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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第5章 急接近の2人?
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~その10~ 龍二、現る

 ドキ。ドキ。ドキ。ドキ。

 スー…。


 私はずっと、胸がドキドキして眠れなかった。一臣様は私を抱きしめたまま、寝てしまった。

 安心しきった顔で寝ている。

 ずるいと思う。


 私はこの先、ずっと、いつ一臣様に襲われるかっていう危機に面しながら、一臣様の横で寝るのに。もしかすると、ずっとドキドキで眠れないかもしれないのに。一臣様はそんな私の気持ちも知らないで、すやすや気持ちよさそうに寝たりして。


 って。その考えがそもそも、間違っているんだってば。

 襲われるわけじゃなくて、愛されるわけで…。


 う。

 きゃ~~~~~~~~~!

 愛される?愛される?一臣様に?!


 ドッドッドッドッ。もっと、胸がドキドキしてきた。


 そうだよ。そういうことだよね。愛されちゃうんだよね。

 愛も優しさもなく、抱かれるわけじゃなくって、ちゃんと愛されて抱かれちゃうんだよね。


 そうだ。一臣様、優しくするって言ってた。

 そこには、愛と、優しさがちゃんと…。


 う。

 きゃ~~~~~~~~~~~~~!!!


 優しさって、どういうの?!

 バクバクバクバクバク。鼓動が一気に早くなった。


 キス、優しかった。髪を撫でる手とかも優しかった。

 

 ドキドキドキドキ。私、やたらと怖がっていたけど、一臣様、もしかすると、ものすごく優しいかもしれないんだ。


 鼻にも、頬にも、おでこにも、肩にまでキスされた。触れる唇が優しかった。

 そのたび、体中がドキってなった。


 スー…。私のうなじに一臣様の息がかかった。

 ドキ――ッ!

 うわ。それだけで、こんなに心臓が暴れ出す。


 今も、一臣様のぬくもりや、コロンの匂いでおかしくなりそうだ。やっぱり、いくら優しくても、私の心臓が持つかどうかが心配だ。

 胸が高鳴りすぎて、きっと持たない。それに、ちょっと抱きしめられただけでも、腰が抜けそうになったし。いや、もう抜けていたかも。


 やっぱり、無理…かも。

 ううん。慣れるんだ。努力するって言っちゃったし。

 今だって、抱きしめられることや、こんなに近くにいることにちゃんと慣れないと。チャンスだよ、私。


「ん」

 一臣様が寝返りをうとうとして、さらに私に接近してきた。っていうか、足、絡ませてない?もしかして。


 うっわ~~~~~~~~~。一臣様の足が、私の足に。

 私の足、動かせなくなっちゃった。


 ドキドキドキドキドキ。今度は足に心臓があるみたいに、足が脈を打ち出した。

 だ、駄目だ。慣れそうにない。

 とにかく、寝よう。でも、目がらんらんとしていて眠れそうもない。


 え~~ん。こんな思いを、どのくらいしていかないとならないんだろう。


 そんなことを嘆きながら、やっと眠りについたのは、もう、外がうっすらと明るくなり、遠くで鳩の鳴き声がしてからだった。



 ポーポー、ポッポ。低い鳩の鳴き声が、まるで子守唄のように聞こえてきて、そのあと、

「ブルルルルル。ブルルルルル」

という、アラームの音で目が覚めた。


 あ、今、寝たばかりのような気がする。


「ふわ~~~~~~~」

 一臣様は大あくびをしてから、アラームを止めた。

「良く寝た」

 そう言って、一臣様は、私のことをなぜか、抱き寄せた。


 な、なんでまた、朝っぱらから?

 ドキバク。ドキバク。


「おはよう、弥生」

 チュ。

 うっわ~~~~~~~。おでこにキス?これ、おはようのキス?!

 クラッ。朝から果てそう…。


 駄目だ!何もかもが、今までに経験のしたことのないことばかりで、くらくらする。それもかなり、上級クラス。私レベルじゃ、まだまだ、経験してはいけないような、高いレベルの出来事!


