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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第7章 ついにその時が!
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~その1~ 覚悟決めました!

 し~~んとする部屋の中、カチ、カチ、カチ、と時計の音だけが正確に時を刻んだ。

 置時計、年代物っぽい。でも、まだしっかりと動いている。

 

 壁にかかっている肖像画の女の人が、こっちを見ている気がした。この部屋は、この人の部屋だったんだろうか。一人で寝ていたのかな。寂しくなかったのかな。


 私は、とっても寂しい。


 初日、あのドアを開けて、一臣様は来てくれた。私が怖がっていると知り、自分の部屋に入れて、隣に寝かせてくれた。

 会社の会議室で会った時は、怖かったし、上から目線で物は言うし、言葉遣いが悪いしでびっくりした。だけど、一臣様は、とても優しい人だった。


 ちょっと嫌味を言う。憎らしげに鼻で笑う。片眉をあげて、フンって。そんな一臣様が大好きだ。

 

 駄目だ。もう恋しくなっているなんて重症だ。


 クルン。うつ伏せになった。ベッドはまた、大きく揺れた。

 一人でこのベッドに寝るんだ。これから、何日も。でも、いったいいつまで?


 ズキッ。今度は胸が痛んだ。寂しくって、胸の奥がズキズキ痛む。

 どうしよう。

 どうしたらいいんだろう。


 このまま、別々に寝るなんて嫌だ。寂しい。

 寂しい。

 寂しい。


 寂しいよ!


 私は、ベッドから立ち上がり、クローゼットのドアを開いた。

 寂しくて、一人じゃ怖くて、眠れません。なんて一臣様に言ったら、覚悟できているんだな、って言われて、押し倒されそうだ。


 でも、でも、でもでもでも…。

 それでもいい!


 引き出しを開けた。セクシーな下着を手にして、私は迷った。

 ドキドキ。紫はかなりデザインも派手だ。紐のパンティは、デザインは地味だが、紐っていうところに抵抗がある。


 レースは?白だし、まだ、清潔感がある。それを手に取って広げてみた。

「うわ。透けてた!」

 レースのひらひらは、透け透けのパンティだった。


「…どうしよう」

 どれにしようか、さんざん迷った。どれを履いても、かなり色気が出るかもしれない。でも、一臣様は喜ぶかも…。


「………」

 また、思い切り妄想してしまった。パジャマ、自分で脱ぐんじゃなくて、脱がされちゃうんだよね?

 

 ドキドキドキドキッ!

 胸が、胸の奥が、疼く。


「どれがいいか、わかんない。もう、これ!」

 目をつむって適当に手にしてみた。すると、レースの透け透けのパンティだった。


 バスルームに行き、パジャマのズボンを脱いで、普通の白のパンツから、レースのパンティに履き替えた。

 私、すっごい大胆なことをしようとしてる。自分でもわかってる。


 でも、「いいの?弥生」って、そう聞く自分の声すらどこからも聞こえてこない。

 心の中で呟いているのは、ただ一つ。

「覚悟、決めました!」

 それだけ。


 勇気を振り絞って…とか、緊張するけど、前に進め!とか、怖いけど、行くぞ!とか、そんな声すら聞こえてこない。


 自分の中から聞こえてくる言葉は、ただただ、

「一臣様のそばにずっといたいよ」

 

 自分でも驚いている。何がどうなっちゃって、こうなっちゃっているのか。

 よくわからないけど、ブラシを持って髪を丁寧にとかしている。

 

 それから、ものすごく丁寧に歯まで磨いている。

 それから、目やにがないかなとか、口臭はないかなとか、チェックをしている。


 肌は今日のオイルマッサージのおかげで完璧だ。


 完璧すぎるほど、完璧だ。今日しかないっていうくらい、心の準備まで完璧だ。覚悟、決まりまくりだ。


 ドッ。ドッ。ドッ。胸の鼓動は早まって来たけど。行け。弥生。今すぐに行かないと、心臓が持たないとか言う私が現れて、言い訳をして、きっと足を止めちゃう。


「よ、よし。今の、勢いで!」

 行け~~~。いざ、出陣!


