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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第6章 フィアンセ候補者集合!
70/195

~その1~ 龍二さんの策略

「帰りたくないなあ」

 15階でエレベーターを待ちながら、一臣様がぼそっとそう言った。隣りには樋口さんもいるのに。

「もうおふくろも、大金麗子も屋敷にいるんだろ」

 一臣様は樋口さんにそう聞いた。


「はい。国分寺さんからお二人がお屋敷に到着したと、さきほど連絡が来ました」

「は~~~あ。面倒くさいよな。夕飯はみんなで食うんだろ?憂鬱になるよな、弥生」

 めずらしく愚痴っぽい。


「帰りも車は別々に乗られますか?」

 樋口さんがそう聞くと、一臣様はどこか宙を見て、ふうっと溜息を吐き、

「そうだな。龍二に見られるかもしれないし、別々に帰った方がいいだろうな」

と、つまらなさそうにそう言った。


「はい、かしこまりました」

 エレベーターが来た。それに乗り込むと、一臣様は私の腰に腕を回してきた。

 ドキ。ああ、もう。樋口さんがいるのになあ。


「明日には、あと2人来るんだよな」

「はい。200年も続いている老舗の料亭のお嬢様、長谷敏子様と、大学病院の院長の娘、鷺沼京子様です」

「はぜとさぎ?」

「長谷様と鷺沼様です」

 樋口さんは、静かにそう答えた。


「料亭のほうがハゼで、病院がサギか。…変な名前だな」

 いやいや。変にしているのは、一臣様だと思う。

「まあ、覚えやすいな、で、金をたくさん持っている大金持ちが、銀行の頭取」


「そんなふうにいつも、人の名前を憶えているんですか?」

 そう聞くと、

「ああ。何百人と覚える名前があるんだ。工夫しないと覚えられないだろ」

と一臣様は答えた。それもそうか。だから、女の人も苗字で覚えるのかな。


「弥生。2~3日、ホテルに泊まらないか。あ。俺のオフィスでもいいか、こうなったら」

「え?」

「家に帰るのが憂鬱なんだよ。お嬢様の相手までしないとならないんだ。龍二だけでも手に余るっていうのに」

「……えっと。でも…」


「一臣様、作戦を実行されるのではないんですか?」

「最初から俺と弥生が、別のところに泊まっていたら、龍二と弥生が顔を合わせることもないし、それでよかったんじゃないのか?樋口」


「いえ。ここはやはり、作戦通りに、一臣様は弥生様よりも大金様に惹かれていて、でも、会社のために弥生様との婚約を承諾しないわけにはいかなかったと、そう龍二様やお母様に思わせないと、今後、龍二様が弥生様にちょっかいを出してくるようになるかもしれないですよ」

「……そうか」

 樋口さんの言葉に、一臣様はため息交じりにそう答えた。


「は~~~~あ。面倒くさいよなあ」

 一臣様はまたそう言うと、私の腰に回していた腕に力を入れ、もっと私を一臣様の体に引き寄せてしまった。

「せっかく弥生が戻って来たのに、一緒の車で帰ることもできない」

「まあ、しばらくの辛抱ですから。一臣様」


「あ~あ。夕飯も弥生と二人で食べたほうが、ずっといい」

「…ほんの数日じゃないですか…」

「弥生…」


 ベッタ~~~~~。一臣様がさっきよりももっと、私を抱き寄せてしまった。

 うわわわわわ。樋口さんがいるのに!まさか、キスまではしないよね!?


「申し訳ありません。エレベーター、ご一緒しないほうが良かったですね」

 樋口さんは、私たちのほうをわざと見ないようにしてそう言った。

「…まったくだ。気を利かせろよ、樋口」

 うわ。そんなことまで言っちゃうなんて、どうしちゃったんだ。


 エレベーターは1階に着いた。

「車を回してきますので、もう少しこちらでお待ちください」

 樋口さんはそう言うと、なぜか降りる時に、エレベーターの「閉める」ボタンを押した。


 樋口さんだけが出て行って、エレベーターのドアが閉まった。

 あ、あれ?


