表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第6章 フィアンセ候補者集合!
78/195

~その9~ 一臣様の本音

 翌朝、アラームを一臣様はバチッと止め、また私を後ろから抱きしめ、す~~っと寝てしまった。

 私は、うっすらとした意識の中で、アラームの音も、それを止めた音も聞いたが、一臣様の寝息と共に寝てしまったらしい。なにしろまた、鳩の鳴き声がするまで眠れなかったから。


 すやすやと2人で寝てしまい、

「うわ。寝坊した」

という声で目が覚めた。


「え?」

「あ~~。そうか、今日は土曜か。じゃ、ゆっくりしていていいな」

「……」

 私の意識はまだ、朦朧としている。でも、一臣様が後ろから私を抱きしめ、私の頭に頬ずりをしてきて、ドキッとして目が覚めた。


「え?外、やけに明るいですけど何時ですか?」

「ん~。何時かな。予定もないし、ほっとけよ」

「……でも、候補者の人、一臣様と一緒に朝ご飯、食べたいんじゃないでしょうか」

「…ああ。そうだった。お嬢様方がいるんだったっけ」


 そう言ってから、一臣様は伸びをして、

「面倒くさい。ほっておこう。夕飯を一緒に食べりゃ、それでいいだろ」

と言ってから、また私を抱きしめた。


 意外と面倒くさがりだよね。一臣様って。

「いつもは休日、何時に起きているんですか?」

「何時かな。ほとんど眠れないから、5時くらいから庭園を散歩している時もあるし、6時くらいに屋敷の敷地内を走る時もあれば、朝早くからやってるジムに泳ぎに行く時もあれば…」


「え?そうなんですか?健康的なんですね」

「どこが?ほとんど寝ていないって言っただろ?」

 あ。そうか。それでよく、体が持ったよなあ。


「今、何時だ?」

 一臣様は時計を見た。

「あ。8時か。じゃあ、どうせ食堂行ったって、もう誰もいないだろ」

 そう言って、私のことをくるっと一臣様のほうに向け、おでこにキスをしてきた。


「おはよう」

「……お、おはようございます」

 今の、おはようのキスだ。嬉しい。


「俺はいったい、何時間寝たんだ?お前もちゃんと眠れたのか?」

「はい。多分」

「多分?」

「昨日よりは…」


「…また、俺に襲われるかもしれないと思って、寝れなかったのか?」

「いえ。そういうわけじゃ…」

「こうなったら、するか」

「え?」


「いつ襲われるかドキドキしているより、とっととしちゃったほうが、楽になるぞ」

「へ?」

「そうしたら、お前もぐっすりと寝れるだろ?ほどよく疲れて、きっとぐっすりと眠れるぞ?」

 それって、それって、え?


「い、いいえ!結構です」

「遠慮はするな」

「でも、段階を踏むって言っていたじゃないですか?」

「そんな段階踏んでいる間に、お前のほうが不眠でぶっ倒れるぞ?いいのか?」


「………、あ。いいこと考えた。別々に寝るっていうのはどうでしょう」

「あほ!全然いいことじゃない!俺が寝れなくなるだろうが!そんな考え却下だ!」

 やっぱり…。


「そんなこと言うくらいなら、いい加減、覚悟決めろ。俺に抱かれろ」

 ひょえ~~~っ!?いきなり、キャラが変わった?

「む、無理です」

「努力するんだろ?無理って言わずに」


「でも、まだ、準備が」

「なんのだ?」

「心の」

「それはいつ、できるものなんだ。え?」

 そう言って一臣様は、いきなり私の上にまたがってきた。


 ぎゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!

 今?今すぐにってこと?


 一臣様が耳にキスをしてきた。

 うわっ!やめて!

 それから首筋にも。


 ぎゃひ~~!やめて!

 心臓が口から飛び出る。ドックン、ドックンいってる。


「む、無理です」

 そう言っても一臣様は起き上がってくれない。

 う。うわ!首にキスをしながら、胸、触ってきた?!


 もう、限界だ~~~~~~~~~~~~~!!!