「あれ?弥生、目、充血してないか?」

 ドキ。そ、そうかも。寝れなかったし。

「エッチなことでも考えていたのか?」

「違います!」


 もう。もう~~!なんでそうなるの?だいたい、エッチなことを考えているのは一臣様の方でしょ。

「7時だ。起きるぞ。お前、会社にちゃんと今日は行くんだろうな」

「はい」


「お前がいない間に、いろいろとあったんだぞ」

「え?いろいろとって」

 一臣様は上半身を起こして、話し出した。私も上半身を起こして、体育座りをしながら話を聞いた。


「まず、三田のことだが」

 あ。そうだった。携帯。あれ、どうなったのか、ちょっと気になってたんだ。

「監視カメラで見たら、やっぱり、三田だった。それも、三田だけじゃなく、三田派と呼ばれる秘書たちまで、その場にいたんだ」


「え?」

「三田と同罪だな。3人とも、即クビにした」

「ええ?!」

「そのカメラの映像を見せて、このことは内密にしておいてやるから、退職願いを出せ。と言って、退職してもらった」


 うわ。怖いかも。それ半分脅し?

「当然だろ?人のものを盗ったんだ。窃盗だよな?立派な。本当だったら、警察に連絡してもいいくらいだ」

「え?警察に?」

「それを、黙っておいてやったんだ。逆に感謝してほしいくらいだ」

「そ、そうですけど」


「まあ、そういうことで、秘書課が今、全然人が足りていない。急いで、新しい人材を、他の課から募っている。面接も明日行う」

「そうだったんですか」


「それから、葛西も辞めると言い出したし」

「え?」

「まあ、それは副社長に任せてあるけどな」

 葛西さんが…。


「それはやっぱり、一臣様のことが原因で?」

「まあな。あいつは俺のそばにいたかったんだろうけど、そうもいかないしな」

「一臣様は?葛西さんにそばにいてほしかったり、しないんですか?」


「なんだよ、それは」

 あ。いきなり怒り出した。

 ドサッ!

「きゃ?」


 突然、ベッドに押し倒された?

「俺のこと、おちょくってんのか?」

「まさか!」

「じゃあ、なんだよ、今の質問は」


 ひえ~。本気で目が怒ってる。

「き、気になったから」

「俺が葛西にそばにいて欲しいなんて思っていると、お前はそう思っていたのか?」

「い、いえ。ちょっと、気になっただけ」


「…むかつくな」

 え?

 一臣様はそう言うと、ムギュっと私の鼻をつまみ、そのあと起き上がった。

「ご、ごめんなさい」


 怒り出すなんて思わなかった。

「もう、そういうこと言うなよな。俺はお前にちゃんと惚れているって言ったし、本気だし。他の女のことなんか、なんとも思っていないんだからな」


 え?


「わかったな?もうあんな、アホな質問してくるなよな」

「はい」

 私はまだ、ベッドに寝転がったまま、そう答えた。すると、くるっと一臣様は私のほうを向いて、チュッと唇にキスをして、

「いつまでも寝ていたら、襲うぞ」

と言って来た。


「お、起きます!」

 私は慌てて飛び起きた。


 それから、私の部屋に戻って、会社に行く準備をした。

 私がいない数日間に、そんなに秘書課はいろいろとあったんだなあ。


 あ、そういえば、あのプロジェクトはどうなったんだろう。気になる。

 

 着替えも化粧も済ませ、ダイニングに向かった。一臣様は今日も、部屋でコーヒーを飲むだけなんだろうな。

 そして、私は一人で食事だ。と、思いながら、ダイニングに向かうと、知らない男の人が座っていた。


 誰?!


 すると、向こうも、

「あんた、誰?」

と、コーヒーカップを片手に聞いてきた。


「龍二おぼっちゃま。こちらは、上条弥生様です」

 喜多見さんが、丁寧にそう私を紹介した。

「ああ。兄貴のフィアンセ候補の一人。上条グループのお嬢様?」


 龍二さん?なんでもういるの?


「弥生様。龍二おぼっちゃまは、昨夜のうちに飛行機で日本に来られたようで、夜中に帰ってまいりました」

「あ。そ、そうなんですか」

 不意打ち過ぎる。何も心の準備ができていない。どうしよう。


「ふうん」

 龍二さんは私を見定めるように、上から下まで見た。

 嫌だ。視線がもう、嫌らしい感じがする。


「弥生様、どうぞ」

 日野さんに言われて、私は椅子に座った。龍二さんから離れたところに、私の食事が用意されていた。ほっとした。きっと、気を使ってくれたんだ。


「あ。兄貴」

 え?