「弥生」

「え?!」

 ドキン。

 うわ!一臣様の顔が近づいてきた。


 目をギュって閉じた。一臣様はキスをしてきた。

 きゃ~~~~。


 ふわふわ~~~~~。

 ドキドキするのに、ふわふわする。


 一臣様はいったん、私の唇から唇を離した。私はまだ宙を浮いているようにふわふわとしていた。


 トロン…。駄目だ。まだ、なんだか夢心地だ。すると、一臣様がまた、キスをしてきた。

 ひゃ~~~~~~~~~。

 

 チュ。

 あれ?今度は短いキスだ。

 チュ。

 でもまた、してきた。


「弥生」

「は、はい」

 私は名前を呼ばれてびっくりして目を開けた。ドキン。目が合った。


「そんなに口、ギュッて閉じてるなよ」

「え?」

 ドキン。

「ごめんなさい」


 でも、緊張しちゃって、ギュッて勝手に口が閉じちゃう。

「一段アップできないだろ?」

 一段アップ?


「レベルアップ…」

 え?

 そう一臣様は言うと、また口を近づけてきた。


 レベルアップ?!って?!


「だから、口を閉じるなって」

 え?え?

「舌入れられないだろ?」


 し、舌~~~~~~?!!!!!


 ドン!

 一臣様の胸を思い切り押した。

「うわっ」

 油断していたのか、一臣様は私に押されて、数歩よろけながら下がった。私はその隙に、「開ける」のボタンを押して、エレベーターのドアが開いた途端、飛び出した。


「あ、こら。待て」

 腕を掴まれた。でも、ドアが開いたその真ん前に、樋口さんと等々力さんが並んで立っていて、

「あ…」

と、一臣様は私を掴んだ手を離した。


 私は2人に顔を見られないよう、顔を思い切り背けた。今、きっと、まっかっかだ。私の顔。


「……そろそろお帰りになりますか?一臣様」

 ものすご~~く冷静に、そう樋口さんが聞いた。

「……ああ」

 一臣様は、口を尖らせ、ムッとしながら樋口さんの車に乗り込んだ。


「弥生様、どうぞ」

 等々力さんは優しくそう言って、等々力さんの車の後部座席のドアを開けた。

「はい。ありがとうございます」

 私はまだ、顔を思い切り俯いたまま、そう言って車に乗った。


 ………。レベルアップ?

 ………。舌?!


 どひゃ~~~~~~~~~~。

 車に乗ってからも、顔から火が出そうになっていた。何?舌って。え?まさか、それが大人のキス?

 あ。なんか、前にマンガで見た。映画でも観た。

 ディ―プキスって、マンガには書いてあったような気が…。


 どひぇ~~~~~~~~!!!

 そういうのって、マンガや映画の世界だけの話じゃないの?!まさか、一般ピーポーもするものなの?

 現実でもみんな、しているものなの?!


 それとも、一臣様が特別にそんなことしているの?

 どうなの~~?!?!?!


 お屋敷に着いた。一臣様のほうが先に着いて、お屋敷にとっとと入って行ってしまっていた。

 良かった。


 いや、よくない。結局私が、私の部屋に行けば、一臣様はあの秘密の扉を抜け、私のところに来るんだ。

「……」

 秘密の扉ってわけじゃないか。なんだか、自分でさらにスケベなことを思ってしまったようで、顔がまた熱くなった。


 駄目だ~~~~。


「おかえりなさいませ!」

 お屋敷に入るろうとすると、亜美ちゃんがそう言って走ってきた。

「はい。ただいまです…」

 私はまた、顔を見られないように俯きながらそう答えた。


「あの、弥生様には私がつくことになりました」

 私のところに来ると、亜美ちゃんはひそひそ声でそう言って来た。

「え?」

「日野さんは、龍二様についています。トモちゃんは大金麗子様についているんです」


 わあ。日野さん、大丈夫なのかな。さすがにメイドには手を出したりしないよね。

「それで…」

 もっと声を潜めて、亜美ちゃんは何かを言おうとした。でも、応接間の方から綺麗な女の人が歩いて来て、亜美ちゃんは黙り込んだ。


「あなた、上条グループの弥生さん?」

 その綺麗な人が私に聞いてきた。

 その人はスラッと背が高く、腰の位置も高い。髪は黒髪ロングで巻き毛だ。色は抜けるように白い。それに、ローズピンクのワンピースを着ていて、とてもヒールの細いパンプスを履いている。


「え?はい。そうです」

「そう」  

 それだけ言うとその人は、今度は亜美ちゃんに向かって、

「一臣様、お帰りになったようね?」

とそう聞いた。


「はい。先ほどお帰りになって、もうお部屋のほうに行きました」

「一臣様のお部屋、案内してもらえるかしら」

 え?


