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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第6章 フィアンセ候補者集合!
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~その8~ 眠れない夜

 阻止だ。絶対に阻止だ。でも、お酒を飲んでさっさと寝る作戦は昨日してしまったし。

 今日はどうしたらいいんだろう。


 ギクシャクしながらバスルームを出た。すると、一臣様は部屋にいなかった。

 あれれ?

 ちょっとほっとした。もしかすると、ピアノの練習に行ってるのかな。


 ホッとしながら髪を乾かした。でも、だんだんと不安が押し寄せてきた。

 まさか、どなたかの部屋に入っていたりしないよね?


 大広間で、どなたかと2人きりになっていたりもしないよね?


 ドキドキ。心配で、落ち着かなくなってきた。

 髪はまだ、半乾きだ。でも、ドライヤーをかける手も止まってしまう。


 ガチャリ。

 あ!戻ってきた!!!


 一臣様、どこに行っていたんですか?誰といたんですか?

 喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。


「弥生、風呂から出ていたのか」

「はい」

「髪はまだ、乾いていないのか?」

「はい」


「ん?どうした?まさか、俺がいなかったから、寂しかったのか?」

「………」

 どう答えていいかわからず、下を向いて黙ってしまった。


「なんだよ。ちょっといなかっただけだろ?」

 そう言うと、一臣様は私を抱きしめてきた。

 ムギュ~~~~。く、苦しいんですけど。


「今、部屋まで押しかけてきたから、一階まで連れて行ったんだ」

「え?」

 一臣様が私の体を離してそう言った。


「麗子さん?」

「いや。ハゼだ」

 敏子さん?


「無視しているわけにもいかないから、ドアを開けたら突然抱きついてきた」

 え~~~~~~~!!!

「すげえ、力だった。怖かったぞ」

「そ、そんなに思い切り抱きついてきたんですか?」


 嫌だ~~。なんだって、そんなことが私がお風呂に入っている間に起きているの?

「弥生」

 あれ?また、抱きしめられた。


「やっぱり、俺にはお前がいい。すげえ、可愛いよな。弥生は」

「へ?」

 恥ずかしい。顏がどんどん熱くなってきた。でも、なんでまた、そんなことを言いだしたんだろう。


「あのまま、俺の部屋まで入ってきて、襲われるかと思った。怖かったぞ」

「…敏子さんにですか?」

「ああ。本当に馬鹿力だったんだ。腕を離すのもやっとだった」

 そうだったんだ。でも、それだけ一臣様に大接近したってことだよね。やっぱり、嫌だ。


 一臣様のこのコロンの匂いに包まれちゃったのかな。敏子さんも。そう思うともっと、モヤモヤしてきた。

 

「それで、一階まで送って行ったんですか?」

「ああ。部屋まではいかないぞ。ありがたいことに、そこに喜多見さんがきて、喜多見さんに送って行ってもらった」

「そうだったんですか」


「部屋まで送ってくれと言われたけど、部屋の前まで行ったら、部屋に連れ込まれるかもしれなかったからな。本当に喜多見さんがいてくれて、ほっとしたぞ」

 そう言うと一臣様は、私の前髪をあげて、おでこにキスをしてきた。

 ドキン!


「お前はこんなに可愛いのにな」

 え?

 ドキン!