「龍二。帰っていたのか」


 振り返ると、ドアのところに一臣様が立っていた。

 一臣様だ~~。良かった。一人でめちゃくちゃ心細かった。


「一臣様、おはようございます。どうぞ」

 日野さんがそう言って、一臣様の椅子をずらして、座りやすいようにした。

「ああ。コーヒー淹れてくれ、日野」

「はい、かしこまりました」


 一臣様はいつもの席。いつもの私の席なら真ん前。でも、今朝は、私の席から遠い。


「いつ帰ってきたんだ」

「昨日の夜には成田に着いてた。で、ちょっと女のところに寄ってから、うちに来た」

「女?」

「ああ。こっちに残していった女」


 龍二さんはそう言うと、ちらっと私を見てにやっと笑った。

 なんか、怖いかも。


「あの子さあ、上条グループのご令嬢でしょ?もう、うちに泊まってんの?」

「ああ。今日は大金麗子も来るし、明日には他の子たちも来るよ」

「へえ。親父は、上条グループ一押しなんだってな?」


「…おふくろは大金だろ?大金銀行の頭取の娘。気に入ってるようだぞ」

「兄貴は?」

「俺はまだ…」

「俺さあ、候補者の写真やプロフィール見たよ」


「なんでお前が?お前の婚約者決めるわけじゃないのに」

 一臣様、始終クールだ。話し方も変えないし、表情も変えない。


「いいじゃん。俺の姉貴になるわけだし、そりゃ気になるよ。で、兄貴のタイプは大金だろ?」

「……俺のタイプ、お前わかってんのか?」

「だって、兄貴が昔から付き合ってる女って、あんな感じだろ?スレンダーで、黒髪ロング。まあ、たまに栗色もいたけど、美人でしたたかそうな女」


「まあ、そうかもな」

「やっぱりなあ。それ、おふくろもわかってて、対抗馬に大金麗子を選んだんじゃないの?」

「対抗馬?」

「おふくろ、親父の思うとおりにしたくないんだろ?親父が上条グループ薦めるんだったらって、大金麗子を選んだんだよ」


「なるほどね」

「兄貴も、上条グループのご令嬢は、かなり嫌がっていたようだし。まあ、本人見て、それは俺でも納得したけど」

 私のこと言ってるんだよね。丸聞えなんだけどな。あれってわざとかな。


「だってさあ。どっからどう見たって、兄貴のタイプじゃねえじゃん。ブスだし、スタイル悪いし、頭も悪そう」

 グッサーーーー。なんかさっきより、声大きくなってない?わざとらしいくらいに。


 私の周りに立っているメイドのみんなから、歯ぎしりの音が聞こえてきそうだった。でも、

「親父は気に入っているんだよ。プロジェクトのこともあるから、上条グループには頭もあがらないんだろ」

と、一臣様はとってもクールにそう言った。


「兄貴も?親父の言いなりになるのか?」

「俺?いや。そんなつもりはない。今度の誕生日パーティでは、ラッキーなことに、俺が候補者の中から婚約者を選んでいいらしいしな」

 一臣様はそう言うと、コーヒーをゴクンと飲んだ。そして、

「早々と、この屋敷に来てもらって悪いが、誕生日パーティが終わったら、さっさとお引き取り願うからな?上条家のお嬢様」

と私に向かって、ものすごく冷たい目つきでそう言った。


 え…。

 今の誰?


 ううん。これが前の一臣様。嫌味たっぷり。平気で傷つくことを言う。


 でも、昨日から、惚れてるだの、可愛いだの言われていたから、かなりびっくりした。


 私がびっくりして、言葉を失いぼけっとしていると、

「あはは。自分のことだってわかってないんじゃん。相当なバカだね。君だよ、君。さっさと帰ったら?どうせ、選ばれないから」

と、龍二さんにまで言われてしまった。グッサリくるなあ。


「兄貴は、大金麗子が狙いなんだな」

 私のことはもうほっておいて、龍二さんはそう一臣様に聞いた。すると、キッと一臣様は龍二さんを睨みつけ、

「お前は、邪魔するなよ。今回ばかりは結婚がかかっているんだ。お前には邪魔させないからな」

と、そうきつく言った。


 これ、演技だよね。

 ほんのちょっと、そんなことを疑いたくなるほどの、一臣様は名演技をしていた。

 演技…だよね?


 演技なんだよね?不安がよぎる。




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