「申し訳ありません。それはまず、一臣様の許可を取ってからでないと…」

 亜美ちゃんが、かなりの低姿勢でそう答えると、

「何よ。使えないメイドね」

と、その綺麗な女性はいきなり怖い顔をして、くるりと背を向け応接間のほうに向かって行き、

「じゃあ、応接間に大金麗子がいるから、来るように伝えてくださる?」

と、亜美ちゃんに大きな声で言ってから、応接間の中へと消えて行った。


「あの人が、大金麗子さん?」

「そうです。はあ…。あの調子でメイド達にいろいろと用を言いつけて、大変なんです。弥生様、お部屋に行きますよね。私も一緒に行きます。一臣様にお伝えしないとならないし」

 そう言って亜美ちゃんは、私と一緒に階段を上りだした。


「一臣様、行きますよね。応接間…」

 私は気になり、俯きながら亜美ちゃんに聞いてみた。でも、亜美ちゃんは何も返事をしない。

「?」


 私はなんでだろうと、亜美ちゃんのほうを見た。すると、誰かが階段の上に立っていることに気が付いた。亜美ちゃんはその誰かを、立ち止まって見ていたのだ。


「兄貴が応接間に行くって?なんで?」

 龍二さんだ。今の話を聞いていたんだ。

「それは…」

 亜美ちゃんが口ごもった。


「大金麗子が呼んだんだろ?聞こえてたよ。でっかい声で言ってたもんな」

 なんだ。聞こえていたんじゃない。

「いいよ、兄貴に伝えなくても。俺が行くから」

「そういうわけにはいきません。怒られます」


「…兄貴に忠実なんだねえ、君たちって。もしかしてあんた、兄貴にやられたの?」

「え?!」

「まさかと思うけど、ここのメイド達って、みんな兄貴に手、出されていたりする?」

「まさか。そんなわけないじゃないですかっ」

 私は思わず、そう叫んでしまった。


「なんだよ。あんたには聞いてないよ。ああ、あんた、兄貴にまったく手も出されていなけりゃ、相手にされていないんだろ?だからって、兄貴が誰にも手を出さないって、決めつけないほうがいいぜ。女癖悪い男なんだからさ」

 ムカ。


 ムカムカムカムカ。メイドの人にまで、手を出すわけないでしょ?それはあなたじゃないの?という思いで、私は龍二さんを睨みつけた。


「…あれ?なんだ。案外強気なんだ」

 何よ、それ。

「へえ。意外。もっと弱いのかと思った」

 誰が!ふんっ。今朝は怖くなって、足が震えたけど、こんなやつ怖がったりしてバカみたいだ。私。


「………」

 じいっと私のことを、龍二さんは舐めるように見た。ムカ。

「なんですか」 

 私は頭に来て、つっけんどんに聞いた。


「あんたさあ。俺と組まない?」

「は?」

「あんた、兄貴のこと狙ってるんだろ?結婚したいんだろ?」

「……」

 なんか、嫌な言い方をする人だよなあ。


「俺は大金麗子を狙ってるんだ。どうしても手に入れたい」

 うわ。もっといやらしい顔をした。

「あんたが兄貴とくっつくように協力してやるよ。だから、あんたも俺に協力しろよ」

「はあ?!」


 なんなんだ。その展開は。隣りで亜美ちゃんも絶句してるじゃない。

「いいだろ?あんただって、大金麗子は邪魔だろ?」

「で、でも、協力って言っても、私何をしたらいいかもわからないし、そういうの苦手なんです」

 そう思い切り嫌だっていう顔をして私は答えた。


 だけど、龍二さんはもっとにやって笑って、

「大金麗子が兄貴にくっつこうとしたら、あんたが阻止してくれたらそれでいいし、俺も大金麗子が兄貴にくっつこうとしたら、阻止するから」

と言い出した。

「え?」

 それはいいかも。


 っていけない。話にうまく乗りそうになった。でも、

「ふん。分かりやすい女だな。今、いいアイデアだって喜んだろ?」

と言われてしまった。


 うわあ。見抜かれてる。


「いいな?兄貴には言うなよ。言ったら、俺を出しぬいて、大金麗子に近づこうとするだろうし、内緒にしておけ。まあ、あんたの話なんか、兄貴が聞こうとするわけないと思うけどな」

