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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第4章 ロマンもムードもない
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~その4~ 一臣様の秘書

 家に帰ってからは、必ず琴の練習をした。父や祖父、祖母はそんな私を温かい目で見守っていてくれた。

 

 翌日、会社に行くと葛西さんの席の隣に細川女史が座っていた。秘書課のみんなは初めて会う細川女史に緊張しているのか、やっぱり静まり返っていた。

 葛西さんはいなかった。大塚さんもまだ来ていない。始業時間ぎりぎりに来るのかもしれない。


 私のあとから出社した江古田さんは、私の席の前に来て、

「おはようございます。あの…、今日から細川さんがいらしているんですね」

と小声で緊張した顔つきでそう言った。


「そうですね」

 なんだか、私まで緊張してきてしまった。


 始業の時間になると、葛西さんと大塚さんが来て、席に着いた。そこに樋口さんも現れた。そしてみんなに、樋口さんから細川女史を紹介して、細川女史はただ、

「よろしくお願いします」

と一言挨拶をしただけだった。


「では、わたくしは15階にいますので」

 樋口さんは早々に秘書課を出て行った。残されたものは、細川女史から一人一人細かい指示を与えられ、ある人は、役員会議の準備、ある人はパソコンでデータ入力、ある人は専務のもとへと行かされた。


 いつも、専務のお供で外回りをしていた湯島さんと豊洲さんは今日はオフィスに居残り。湯島さんは、役員会議の準備に回された。そして豊洲さんは、データ入力というとても地味な仕事を任された。


「では、わたくしも役員会議のほうの準備に行きますので、各自指示に従って仕事をしてください」

「はい」

 細川女史が部屋から出て行ってから、豊洲さんはいきなり上着を椅子の背もたれにかけて、

「あ~~あ、何だって俺が、こんな事務みたいな仕事しないとならないんだよ」

と文句を言いだした。


「文句言わない。私もあなたもまだ秘書課に配属されて、ちょっとしかたっていないんだから、こういった仕事を任せられても仕方ないでしょ」

 江古田さんがそう言った。江古田さんもやっぱり、パソコンでの入力が任された仕事だった。


 葛西さんは、残された時間、今までに任されていた仕事を片づけるのが忙しいのか、ずっとパソコン画面とにらめっこをしていて、大塚さんは、自分のデスク回りの片づけをしていた。


「上条さん、これを15部ずつコピーしてきて」

 私は役員会議の資料を揃える仕事を任された。それを私に任せてきたのは、今まで一回も話したことのない三田さんという人だ。秘書課は今年で4年目なんだそうだ。


「はい」

 三田さんに渡されたものをコピーしに行った。そして戻ると、

「上条さん。もたもたしないで!そのコピーしたものを、今度はホチキスで止めて!」

と、また三田さんは早口で言ってきた。


 三田さんは葛西さんのお気に入りだったようで、よく葛西さんに仕事を任されていた。時々一臣様のスケジュール管理の仕事まで任されていたようで、たまに三田さんに一臣様も仕事を言いつけていたようだった。


 みんな一臣様を怖がっていたけれど、この人は、仕事を任されるのを喜んでいた。大塚さんとは仲がよくなかったようで、江古田さんが言うには、この秘書課は大塚派と、三田派に分かれていたようだ。そのどちらにも入っていなかったのが男性社員と、江古田さんだ。


 大塚さんよりも地味目だが、三田さんも可愛らしい顔立ちをした人だ。いつも綺麗な色のスーツを着て、私よりも短いスカートを履いている。


 でも、こういうのを脚線美っていうんだろうなっていう、綺麗な脚をしていて、これならミニスカートを履くのも頷ける。

 それに比べて私の足は、本当に魅力がない。なのに、何だって一臣様は、あんなに怒ったのかなあ。海老名本部長がお前の足を見ているって、やたら怒っていたっけ。


 三田さんみたいな綺麗な脚だったら、誰でも見惚れそうだし、男の人もいちころだろうな。

 そうだよ。私のももなんて、触りたいなんて思わないよ、誰も。でも、一臣様、触って来たなあ。


 ……って、今はホチキス止め!つい、昨日のことを思い出しちゃった!

