表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第5章 急接近の2人?
64/195

~その11~ 恋愛初心者

 一臣様はコーヒーを飲み終えると、静かに席を立ち、

「龍二、今日はどうするんだ?」

と聞いた。


「すぐアメリカに帰ることになるから、その間にこっちにいる女たちに会っておこうと思って。今日は六本木に行ってくる」

「……ああ、そう」

「兄貴のさあ、もと女だよ。覚えてる?ジャズ歌手の」


「へえ。お前まだあいつと、付き合っているんだ」

「…兄貴は、今、自粛してるんだって?昨日の女からその話を聞いて、笑っちまった。スキャンダルなことを避けるために、おとなしくしてるって。どこの男が今さら、スキャンダルになること怖がってるんだよって、笑えたよな」


「昨日?誰と会っていたんだ」

「キャビンアテンダントの、ヨーコさん」

「……誰だ?それは」

「つい最近まで会っていたんだろ?もう忘れたのか?まさかだろ?」

 つい、最近まで会ってた?ああ、耳がダンボになる…。


「……。ああ、船堀さんか」

「兄貴はなんだっていつも、苗字しか覚えないんだ?」

「名前はみんな似たり寄ったりで、覚えにくいんだよ」

「へえ。じゃあ、大金は相当入れ込んでる?フルネームで覚えたってことは」


「……そうだな。そうかもな」

 ギクギク。

「でも、あの人のことは名前で呼んでたじゃん」

「誰だ?」


「ユリカさん」

「ユリカは…。苗字を知らない。それだけだ」

「へえ。じゃあもう、思い入れはないんだな?」


「ああ。ない」

「俺、アメリカで会ったよ」

「ユリカに?元気だったか?」


「ああ。そのうち、日本に戻るって言ってたけど。もう戻ってる頃かもね」

「日本に?なんでだ?あっちに永住するんじゃないのか?結婚もしたんだろ?」

「離婚したみたい」

「え?」


「あ。顔色変わった。ははは!兄貴、どうすんの?大金麗子と結婚して、ユリカは愛人にする?」

 ユリカさん?

 誰?アメリカ?あ、高校の頃、付き合っていたっていうモデルさんのこと?


「くだらない」

 一臣様はそれだけ言うと、とっととダイニングを出て行った。私も、

「ごちそうさまでした」

と言って、すぐさま席を立って、ダイニングを出ようとした。


「あんたさ」

 ギクリ。私のことだよね。話しかけられちゃった。

「自分のことどう思ってるかわかんないけど、兄貴には絶対に好かれないよ」

「な、なぜですか?」


 いけない。無視したらよかった。つい聞いてしまった。

「だって、兄貴、あんたみたいな女、大っ嫌いだし」

 グサ。

「あ~~あ。上条グループの令嬢がこんなだとはね。俺もがっかりだ。ま、いっか。兄貴は大金麗子が気に入ってるみたいだし、俺もあの女は気に入ったし」


 ゾク。今、すごく怖い顔をこの人したよね。

「まあ、写真見ただけだけどね。でも、今日屋敷に来るんだよな?楽しみだな。あんたもせいぜい、頑張れば?」

 そう言って、龍二さんは笑いながら、ダイニングを出て行った。


 ガクガク。いろんな人と会って来たけど、この人、本当にちょっと怖い。私の足がすくむことって、そうそうないんだけど。


「弥生様。大丈夫ですか?」

 亜美ちゃんが小声でそう聞いてきた。

「大丈夫」

「一臣様の言葉は全部、演技です。本気にしちゃ駄目ですよ」


「はい」

「……ちょっとの辛抱です。私も途中で龍二様には切れそうになりましたけど、お互い頑張りましょう」

 そう言ってきたのはトモちゃんだ。

「はい」


 そうだった。私にはたくさんの味方がいた。

 よし。くじけないぞ!


