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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第5章 急接近の2人?
68/195

~その15~ 一臣様のジェラシー

 2時半、私はエクセルで表を作り終えた。

「一臣様、一度秘書課に戻りますね」

「え?なぜだ?」

「仕事終わったので、細川女史に報告をしてきます」


「今日中の仕事だろ?もう終わったのか?」

「はい」

「お前、仕事早いよな…」

「そうですか?」


 私は一臣様を残し、14階へと急いだ。そして、細川女史に、

「頼まれていた仕事が終わりました」

と、ファイルを返した。


「え?もう?」

「はい」

「全部?」

「はい」


 なんで、細川女史驚いたのかなあ。

「そう。じゃあ、これもお願いしてもいいかしら。上条さん、パソコン得意なようだし」

「はい。なんでも言ってください!」

「……くす」


 あれれ?なんで笑われたのかなあ。

「臼井課長が、ぼやいていたのよ」

「え?臼井課長が?」

「上条さんが懐かしい。上条さんがいた時は、庶務課にお日様が当たったように明るかったよなあって」


「え?でも今、大塚さんもいるし、新しい男の人も入ったんですよね?」

「その子がね、大塚さんにいびられて委縮しちゃって、今の庶務課は暗くてじめじめしているらしいわよ。たまに顔出してあげて。臼井課長大喜びするから」

「はい。わかりました。大塚さんにも遊びに来るように言われているから、今度行ってきます」


「大塚さんに?遊びに来るように?それって、何か裏でもあるの?」

「は?」

 細川女史が声を潜めて聞いてきたが、私がきょとんとすると、

「あ、なんでもないの」

と、細川女史は作り笑いをした。


「あ。私、大塚さんとは仲良くなったって言うか」

「は?」

「えっと。なんか、大塚さんってはっきりしてて面白くて」

「はあ?」


 あれれ。思い切り、びっくりしているなあ。目を丸くしたまま、細川女史動かなくなっちゃった。


「あの。この仕事も15階でしてきていいんでしょうか?」

 私がそう言うと、細川女史が我に返ったように、

「え?ああ。はい。15階でしてきていいわよ」

とそう言った。


 私はいそいそとまた、秘書課を出ようとしたが、秘書の人に引き留められてしまった。

「上条さん、大塚さんと仲いいの?」

 この人って、大塚派の人だよなあ。


「はい」

 私は早く15階に行きたくて、言葉少なに答えた。

「え?本当?大塚さんと仲良くなったの?いつ?」


「いつって言われても。あ、金曜日あたりから」

「そうか。三田さんにいじめられて、大塚さん、あなたの味方になったんだ。な~~んだ」

 な~~んだ?


「じゃあ、もうあなたのこと、私たちもいびらなくてもいいのね」

「は?」

「仲良くしましょうね?」

「はあ」


 私は、呆気にとられながら部屋を出た。あ、もしかして、ボスである大塚さんがいびっていたら、一緒にいびり、仲良くなったら、仲良くなるんだろうか。そんな感じなのかなあ?でも、自分の意思はどこにあるんだろう。それも変な話だよなあ。


 ま、いっか。

 私はさっさと、15階へと向かった。


 でも、15階のエレベーターを降りたところで、ばったりエロ専務に会ってしまった。

「あ、上条さん」

「こ、こんにちは」


「………」

 エロ…じゃなくて、目黒専務の顔が、なんだかかたまっている。もしかして、青山さんにすでに何か言われちゃったんだろうか。


「君さあ、早くに一臣氏のフィアンセだってことを、みんなに知らせた方がいいよ」

「え?どうしてですか?」

「だって、僕みたいに知らないで君に手を出そうとして、あとから一臣氏に文句を言われるなんて、そんな理不尽な話ってあるかい?」


「は?」

「特に君みたいな子は、秘書課では珍しいうぶな子だから…。いや。とにかく、早めにせめて役員たちには紹介するべきだと、僕は思うけどな」

 そう言うと、目黒専務はエレベーターに乗り込んだ。


 うぶ?って何?