 ジタバタジタバタ。思い切り両足を動かした。それから、両手で私の胸の上にある一臣様の手をどかそうとした。でも、まったく動かない。


 一臣様って、全然私より力があるんだ。びくともしない。それに、体重全部を私にかけてきていて、とっても重い。


 どうしよう。このままだと、私、一臣様に……。


「無理です!!やっぱり、無理ですっ!!!」

 私は必死になって、そう叫んだ。


「………」

 あ。一臣様、顔あげた。

「ハ~~~…」

 それから、とっても重い溜息をした。


「ごめんなさい」

 泣きそう。なんだって、私はいつまでたっても、進歩できないんだ…。

「ごめんなさい」

 もう一回謝った。


 一臣様は体を起こして、私に背を向けベッドに座り込んだ。怒ったのかな、まさか。

「か、一臣様?」

 こわごわ名前を呼んでみた。でも、返事もないし、こっちも見てくれない。


 怒った?本気で?


 ぼりぼりと頭を掻いて、一臣様はまた溜息をした。

「は~~~~~~あ」

 ドキン。その溜息は何?呆れたっていう溜息?


「俺は何をしているんだろうな」

 え?

「無理はしないって言ったそばから、もう無理やり抱こうとしている」

 ドキン。


「情けないな…」

 うそ。そういう溜息?


「正直に言うぞ、弥生」

「は、はい」

 一臣様がこっちを向いた。


「お前のことが大事だ。泣かせたくないし、傷つけたくもない」

 ドキッ!

 一臣様の目、真剣だ。


「そう思っているのに、たまに思い切り抱きたくなる」

 ドッキ―ン!

「そういう感情、今まではなかった。抱きたいって思う女も…」

 え?


「男だから、そりゃ、欲情したことはあったけど…。お前の場合は違う。うまく言えないけど…。可愛いし、誰にも触らせたくない。俺のものにしたいとか、お前の全部が欲しいとか、そういうことばっかり思っちまう」

 うっわ~~~~~~!うっわ~~~~~~~~~!


 駄目だ。だんだんと思考回路が壊れていく。こんな言葉、今まで言われたことないから、脳みそが対処できないよ。


「はあ…。前に覚悟しろって言っただろ?本気で誰かを好きになったこともないから、俺がどうなるかわからないって」

「は、はい」

「あれ、冗談じゃないからな。俺は今でも、自分の気持ちや感情に、俺自身が驚いているし、コントロールもきかなくなってるし」


 ええ?

「ものすごく戸惑っている。こんなこと、初めてだからな」

「………」


 一臣様が私のすぐ隣に座ってきた。そして、私の腕を掴んで、一臣様の胸に当てた。

 ドク、ドク、ドク。一臣様の鼓動が伝わってきた。なんだか、すごく早い。


「な?わかるだろ?お前も心臓、ドキドキしているのかもしれないけど、俺もだよ」

 う、うそ!

「全然、余裕なんてないんだ。そう見せてはいるけど…」

 うそ~~!!


「バスタオル1枚で風呂から出て来たり、酒飲んで色っぽい目で抱きついて来たり。あれも、いっぱいいっぱいだった。抱きたいって衝動抑えるのに、こっちだって必死なんだ」

「え?」


「余裕こいて、段階踏んでいくだの、ゆっくりと落としていくだの言ったけど、もうギリギリだ」

 え?え?

「そろそろ、限界だ」

 え?え?え?え?


「お前を抱きしめて寝るの、満たされるし、安心できるし…。でも、いつ、理性吹っ飛んで、お前のこと襲うかもわからない」

 え~~~~~~~~~~?!


「お前が言うように、別々に寝ている方がいいのかもな?」

「……それ、いつまで?」

「さあ?お前の覚悟が決まるまで…かな?」

 そんなの、いつ決まるかすらわからないのに?


「起きるぞ。お前、腹減ってるんじゃないのか?俺も、珍しく腹が減っているから、一緒に朝飯食うか」

「……」

「弥生?」

「はい」


 私は俯いたまま、返事をした。一臣様はベッドから降りて、バスルームに入って行った。


 別々に寝れるなら、ちゃんと夜、眠れるようになるよ。

 でも。

 ものすごく、寂しさがこみ上げたのはなんでかな。


 それも、いつまで別々で寝ないとならないのかなって、そう思ったら、果てしなく寂しくなった。

 私が覚悟できる時って、いつ?

 見えない未来だ。まったく予想もつかない。


 これだけの準備をしたら、きっと覚悟が決まるとか、これだけのことをしたら十分だって、そういうのがまったく見えないし、予想もつかない。


 それに、一臣様は余裕があって、私ばっかりドキドキしてて、寝れなくって、ずるいって思っていたけど、そうじゃないんだ。

 一臣様も、必死にこらえたりしていたんだ。


 でも、無理強いしないようにって、私のことを大事に思っててくれて…。大事に…。

 キュン!

