弥生」

と、一臣様の優しい声が耳元でしただけで、痛みは薄らいだ。


「はい」

 そう頷くと、一臣様は耳にキスをしてきた。そして、頬を優しく撫でると、唇にも優しくキスをした。

 ギュウ。私は一臣様を両手で抱きしめた。


 痛い!でも、でも、でも…。

 胸からあふれてくるのは、そんな痛みなんか通り越した、もっと大きな愛しいっていう想いだった。


 大好きだ。一臣様の全部が。


 溶けていく意識の中で、私は実感した。一臣様に、自分が思っていた以上に愛されていたって。

 ううん。その愛で、おぼれそうになるくらい、私は思いっきり一臣様に愛されていた。



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