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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第6章 フィアンセ候補者集合!
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~その4~ しおらしい私?

 髪を乾かしてバスルームを出ると、一臣様が椅子に座り、何かを飲んでいた。どうやらお酒のようだ。

「お前も飲むか?」

「いえ。酔って寝ちゃうから飲みません」


「いいぞ。別に、風呂も入ったんだし、あとは寝るだけだろ?だったら、飲もうが飲まなかろうが、変わらないだろ」

 変わります。だって、記憶がなくなっちゃうから、一臣様に何かされても忘れちゃうってことだもん。そんな怖いことはないよ。


「飲みません。もう寝ます」

「まだ、11時前だぞ」

「でも、昨日もあまり眠れていないから、寝てもいいですか?」

「寝れなかったのか?」


「はい」

「なんでだ?」

「……それは、その。なんだか、ドキドキしちゃって」

「俺が隣にいたからか?」


「……はい」

 素直に頷いた。すると、一臣様はグラスをテーブルに置き、すっくと立ち上がって私の隣に来た。

「まだ寝るなよ。キスのステップアップもできていないんだし」

 ぎゃあ。


「い、いいです。今日は遠慮します」

 一臣様に抱きしめられそうになり、慌てて逃げてそう言った。

「…しょうがねえな」

 そう呟くと、一臣様はそのままバスルームに行き、ドライヤーで髪を乾かしだした。


 う…。びっくりした。あのまま、押し倒されるかと思った。

 でも今の言葉を、耳元でそっと囁かれていたら、私、どうなっていたことやら。


 ハッ!何を考えてるんだ。一臣様が戻ってくる前にもう寝てしまえ。


 いそいそとベッドに入った。そしてベッドの端に行き、一臣様には背中を向ける形で、目をつむった。

 だけど、その途端、ドキドキしてきてしまった。

 今日も寝れなかったら、どうしよう。やっぱり、お酒飲んだ勢いで寝たほうが寝れるかなあ。


 もそ。一臣様、まだドライヤーかけてるよね。私はベッドから降りて、一臣様が飲んでいたグラスを覗きに行った。

 あ。まだ、グラスに残っている。何のお酒かな。これ飲んで、さっさと寝ちゃおうかな。

 うん。

 カラン。大きめの氷が入っていて、冷たい。


 ゴクン。ゴクゴク。半分くらい残っていたお酒を思わず飲み干した。


「ゴホッ。ゴホッ。むせた。つ、強かったかも」

 飲み終えてから、思い切りむせて、強いお酒だったと気が付いた。

 味は、よくわからなかった。飲んだことのない味だ。


「ふ、ふらつく。喉が熱い」

 もしかして、相当度数の高いお酒だったのかな。顏も体も一気に火照ってきた。

 

 ガチャリ。

「あ、なんだよ、お前。まさか、そのお酒飲んだのか」

 一臣様がバスルームから出てきて、私がグラスを持っていたからかそう聞いてきた。

「はい」


「はいって…。あれ?」

 一臣様は私の前まで来ると、空になったグラスを見て、

「これ、全部飲んだのか?」

と、びっくりしながら聞いてきた。


「はい」

「お前、大丈夫か?これ、強いぞ。バーボンでも強い方だし、ストレートだぞ、これは」

「バーボン?へえ。これが、バーボン…」

「酔ってるな。目がもうすわってるぞ…」


「眠れないと思って。お酒飲んでグーって寝ちゃおうと思ったんです」

「そんなに眠れそうもなかったのか?」

 私はふらついて、その場にあった椅子に座った。もう、天井も床も回っている気がする。


「だって、一臣様にいつ襲われるか気が気じゃなくて」

「……無理やり襲わないから、安心しろよ」

「本当に?!」

「ああ」


 私はその言葉で一気に安心して、いきなり眠気が襲ってきた。

「眠い」

「ここで寝るな。ベッドに行け」

「抱っこ」


「はあ?襲うなって言ってたやつが、何を言いだしているんだ」

「抱っこ~~」

「……ったく。襲うぞ」

「無理やり襲わないって、さっき、一臣様約束しました」

「はいはい。ああ、面倒くさい奴だなあ」


 一臣様はそう言うと、私のことをひょいとお姫様抱っこしてしまった。

「一臣様って、筋肉ありますね」

「一応鍛えているからな」

「素敵!」

 私はそう言いながら、一臣様の首に両腕を絡ませた。


「……そうか?」

「はい。腕が筋肉質で、こうやって抱っこされてるだけで、ドキドキってしちゃいます」

「お前、言ってることが矛盾してるな。じゃあ、その筋肉質の腕に抱かれてみるか?」

「もう抱かれています」


 一臣様は私をベッドの上に、ドスンと寝かせた。

「そうじゃなくて。俺に抱かれてみるかって聞いたんだ」

 そして、私の上に覆いかぶさり、そう言ってきた。


「いいえ。それは駄目です」

「なんでだ?」

「駄目なものは駄目です。もう寝ます。おやすみなさい」

「おい…」


 一臣様は呆れたって言う声で、片眉をあげた。ああ、その顔も好きなんだ。

「おやすみなさい」

「…ったく。しょうがねえなあ、このお嬢様も」

 そう言うと、チュッと私の唇にキスをした。


「お、おやすみのキスですか?今のって」

「そうだ」

「嬉しい」

「……」

 あ。また、片眉があがった。呆れたのかな。


「襲いたくなるだろ?可愛いことを言うな、可愛い顔して」

 え?