 胸の奥が、甘酸っぱい何かでいっぱいになった。


 なんだろ、これ。体中が、キュン!ってした。

 ドキドキと一緒に、キュンキュンする。何かが疼いてくる。体の奥から。


 一臣様がバスルームから出る前に、私は自分の部屋に戻った。まだ、胸がドキドキしたままだった。

 着替えをして、ちゃんと化粧をして髪をとかした。


 ダイニングには他にも誰かいるのかなあ。一臣様と一緒に行ったら駄目かしら。一人で行くべきかなあ。

 なるべく一緒にいたい。一臣様がたとえ演技でも、他の人と仲よさそうに話しているのを見ると、胸がチクンとする。


「弥生。お前は紅茶でいいよな?」

 一臣様がドアを開けて、顔を覗かせてそう聞いてきた。

「え?はい」

「コック長がパンケーキ焼いてくれるって。バターとメープルシロップでいいか?」


「パンケーキ?」

「ああ。コック長が焼いたパンケーキはうまいぞ」

 わあ!嬉しい。


「あはは。やっと笑顔になったな。あと、何か欲しいものはあるか?果物とか、ジュースとか」

「いえ。パンケーキと紅茶だけで」

「じゃあ、頼んでおくぞ」

「はい」


 一臣様はまた、自分の部屋に戻って行った。

 頼んでおく…っていうのは、ダイニングに用意してもらう…ってことかな?

 それとも、こっちまで運んでくれるのかな。


 し~~~ん。しばらく、一臣様の部屋が静かになった。まさか、ダイニングに行っちゃったのかな。でも、ついさっき、まだパジャマを着ていたよね。


 トントン。一臣様の部屋に通じているドアをノックしてみた。すると、

「入っていいぞ」

という声がした。

 あ、いた。良かった。なぜかホッとして、私はドアを開けた。


「あ!」

 一臣様は思い切り、着替えの途中だった。パジャマの上を脱いで、シャツを羽織ろうとしていた。

「ごめんなさい」

 私は真っ赤になって俯いた。


「こっちに来てていいぞ。ソファに座ってろよ。そこのテーブルに朝飯、置いてもらうから」

「一臣様の部屋で食べられるんですか?」

「ああ。食堂で食べると思ったのか?他のお嬢様がいたら、面倒だろ?」

「はい」

 あ。はいって言っちゃった。


「俺も、弥生と二人のほうがずっといいからな」

「でも…」

「いいんだよ。俺がいいって言ってるんだから」

「はい」


「それとも、俺と二人は嫌か?」

「まさか!二人の方が私も全然いいです。嬉しいですっ!」

 ハッ。思い切り、力入れて言ってしまった。


「ははは」

 一臣様はシャツのボタンを閉めないまま、私のところに笑いながら来ると、おでこにキスをしてきた。

 うわ。はだけてるから、もろ、一臣様の素肌が見えちゃう。やっぱり、お腹、筋肉ついててかっこいい。駄目だ。釘付けになってるかも。


「見るなよ。エッチ」

「え?!」

「俺の裸見たいなら、見せるけど。だけど、ベッドの上でだぞ?いいのか?」

 ブンブン!思わず首を横に振った。


「俺のパンツ姿もしっかりと見そうで怖いから、バスルームで着替えて来るぞ」

 そう言って一臣様は、笑いながらバスルームに入って行った。


 み、見ないもん。

 ………。いや、目の前で着替えたら、見ちゃうかも…。見惚れちゃうかも…。


 エッチって言われた。一臣様の素肌や筋肉質な体を見てうっとりしているのって、やっぱり、エッチなのかなあ。


 思わず、首を横に振ってしまったけど、ドキドキしながらも、心のどこかで首を縦に振りたいって、そんな気持ちもあった。


 なんでかな。

 一臣様の胸やお腹を見て、やたらとドキドキしたり、キュンってしたり、胸の奥が疼いたのは。


 自分でも、なんとなく気が付いていた。

 私の中で、何かが変わってきている。


 一臣様のコロンの香りがする部屋の中で、私はずっとドキドキと、胸を高鳴らせていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