 顔、赤いかも。ちょっとほっぺ熱いし。


「上条さん!まだなの?さっさと終わらせて。私の方はもうできたわよ。急いで会議室に持って行くんだから」

「あ、はい」

 ちょっと手を止めてしまっていたら、すぐさま三田さんが怒ってきた。この三田さんも怖い。なんだって秘書課の女性はこうも気の強い人ばかりなんだ。


 資料を作り終え、私は三田さんと一緒に会議室に行った。会議室には、プロジェクターを用意したり、机を並べ替えている湯島さんの姿があった。

「湯島さん一人ですか?」

 私が聞くと、湯島さんは、

「さっきまで、一臣氏と細川女史もいたんだよ。すっごく緊張した」

とまだ、緊張している様子でそう言った。


「一臣様、いたんですか」

 会いたかったなあ。そう思って、ぼそっと呟くと、

「ちょっと。上条さん、早く資料を並べて」

と三田さんに怒られた。

「あ、はい」


 資料を全部机に並べ終えた頃、

「ああ、細川女史。このデータも必要だから、準備しておいてくれる?」

と言いながら、一臣様が会議室に入ってきた。

「はい、かしこまりました」

 細川女史はそう言うと、

「湯島さん、仕事よ。大至急このデータをプリントアウトして」

と湯島さんにUSBメモリーを渡した。


「はい」

 湯島さんはもっと緊張した感じで返事をして、慌てて会議室を出て行った。

「一臣様、資料並べ終えました」

 一臣様のそばに行って、三田さんがそう言った。


 ?なんで一臣様に?細川女史が上司なんだから、細川女史に報告することだと思うんだけど。

 すると、一臣様は片眉をあげ、

「資料の一部は弥生が持っておけ。会議はあと30分で始まるから目を通せ」

と、三田さんはスルーして、私に向って言って来た。


「え?」

 30分で、この何十枚もある資料を見るのか…。

「上条さんが?なんで?」

 三田さんが小声で聞いた。でも、一臣様は何も言わず、

「役員会議には樋口と細川女史にも出席してほしいんだが」

とそう細川女史に向かって言った。


「はい、かしこまりました」

「それと、お前もだ」

 私?!


「あの、一臣様。なぜ、上条さんが」

 三田さんがまたそう言った。すると、

「しつこいな。こいつはのちに俺付きの秘書になるからだ。あれこれ詮索するなよ」

と、かなりきつい口調で一臣様は答え、

「三田。お前はとっとと秘書課に戻って、湯島に頼んだ資料、手伝って来い」

と、これまた怖い顔をしてそう言った。


「はい」

 三田さんは、すぐに会議室を出て行った。


「ほら、弥生。15階に行くぞ。そこでじっくり目を通せ」

 一臣様に言われ、私は一臣様と一緒に15階に行った。


 受付には樋口さんがいた。パソコンを見たり、電話を受けたりと忙しそうだった。

 樋口さんがいるデスクの前を通り、私と一臣様は一臣様の部屋に入った。


 一臣様と二人きりだ。ちょっと今、テンション上がった。今日の一臣様もかっこいい。紺色のスーツにエンジのネクタイだ。

 