 トントン!ドアをノックして、返事も待たずにガチャリと開けた。

 返事なんか待っていられなかった。


 ドク。ドク。ドク。ますます鼓動は激しくなる。


「どうした?」

 一臣様が私に気がついて、優しく聞いてきた。


 ふわ~~~~~~~~~。その優しい声を聞いただけで、その場にへなへなと座り込みそうになった。

 まだ、腰が砕けるには早すぎだよ、弥生。


 どうにか、足を踏ん張り、

「あ、あ、あの」

と、話そうとした。でも、言葉が続かない。勢いだけで来たけど、何を言うかまでは、考えていなかった。


「弥生?」

 一臣様は、まだバスローブだ。肌がはだけてて、それを見ただけで、またへなへなと力が抜けそうになった。でも、踏ん張った。


「お酒ですか?」

 手にグラスを持っていたから、聞いてみた。

「いや。酒飲んだ勢いで、お前の部屋に襲いに行っても困るだろうし、単なるウーロン茶だ。お前も飲むか?」

 私の部屋に襲いに?


 いいのに。

 

 それだけが、頭に浮かんだ。そのあとは何も言葉が出てこない。


「弥生?」

 私が、ドアのところで、もじもじしているからか、一臣様がグラスをテーブルに置いて、近づいてきた。


 一歩、一歩。近づいてくる。

 ドク。ドク。どんどん、私の心臓が乱れ始める。

 ドク。ドク。ドクドクドク。


「眠れそうもないのか?」

 コクン。黙って頷いた。

「ああ、お前、怖がりだったっけ」

 コクン。


「でも、お化けより、俺の方が怖いんじゃないのか?お化けは襲ってこないだろ?」

 グルグル。首を横に振った。


 言葉がまったく出てこない。さっきの勢いはどうした、弥生。

 ふわ…。一臣様が私の真ん前まで来て、優しく私の頭を撫でた。


「大丈夫だよ。お化けなんていないんだから。な?」

 う、うわ~~~~~~~~~~。

 クラクラクラ。髪を優しく撫でられただけで、クラクラした。


「具合でも悪いのか?熱でも出たか?真っ赤だな」

 そう言って、今度はおでこを触ってきた。

 うわ~~~~~~~~~~。それだけで、心臓が飛び出しそうになって、そのあと、胸の奥がキュンって疼いて…。


「一臣様!」

「なんだ。唐突に叫ぶなよ」

 やたらと高い声が出てしまった。自分でもびっくりした。


「あ、あ、あ、あの」

「なんだ?」

「わ、わ、わ、私を」

「今夜抱いてください?それとも、一臣様のものにしてください?」


 ひょえ~~~~~~~~~!!!!

 ば、ばれてた?心読まれてた?エスパー?顏に書いてあるの?

 私は思わず両手で私の顔を隠した。


「なんてな。それは、さっき、龍二の前でした演技だったな。あんなことをまじで言われたら、理性ぶっとんですぐに押し倒しちまうけど…。で、なんだ?」

 え?


「…………」

 私は、一臣様の顔を見つめて、呆然としてしまった。今の、本気で思っていたし、言おうとしていた。冗談ですまされちゃったけど、私は本気で…。


 でも、理性ぶっとんで、押し倒されちゃうの?

 それって、かなり、あれかな。力任せと言うか、乱暴と言うか…。


 だ、駄目だ。そういうのは、ちょっと無理。優しい一臣様じゃないと、怖いのは無理かも。


 今度は顔から血の気が引いた。

 さっきの決意はどうしたんだ。覚悟決めまくったんじゃないの?弥生。


 こ、こうなったら。こうなったら、とにかく、私の心のうちを言うしかない。

「一臣様。変なことを言いますけど、聞いてください」

「変なことは受け付けない。変な質問もだ。いつも言ってるだろ?」


 そんな~~~。そんな意地悪は今、言ってほしくない。ああ、決心が鈍る。足もがくがくしてきた。

「じゃ、じゃあ、変なことじゃなかったらいいですか?」

「…ああ。俺が落ち込んだり、頭に来たり、辛い思いをするようなことじゃなかったら受け付ける」


 え?

「それは。その…。多分、一臣様は、落ち込まないし、辛くないと思います。ただ、呆れたり、引いたりしちゃうかも」

「……ふ~~ん。なんだ?一応聞いてやる。でも、また、何かくだらないことを勝手に妄想して、暴走して、俺から離れるとか言うんじゃないよな?」


「違います。妄想はしたけど、違います」

「お前って、妄想癖があるのか?いったいどんな妄想を…」

「い、いいから。聞いててください。私の心がぽきって折れる前に」


「…折れそうなのか?」

「ギリギリです」

「そうか。じゃあ、おとなしく聞いてやる」 

 そう言うと、一臣様は私の腰に手を回し、私のことをソファまで連れて行った。


 うわうわうわ。腰に手を回されただけでも、腰が砕けそうだ。腰が脈打ってるし…。

 もうすでに、雲の上でも歩いているみたいに、ふわふわしてきた。

 それから、ソファに座らされ、一臣様はすぐ隣に座って、また、私の腰に手を回した。


 ドキ。ドキ。ドキ。だんだんと、頭が真っ白になってきた。

「ん?」

 一臣様が私の顔を覗き込んだ。

 うわ!ドッキーン!