 そう思いながら、自分の部屋に戻った。すると、もう一臣様が私の部屋にいた。

「遅い」

「ごめんなさい」


 いきなり怒られた。あれ?こういうパターンって、よくあるかも。

 会社で初めて会った時にも、会議室で「遅い」と怒られたっけ。あの頃から怒られ続けているなあ。でもなんだか、もう懐かしいな、あの頃が。


「まさか、龍二に何か言われたか?」

「はい」

「なんて言われたんだ」

「兄貴、あんたみたいな女、大っ嫌いだから、絶対に好かれないよ…って」


「………」

 あ。一臣様、怒ってる?眉間に思い切りしわが寄った。

「そうか。まあ、そう思っていてくれた方が、ありがたいんだけどな」


「それと、最後の捨て台詞は、まあ、あんたもせいぜい頑張れば?でした」

 私はちょっと言い方を真似てそう言った。

「そんなことまで言ってたか?」

「はい」


「……そうか。もう、弥生は眼中にないってことだよな」

「…ですよね」

「でもまだ、油断はならないよな。これからも、気を付けないとな」

「……あの」


「なんだ」

「さっきの…」

「ん?」

 一臣様は私のほうに来て、突然腰に腕を回してきた。


 うわわわ。そういうの、胸がバクバクしちゃうんだってば。

「また、変な質問か?変な質問は受け付けないぞ」

「いえ。えっと…」

 ドキドキ。ドキドキ。何を聞きたいんだっけ?


 そうだった。さっき、龍二さんに一臣様が言っていた言葉が、妙にリアルで、気になったんだった。それから、ユリカさんのことも。

「龍二が言っていたことを気にしているのか?だったら、気にすることないぞ。あいつには、弥生の良さなんかわからないんだ」

「え?」


「ブスだの、スタイル悪いだの言っていただろ?」

「それ、よく一臣様も言ってます」

「俺が?!いつ?」

「いつも。昨日もブス顔だって、さんざん…」


 そう言うと、一臣様は私に思い切り顔を近づけ、

「違うぞ。泣いて腫れまくった目をしてても、可愛いって言ったんだ」

とそう優しく言った。


 ドキ―――ッ!

 

 うわわ。さっきの、冷たい視線を向けた一臣様と同じ人とは思えない。っていうか、こっちのほうが、偽物みたい。いつもの一臣様じゃないっ!


 チュ。

 うわ!

 おでこにキスしてきた。


「お前のおでこ、でこっぱちだから、デコピンしやすいと思っていたけど、キスもしやすいな」

 なんちゅうことを、言って来るの?デコピン痛くて嫌だったけど、キスはキスでドキドキもので…。

 とか思いつつも、喜んでいるかも…。私。


 か~~~っと顔を火照らせていると、一臣様はまた顔を近づけてきた。

 え?今度はどこ?と、ちょっと顔をあげて一臣様の顔を見ると、

「目、閉じろ」

と言われてしまった。


 うわ!ってことは、まさか、唇?

 ドキドキドキ!


 ふわ。

 唇だ。優しく唇に一臣様がキスをしてきた。

 うわ~~~~~~~。

 ふわふわした気持ちになる。なんだか、雲の上にでも乗っかっているみたいな…。


 ほわ~~~~~~~ん。

 一臣様が唇を離し、私はうっとりとしながら、目を開けた。


「……」

 一臣様がじいっと私を優しい目で見ている。うわあ。優しい目だ。うっとりだ。


「キスにはもう、慣れたのか?」

「……え?」

 パチンとシャボン玉がはじけるように、うっとりした気持ちが消えた。


「昨日は暴れまくって抵抗したのに」

 うわ。そうだった。あれ?なんで今は平気だったんだ?っていうか、私、うっとりしてた?!


 きゃ~~~~~~。なんか、思い切り恥ずかしい。きっと、うっとりした目をして一臣様を見ていたのも、ばれたよね?!


「そうか。もう慣れたのか。じゃあ、案外、それ以上のことも簡単に慣れるかもな?」

「え?」

「半年待たなくても、大丈夫そうだな。案外、2~3日で」

「無理です!」


「なんでだよ」

 あ。思い切りまた否定しちゃった。一臣様がへそ曲げた顔をしてしまった。

「だって、キスは…」

「キスは?」


「キスは…その…」

「なんだよ。はっきりと言え!」

「気持ちよかったんです。ふわふわして、うっとりとなって」

 うわ。自分の口から、とんでもないことが飛び出てきた。慌てて口を両手で押さえたけど、もう遅い。


「ふうん。気持ちよかったのか」

 うわ~。うわ~。うわ~。一臣様の、何か企んだような目つきが怖い。何を思いついたの?

