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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第5章 急接近の2人?
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~その9~ 「可愛いな、お前」

「離してくださいっ!」

 思い切り、抱きとめられちゃったよ。どうしよう!

 それも、ベッドの真横で。


「なんで?お前、その恰好でバスルームから出てきて、離してくださいはないだろ?」

「ご、誤解です」


 うわ~~~!!肩にキスしてきた!やめて!心臓停止しちゃう。

「パジャマも、下着も、バスローブも持って入るの忘れたんです!」

「アホだな」


 そう言って、一臣様はいきなり私のバスタオルをするりと取ってしまった。

「うわあ!」

 中、素っ裸なのに。


「見ないでください~~!!!」

 そう叫びながら、私はしゃがみこんだ。

「今さら遅い」

「遅くないです!」


「だから、前にもう、お前の全裸見てるから、今さら照れても遅い」

「…う」

 そうか。前のことか。って、納得してどうする。今見られるのだって、恥ずかしいんだから。


 私はまだ、しゃがみこんだままでいた。

「そんな素っ裸で、丸まっているなよ。それもそれで、けっこうそそられるんだけどな」

 え?!


「じゃあ、バスタオル返してください」

 バスタオルは一臣様がぽいと、その辺にほおってしまって、私の手の届かないところにあった。


 グイッ。一臣様は私の両腕を持って、いきなり私を立たせたかと思ったら、そのまま、ドスンと私をベッドに押し倒してしまった。


 ど、どひゃあ。これって、これって、これって、もう、観念しないとならないってこと?!


 いや。駄目!無理。絶対に無理!


 ひ~~~~~~っ!


 声にならない声をあげ、涙目になって一臣様の顔を見ていると、一臣様は一瞬目を細め、

「今、着替え持って来てやるから」

と、私の体にばさっと掛け布団をかけて、隣りの部屋に行ってしまった。


 う…。襲われるかと思った。もう、おしまいかと思った。絶対に抵抗できないかと思った。

 布団を頭の上まで引き上げ、私は思わず泣いてしまった。


 怖かった。

 

 でも…。胸の高鳴りが半端なかった。

 もし、あのまま、一臣様に抱かれていたら…。


 駄目だ。全く未知の世界だ。想像もつかない。知っているのは、先輩が言ってた、

「痛くて、もうしたくない」

っていう言葉だけ。


 そんなに痛いのかな。ものすごく怖い。

 一臣様は男なんだよね。力、私よりもずっとある。


 でも、怖いくせに思い切りときめいている自分もいて、自分が自分でわからなくなっている。


「ほら」

 一臣様の声がして、ばさっと私の上に何かが乗っかった。ああ、着替えだ。

「俺は、髪をバスルームで乾かしているから、その間に着替えろ。俺が終わったら、お前が髪乾かせよな。まだ、思い切り髪、濡れてるぞ」

「はい」


 一臣様はバスルームに入ったらしい。ドアが閉まる音がした。私はゆっくりと顔をあげ、布団の上にあった私の下着とパジャマを手に取り、布団の中でもそもそとそれを着た。


 下着まで持って来てもらって、申し訳ないような、恥ずかしいような気もしたけど、裸を見られるよりはいい。


「はあ」

 本当にこんなで、私これから、一臣様のフィアンセつとまるのかな。一臣様、呆れていたよな。

 覚悟しろって言われたけど、覚悟できないよ。


 ああ。もう!どうやったら、男の人が平気になれるんだろう。今から、男慣れするために、誰かとお付き合いでもする?

 なんて、バカな考えが浮かんできて、慌てて消した。


 私が一臣様以外の人と、付き合えるわけがないし、一臣様以外の人に触れられるのも、キスされるのも、無理に決まっているのに。


 でも、その一臣様ですら無理なんて!


 あれ?それって、もしかして、一臣様にすごく申し訳ないことをしているの?

 好きだ好きだって、ずうっと言ってきて、いざとなったら、こんなに拒んだりして。

 そうだよね。無理!って拒否していないで、もっと大丈夫にならなきゃ。


 いつまでも逃げていたら駄目だよね。本当に覚悟決めないと駄目だよね。

 だって、結婚するんだもんね。私、一臣様の奥さんになるんだから。

 奥さんに。


 そう思ったら、今度は一気に顔が火照ってきた。


「おい」

 ハッ!いつの間にか、一臣様、バスルームから出て来ていた。

「髪、乾かして来いよ。風邪ひくぞ」

「は、はい」


 慌ててバスルームに駆けこんで、髪を乾かした。バスルームからは、一臣様のシャンプーの香りがして、それだけでまたドキドキした。


 やっぱり、私はものすごく贅沢なんだ。大好きな人と、ずっと一緒にいられて、隣で眠ることができて、こんな幸せなことってないんだよね。なのに、嫌がったり、拒んだり。


 それに、大好きな人に、好きだって言ってもらえたんだ。惚れてるって言ってくれたんだよ?

 それって、それって、それって、ものすんごく嬉しいことだよね?!


 うっきゃ~~~~~~~~~!

 今頃、実感。嬉しさがこみ上げてきた!


 一臣様に「惚れている」って言ってもらったんだ。

 信じられない!!!嬉しい~~~~~~~~!!!


 きゃ~~~。きゃ~~~~~。きゃ~~~~~。


「おい」

 ドキ!

 うわ!バスルームのドア開いてた?一臣様が呆れた顔で、こっちをバスルームの入り口から見てる。


「なんで、浮かれてるんだ?」

「え?」

「きゃーきゃーはしゃいでいる声がして、気になって来てみたんだが…。何を踊っているんだ?」


 は!私、踊ってた?