「お前にだったら、いつでも襲われてもいいんだけどな」


 ひゃあ。すごいこと言われた。な、何か言い返さないと。

「でもっ!前は怖がってましたよね?」


「あれは、からかっていただけだと言っただろ?まあ、大学の時のお前に襲われてたら、逃げていたかもしれないけど」

 軽くサックリきた。


「でも今は、違うぞ」

 そう言って、一臣様はまた私を抱きしめる。鼓動が、どんどん早くなってもう限界かも。

「あの、髪を乾かしたいので、もう離してください」

「…ああ」


 あれ?素直に離れてくれた。

「じゃあ、俺も風呂に入ってくる。もし誰か部屋に来ても、無視してていいからな」

「はい」


 一臣様がお風呂に入っている間、鏡のついてあるチェストの前に座り、またぼけら~~っとしながら髪を乾かした。

 あ、いけない。ぼけっとしている場合じゃない。どう阻止するか、考えないと。でも…。


 一臣様にギュッて抱きしめられるのは大好きだな。コロンの匂いに包まれて、ドキドキして、胸があったかくって、広くて、なぜか安心もする。

 一臣様のぬくもりは優しいし、声も優しいし。


 それに、「可愛い」って言われるたびに、胸がキュンってする。

 これが、恋なのかな。お付き合いをしているってことなのかな。恋愛初級編、しっかりと進んでいるのかな。


 一臣様がバスタオルで髪を拭きながら、バスルームから出てきた。今日もバスローブ姿が色っぽい。それに、濡れた髪もとっても色っぽい。


 一臣様って、くせっ毛なんだよね。パーマをかけているわけではないようだ。

 それから、体鍛えているって言ってた。うん。お腹も出ていないし、ほどよく筋肉質でかっこいい。


 それと、足の毛がそんなに濃くなくてよかった。卯月お兄様が毛深くて、あれ、ちょっと気持ち悪かったんだ。本人には言っていないけど。


 それから…。

「何をそんなに俺のことをさっきから見ているんだ。襲いたくなったのか?」

「いいえ!」

 きゃ~~。見惚れまくってた!


「そういえば、今日テレビでやる映画、観たかったやつなんだ。観てもいいか?」

「え?映画とか、テレビとか、観るんですか?」

「観るからここに、テレビがある」

「で、ですよね。でも、なんだか意外」


「そんなこともないだろ?映画はけっこう好きだぞ」

 そうなんだ。

「何が好きなんですか?」

「う~~ん。そうだな。SFもミステリーも、たまには笑えるような映画も観るぞ」

 

「オカルトとか、怖いのは?」

「ああいうのは、あまり好きじゃないから観ない。お前観るのか?」

「いいえ。大嫌いなんです。だから、一臣様が好きじゃなくてよかったです」


 そう言うと一臣様は、冷蔵庫を開けて何やら出してきた。一臣様の部屋には、小さめの冷蔵庫もちゃんとある。

「お酒ですか?」

「いや。炭酸水だ。飲むか?」

「いいえ」


 炭酸水。へ~~。そんなのを飲むんだなあ。


 一臣様は炭酸水を片手に、テレビの前にある2人掛けのソファに座った。そして蓋を開けて、ゴクンゴクンと飲んでいる。


 炭酸水ってどんな味なのかなあ。と、じいっと一臣様を見ていると、

「なんだよ。興味津々だな。飲むか?」

と、一臣様に気づかれた。

「え、じゃ、ちょっとだけ」

 私は一臣様の隣りに座り、炭酸水を受け取ると口をつけてみた。


 シュワワ~~ッ。

「あ、本当に炭酸の水って感じ」

「間接キスだな?」

「え!?」

 うわあ。そんなことを言われるとは思わなくって、顔が熱くなった。


「でも、直接キスする方が俺はいいな」

 そう言うと、一臣様は私の手から炭酸水のボトルを取りながら、私に顔を近づけてきた。


「なあ、弥生」

 唇が触れるか触れないかの時に、一臣様が話しかけてきた。

「はい?」


「ちゃんと俺が選んだ下着つけてるんだろうな」

「それは、つけてますけど、でも、絶対見せたりはしま…」

 え?!


 う…。ぎゃ~~~~~!!!

 舌。舌?舌だ!一臣様の舌…!!!!話の途中なのにキスしてきて、私の開けた口の隙間から、舌を入れてきた!


 きゃ~~~~~~~~~~~~!


「~~~~~!!!」

「おい」

 一臣様が私の唇から離れ、

「俺の舌をお前の舌で押し出すな」

と、ちょっと怒った感じでそう言った。


 その隙に私は、一臣様の腕からするっと抜けて逃げた。


「テレビで、映画観るんですよね?!」

 そう言ってすかさず立ち上がり、リモコンでテレビをつけ、

「チャンネルは?」

と、聞きながら、必死にいろんなチャンネルに回した。すると、洋画らしきものをしているチャンネルがあり、そこでとめた。


「……お前、惜しかったな」

「え?」

「横に座れよ。テレビお前も観るだろ?」 

 う。でも、ちょっと警戒心が出ちゃう。


「手、出さないから来いよ」

「はい」

 その言葉をどうにか信じて、私は一臣様の横に座った。


 すると、一臣様はほんのちょっと顔を近づけ、

「大人のキスへの階段、登り損ねて残念だったな。すご~く甘くて、と~~っても気持ちのいいキスをしてやろうと思っていたのにな」

と、そう囁くように言った。


 ぎょえ~~~~~~~~~~~~~!


 なんつうことを!なんつうことを!なんつうことを今、言った?