 疑問に思いながら、私は一臣様のオフィスに入った。樋口さんはどこかに出かけているようだった。


 トントン。

「一臣様」

「弥生か。入れ」

 嘘。名前呼んだだけで、私だってわかっちゃった?なんて、喜んじゃったりして。


 一臣様の部屋に入ると、一臣様は書類の山に埋もれていた。

 うっわ~~~~。これ、全部目を通すの?そりゃ、1日缶づめになるよね。


「すごいですね。書類の山」

「ああ。でも、パソコンでデータを送られるよりはいい。パソコンを見ている方が疲れるからな」

 なるほど。


「お前も目を通しておけよ」

「え?!これをですか?」

「ああ。別に今すぐにじゃなくてもいいけどな。これ、全部、今度のプロジェクト関係の資料だからな」

 うそ…。


「これだけ、集まったんだよ。いろんな子会社や工場から情報が」

 あ。そうか!

「細川女史に頼まれた仕事を終えたら、見てもいいですか?」

 ワクワクしながらそう言うと、

「お前、目が輝いたな。この書類を見るのがそんなに嬉しいのか」

と一臣様が呆れた顔で聞いてきた。


「はい。だって、この中から、優秀な技術者や、優れたアイデアや、いろんなものが発見できるかもしれないんですよね?」

「ああ」


「宝が埋もれているかもしれないってことですよね?この中に」

「ああ」

「宝さがしみたいで、楽しいじゃないですか。いいえ。絶対に絶対に、いっぱいの宝、見つけましょうね!一臣様!」


「………」

 あれ?無言?変なこと言ったかなあ。私…。


「こういうところに、惚れたんだよなあ」

 ぽつりとそう言うと一臣様は、私のことをまたグイッと引き寄せてキスをしてきた。

 うわ!いきなり過ぎると心の準備ができていなくって、心臓が一回停止しそうになる。


「じゃあ、やるか」

「え?」

 何を?一臣様の顔も一気に明るくなったんだけど。何をするの?


「お前はさっさと細川女史から頼まれた仕事を片づけろ。俺もとっととこの書類に目を通す」

 あ。仕事か。びっくりした~。


「はい。さっさと終わらせます」

 私はすぐにデスクに行って、パソコンを開いた。そして、1時間もしないうちに終わらせて、一臣様の横に積んである書類を、私もソファに座って見始めた。


「早いなあ。もう終わったのか?」

「はい。一応細川女史にメールで終わったと報告しました。頼まれていたものも、メールに添付して送ったので、細川女史も、そのまま15階で一臣様の仕事の手伝いをしてくださいって、返事をくれました」


「……。お前って、本当にそつがないな」

「は?」

「前から思っていたんだ。何かトラブルが起きても、まったく慌てないし、何を今したらいいか、最善のことを選択してとっとと動くだろ?」


「そうでしたか?」

「ああ。まあ、庶務課にいた頃の、脚立持って蛍光灯の交換をしたり、トイレのつまりを直したりっていうのには、驚かされたが、あれも行動が早かったし、てきぱきしていたもんなあ」


 怒ったくせに。ものすっごく。

「大学時代に、いろんなところでアルバイトしていたからかもしれません」

「いろんなところって?」


「コンビニ、パン屋、ラーメン屋、スーパーのレジ、あとは…、あ、牛丼屋」

「そうか。それはすごいな。でも、4年の間にそんなに転々としていたのか?それってまさか、クビになっていたのか?」


「いいえ。何個も同時に掛け持ちしていたので」

「掛け持ち?!」

「はい」

「…でも、勉強もしていたんだろ?」


「はい。試験前は、ほとんど寝る時間がなかったです。2時間くらい?」

「お前、よくそれで、ぶっ倒れなかったな」

「そうなんですよね。体力だけはやたらあって。よくみんなに、元気だけが取り柄だねって言われてました」


「すごいなあ。お前のこれまでの人生、半端ないほどの苦労人だな」

「え?そうですか?結構楽しく生きてきましたけど」

「そうなのか?」

「はい。働くの好きなんです」


「ははは。お前って本当に、前向きだよなあ」

「そ、そうですか?」

「俺のこと以外はな?なんだって、俺のことになると後ろ向きになるんだろうな?」

「で、ですよね。私もそう思います」


「……くす」

 あれ?一臣様、笑った?