「なんなんだ。さっきまで、真っ青な顔して涙ぐんでいたやつが」

「ごめんなさい」

「なんだよ。何を浮かれてたんだ?」


「……か、一臣様に、惚れたって言われたことが嬉しくって」

「はあ?抱かれるのは泣いて拒んだくせに?」

「う…」

 やっぱり、言われた。


「ごめんなさいっ!!!それは、本当にごめんなさいっ!!!」

「なんだよ。いきなり、平謝りして」

「悪いと思っているんです。大好きなのに、そんな一臣様を拒んだりして。でも、本当に大好きなんです。でも、怖いんです」


「ああ。わかったから。大好きをそう何度も言うな」

「あ!怖かったですか?」

「いや。嬉しいけどな」

 ええ?!ええええっ?!嬉しい?!


「だから。そんなに目を潤ませるなよ。ほんと、お前、わかりやすいな。たまに理解できない反応するけどな」

「………。あの…」

「なんだ?」


「その…」

「だから、なんだ?」

「変な質問していいですか?」

「嫌だ」

 う。また断られた。


「変じゃなくて、素朴な疑問です」

「なんだ?」

「その…。すっごく聞きにくいんです。でも、それが一番怖いから、聞いてもいいですか?」


「ああ。あれか。初めてだと痛いかどうかか?」

 ギック~~~~。なんで、わかったの?!

「そういうのは、どっかから仕入れるのか?情報として。お前、未体験だから、まったく知らないよな」


「高校の頃、先輩が言っていたんです。初体験の夜に、すごく痛かったって。それで、もうしたくないって」

「お前の高校って、お嬢様学校だろ?私立の…。その先輩、高校生だよな?」

「はい。大学生の彼氏がいたんです」

「ああ。そうか…」


 一臣様は黙り込んだ。それから、

「まあ、痛いかもな。でも、俺は男だからわからないし、それに、処女と経験したこともないから、わからないな」

と、真面目な顔をして答えた。


 うわ。なんか、今、生々しいことを聞いてしまった。聞かなかったらよかった。いや、経験あるって言われても嫌だけど。


「それが怖いのか?」

 コクン。と頷くと、一臣様は近づいてきた。

 うわ~。なんで、近づいてきたのかな?


 フワ…。そして優しく私を抱きしめてきた。

「痛いかもしれないけど、優しくするぞ」

 うっぎゃ~~~~~~~~~~!また、そういうことを耳元で囁かれた。


 ドン!私は一臣様を突き飛ばして、バスルームから逃げ出した。

「いってえなあ」

 一臣様は背中を洗面台に打ったらしい。背中をさすりながら、バスルームを出てきた。


「ごめんなさい。でも、無理です。やっぱり無理です」

「はあ?」

「一臣様の言うことに、いちいち反応しちゃうんです。勝手に、うぎゃあってなっちゃうんです」

「なんだよ、それは…」


 あ。今度は本当に呆れた顔だ。


「ごめんなさい。無理ですってさっき言ったけど、慣れるように努力します」

「……努力?」

「か、覚悟もなるべく早くに決めます」


「いつ?」

「わ、わかりませんが、早め早めに対処したいと思います」

「ブッ。あはははは!」

 笑われた。真剣に言ったのに。


「そうか。わかった。早めに頼むぞ」

「はい」

「でも俺が思うに、慣れるには何度も、繰り返してすることだと思うぞ」

「え?」


「キスも、何度もしていたら、絶対に慣れてくると思うんだがな」

 何度も?!

 ボボッ!!!


「あ、ゆでだこになったな」

「だ、だって」

 何度もって…。


「はあ。わかったよ。やっぱり、徐々にだよな?焦らず、ゆっくりとだな?」

「………」

 かあ。ますます顔が火照っていく。


「男に全く免疫ないやつと付き合ったことないから、俺も戸惑ってるぞ」

「え?」

「こんなに本気でキスしたいとか、抱きたいとか思ったのも初めてだしな」


 うぎゃあ。また、すっごいこと言った!!!

 ボワッ!!!


「あ。なんか、俺、またお前の顔が赤面するようなこと言ったのか?」

「はいっ!」

 私は恥ずかしくなって、顔を伏せた。すると、そんな私を一臣様がギュッて抱きしめてきた。


「可愛すぎだよ。お前。反則」

 え~~~~~~~~~~!そんなこと言う一臣様が反則!


 恥ずかしくて、恥ずかしくて、なかなか顔をあげられなかった。

 なんだって、こんなに、可愛い、可愛いを連発するんだ。そのたびに、心臓が飛び出そうになっているのに。


「寝るか」

「え?!」 

 ドキン!


「手は出さないから、安心しろ」

「うわ。はいっ」

 私は、真っ赤になりながら、ベッドに横になり、布団を頭までかけた。


「おい。もう少しこっちに来いよ」

 ベッドの端までいき、丸まっていると、一臣様にそう言われた。

「う…。でも」


「手は出さないって言っただろ?」

「でも…」

 心臓がきっとまた、バクバクしちゃう。


「俺が寂しいんだよ」

 うわあ。その言葉も、嬉しすぎて、顔が火照りまくる。


 私は背中を向けたまま、すすすと一臣様の隣まで移動した。

「こっちは向かないのか?」

「はい。恥ずかしいから」


「なんだよ」

 ギュウ!うわ。また思い切り背中を抱きしめられた。なんだって、こうも、今日は何度も抱きしめるの?

「可愛すぎるだろ」


 また、言われた~~~~~~~~~。


 何回言われても、何回抱きしめられても、やっぱり、慣れないかもしれない。



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