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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第5章 急接近の2人?
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~その14~ オフィスラブ?!

 料理が運ばれてきて、一臣様は、私の前に置かれたお皿から、ぱくっとゴーヤチャンプルーを一口食べた。

 あ。あれ、したかったな。

「一臣様、あ~ん」

っていうやつ。でも、そんなのさすがに嫌がるかな。


「苦い」

「え?」

「でも、うまいな」

「はい」


 一臣様は、自分の注文した沖縄そばを食べだした。そのあと運ばれてきた角煮も、2人で小皿に分けて食べた。

 なんか、いいな。こういうのって。一つのお料理を、小皿に分けて食べるの。なんだか、ここの空間、長年付き合っている恋人っぽくない?

 なんちゃって。


 あ。これも、あれかな。恋愛初級編あたりかな。ちょっとレベルアップした感じかな。どうなんだろう。なにしろ、世のカップルがどんなもんなのかわからないから、比べようがない。


「うまいな。豚の角煮。初めて食ったけど」

「え?初めてですか?夕飯に出て来たりしないんですか?」

「ああ」

「じゃあ、今度コック長に頼みましょう。あ、私が作ってもいいですし」


「弥生が?作れるのか?」

 一臣様が目を丸くした。

「え?はい。よく大家さんと作りました。みんなに評判良かったんですよ。美味しいって」

「…みんな?」


「下宿先にいたみんなです」

「ああ。アニメオタクとアイドルオタクと、物理学オタクか」

「……」

 そうだけど、そんな言い方はしないでも。


「そいつら、いつもお前の作った料理を食っていたのか?」

「え?たまにですけど」

「………お前の手料理を、簡単に食っていたのか?」

「は?」

 簡単って?


「なんか、頭に来るな」

 え?!な、なんで?って、まさかヤキモチ?


 食事が終わり、一臣様は席を立った。そして、伝票を持ってさっさと会計に行き、ブラックカードを出した。レジの前にいた邦ちゃんが、一瞬たじろいでいるのがわかった。

 そうだよね。わかるよ、邦ちゃん。ブラックカード、そうそう見ないもん。だいたい、こんなお店で出しちゃうカードじゃない気もする。

「弥生。連絡先を聞くんだろ?」

「そうだった。邦ちゃん、メアド聞いてもいい?」

「うん。いいよ」

 邦ちゃんはレジの横にあったメモ帳に、さらさらとメールアドレスを書いてくれて、渡してくれた。


「ありがとう」

「うん。また来てね、弥生ちゃん。ぜひ彼氏と一緒に」

 そう元気に邦ちゃんは言うと、

「ありがとうございました」

ともっと元気な声で、ぺこりとお辞儀をした。


「彼氏だって」

「え?一臣様の彼女ってこと?」

「うっそ~。まさか」

 会計を待っていたOLたちが、後ろでそう騒いでいるのが聞こえてきた。


「でも、一臣様、フィアンセいるんじゃないの?」

「ああ。政略結婚でしょ?本人は嫌がってるらしいよ」

という声までしっかりと聞こえてきた。


「なんだか、社内全体に広がっているようだな。あの噂は」

 一臣様がぼそっとそう言った。

「…そうみたいですね」

「まあ。仕方ないか。俺が巻いた種なんだから、自分で刈り取らないとな」


「え?」

「あれだけ派手に、女と付き合っていたわけだし。それも堂々と社員の前でも見せていたしな。そりゃ、フィアンセがいるのに他の女と付き合っているって、あれこれ噂にもなるよな。それに、堂々と親の決めたフィアンセとなんか、絶対に結婚しないと、いろんなところで言っちまっていたしなあ」


 うわあ。そうなんだ。さっくりと傷ついた。


「ガキだったよな。ついこの前まで、そんな子供じみたことしていたんだよな」

 一臣様はそう言うと、溜息をついた。

「親父が俺のことを心配するのも無理ないよな」

「え?」


「龍二と同じくらい、心配してた。まあ、親父だって人のこと言えないが、結婚した頃はそれでも、女遊びなんかしていなかったみたいだし」

「そうだったんですか?」


「忙しかったみたいだしなあ…」

 ぽつりとそう言って、それから一臣様は私のほうを見て、

「手、繋ぐのもいいな」

と私の手を取って歩き出した。

 

 うわあ。嬉しい。

 横断歩道を渡って、緒方商事のビルに入った。ちょうど、お昼を食べに出ていた社員が、一階のロビーにはたくさんいて、思い切り目立ってしまった。


「一臣様が女と手を繋いで歩いてる!」

「誰?」

「なんで?」

「今までと違うタイプじゃない?」


 丸聞こえですけど。


「タイプ替えたの?」

「秘書課の子じゃないの?」

「手、繋いでいるのなんて初めて見た」

 

 エレベーターホールで待っていると、そんな声がすぐ後ろから聞こえてきた。

 丸聞こえもいいところですけど。


「あ。嘘。上条さんだ」

 名前までしっかりと聞こえてきたよ?

