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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第6章 フィアンセ候補者集合!
72/195

~その3~ 大胆なお嬢様

 一臣様の部屋の前で、トントンとノックをしてみた。

「誰だ?」

「あ。弥生です」

と答えてから、もし、龍二さんに見られていたらと思い、

「上条です」

と言い直した。


 ガチャリ。ドアが開くと、一臣様が思い切り、眉間にしわをよせていた。

「あ…」

 怒っているのはなんでかな?


「なんだ」

「あの…。え~と…」

 ここは、なんて言っていいものか。もし、万が一龍二さんに見られていたとしたら、やっぱり、お部屋に入れてくださいとでも言うべきか。それで、一臣様がとっとと私を入れてしまったら、それもそれで困ることにならないかなあ。


「お、お部屋に入っても…よろしいでしょうか?」

 私はこわごわ聞いてみた。そしてちらっと、階段のほうを見てみた。龍二さん、応接間に直行したよね。まさか、私のこと見に来たりしていないよね、と思いながら。


 すると、階段に人影が見えた。

 いるかも!

 いや。もしかすると心配して見に来た亜美ちゃんの影かも…。


 ふと、一臣様の顔を見ると、一臣様も目だけ階段のほうに向け、

「仕事があるんだ。入れるわけにはいかない」

と一言だけそう言って、バタンとドアを閉めてしまった。

「あ…」


 そっと、もう一度階段のほうを見た。すると、龍二さんが、残念そうな顔をひょっこり覗かせ、そのあと階段を下りて行った。

 やっぱり、龍二さんだった。


 これで良かったのかな。ドキドキしながら自分の部屋に入った。すると、例のドアから、一臣様が顔を出した。

「龍二が見ていたんだな?」

「え?」

「さっきだ」


「はい。見てました。私に、一臣様の部屋に行けと言って…」

「そんなことだろうと思ったけど…」

 一臣様は腰に手を当て、溜息を吐いた後、

「こっちの部屋に来いよ」

と、私に言って来た。


「え?でも仕事中って」

「仕事はないぞ。オフィスで缶詰めになって、書類を見ていただろ?全部オフィスで仕事は終わらせてきた」

「え?でも、麗子さんに仕事があるって」

「ああでも言わないと、しつこそうだったからな。それにしても、失礼なお嬢様だよな。人の仕事をなんだと思っていやがる。秘書に任せろだと?頭来るよなあ」


 もしかして、それで怒っていて、眉間にしわが寄ってたの?

「それに、聞いたか?コック長の料理をけなしやがって。あれには、おふくろも頭に来ていたな」

「え?そうなんですか?」

「おふくろ、コック長の料理は、気に入っているんだ。だから、あれこれ、リクエストして、大変な思いをコック長もしてるんだけどな」


「そうなんですか。それじゃ、ちょっと嫌な思いをしましたよね。お母様も」

 一臣様は私の腰に手を回し、私を一臣様の部屋に連れて行った。

「風呂、先に入るか?弥生」

「え?はい。あ、着替え持って来ていないから、持ってきます」


「いいぞ。着なくても。また、バスタオル1枚で出てきて」

「いえいえいえいえ。持ってきます!」

 私はまた、一目散に自分の部屋に戻った。そして、パジャマを引き出しから出して、下着も出そうとしてめちゃくちゃ驚いた。


「うわあ!」

 新しい下着が入ってる!なんで?誰が買ったの?まさか、日野さんや亜美ちゃん?

 赤とか、紫とか、なんか、派手な色のもあるし、白やピンクでも、紐のパンティのものや、すけすけレースのものまで入っている。


「信じられない」

 私はそれらの下着をどけて、下の方に入っているベージュの下着を手にした。

 そして、ふらつきながら一臣様の部屋に戻った。


 まさか。まさか、今夜一臣様、いきなり襲ってこないよね。

 下着を見て、ベージュの下着で、怒ったりしないよね。

 って、違う。下着のことより、私の貞操のことを心配しようよ、私。


 ふらふらになりながら、バスルームへと歩いて行くと、

「ああ。新しい下着、入っていたか?」

と、一臣様が普通に話しかけてきた。


「う。えっ?あ、はいっ」

 私は思い切り動揺した。

「なんだよ。そんなにびっくりしないでもいいだろ?気に入ったのはあったか?」

「…あれ、誰が買ったんですか?」


「日野や立川に頼むのも悪いと思って。ああいうのが一番好きそうな、青山に買ってもらって、屋敷に届けてもらったんだ」

「あ、青山ゆかりさん?!」

「ああ。多分、しまってくれたのは、喜多見さんじゃないか?」


 喜多見さんが?それもショック。でも、青山さんが買ったっていうのも、かなりショック。それだけ、親しいってこと?

