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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第5章 急接近の2人?
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~その6~ スケベに変身?

 休憩室の中庭で、2人でほわほわしていると、そこに喜多見さんが来た。

「あ!こ、こんなところにいらっしゃったんですか?探してしまいました」

「ん?どうした?」


「お部屋の掃除が終わりましたので、呼びに来たんですが…。まあ。一臣おぼっちゃま、言って下さったら紅茶をちゃんと淹れましたのに」

 喜多見さんが、一臣様の手に持っている缶の紅茶を見て、びっくりしながらそう言った。


「みんな、忙しそうだったからな。それに、こういう庶民的なものも飲んでみたかったんだ」

 庶民的なもの?そうか。一臣様からしたら、そういうものなんだ。


「そうですか?あ!弥生様も、言ってくだされば、パンケーキか何かをコック長に作らせましたのに」

「い、いいんです。あの…」

「この夕張メロンパンっていうのは、弥生の気に入っているパンで、季節限定なんだそうだ。そうそう食べれないらしいから、買ってやったんだ。めちゃくちゃ喜んでいたぞ」

 

 うわ。一臣様が全部、ばらしてくれた。

「そうなんですか?」

 喜多見さんはくすくすと笑うと、

「お部屋の方はもう、お休みになられますよ。お風呂はどうしましょうか?夕飯のあとに準備した方がよろしいですか?」

と一臣様に聞いた。


「そうだな。夕飯の間に準備を頼む。あ、そうだ。コック長に夕飯は早めにと頼んでくれ。今日は早くに休みたいんだ」

「そうですね。体調崩されているんですから、しっかりとお休みになってくださいね、一臣おぼっちゃま」

 心配そうに喜多見さんがそう言った。

 

 ああ、喜多見さんは一臣様の体調のこと、知ってるんだ。って、当たり前か。一臣様付きのメイドなんだもんね。

 あれ?でも、ストライキしていて、仕事をしていなかったはずなのに、知っているんだ。


「ああ。もう大丈夫だ。弥生がいるからな」

 一臣様はそう微笑みながら言うと、空になった缶をゴミ箱に捨てて、

「弥生、そろそろ部屋に戻るぞ」

と、優しく言ってくれた。


「はい」

 私も空の缶を捨て、メロンパンの袋も捨てて、休憩室を出た。喜多見さんはキッチンに戻り、私と一臣様はぐるりと庭を歩きながら、お屋敷に戻った。


 庭には、庭師の方が数人いて、その中には根津さんもいた。

「あ、根津さん!」

 私が声をかけると、根津さんはにっこりと笑って手を振ってくれた。

 

「へえ。あんなふうに根津も笑うんだな」

 私の隣では、一臣様がその様子を見てびっくりしていた。


 それから、一緒に一臣様の部屋に戻った。

 ベッドメイキングは綺麗にされていて、脱ぎ捨てられたシャツやらパジャマやらも、どうやら洗濯に出されたのか、部屋からなくなっていた。


 一臣様は、そのままドスンとベッドに横になった。そして私を見ると、

「弥生、おいで」

と言って来た。


 ドキ~~~~~~~~~!

 だから、いつもそういう言葉に、心臓が高鳴っちゃうんだってば。でも、ただ添い寝のために呼んだんだよね。


「赤くなっているところ、申し訳ないが、体調悪くて何もできないぞ」

「き、期待したわけじゃないです。ただ、言葉に勝手に反応して赤くなっちゃっただけです」

 そう言って、私は一臣様の隣に横になった。


「言葉?」

「さっきの…」

「おいでってやつか?」

「はい」


 頷いてから、もっと赤面した。

「そんな言葉で、お前は赤くなるのか」

「はい…」

 そんな言葉じゃないよ。意味深で、胸がドキってなっちゃうような言葉だよ。って、あれ?そういえば、体調悪いって今、一臣様言ったよね?