「あれ?嘘。手、繋いでるの?うわあ!」


 この声、聞き覚えが。と思い振り返ると、大塚さんだった。

「あ!大塚さん。なんか、懐かしい気が…」

 そう言うと、一臣様も大塚さんのほうを見た。


「ちょ、ちょっと。こんなに堂々と付き合っちゃってるんですか?みんなが見ている前で」

「……ああ」

 一臣様は片眉をあげてそう大塚さんに答えた。


「まあ、今までも、一臣様、堂々としていましたけど。でも、社内で手を繋いているのは、どうかと…」

 だよね。だよね?私は慌てて手を振り払った。すると、

「あ。手、振り払ったな」

と、一臣様に言われてしまった。


 へそ曲げた?もしかして…。


「上条さん、庶務課にも遊びに来てね。暇で暇で。あ、そうそう。三田さん、クビになったんでしょ?良かったわね。あれ以上いたら、もっと陰険なことしてきてたわよ」

 大塚さんは声を潜めてそう言うと、「またね」と言って、総務部のほうに駆けて行った。


「お前、本当に大塚と仲いいんだな」

 その様子を見ていた一臣様がぽつりと言った。そして、私の背中に手を回してきて、ちょうど来たエレベーターに乗り込んだ。

 

 そのエレベーターは、役員専用じゃないから、他の社員も何人も乗っている。なのに、腰に手を回しちゃうんだ。あれ?そういえば、思い出したぞ。前に、青山ゆかりさんとも、べったりくっついて歩いていたし、上野さんとも腕組んで歩いていなかったっけ?


 あれれ?でも、女とベタベタするのは苦手だって言っていたよね?あれって、嘘?


 うわ。いきなり気になりだしちゃった。本当はどうなの?もしかして、本当はこんなふうにいつも、付き合っている女性とはベタベタしていたんじゃないの?


 でも、そんなこと聞いたらまた怒るかも。

 だけど、気になる。


 14階に着いた頃には、誰もエレベーターにいなくなった。それから一臣様はカードキーを差して、エレベーターは15階にのぼっていった。

 まだ、一臣様は私の腰に手を回している。


「あの」

「なんだ?」

「この手、ドキドキしちゃうんですけど」

「ん?ああ。腰に回した手か?」

「はい」


 そう言っているのに、離してくれない。そのまま15階に着き、エレベーターを降りて、廊下を歩いても腰に手を回したままだ。


「あの。前に青山さんと一臣様が、ビルから出てきたところを見たことがあるんです」

「青山ゆかりと?」

「はい。一臣様、べったりとくっついてて、腰に手を回していたような気がするんですけど」

「ああ。エスコートしていたかもな。青山ゆかりはそういうことにうるさいから」

「エスコート?」


「男は、レディをちゃんとエスコートできるようになると一人前だと、さんざん言われて、いろいろと俺にも説教して来たからな。車に乗る時にはドアを開けろだの、歩く時には優しく背中に手を回せだの」

「それで、私の腰にもずっと?」


「これか?いいや。これはただ、触っていたいからだ」

 ……。単なるスケベ心?

「それと、アピールだな。こいつは俺の女だぞ、みたいな?」

 は?誰に?


「付き合っているってのも、一目瞭然だろ?」

「…え?でも、スキャンダルになることを避けているって」

「アホか!自分の婚約者と仲良くして、誰がスキャンダルにするんだよ。ああ、婚約者と仲良くて、いいですね~~と、ただただ、微笑ましいだけって話だろが」


「そ、そうか」

「自分が婚約者だって自覚、足りてないんじゃないのか?」

「は、はい。そうかも…。ごめんなさい」


 一臣様のオフィスに入った。もう樋口さんがデスクにいた。

「樋口、昼は?」

「はい。もう済ませました」

「そうか。あんまり、根を詰め過ぎるなよ。最近、働きすぎだろ?昼休憩くらいゆっくりとれよ」


「大丈夫ですよ。ゆっくりとできましたから」

「そうか?」

 一臣様は少し心配そうに樋口さんを見て、それから私を引きつれ部屋に入った。


「樋口さん、そんなに忙しいんですか?」

「ああ。でもあいつ、全くそういうこと言わないし。いきなりぶっ倒れなきゃいいんだけどな」

「え?」

「体調管理してくれるような、家族もいるわけじゃないし。寮では喜多見さんやコック長が樋口のことも、見ていてはくれてるんだが、もっと休めと言っても、樋口は働いちゃうんだよなあ」


「そうなんですか。心配ですね」

「お前も、気にかけておいてくれるか?俺より、お前の言うことの方が聞きそうだし」

「え?はい。わかりました」

 そう言うと、一臣様はにこりと笑って、ソファにドスンと座った。


「食後にコーヒー飲みますか?」

「いや。日本茶がいい。しっぶ~~いやつな」

「はい」


 私は日本茶を淹れた。一臣様は、ソファでゆったりとしている。でも、じいっと私を見ているのがわかる。

「あの?」

「お前ってあれだよな」

「はい?」


「気が利くよな。なんか飲みたいなっていうタイミングでいつも、聞いてくる」

「え?そうですか?」

 それは嬉しいかも。


「あ。それともあれかな。もう、ツーカーの仲になっているのか」

「え?」

 それも、嬉しいかも!