 ドキン。その笑い方も好きだなあ。


「じゃあ、そのバイタリティで、この書類もぱっと目を通せ」

「はいっ」

 グ~~~。


「あ!」

「ははは。まだ、早いぞ。お腹が鳴るには。昼が少なかったか?」

「いえ。そういうわけでは。でも、食欲が元に戻ったみたいで」

「ああ。しばらく食べられなかったんだっけ?」

「はい」


「でもなあ。あんまり食うとお前、パーティでドレス着れなくなるぞ」

「……それも、困ります」

「でも、お腹が空いてたら、仕事にならないか」

 そう言うと、一臣様はソファから立ち上がり、

「うまいクッキーがあるんだ。この前、樋口が紅茶と一緒に買ってきた」

と、チェストの引き出しを開けた。


「わあ!なんだか、高級そうなお菓子ですね!」

「あはは。目、輝きすぎだろ。お前、わかりやすいよなあ」

 また、笑われた。


「樋口がお前のために、アッサムの茶葉も買って来ていたぞ」

「え?本当に?じゃあ、それ、今飲んでもいいですか?」

「ああ。そうだな。俺も一緒に飲もうかな」

「はい。一臣様の分も淹れますね!」


 わあい。なんだか、とっても嬉しい。樋口さんにもあとでお礼を言っておこう。

 

 紅茶を淹れていると、一臣様の視線を感じた。一臣様のほうを見ると、優しい目で私を見ていた。

 ドキン。時々ある。すっごく優しい目で見ている時が。


「やばいなあ」

「え?」

「どうも最近、目の調子が悪いんだ」

「細かい字を見ているからですか?大丈夫ですか?目薬とかさしますか?」


 私が心配してそう言うと、

「ああ。なんか、いい目薬はあるか?みょうちくりんな生き物が、可愛く見えるのを治す目薬」

とそう言われた。


 え。何それ…。みょうちくりんな生き物って私だよね。

「そんな目薬はないです!」

「そうか。じゃあ、一生このままか。でもなあ」


 何が言いたいのかな。何が…。

「仕事に集中しようとしても、お前のこと目で追っちゃうし。どうにかならないかなあ」

 は?!


 目で、追う?

 私のことを?


「あ!そういえば、一臣様。質問です」

「唐突だな。話の途中なんだがな」

「うぶってなんですか?」

「だから、俺の話の途中なんだがな」


「うぶって言われたんですけど」

「……」

 あ。片眉あがった。

「誰にだ?」


「エロ…じゃなくて、目黒専務に」

「エロ専務に会ったのか?」

「あ、さっき、15階のエレベーターホールで」


「それでお前のことをうぶだって言ったのか?」

「えっと。確か、私は秘書課では珍しいうぶだから、僕みたいに手を出そうとしたあとに、一臣氏のフィアンセだって知るなんて、そんなの理不尽だろとかなんとか…って」


「……」

 あ。怒りマックス。

「それで?」

「えっと。それで、早めに役員たちだけでも、ちゃんと紹介した方がいいって」


「そうだな。いいことを忠告してもらったな。俺の誕生日パーティの翌日、ちょうど役員会議があるから、その時に紹介することにしよう」

 一臣様は眉間にしわを寄せたまま、そう言った。


「……それで、うぶってなんですか?」

 私はまた聞いてみた。

「うぶっていうのは、だから、そういうことを聞くお前のことだ」


「は?」

「あのエロ専務。うぶだから手を出そうとしたのか?とんでもないおっさんじゃないか!」

 あ。怒りマックスをさらに超えたかも。


「それに、他の役員たちも手を出すかもしれないって、そういう忠告だろ?エロ爺ばかり集まっているのかよ」

「………」

「もう絶対に、お前一人で15階をうろちょろするな。わかったな!」


「は、はい」

「まったく。爺だけだからって、安心していた俺がバカだった。屋敷にいる龍二だけじゃないじゃないか。注意しなくちゃいけないやつは」


「………」

 で、うぶってなんだったんだろう。 

 そう思いつつ、一臣様のところに紅茶を持って行った。


 それから、私も一臣様の真ん前の長いソファに座り、クッキーをわくわくしながらつまもうとすると、一臣様がなぜか私のすぐ隣に座ってきた。


「?」

 ギュウ!

 うわ。ドッキ―ン!

 また抱きしめてきた~~~。クッキー食べれない。


「絶対に、他の奴に手、出されるなよ」

「はい?」

「お前は俺のフィアンセなんだからな」

「はい」


「俺以外の男に、触れさせるなよ」

 ドキン。

「は、はい」

 ギュウ~~。抱きしめられる腕の中で、また胸が高鳴った。


 もしかして、もしかすると、一臣様はやきもちやき?あれ?でも、恋愛に淡泊で、嫉妬もしないって言っていたのにな。


 でも、やきもちを妬いてくれるのはとっても嬉しかった。



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