「一臣様、そんなに今も体調悪いんですか?」

「…ああ」

「それなのに、私のこと迎えに来てくれたんですか?」

「お前がいないのが、一番の体調の悪い原因だからな。さっさと迎えに行かないと回復は無理だって、俺もさすがにそう思い知ったからな…」


「え?」

「悪い…。しゃべっているのも無理だ。少し休む」

「はい」

 一臣様は、私のほうを向いた。そして、私のことをそっと抱き寄せた。


 ドキドキ。ああ、胸を高まらせている場合じゃないよ、弥生。話すことも辛いほど、一臣様は気分が悪かったんだ。なのに、一緒に紅茶を飲んだりしていたんだ。

 無理させちゃったんだな。


 一臣様は、私を一臣様の胸に抱き寄せると、私の髪を優しく撫でてきた。

 うわ!

 これは、やっぱり、ドキドキするなと言っても無理な話で。


 心臓はどんどんどんどん、早くなっていく。

 でも、5分もたたないうちに、一臣様は、す~~っという寝息をたてた。


 その寝息が、私のおでこにかかる前髪にかかった。

 

 ドキドキはおさまらなかった。でも、一臣様の寝息が可愛くて、私はそっと一臣様を抱きしめてみた。

 キュン。胸の奥が締め付けられた。

 愛しくて、一臣様の腕に抱かれながら眠れることが嬉しくて、涙が出そうになった。


 昨日の夜は、一臣様の部屋も、一臣様のこの胸も腕も恋しくて、ずっと泣いていたのに。

 今は、目の前にある。こんなに近くにいる。


 一臣様が大好きだった。でも、こんなにも愛しくなっていたことに、改めて気づかされた。

 どれだけ私は一臣様を愛していたんだろう。

 いつの間に、こんなに大きな存在になり、こんなにも大切な人になっちゃっていたんだろう。


 もう一度、ギュッて一臣様を抱きしめた。そして、幸せを噛みしめた。


 どのくらい時がたったろうか。私は眠れなかった。

 一臣様の腕の中はあったかかった。それに、一臣様のコロンの香りにドキドキして、幸せで胸がいっぱいになって、眠れなかった。


 ずうっと、こうやって一臣様のぬくもりを感じていたいなあ。

 そんなことを思いながら、一臣様の胸にしがみついていると、

「う…」

と一臣様がうなされているのに気が付いた。


「一臣様?」

 夢?夢を見ているの?

 そっと一臣様の腕から抜けて、一臣様の顔を覗いた。


 なんだか、苦しそうな顔をしている。もしかして、具合が悪いのかな。どこか痛いとか?

「弥生…」

「え?」

 私のこと、呼んだ?


「行くな…」

 え?

「行くなよ…」

 一臣様は目を閉じたままだ。顔をゆがめてそう言うと、一臣様の目から涙がこぼれたのがわかった。


 うそ。泣いてる?!

 え?夢を見てるの?私の夢?私がどっかに行っちゃう夢?!


 バチッ。突然、一臣様が目を覚ました。

「あ…」

 そして私の顔を見て、しばらくじっとそのまま動かないでいる。


「弥生…」

「はい…」

「ああ、そうか。今のは夢か…」

 一臣様の顔が、一気に和らいだ。


「どんな夢ですか?」

「…いや、なんでもない」

「でも、なんだか、うなされていました」

 私の名前を呼んで、行くなって言って泣いていたということは話さないでおいた。


「……お前が、飛行機に乗ってアメリカに行く夢だ」

「え?」

「いなくなってから、めちゃくちゃ後悔している夢だ。アホな夢だろ?」

「……」

 

 一臣様は自分で自分の目頭を触り、

「あ、俺、泣いていたのか?」

とそう言って涙を拭いた。


「……」

 夢の中でも泣いていたの?もしかして。

「は~~~~~」

 長い溜息のあと、一臣様は私をまたじいっと見つめた。


「夢で良かった」

「え?」

「お前のこと、ちゃんと迎えに行って良かった」

 一臣様…。

 キューーン。胸が苦しくなるくらい、今、締め付けられた。


「俺は何時間、寝ていたのかな」

 一臣様はそう言うと、起き上がった。

「体調は大丈夫ですか?」

「ああ。まだちょっと、頭痛はするけどな」


「さっきも頭痛していたんですか?」

「ああ。薬を飲むと、眠れるんだけどな。強いのか、頭痛やら吐き気やら、ひどいんだ」

「今は?吐き気は?」

「……いや。お腹が空いてきたな」


 え?