「話してみろ。聞いてやるから」

「………」

 顔が熱い。心臓が壊れそうだ。でも…。


 腰に回った腕とか、一臣様のコロンの匂いとか、声とか、全部に胸がキュンキュンして、どんどん胸の奥が甘酸っぱくなって、疼いてきてる。


 駄目だ。これ、何?

「私、変なんです」

「は?何を唐突に。変なのは知っていたけど、今さらそんなこと言われてもだな」


「違います。へんてこりんで、みょうちくりんの話じゃなくて、変なんです。今も…」

「………ん?」

 一臣様の片眉があがった。


「軽蔑とかしないでください。それから、き、嫌いにもならないでください」

「俺がそんなに、ドン引きすることか?」

「す、するかも」

「……言ってみろ」


 一臣様の顔が、真剣になった。ああ、そんなに真剣な顔をされると言いにくい。

「私、ひ、一人で、向こうの部屋で寝るのは、怖いし、寂しいし、嫌なんです」

「それが、変なことか?」

 グルグルと首を横に振った。


「でも、そんなことを一臣様に言ったら、こっちで寝るなら、覚悟を決めろだの、押し倒されちゃったりするかもって」

「かもな?わかってるじゃないか」

「………」


「ああ。冗談だ。話を続けていいぞ?」

 一臣様は優しい声でそう言った。


 ドクン!


「そ、その、優しい声が駄目なんです」

「………は?」

 あ。片眉あがった。


「一臣様の優しい声も、腰に回った手も」

「……駄目って、怖いってことか?」

「違います。そうじゃなくって。ドキドキして…」

「ああ。心臓がドキドキして駄目なんだってことか」


「それだけじゃなくって、変なんです」

「……変って言うのは?」

 一臣様の声が小さくなった。それに、顔が近づいてきた。


「あ、あの。だから、その」

「ん?なんだ?」

 わ。もっと、顔が近い。それも、耳元で、囁くように聞かれた。


 ドックン!!耳、駄目だ。

「耳、弱いんです」

「知ってる」

「だから。そうやって、耳元で囁かれると…」


「簡単に落ちる?」 

 ドキーーー!!!なんだって、そんなこと囁くの?!

 心臓一回、飛び出たかも!


「で、変って言うのは?」

 バクバクバク!

 一臣様がほとんど耳に口をくっつけて聞いてきた。


 うわ~~~~。

 これ、わざとだ。わざとしてるんだ。変っていうのも、きっとわかっているんだ。


 ガバッ。私は一臣様から顔も体も離した。それから、深呼吸をした。

「逃げたな…」

 一臣様はそう呟いた。


 う…。一臣様の視線、なんか、やたらと熱い。

「あ、あの」

「……」

 無言だ。なんか、やばいかな。この雰囲気。


「あ、あの!」

「なんだ?」

「だから、その」

 ジリ。一臣様が私に寄ってきた。


 ドックン。顏、また、近い。

 ドクドクドクドク!それから、髪を撫でてきた。それに、頬も撫でてきた。

 駄目だ。腰抜ける。


 手が、触れる指が、優しくって、それだけで。


「そんなに悩ましい目で見るなよ。襲うぞ」

「お、襲うのは、無しです」

「ああ。無理強いしないって約束したもんな。でも、このまんまだと、そんな約束、すぐに俺は破るぞ」

「駄目です。や、や…」


「や?破るのは駄目って言いたいのか?」

「優しくしてくれないと、ダメですって言いたいんですっ」

 うわ。


 今、私、なんて言った?


 一臣様が、一瞬、止まった。時間がそこだけ止まったみたいに。そして、少ししてから動き出した。

「優しく?」

 そう言って、一臣様は目を丸くした。


「あ、あの。変って言うのは」

 私は誤魔化そうとして、話を続けた。一臣様は目を丸くしたまま、私を見ている。

「変って言うのは、疼いちゃうんです」


「………疼く?!」

 あ。もっと、目が丸くなった。ものすごく驚いているみたいだ。

 私、もっと変なこと、口走ったのかな?!



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