「あ、あ、青山さんとは、一臣様はいったい」

 どんなご関係なんでしょう。とは、口に出して聞けない。


「青山は、親父の愛人だ。弥生がフィアンセだってことも知っているし、わりといろんなことが頼みやすい」

「……いろんなこと?」

「まあ、いろいろとな。でも、俺とは何の関係もないぞ。俺もさすがに親父の愛人にまでは手を出さないからな」


「……」

 なんか、一臣様の女性関係をいろいろと知っていくと、もっと落ち込むことになりそう。あんまり深く聞かないほうがいいのかな。

 たとえば、一臣様って何人の人と付き合っていたのか…とか。

 どのくらい深い関係だったのか…とか。


 確か、龍二さんが言ってたよね。キャビンアテンダントのヨーコさん。それから、ジャズ歌手も、一臣様が付き合っていた人だったっけ?

 いったいどこで知り会っちゃうんだ。もしかして、知り会った人とはすぐにお付き合いしちゃうんじゃないよね。


「それで気に入ったのはあったのか?」

 一臣様は私が悶々としている横で、平然とした顔で聞いてきた。

「は?」

「いろんな下着がそろっていただろ?」


 まだ、下着の話?

「でも、会社には派手なのは履いて行くなよ。あと、あんまり大胆なのもな。誰かに見られることはないと思うが、念のためな」

「…派手なのとか、大胆なものばっかりでした。だから、どれも私には無理かと」


「そうなのか?青山、そんなに履けそうもないのばかりを買ったのか?自分の趣味に走ったのか、あいつは」

 そうぶつくさ言うと、一臣様は私の部屋に行ってしまった。


 えっと。まさかと思うけど、確認しに行った?

「なんだよ。弥生。可愛いのもあるじゃないか。これだったら、全然履いて行けるぞ」

 ぎゃあ!手に持ってきた!


「いえいえいえいえ。無理です」

 それも、紐のとレースビラビラのだ。

「なんでだ?白やピンクだから、スカートに透けて見えることもないし」

「いえいえいえいえ。普通のごくごく普通の、前からあったのだけを履きます」


「それじゃ、面白みがないだろう」

「そ、そんなことないです。別に私は普通のでもかまわないです」

「お前じゃなくて。俺が面白くないんだ。このくらいは履いてもらわないと」


 ぎゃ~~~~~!セクハラ発言。スケベ発言。やめて~~!

「は、履きませんから。絶対にっ!」

 そう私は断言してから、バスルームに勢いよく入って行った。


 バタン!

 絶対、ただの、スケベなおっさんだ。エロ専務だの、エロ爺だの、人のこと言えないって。ヘタすりゃ、一番スケベなんじゃないの?


 今までもああだったの?他の人にもそんな色っぽい下着を着せてたり?


 嫌だ~~~~~~~~~~。考えたくもない。

 

 体と髪を思い切り洗って、バシャンとバスタブに入った。アロマの香り、それにジャグジー。本当ならほっと安心して、癒されるはずが、まだ私はドキドキしていて、全然気持ちが落ち着かなかった。


 あんなスケベな一臣様の隣に寝て、平気なんだろうか。私…。

 危ういんじゃないの?もしかして。めちゃくちゃ。


 そうじゃない。ほら。もっと、慣れていこうって決めたじゃない。一臣様だって、ステップを一段ずつ登って行くからって、そう言ってくれたんだし。いきなり、襲ってくることはないよ、絶対。


 でも、そのステップを一段ずつって、どんな感じに登って行くの?

 それはそれで、ものすごく怖いんですけど。


 でも。でもでも、フィアンセなんだし。ずっと、拒否し続けたり、抵抗しているわけにはいかないんだし。

 でも、でもでもでもでも。あのスケベっぷりが、とっても、受け入れがたい。


 気持ち悪いだの、怖いだの、ストーカーだの言われているのも傷ついたけど、今は違った意味で、とっても近寄りがたいんですけど!


 それとも、あれが普通の一般男性の姿なの?世の男の人がわかんないから、あれがスケベなのか、普通なのかもわからない。

 でも、スケベな気がしてならない…。


 のぼせそうになり、急いで私はバスタブを出た。そして、ごく普通の下着をつけ、パジャマを着てバスルームを出て行った。

「髪、乾かしていないのか」


「はい。あ、一臣様どうぞ。お風呂入ってきてください」

「ああ」

 一臣様は、バスルームに入って行った。


 私はしばらく、ぼけらっとベッドに座っていた。一臣様が出てくるまでは安心だ。

 問題はそれからだ。

 どう、切り抜けよう。


 ドキドキドキ。シャワーの音が消え、だんだんと一臣様がバスルームから出てくる時間が迫ってきた。

 自分の部屋に帰っちゃおうかな。でも、怒ってやってくるだけだよね。


 トントン。

 その時、ドアをノックする音が聞こえた。

 ドキ!誰?まさか、私が開けるわけにもいかないし。


 トントン。

「一臣様」

 この声、まさか、麗子さん?!