「あ、なんだ。もう6時だ。そろそろ夕飯の時間だよな」

 一臣様は自分のデスクの時計を見て、そう呟いた。

「はい」


「ふわ~~~~!じゃあ、顔でも洗って来るか。お前も寝ていたのか?」

 一臣様は伸びをしながらそう聞いてきた。

「いいえ」


「え?ずっと起きていたのか?」

「はい」

「…いつもなら、隣で一緒にグースカ寝てるじゃないか」


「そ、そうなんですけど。嬉しくて、幸せ噛みしめてて、眠るのももったいなくって」

「……なんだ、それ」

 あ、呆れた?あ、また、気持ち悪いって言われちゃう?


 と、思いながら、言われる言葉に傷つく覚悟を決めて待っていると、いきなり一臣様は私のことを抱き寄せ、

「お前、やっぱり可愛いよな」

と、思ってもみないことを言われてしまった。


「え?!」

 何?今、なんて?!


 聞き返そうにも、またギュウっと思い切り抱きしめられ、ドキドキして言葉も失った。

 うわ。うわわ。なんだって、今日はやたらと、こんなに思い切り抱きしめてくるんだろう。


 トントン。

「一臣様、夕飯の準備が整いましたので、いつでもダイニングにお越しいただいて大丈夫です」

 ノックの音のあと、日野さんの声が聞こえた。

「ああ。わかった」


 一臣様がそう答えると、日野さんは、どうやら私の部屋にも声を掛けに行ったらしい。

 ちょっと遠くから、日野さんの、

「弥生様。夕飯の準備が整いました。いつでも、いらしていただいて大丈夫です」

という声が聞こえてきた。


「ああ。お前、返事しないと…」

「え?ここから?」

「…さて。どうしたものかな。喜多見さんにはもう、お前が俺の部屋で寝ているのもばれているが、あいつらにはばれていないのかな」


「え?」

 喜多見さんにはばれてるの?!

「でも、わかるよなあ。ベッド、いつもお前が寝ていないんだから、綺麗なままだろうし」

「あ、そうか」


 そうだよね。日野さんたちが私の部屋を掃除してくれているんだから、どう見たって、私の部屋は生活している感じじゃないってわかるよね。洗面所だって、お風呂だって、一臣様の部屋のを使っていたし。


「弥生様?寝ていらっしゃるんですか?」

「しょうがないな」

 一臣様はベッドから下りると、ドアを開けに行ってしまった。


 うわ。どうするのかな。私が寝ているってことにしてくれるとか。何かいい言い訳をしてくれるとか?


 ガチャリ。

「おい、日野」

「あ、一臣様。弥生様が返事をしないんですが、寝ていらっしゃったら、起こさないほうがよろしいですか?」

「弥生なら、俺の部屋にいる」


「え?」

「一緒にダイニングに行くから」

「……。は、はいっ」

 今の、日野さんの返事、声が裏返っていたけど?もしや、相当驚いているとか?


「あの、一臣様。もしかして日野さん、何か、勘違い…」

と、ドアからこっちに戻ってくる一臣様に聞こうとして、ああ、これは勘違いしても仕方ないなと思ってしまった。


 一臣様、寝癖ついているし、Yシャツは、第3ボタンくらいまではだけちゃってる。それもよれよれ。見るからに、今まで寝ていました…という格好だ。


 いやいや。ただ単に、ぐっすりと寝ていたんだと、そう思っていて欲しい。

「あの、私、部屋に行って髪とかしたりしてきます」

 そう言って私もベッドから降りて、私の部屋に行った。私の部屋は、相変わらず暗くて、寂しい感じが漂っていた。


 なんでこうも、一臣様のお部屋と違って、物寂しさがあるのかなあ。ああ、人が生活していなかったからか。

 