「……」

「じゃあ、お前」

 龍二さんは、亜美ちゃんのことを指差して、

「あと5分後に兄貴に、応接間に行くように言えよ」

と、そう命令した。


「え?なんで5分後?」

「それまで、俺が大金麗子を口説いているから」

「……」

「じゃあな。指示通りにしろよ」

 龍二さんは、最後には亜美ちゃんを脅すようにそう言って、階段を下りて行った。


「と、とんでもないことになった」

 私がそう言うと、亜美ちゃんは、

「え?でも、好都合じゃないですか?龍二様が大金麗子に熱をあげててくれるのは」

と、ひそひそと私に言いながら、私たちは早足で一臣様の部屋まで行った。


「5分後って言ってましたよね。ここで時計見て、待っていたらいいんですかね?」

「私が一臣様にちゃんと話します」

「え?でも、内緒にしておけって」

「大丈夫です。一臣様なら、ちゃんとうまくしてくれますから」


 私はそう言って、一臣様の部屋のドアをノックした。でも、し~んと静まり返っていて、返事がなかった。

「あれ?」

「シャワーでも浴びているんでしょうかね?」

 亜美ちゃんがそう言って、ドアに耳をくっつけた。


「し~~んとしてます。寝ちゃってるんですかね?」

 そう言ってから、もう一回、亜美ちゃんがノックをした。

「一臣様。申し訳ないのですが、お話がありまして」

 亜美ちゃんが大声でそう言うと、中から歩く音が聞こえてきて、

「なんだ?急用か?」

という一臣様の声が聞こえた。


「はい。ちょっと、龍二様のことで」

 そう亜美ちゃんが言うと、バタンと勢いよくドアが開いた。そして一臣様は、亜美ちゃんの隣にいる私も見て、

「なんだよ。お前、なんでさっさと自分の部屋に戻らないんだよ」

と、片眉をあげて怒りながら私に言った。


 あ。まさか、エレベーターでのことをまだ、怒ってる?

 そうかも。


「お話があります。今、大金麗子様に、一臣様を応接間に呼ぶようにとそう言われたのですが」

「…俺を?応接間に?」

 亜美ちゃんにそう言われ、一臣様は眉間にしわを寄せて聞き返した。


「はい。でも、龍二様がその会話を聞いていて、俺が行くからと言って、応接間に行ってしまったんです。一臣様には、5分後に伝えろってそう言って」

「5分たったのか?」

「いえ。まだ2分くらいしか」


「5分と言わず、10分したら行くよ。いや、30分後でもいいか」

 一臣様はそう言って、ドアを閉めようとした。

「い、いえ。それでは、わたくしがちゃんと伝えなかったと、大金様からお叱りを受けてしまうのですが」

「面倒くさいなあ~~~。龍二が行ったんだから、それでいいじゃないかよ」


 うわあ。思いっきり機嫌が悪い。これ、私のせいかな。私がキスを拒んだからかも…。


「で、でも、でもですね」

 亜美ちゃんが困っている。

「一臣様、5分後でいいので、応接間に行ってもらえますか?亜美ちゃんがお叱りを受けるのは私も嫌です」

「………」


 一臣様はまた、片眉をあげて私を見た。

「それと、龍二さんが私に、手を組まないかと言ってきて」

「手?」

「はい」


「お前、龍二となんか話したのか?」

「はい」

「それで、部屋に来るのが遅かったのか?」

「はあ…」


「俺の部屋に入れ。中で話を聞く。ああ、立川。心配しないでも、ちゃんと俺がお前から伝言は聞いたと言ってやるから、安心しろ」

 そう一臣様は言うと、私を一臣様の部屋に入れた。


 バタン。ドアを閉め、私の腕を掴み、ずんずんと部屋の奥へと入って行って、ドスンとベッドに私を座らせた。

「さて。いったい、龍二とどんな手を組んだのか、聞かせてもらおうか?」

 一臣様は仁王立ちをして、私に聞いてきた。


 う。ちょっと、いや、かなり怖いかも。相当怒っているよね?これ…。




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