表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第4章 ロマンもムードもない
48/195

~その8~ 一臣様のトラウマ?

 一臣様はまだ、バスローブだ。私は着替えをしようと隣の部屋に行くと、

「昨日と同じ服を着るのか?」

と聞いてきた。

「え、でも、泊まって仕事をするかもしれないって、みんな知っているし」


「あ、なるほどな」

「それに、着替えもありません」

「等々力がお前の家まで取りに行ってくれるだろ。化粧品はあるのか?」

「あ!ないです」


 そうだった。昨日顔洗ってすっぴんだった。

「お前最近、薄化粧だし、すっぴんでも大丈夫そうだけどなあ。ただ、鼻の頭やおでこ、てかりそうだよなあ」

「……」

 てかるって…。


「やっぱり、ブラウスと化粧品くらい、持って来てもらったらどうだ?俺も樋口が着替えを持って来る」

「そうなんですか?」

「ああ、突然泊まることになった時には必ずな」

 そうなんだ。


「じゃあ、そうします」

 すると、すぐに一臣様は携帯を取り出し、等々力さんと樋口さんに電話を掛けた。


「朝飯も買ってきてくれるか?ああ。俺はコーヒーだけでいい。そんなに腹減ってないから、弥生の分だけ頼む。多めにな。あいつ、大食漢だから」

「だ、誰がですか」

 隣で思わずそう言うと、携帯電話の向こうから樋口さんの笑い声が聞こえてきた。う…。樋口さんに思い切り笑われてるじゃないか。


 電話を切ってから、一臣様はにんまりとした顔で私を見て、

「樋口、お前のこと気に入ってるよなあ」

と言い出した。


「え?」

「そういえば、立川や小平、お前がいなくて寂しそうだぞ」

「亜美ちゃんとトモちゃんですか?私も会いたいです」

「ははは。メイド達に会いたいっていうやつも、初めてだよな」

 そうなのかな。私にとっては、メイドって言うより友達なんだけどなあ。


「バスローブ…」

「え?」

「お前が着ると、あれだな」

 なに。絶対にいいことは言わないよね。色っぽいわけがないし、セクシーでもなんでもない。


「どっこも色気を感じないよな」

 ガク~~~~。やっぱり。

 どうせね。わかっています。言われなくたって。それに、だんだん一臣様が何を言うかまで把握できるようになってきた。


「一臣様は似合いますね。セクシーで」

 なんとなく、ふくれながらそう言ってみた。すると、

「怖いな。そういうこと言うな。襲われそうで怖いぞ」

と、ドン引きされてしまった。


 ああ、そうだった。こんなこと言ったら、そんなこと言われるって、それもうすうすわかってた。 

「おい」

 落ち込んでいると、一臣様が声をかけてきた。もしや、慰めようとしてかな。


「俺はバスローブの時と、Yシャツの時と、どっちが色気があるんだ?」

「はい?」

「お前言ってたろ?Yシャツのボタン外している時、鎖骨が見えて色っぽいって」


 う。そうだった。そんなことまで暴露してしまったんだった。言わなきゃよかった。

「バスローブ着て、はだけてるのと、Yシャツではだけてるのと、どっちがセクシーなんだ?」

 なんだってそんな質問してくるのかな。


「おい」

 答えないでいると、しつこく聞いてきた。

「わ、Yシャツ」

「え?」


「一臣様、スーツ姿や、Yシャツが一番似合うから」

「………そうか」

 あれ?それだけ?また、気持ち悪いだの、怖いだの言わないの?


「お前はあれだな」

「はい?」

「何着ても色気感じないな」

 グッサリ。


「もっと、色気が出る下着を買ってこさせたら良かったな。昨日履いていたパンツだって、ベージュで色気も何もあったもんじゃなかったしな」

「セクハラ発言ですっ」

「え?どこが?」

「全部!!」


「いいだろ?フィアンセなんだから。他の女には言ったりしないぞ」

 なんでいっつも「いいだろ」で済ますんだ。う~~~~~。


「ブッ!」

 え?なんで笑ったの?

「お前、飼い主にほっておかれてふくれている犬か猫みたいだな」

「は?」


「あははは」

 なんでそうなるの。もう~~~~。


 朝から、なんなんだ。この会話。


 一臣様はテレビをつけてニュースを見だした。まだ、バスローブでソファに座っている。足も組んで余裕の顔だ。


 胸元がはだけてて、見えちゃってる。やっぱり、一臣様はどこかで鍛えているのかもしれない。お腹とか、腹筋かなりありそうだ。

 ドキン。

 そんなことを思ったら、思わず胸がときめいてしまった。


「なんでこっちを見て、顔赤らめたんだ?」

 うわ!テレビ観ていたのに、なんでばれたの?っていうか、そういうことにやたら鋭いよね?