 ど、どうしよう。バスルームはドアの近くにあるから、あそこで私が一臣様を呼んだら、外に私の声が聞こえちゃうよね。

 無視しておく?


 ドキドキドキ。どうしたらいいかもわからず、ベッドに座り込んでいると、ガチャリと一臣様がバスルームから出てきた。

 その時、また、

「一臣様、麗子です」

という声が、ドアの外からしてきた。


 一臣様は、バスローブ姿で髪はまだ濡れていた。でも、肩にかけたバズタオルで、髪を拭きながら、

「はい」

とドアを開けてしまった。


 うわわ。開けちゃった。もし、入ってきたらどうするの?


「あ。シャワーを浴びていたんですか?」

「はい」

 一臣様が言葉少なに答えた。


「もうお仕事終わられたかなって思いまして。わたくし、一臣様ともワインを飲みたかったんです」

「龍二は?」

「います。まだ応接間に」

「申し訳ないですが、今、目を覚ますためにシャワーを浴びたんです。これから、まだ仕事です」


「そんなにお忙しいんですか?」

「多分、12時は過ぎるかと」

「まあ…」

 まあ、と言ったきり、麗子さんは何も言わない。なんでかな。


「では、失礼します」

 一臣様が部屋のドアを閉めようとしたらしい。

「一臣様。邪魔はしませんから、お部屋に入れてくださいませんか」


 え?!ええ?!

「申し訳ないですが、婚約前に入れるわけにはいきませんよ。麗子さんのご両親に怒られます」

「そんなの、言わなかったらばれませんわ」


「…お嬢様がそんなことを言って、よろしいんですか?」

「まあ。一臣様のお噂は聞いておりますよ。とても、手が早いんだと」

「……手?」

「わたくしでしたら、いいんですのよ。だって、一臣様の奥様になるんですもの」


 え~~~~!!!

 やめて。入れないで。私がここにいるんだし。あれ?私、隣に戻ったほうがいい?

 違う。何をわけのわかんないことを考えているんだ。そういうことじゃない。


「申し訳ないです。麗子さんが隣にいたら、とても仕事が手につかなくなりますから、今夜はお部屋にお戻りになってください」

 一臣様はものすごく丁寧にそう断った。こんな言葉使いできるんだ。びっくり。


「では、せめておやすみのキスをしてください、一臣様」

 う。……え~~~~~っ!!!

 それも嫌だ。絶対に嫌。ぜ~ったいに嫌!!!


「どこで使用人が見ているかもわからないので、ここでは」

「使用人に見られては困るんですか?口の堅くない使用人ばかりなんですか?ここのお屋敷は」

「………」

 一臣様、沈黙だ。


「では。おやすみなさい。麗子さん」

 え!?まさか、キスしたの?

 バタン。次の瞬間、ドアが閉まった音がした。


 一臣様は、ガシガシと髪をバスタオルで拭きながら、ベッドのほうにやってきた。

「か、一臣様」

 私が泣きそうな顔でそう言うと、

「なんだ?」

と聞いてきた。


「お、おやすみのキス」

「してほしいのか?って、もう寝る気か?まだ、髪乾いてないぞ」

「違います。麗子さんと…したんですか?」


 ビクビクしながらそう聞いた。すると、

「ああ。ほっぺにな。思い切りがっかりした顔をされたが、とっととドアを閉めてやった」

と一臣様はクールに答えた。

「…ほっぺ?」

「唇にはしないぞ。そう約束しただろ?あ、まさか、ほっぺでも駄目だったか?」


「いいえ」

 良かった。思い切り、私、ほっとしてる。涙でそうだ。

「あほだな。そんなこと心配していたのか」

「はい…」


 ギュウ。

 うわ!抱きしめられた。


「髪、先に乾かして来い。な?」

「はい」

 耳元でそう優しく囁かれ、私は急いで髪を乾かしに行った。

 胸はドキドキしていた。ああやって、優しく耳元で囁かれるのは嫌いじゃない。ドキドキするけど、本当は嬉しい。


 だから、もしかしたら、優しい言葉や愛のささやきを耳元で優しく言われたら、それだけでコロッと、私は一臣様の言いなりになっちゃって、簡単に抱かれちゃうかもしれない。ってことも、自分ではなんとなくわかっている。


 ドキドキドキドキ。鏡に映る私は真っ赤だ。

 それにしても。

 なんて、麗子さんって大胆なんだ。あんなに大胆なお嬢様っているんだな。


 


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