 それから、洗面所に行き鏡を見て、

「あ、髪、ぼさぼさだった」

と気が付き、慌てて髪をとかした。

「それに、やっぱり目が腫れてる。本当にブス顏だ」


 一臣様に言われた通り、かなりのブス顏。顔色もけしてよくない。こんな私なのに、一臣様、可愛いって2回も言った。あれ、私のやっぱり、聞き間違いかな。


「それに、ずっとこのブス顏、一臣様に見られていたんだよね。こんなブスにキスしたり、抱きしめたりしていたんだよね」

 真っ青になった。でも、次の瞬間、顔が火照りまくった。


 そうだった。キス、一臣様にされたんだった。

 それも、優しいキスだ…。


 うわ!!うわわ。思い出してしまった。唇の感触や、ぬくもりも。


 駄目駄目。これから、食事をするんだし、平常心だよ。あ、そうだよ。平常心でいるんだって、よくおじい様から言われていたじゃない。

 うん。そうだ。気持ちを落ち着けて、弥生。


 と、その時、一臣様が私の部屋に入ってきて、

「弥生。もう飯、食いに行くぞ。準備はいいのか?」

と聞いてきた。


「うわ。はい、はい!」

 私は慌てて、洗面所から飛び出した。

「あれ?着替えたんですか?一臣様」

「ああ。Yシャツもしわくちゃになっていたしな。お前も着替えたらどうだ?また、スカートしわくちゃになっているぞ」


「え?あ!」

 本当だ。しわくちゃだ!

「あ、じゃあ、着替えます。ちょっと待っていてください」

 私は慌てて、クローゼットを開けた。


「えっと…」

「ブラウスも着替えるか?ああ、半分はお前の家に持って帰ったんだもんな。また、着替え持って来いよ」

「はい」


「ああ、駄目だ。樋口か誰かに取りに行かせる。お前、実家に戻ったら、またこっちに戻ってこなくなるかもしれないしな」

 そう言いながら、一臣様は私の隣で服を選びだした。


「これと、これ」

「……これですか?なんか、スカート短すぎませんか?それも、ひらひら。似合わないです。こういうスカートは」

「そんなことないだろ。ただ、あんまり外では履くな。家の中だけにしろ」


「は?」

 なんで?

「会社じゃないんだから、ストッキングもいらないぞ。靴もパンプスじゃなくてもいい」

「え?」


 まさか、生足で、この短いスカート?それをリクエストしてくるって、どういう意味が…。

「着替えないのか?」

「あ、はい。着替えますけど。隣りの部屋で待っていてください」

「なんでだ?」


「え?だって、着替えるから」

「いいだろ。ここで待ってるぞ」

「……いえ。一臣様、絶対に着替えるところ見ますよね?だから、隣の部屋で待っていてください」


「………」

 なんで、動かないのかなあ。でんと、仁王立ちのままでいるけど。まさか怒った?

「夕飯のメニュー、リクエストし忘れた」

 は?いきなり話が飛んだけど?


「何か食べたいものがあったんですか?」

 とりあえず聞いてみた。 

「ああ。精のつく食べ物をと、リクエストすればよかったと思ってな」

「そうですね。でも、きっと元気の出るものを考えてくれていますよ」


 可愛い一臣様もいるんだな。元気になるお料理をリクエストしたかっただなんて。

「いや。元気の出るっていうより、精だ。精力だ」

「は?」

 今、なんと?


「さっき、寝たらだいぶ体調も良くなったしな。この分なら、今夜にでも、お前のこと抱けるかもしれないぞ」

「………え?」

「そうだな。下着はどれにするか?パジャマは色っぽいのなんて、持っていないよな?お前」


 え?!え?!え?!


 一臣様は勝手に、クローゼットの引き出しを開けた。それもなんだか、ちょっとわくわくしている感じで。

「うわ。なんだよ、これ。色気のある下着、まったくないじゃないか」

「きゃ~~~。勝手に見ないでください」


「お前に、買っておけって言わなかったか?もっと色気のある下着」

「言ってません。買ってません。それに、期待も何もしていませんから!今すぐ、部屋から出て行って下さ~~~~い!!!」

 私はそう言って、一臣様の胸をどんどん押して、隣の部屋においやった。


 し、信じられん。どうしたんだ。一気に一臣様のキャラが、スケベに変わっちゃってる。

 いや。今までも、時々セクハラ発言も、セクハラなこともしていたけど。


「ミ、ミニスカートはやめて、こっちの長めのパンツを履いて行こうっと」

 そう言いながら、私は着替えをした。

 ああ、それにしても、平常心が、一気にどっかに消えて行ってしまった。

 

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