「なんでもないです」

「バスローブはそんなに色気ないんだろ?」

「は?」

「Yシャツでいるより、安全だと思ったのにな…」


 それで聞いたわけ?どっちがより危険かを知るためだったとか?

「だ、大丈夫です。襲わないから安心してください」

「襲わなくても、うっとり見られただけで、寒気が走るんだけどな」

「な、なぜですか~~?」


「トラウマがある」

「え?」

「大学時代、いつもこそこそと影から俺を見ていたストーカーがいたんだ。目をうっとりさせていたかはわからない。何しろ瓶底みたいなメガネかけてたし」


 私じゃないか?それって!

「怖かったんだ。いつも視線を感じると、じいっと俺をそいつが見てて、たまににやって微笑むんだぞ。すげえ怖いんだぞ」


「それ、私ですよね?」

「ああ。それ以来、女にじいっと見られるのが怖くなった。トラウマだ。あの瓶底メガネのストーカーのせいだ」

「だから、私ですよね」

「ああ。思い出しただけでも、鳥肌が立つ。それも、そいつ、俺が吸ったたばこの吸い殻、持って帰ったんだぞ!信じられないだろ!」


 う…。だから、私ですよね…、それ。私がトラウマって、酷過ぎる。


「あの吸殻、どうしたんだと思うか?俺と間接キスするために持って帰ったのか?そういうこと考えただけで、ゾッとするだろ?」

 あ、本当に一臣様、鳥肌立ててる。


「く、口なんてつけていません」

「じゃあ、なんで持って帰ったんだ」

「おまじないに使っただけです?」

「お、おまじない?」

 一臣様が、思い切り顔を引きつらせた。


「高校の頃読んだ雑誌に書いてあったんです。好きな人が吸ったタバコを肌身離さず持っていたら、想いが通じて両思いになれるって」

「げ~~~。気持ち悪いっ!」


 え?

「そんなの信じたのか?じゃ、お前、肌身離さず持っていたのかよ?」

「はい。ハートの形の巾着袋作って、その中に入れて」

「聞かなきゃよかった。よけい怖い」

 なんで~~~?乙女心をどうしてそうも、踏みにじること言うのかな!


「そんなの、効果あるわけないだろ?まさか、今も持ち歩いているとか?」

「いいえ。アパートからの荷物の中に入っていなかったんです」

「良かった。きっと樋口が気持ち悪がって捨ててくれたんだ」

 グッサリ。なんだ、その言い回し。捨ててくれたって…。良かったって…。


「効果なかっただろ?」

「え?」

「俺に気持ち悪がられただけだろ?そんな、わけのわからないこと信じて、もう気持ち悪いことするなよな。頼むから」

「はい」


「お前!俺が寝ている隙に、わけのわからんもん飲ませたりしていないだろうな」

「ど、どんなものですか。それ」

「恋の媚薬とか言って、通販で売ってるような怖い代物だ」

「飲ませませんし、買いませんし、そんなの見たこともないです」


「あったら買って試しそうだよな」

「確かに」

「え?」

「いいえ!試しませんし、買いません!」


 もう~~。私を何だと思ってるんだ。魔女でもないし、ストーカーでもないのに。フィアンセなのに。

 絶対にフィアンセだなんて思っていないよね。いまだに、ストーカーだって思われているかもしれない。

 ドスンドスンドスン。あ、また岩が、何個も落っこちてきた。

 

 なんだって、2人で迎えた朝に、こんな落ち込んでなきゃならないんだ。

 ああ。迎えたも何も、ただ、添い寝して起きただけのことだし。ペットだし、私。いや、ペット以下かもしれない。きっと、一臣様、ランには私より優しくて、私より可愛がっていたかも。


 ドッスーーーーン。あ、最上級くらいの岩が…。頭上に…。


「一臣様、スーツの替えと、朝食とコーヒーお持ちしました」

 その時、樋口さんの声がインターホンから聞こえてきた。

「ああ、取りに行く」

「中にお持ちしますが」


 樋口さんがそう言うと、一臣様はちらっと私を見て、

「いい。弥生がまだ、バスローブなんだ。等々力が着替え持って来ていないから」

と、正直に言ってしまった。


「そうですか。わかりました」

 樋口さんがそう言ってインターホンを切ると、一臣様は部屋から出て行って、スーツと紙袋を持って戻ってきた。


「ほら。なんかいっぱい買って来たみたいだから食え」

「はい」

 一臣様はコーヒーを取り出し、それを一口飲んでから、隣の部屋にスーツを持って行って、着替えて戻ってきた。なぜか、Yシャツはぴっちり、一番上まで止め、しっかりとネクタイまでしている。


「ボタン開けてると、お前、飛びついてきそうで怖いからな」

「飛びつきません」

「いや、わかんないだろ?衝動的にっていうのも、あるからな。油断ならないよな」

 私って、いったい、なんなんだ。もう~~~~。泣きたい。


「おい」

「はい?」

「落ち込んでいるのか?」

「…はい」


 暗くじめっとソファに座っていたからか、そう一臣様が言って来た。そういうのにも敏感なんだな。

「落ち込んでいるところを悪いが、胸、思い切りはだけてるぞ」

「え?!」

 うわ!本当だ。バスローブのひもが緩んでいた。気づかなかった!