 私は一臣様の隣から、お尻をずりずりずりっと、勢いよく横に滑らせた。そして、勢い余って、ソファから転がり落ちた。


「痛い!」

「大丈夫か?あほだな」

 う~~~。一臣様のせいなのに。


 でも、すっごく甘くて、とっても気持ちのいいキスっていったいどんな…。想像できない…。


 ハッ!いけない。今、一瞬、期待した。こんなの、絶対に一臣様の手なのに。

 さっきだって、話しかけておきながら、途中でキスしてきた。あれ、きっと舌を入れようとして話しかけたんだ。わざと。


 話の内容なんてきっと、どうでもよかったんだ。一臣様の作戦に、まんまとひっかかるところだった。

 気持ちのいいとか言っているのも、絶対に、わざとあんなこと言ってるんだ。

 そうだ。危ない、危ない。ひっかかるところだった。騙されないぞ。


 私はそんなことを心の中で固く決意しながら、テレビを観ていた。だから、映画の内容なんてまったくわからない。


 一臣様は、横にいる私のことはほっぱらかして、炭酸水を片手に洋画を楽しんでいる。洋画はサスペンスものだ。何やら、スパイとか、FBIとかが出てきて、やたらと小難しい。途中、まったく内容を観ていなかったので、すでにちんぷんかんぷんだ。


 まあ、いいか。一臣様の隣にいることを、味わっているとするか。

 ゴクっと、炭酸水を飲むと、喉仏が上下に動く。それから、一臣様は足を組み直した。足、長いよね。足を組む姿が、本当にさまになる。


 私は一臣様の隣に、ちょっと間を開けて座っていた。

 ドキドキ。隣りにいるっていうのを意識するだけで胸が高鳴っちゃうなあ。


 それにしても、この時間、この空間は幸せだな。映画に夢中の一臣様が私に手を出してくることもないから、安心していられるし。


 一臣様は、真剣に映画を観ている。視線はずうっとテレビ画面に向いていて、私の方なんて、まったく観ようともしない。

 それも、ほんのちょっぴり、寂しいような…。


 いやいや。映画に夢中になっていてくれる方が、安心できるんだから、これでいいんだよ。


 なんて思っていると、CMになった。すると、一臣様は、ふうっと息を吐き、テレビ画面から視線をこっちに向けた。

「あ、なんだよ。そんなに間を開けて座っていたのか?」


 今、気づいた?

 グイッ。一臣様が腰に手を回し、私を一臣様のほうに引き寄せた。

「きゃ」

 べったりと、一臣様にひっついちゃったよ。うわ。もっと胸がドキドキしてきた。


「くっついてろよ。な?」

 耳元で囁かれた。きゃあ~~。耳が熱い。

 バクバク。耳が弱いっていうこと、ばれたから?わざと耳元でそう言ってるの?


 CMが開けた。洋画が始まると、また一臣様は真剣な目でテレビ画面を観だした。相当、映画の中に入り込んでいるんだな。


 アクションシーンでは、

「おお!」

と声まであげた。2重スパイの正体がわかった時には、

「こいつか。そんな気がしたんだよな」

と、呟いた。


 本当にかなり入れ込んでいるなあ。

 べったりと隣にくっついている一臣様に、ドキドキしながらも、新たな1面が見えて、私は嬉しくなった。


 とってもとっても、嬉しくなって、一人でひそかににやけたりもした。

 これ、贅沢な時間だよね。一臣様を独り占めにしているし、こんな普段は見せないような一臣様を見ることができるんだから。


「ふあ~~」

 映画が終わると、途端に一臣様は大あくびをして、

「寝るか」

と、ぼそっと言った。


「え?はい」

 良かった。すぐに寝てくれるんだ。

 

 ベッドに入ると、一臣様は私に、

「おやすみ」

とキスをして、抱きしめた。


 うわ~~。おやすみのキス嬉しい。幸せ!

 でも、一臣様の腕の中に抱かれて眠るのは、ドキドキしちゃって、無理っぽい。


 一臣様が寝てから、そっと腕から抜け出し、後ろを向いた。

 だけど、なぜか一臣様は私の背中から腕を回して抱きしめてきた。


 起きてる?と思って耳を澄ませると、くーくーと可愛い寝息が聞こえてくる。寝てるよね。

 寝ながらも、私のことを抱きしめて来るのか。

 きゃあ。


 それはそれで、恥ずかしいような嬉しいような。

 結局私は、ずっとドキドキしていて、なかなか眠れない夜を過ごした。

 今日も、寝不足だな…。




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