 ドキン。


「じゃあな、おやすみ」

「一臣様」

 私はなぜか、起き上がろうとしていた一臣様のバスローブを掴み、

「私って、どうも、耳で優しく囁かれるのが弱いみたいです」

と、そんなことを口走っていた。


 え?おいおい。何を一臣様に言ってるの?と、びっくりしている私もいる。でも、勝手に口がべらべらとしゃべってしまう。

「だから、耳元で、優しい言葉をささやかれたら、きっと私はそれだけで、一臣様に落とされちゃいます」

「は?」


 そう言って、私は満足したのか、もっと眠気に襲われた。そして目をつむった。


「お前、そんなこと俺に教えていいのか?すごい情報だったぞ、今のは」

 一臣様の声がした。呆れたっていう声だ。

「まったく。そんなこと言って、無邪気な顔して寝るんだから、手なんて出せないよなあ」

 一臣様の声がだんだんとフェイドアウトしていく。


 ふわふわと気持ちいい。優しい手が私の頬に触れる。髪も撫でてる。

「弥生、可愛いよな、お前」

 そんな声が聞こえた。きっとこれは夢の中だ。

 夢の中での一臣様は、優しいんだなあ。


 うっとりと私は夢を満喫していた。


 翌朝、起きたら頭がガンガンしていた。

「もしや、二日酔い」

 あ~~。そうだ。昨日一臣様のお酒飲んで寝ちゃえって思って、飲んで寝たんだ。ぐっすりと。

 

 隣を見ると、一臣様はまだ寝ていた。

 なんか、気持ちも悪い。私はそっとベッドから起きだし、バスルームに行った。でも、吐くこともできず、ただただ、頭痛がするばかり。


 ベッドまで這うようにして戻った。そして、一臣様の隣に寝っころがると、一臣様が目を覚ました。

「弥生、起きたのか?」

「う~~~~~~」

「ああ。二日酔いか。頭痛がするのか?」


「あい…」

 自分の声でも頭に響くので、すごく小さな声で答えた。頭をちょっとでも動かすと痛いので、動かさないように固定したまま。


「オレンジジュース、グレープフルーツ。あとは何があるかな。まあ、二日酔いにいいとされるものを用意させるから、ここで待ってろ」

「ダイニングに私は行かないでもいいんですか?」

「行けないだろ?その頭痛で」


 一臣様はそう言うと、携帯でどこかに電話した。どうやら、喜多見さんか、樋口さんのようだ。

「ああ。弥生が二日酔いなんだ。ダイニングには行けそうもないから、持って来てくれないか。二日酔いにいいものなら、なんでもいい。あと、俺にはコーヒーを頼む」

 そう言って、一臣様は電話を切った。


「一臣様はダイニングに行かないんですか?」

「お前が行くなら、行こうと思っていたが、お前が行かないなら行かないぞ」

「いいんですか?麗子さんも、お母様もいらっしゃるのに」

「おふくろはいないだろ。朝はいつも、8時過ぎてから起きて来るし、麗子さんもそんなに早くに起きているかどうか。ああ、龍二も朝は飯を食わないから、いないかもしれないな」