「なんてな」

 あれ?なんでそこで、「なんてな」なわけ?喜んでいたのに。


 日本茶を淹れて、テーブルに置いた。一臣様はそれを一口飲んで、また背もたれにもたれた。

 のんびりタイムかな?

「弥生」

「はい?」


 なんか、こっちに来いと、無言で手招きされた。なんだろう。お茶が口にあわなかったとか?

 一臣様の座っているソファの近くに行くと、いきなり腰をグイッと引き寄せられ、一臣様は自分の膝の上に私を座らせた。


 どっひゃあ!!何、これ…。

 これは、これこそ、セクハラ。


 い、いや。フィアンセなんだし、いちゃいちゃ?


 い、いや。オフィスでこれはないよね。やっぱり、セクハラ。


「いいな。こういうの…」

 一臣様がそう言った。そして私の頭に頬ずりをした。

 うわわ。腕は私のお腹に回してきて、しっかりと後ろから抱きしめられてしまった。


「弥生は、肉がそれなりについているから、膝の上に乗せても痛くないな」

 え?それ、誰かと比べて言ってるの?その誰かって言うのは、スレンダーな人だった?もしや。


「太ってるって言いたいんですか?」

「いいや。このくらいがちょうどいいって言ってるんだ。今まで、けっこう痩せているタイプとばかり付き合っていたから、このくらいの肉付きが、抱き心地いいんだって初めて知ったぞ」


 う、う~~~~ん。微妙に喜べない。


「これ、恋愛初級編ですか?」

「ん?」

「こんなこと、付き合ってすぐの人ってしますか?しないですよね?」

 もっと、初々しい感じで付き合っているよね?


「何言ってるんだ。初級も初級。入門編くらいだぞ」

「え?これで?!」

「当たり前だろ。なんだよ。もっといろいろとしてほしいのか?これじゃ物足りないか?」


「違います。その逆です。膝の上に座ったりして、さっきから心臓バクバクだし、一臣様、私の後頭部に頬ずりしてくるし、そのたびにドキンドキンしちゃうし」

「ははは。なんだよ。そのくらいでドキドキしてたら、この先のステップ踏めないだろ?」


 この先のステップ?

「中級者レベルだと、そうだな。こういうこともあったりするかな」

 そう言うと、一臣様は手をするっと私の太ももに滑らせ、スカートの中に入れようとした。

「うぎゃあ!駄目です!!!!」


 私は慌てて、一臣様の手を掴んだ。一臣様はその手をもう片方の手でどけると、また、両腕を私のお腹に回してきて、後ろからギュッと抱きしめた。

「な?このくらいはまだ、入門編くらいだろ?」

 そう言ってまた、私の頭に頬ずりをする。


「可愛いよなあ。お前って」

 うわあ。また言われた~~!!!

 ドキドキドキドキドキ。心臓が大変なことになりだした。


「そろそろ仕事しませんか?」

「まだだ」

「でも。そろそろ、離してくれませんか?」

「嫌だ」


 ああ。また、駄々コネてる。

「でも、私の心臓が持ちそうもありません」

「慣れるんだろ?努力するって言ってたろ?」


「でも!オフィスでこんなことをするなんて、言ってません!」

「いいだろ?オフィスラブしていますって感じで。こういうのもなんだか、そそられるだろ?」

 それ、絶対に理解できないから!


 やっぱり、これはセクハラのような気もする。

 でも、胸の鼓動は、喜んでいるってことかな。


「ああ、このまま仕事もできるな。片手で書類見たらいいのか」

 そう言うと、一臣様は、テーブルに置いてあった書類を手にした。

「いえ。私が仕事できません」


「いいだろ?」

「駄目です!今日中って言われた仕事なんです!」

「……なんだよ。人がせっかく、恋人気分を味わっていたのに」

 え?恋人?


「まあ。いいか。屋敷に帰ってからでも、十分いちゃつけるしな」

 そう言ってようやく離してくれた。


 ドキドキ。ああ、まだ心臓が…。これで、仕事できるかな。

 クルッと一臣様のほうを見てみた。すると、すでに書類を真剣に読みだしていて、私の方は見ていなかった。


 切り替え、早い。早過ぎでしょ。こっちはまだ、胸がバクバクしているのに。

 ずるいなあ。もう~~。


「なんだ?」

 あ。見てるのばれた。

「あ、キスでもしてほしかったのか?いいぞ。濃厚なのでも、大人のキスでもしてやるぞ?」

「そんなこと、思っていません!仕事に戻ります!」

 私は、慌ててデスクに戻って、パソコンを開いた。


 …でも、大人のキスっていうのが気になって、しばらく手が止まった。

 大人のキス?大人の?キスに子供も大人もないんじゃないの?

 わからない。そんな話は高校の時にも、先輩も誰もしていなかったし。


 しばらく、悩みこんだが、結局わからないまま、仕事を再開した。まさか、一臣様にも聞けないしな。ここで聞いちゃったら、「じゃあ今すぐ実践しよう」なんて、とんでもないこと言い出しそうだし。


 でも、気になるなあ…。大人のキスって、どんなかなあ…。



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