「そうか。俺のキスは気持ちよかったんだな?」


 ギクギク。どうしよう。きっと、とんでもないこと言ったんだよね?私。

「じゃあ、弥生。もっと気持ちのいいことしてやるから、今夜にでも…」

 そう一臣様が耳元で囁いてきた。


「け、結構です!そういうの、まだ私には無理です!!!」

 私は思い切り話の途中でそう言った。すると、

「え?無理だと?」

と、また一臣様の顔が曇った。


「私、まだまだまだまだ、男の人に慣れていないし、恋愛も初級の初級。入門したばかりのド素人なんです。だから、いきなりのレベルアップは無理なんです」

「は?」

「ごめんなさいっ。一段一段、ゆっくりとレベルアップさせてください!」



 そう言ってぺこりとお辞儀をすると、一臣様が、

「はあ?」

と呆れた声を出してから、

「ブッ。なんだよ、それ!」

と大笑いをした。


 だって、本当にそういう感じなんだもん。いきなり、レベルの高いことは無理だよ。

「あははははは。でも、もうキスはクリアしたのか?」

「……」

 恥ずかしい。そう言われると。


「ああ、まだだ。まだまだだな」

「え?」

「キスも、段階があるんだ。今のはまったくの初級者編。あんなんでうっとりするなんて、これから先の大人のキスで、お前どうなっちゃうんだよ」


 大人のキス?!

「抱きしめただけでも、腰抜かすしな」

「……」

 え?大人のキス?って?


「ま、いっか。ゆっくりと進もうな?一段一段な?それも、面白そうだな」

 今、なんて?


 一臣様、面白がってる?まさか…。


 さっき、へそ曲げた一臣様は、もう機嫌を直してしまった。そして、

「会社行くぞ、弥生。龍二が見ているかもしれないから、別行動だ。お前は等々力の車で行け。俺は樋口の車で行くから」

と、明るい声でそう言った。


 別行動なのか。一気に私は暗くなった。


「会社に行けば、会えるだろ?荷物は俺の部屋に置きに来い」

「はい」

「なんだよ。いきなり暗くなるなよ。別の車だからって、そんなに寂しがるな」

 寂しがっているの、わかっちゃったんだ。そんなに顔に出ていたのかなあ。


 ギュ!

 うわ!また抱きしめてきた。それも、思い切り。

「お前、本当に可愛いよな」

 ひょえ~~~。また言った!


 顔を真っ赤にさせたまま、私は部屋をあとにした。こんな真っ赤な顔で、龍二さんに会ったら、変に思われるかもしれない。

 一気に廊下を走り抜け、階段を駆け下り、お屋敷を出た。


 もう車はお屋敷の前に来ていて、

「おはようございます。弥生様」

と、等々力さんに挨拶された。

「おはようございます」


 私は早口で挨拶すると、すぐに車に乗り込んだ。

 ああ、よかった。龍二さんに会わないで済んだ。そして、車をすぐに、等々力さんが発進させた。


「一臣様と同じ車じゃなくて、寂しいですね」

「え?」

「お二人が、また一緒の車に乗ると思って、楽しみにしていたんですよ」

「な、何を楽しみにしていたんですか?」


 私はびっくりしてそう聞いた。

「え?何をって。お二人が一緒だと、いつも楽しそうに笑っているじゃないですか。一臣様の笑い声も、久しく聞いていないので、聞きたかったんですよ」

 あ、そういうことか。びっくりした。一臣様のスケベ発言とか、私が真っ赤になっちゃうこととか、そういうことかと思っちゃった。


 それはまだ、誰にもばれていないんだった。だって、いきなり、昨日から突然、変わっちゃったわけだし。

 いやいや。待て待て。いくらなんでも、他に人がいたら、一臣様も、あんなに私にべったりするわけないよね。


「そうですね。一臣様の笑い声、私も聞いてると嬉しくなります」

 そう答えると、等々力さんは、

「ショパンでもかけますか?」

と聞いてきた。


「う~~ん。今日はジャズの気分です」

「はい。わかりました」

 一臣様の好きなジャズを、等々力さんはかけてくれた。


 ちょっとだけの辛抱。すぐにオフィスでまた会える。

 あれ?私、ほんのちょっと会えなくなっただけで、寂しがってる?さっきまで、一臣様に迫られて、困っていたのに。


 あ~あ。結局はすぐそばにいつでもいたいんだよね。

 早く、会いたいなあ。

 そんなことを思いながら、車に乗っていた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