「上から見たら丸見えだった」

「胸がですか?!」

 ぎゃあ。丸見えって?私、ブラジャーも外していたんだ。昨日のブラ、やけに窮屈で。

「ああ、乳首が丸見えだった」


 ええええええっ。

 真っ赤を通り越し、私の顔は青くなったかも。慌ててバスローブを直して、しっかりとひもを締め直した。


「よかったな。俺で」

「よくないです」

「樋口を中に入れていたら、樋口にお前の乳首見られていたんだぞ」

 うぎゃ。そうだ。危ないところだったんだ。


「やっぱり、部屋の中に入れないでよかったな」

「はい」

 ん?でも、俺でよかったなっていうのは、どうなの?


「だけど、一臣様に見られたんですよね」

「別にいいだろ?」

「い、いいわけないです」

「まだ言ってるのか?もう、お前の裸見ているんだから、何度見たって同じだ」


「同じじゃないです~~」

「それにフィアンセなんだからいいだろ?」

「よくないです。恥ずかしいです。それも、こんな胸で。もっと、大きくって、自慢できるような胸なら見せても落ち込まないけど」


「なんだ、それ」

 そう言って一臣様は大笑いをした。

 笑うところ?今のって。


「俺にはいいけど、他の奴には絶対に見せるなよ」

「見せる機会なんてないですから」

「わかんないだろ?バスローブ着ていたってお前、はだけちゃってるくらいなんだから」

「バスローブなんてそうそう着ません」


「だから、ここでもし、また着る機会があっても、誰にも見せるなって言ってるんだ。俺にだけにしろよな?」

 一臣様にはいいわけ?それが一番恥ずかしいような気もするけど。でも、もう見られてはいるんだよね。しっかりと。


 黙って俯いていると、

「早く朝飯食えよ」

と言われた。

「はい」


「そんなに落ち込むな。お前の胸、捨てたもんじゃないから安心しろ」

 捨てたもんじゃない…って?

「俺はあんまり巨乳って好きじゃないし。まあ、あんまりないのも寂しいけどな。お前くらいがちょうどいい。サイズ的にも形的にも、色も俺好みだし」


 は?サイズ?形?い、色?!

「お前の胸見て、がっかりなんかしていないから、だから、安心して朝飯食え」

「………」

 微妙。喜んだり安心することかな、今の。「わあい、よかった」って、手放しに喜べないよね。


 ただ単に、一臣様のスケベ発言を聞いただけのような気もする。

 っていうか、そんなこと思って私の胸見てたの?いつ?あ、お風呂で寝た時。


 ぎょえ~~~~~~~~~。まさかと思うけど、まさか、じっくり見られたわけじゃないよね?裸。

「あの」

「なんだ」

「お風呂で寝ちゃった時、タオルで拭いてくれたんですよね?」


「ああ」

「……ぜ、全身ですか?」

「ああ」

 うっわ~~~~~~~~~~~~~~~~~。今さらだけど、恥ずかしさがこみ上げてきた。


「あの」

「なんだ。まだ質問があるのか」

「はい。それって、適当にぱっと拭いただけですよね?」

「いいや。ベッドが濡れるのは嫌だからな。きちんとしっかりと拭いたぞ」


 い、いや~~~~。聞きたくなかった。でも、聞いてしまった。

「何を今さら、赤くなっているんだ。もうだいぶ前のことだろ?」

「でででででも」

 でも~~~~~っ!


「だから、何回も言ってるだろ?胸見られたって、ケツ見られたって、触られたって、今さらだから恥ずかしがっても無駄だぞ」

 うわわわわ。ストーカーみたいに私を怖がっている人の発言とは思えない。絶対に今の一臣様の発言のほうが怖いってば。


「いいだろ。いつかはどうせ、俺に抱かれるんだから」

 ぎゃあ。また言った!

「なんなら、今、抱いておくか?」

「ひえ~~っ!」


 嘘でしょう!!嘘だよね?冗談だよね?

「冗談だ。そんなにまじに受け取って、顔赤らめるな。怖いぞ」

 ガク~~~~~~~~~~~~~~~~~。


 脱力…。

 ああ、もしかして、もしかしなくても、私はずっとからかわれているだけかもしれない。


「はははは」

 ほら。笑ってるし。

 

「早く飯食えよ。始業の時間にも間に合わないぞ。会社のビル内にいて遅刻ってありえないだろ」

「………はい」

 もう、1日分の力を使い果たしたくらい、脱力感でいっぱいだ。ガックリ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