「じゃあ、どっちみち、私と一臣様だけ?」

「だろうな。だから、いいさ。ここにいろ」

「はい」

「めちゃくちゃ強い酒を、一気飲みしたんだもんなあ。本当にお前には驚かされる」

「ごめんなさい」


「まあ。いい。いい情報も手に入ったし」

「え?」

「なんでもない」

「え?え?気になります。なんですか?」


「教えるわけがないだろう。ふん」

 一臣様は鼻で笑った。それから、目を細めて私を見た。

「まだ痛いか?」

「ガンガンします」


「あほだなあ。でも、もう酒飲まないでもいいぞ。無理やり襲うなんてことはしないから」

「……はい」

 一臣様がなんだか、優しい。ほっと安心できる。


 一臣様は顔を洗いに行き、着替えを始めた。私はとてもじゃないけど、起き上がることもできなかった。


 トントン。

「一臣おぼっちゃま、お持ちしました」

 ドアの外から喜多見さんの声がした。


「ああ。悪い」

 一臣様がドアを開けると、喜多見さんがコーヒーと、オレンジジュースと、グレープフルーツが乗せてあるお盆を持って、中まで入ってきた。


「どこに置きますか?」

「そこのテーブルの上でいい。悪いな。ここまで運んでもらって」

「いいえ。弥生様。大丈夫ですか?」

 ベッドでまだ、うずくまっている私に向かって、喜多見さんが聞いてきた。


「あい」

 また私は、声になるかならないかの小声でそう答えた。

「俺のバーボンのストレートを飲んじまったんだ。それも一気に。あほだろ?」

「まあ…」


「すみません」

「お仕事には行かれますか?」

「あい…」


「大丈夫だろ?こいつ、前にも二日酔いで具合が悪かったのに、あっという間に治しちまったんだ。回復力半端ないからな」

「そうですか。他にも何か必要なものがありましたら、遠慮なく言ってくださいね。弥生様」

「あい」

 また、小声で頭を振ることもなく、私はそう答えた。


「喜多見さん、ダイニングは誰かいるのか?」

「はい。麗子様が」

「…一人でか?」

「ええ」


「早起きなんだな」

「一臣おぼっちゃまに会いたかったようですよ。会社に行く前に、きっとお声をかけてくると思います」

「ええ?なんだよ。じゃあ、また弥生とは別々に車に乗ることになるのか?」

「先に行ってください。私を待っていたら、遅くなるかもしれないです」


 私はそう言いながら、体を起こそうとした。でも、頭がガンガンしていて、思わず、頭を抱え込んでしまった。

「いった~~~」

「大丈夫ですか?弥生様」

「ほら。弥生。俺が支えるから、無理するな」


 一臣様が私のすぐ横に座り、私を支えてくれた。そして、喜多見さんからオレンジジュースの入ったコップを受け取り、私に飲ませてくれた。

「これ飲んで、しばらく横になってろ。いいな?」

「あい」


「さっきから、あい、あいって、ずいぶんと可愛い返事だな」

「大きな声出すと、痛いんです。だから」

 私はそう、こそこそと言ってから、ゆっくりと横になった。


「しおらしい弥生も可愛いな」

 ぼそっと一臣様はそう言った。隣りで喜多見さんがそれを聞き、くすっと笑うと、一臣様は喜多見さんのほうを見て、焦ったように、

「あ。喜多見さん、また用があったら呼ぶから、もういいぞ」

と喜多見さんを追い出してしまった。


 一臣様は、椅子に腰かけてコーヒーを飲んだ。それから、ドアの下に挟んであった新聞を読みだした。まるで、ホテルのように、一臣様の部屋のドアの下には毎朝、新聞が挟んである。


「一臣様は何時に出て行かれるんですか?」

「俺は…。今日は10時から、アポが入っているからそれまでに出社する」

「そうなんですか。じゃあ、私のほうが早くに出ることになりますね」

「なんでだ?」


「え?だって、私、8時半までには行かないと」

「無理だろ?もう8時になるぞ」

「え?」

 う、いたたた。まだ、頭が痛かったんだった。でも、さっきよりは落ち着いた。


「遅刻するわけには。せめて9時にはつかないと」

 私はベッドから起き上がった。起き上がるとさらに、頭痛はした。

「食べられるなら、グレープフルーツも食べたらどうだ?」


 一臣様はそう言って、グレープフルーツの乗ったお皿を持って来てくれた。

「はい」

 私はそれを、ベッドに座って食べた。


「なんだ。「あい」っていう返事、しおらしくて可愛かったのにな」

「もう、そこまで頭痛がひどくないので」

「でも、可愛かったぞ?たまにはあんなふうに返事しろよ」

「……」

 そうは言われても。なんだか、照れちゃって無理。


「細川女史には、遅刻するってことを言っておく」

「怒られますよね。二日酔いで遅刻なんて」

「怒られないだろ?お前の上司じゃないんだから」

「え?そんなことないです。細川女史が上司です」


「お前は、俺についてる秘書なんだよ。たとえば、青山ゆかりの上司は親父だし、樋口の上司は俺だ。俺の第1秘書だからな」

「っていうと、私の直々の上司って?」

「俺だ」


「え?!」

 う。また、今、頭がガンガンって響いた。

「だから、上司が遅刻を許してるんだから、誰にも怒られることはないぞ。今は、秘書課の人数が足りなくて、お前を貸し出しているようなもんだからな」


「……いったい、いつの間にそんなことに?」

「お前のことを俺につかせるって、そう宣言してからだ」

 そうだったんだ。初めて知った。私の直々の上司は一臣様で、私は一臣様の秘書で…。


「わかったら、それを食って、さっさと二日酔いを治せ。いいな?」

「あい」

「…あれ?また、しおらしくなったな」

「あ。つい…なぜか口から出ちゃった」


「ははは。元気な弥生も可愛いけど、弱ってる弥生も可愛いよな」

 うわ!今日も朝から、可愛いと言われてしまった。

 そして夢を思い出した。まさかと思うけど、あれも現実だったりして?


 一臣様はまた、新聞を読みながらコーヒーを飲んだ。

 ああ。その姿が、とっても麗しい。うっとり。

 

 今日の夜にはもう二人、ライバルが現れるというのに、私は呑気に一臣様に見惚れていた。



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