 バサッと一臣様は上着を脱ぎ、ソファの背もたれに上着をかけた。あ、今日はシャツ、ストライプなんだ。それも似合うなあ。

 きゅきゅっと、軽くネクタイを一臣様は緩めると、ソファに腰かけた。


「弥生、しっぶ~~い日本茶、淹れてくれるか」

「え?はい」

 あれれ?でも、私、資料見ないとならないんじゃ。

 だけど、言われたとおりに渋いお茶を淹れて、テーブルに持って行った。


「ああ、サンキュ」

「お疲れなんですか?」

「いや。会議で寝そうになっても困るからな」

「眠いんですか?」


「いや。ちょっとぼ~~っとしているが」

「もしかして、夜、眠れてないんですか?」

「ああ。お前がいないから、眠れてないぞ」

 そうなんだ。ちょっと顔色悪いもんなあ。もうずっと寝れていないのかな。


「午後、時間が空くんだ。1時間半か、2時間くらい」

「え?」

「その時間は何もいれず、ここで仮眠を取ろうと思っている」

「それがいいです。ちょっとでも休める時に休んだ方が」


「だから、お前、午後も来いよな」

「え?」

「細川女史には言っておくから。お前が横にいたら、爆睡できるからな」

「……はい」


「ただし、1時間半で起こせ。わかったな」

「はい!」

 一臣様は私が淹れた渋いお茶を飲んで目を細め、

「目、覚めるよなあ、このお茶」

とそう呟いた。


 私はおずおずと一臣様の隣に座り、資料を読み始めた。すると、一臣様はずずっとお茶をすすり、

「ああ、斜め読みでいいぞ。どうせあとで、資料の説明だとか言って、読むんだろうしな」

と緩い感じで言ってきた。


「え?でもさっき、目を通せって」

「細川女史も三田もいたからなあ」

「…え?」


「まさか、渋いお茶を淹れに俺の部屋まで来いとは言えないだろ?」

 それが目的だったのか。


「なんか落ち着くな。日本茶すすってると。じいちゃんになった気分だな」

「え?」

「隣にはペットもいるし、あ~~~、落ち着く」

 ペット。私だよね…。


 一臣様は湯飲み茶わんをテーブルに置くと、ソファの背もたれにもたれかかり、やけにゆったりとし始めた。あ、本当に落ち着いちゃってるみたいだ。もうすぐ会議なのになあ。


「役員会議って退屈なんだよ」

「え?」

「重役会議はそれなりに、まだ面白みもあるけど、役員会議ってのはじいちゃんたちばっかり集まって、報告書とか、資料とかをただただ読んで終わるんだ」


「そうなんですか?」

「それも、いろんな数字とか、結果報告とか、そんなもんばっかりで、クソ面白くもない」

「……」

 そうなんだ。


「あ~~~。ばっくれたい。役員会議はじいちゃんだけで集まってやりゃいいのに。なんで俺が毎度毎度でないとならないんだ」

 ばっくれたい?なんか、一臣様、高校生みたいだ。


「そう思わないか?弥生も。報告書や資料を見たらわかるんだから、集まる必要ないだろ?あいつら、絶対に暇なんだよ。ああやって、役員会議っていうのを開いて、いかにも仕事してますって顔してるけどさ、そのくらいしか仕事がないんだ」

 あ~あ。そんなことまで言い出しちゃった。でも、なんか、愚痴っている一臣様も愛しいかも。


 キュン。

 って、胸キュンまでしちゃった。だって一臣様の顔も可愛いんだもん。むくれちゃってて。


「渋いお茶飲んだのに眠くなってきた。弥生が横にいるからか?」

「え?」

「ああ。ここで寝ていようかな。頭痛いとか言って」

 うそ。仮病使ってまで?でも、それはどうかと。


「一臣様、そろそろ会議の時間ですが」

 その時、インターホンから樋口さんの声がした。

「ああ。わかった。弥生と会議室に向かうから、樋口、先に行ってていいぞ」

 一臣様はそう言って、ソファから立ち上がり背伸びをした。


「くそつまらん会議に出てくるか~~~。お前も聞いてて寝るなよ」

「え?はい」

「じゃあ、行くぞ。その資料は忘れず持って行け」

「はい」


 一臣様は上着を羽織り、ネクタイをきゅきゅっと締め直すと、グイッと私の腰に手を回し部屋のドアを開けた。

 あれれ?ここでも、エスコートしてくれるの?まさかね。

 だけど、私の腰に手を回したまま歩いている。


 そしてエレベーターの前に行くと、他の役員もいて、ようやく一臣様は私の腰から手をどかした。

「やあ、一臣君。その子は新しい秘書かな?」

「はい」

 誰かな。背の低い頭の禿げたおじいちゃんだけど。役員の誰かだよね。


「若い子だね。まだ、入りたてかな?いいねえ、一臣君には何人も秘書がいて。どうかな?一人ぐらい私のところに回してもらえないかな」

「は?」

「その子なんかいいね。若くて」


 なんか、このおじいちゃん、言い方とか嫌らしくない?

「若いのがいいなら、いますよ。豊洲っていう今年2年目の秘書が。なんだったら、まるまる一日、相談役のお供につけさせますが」


「本当かい?それは嬉しいなあ。で、どんな子かな?その子みたいにぴちぴちかな?」

 ぴちぴち~~~?何それ?!

「ああ。もう、ぴちぴちのフレッシュな秘書ですよ。きっと、カバン持ちから、肩揉みまでしてくれると思いますよ」

 うわ。一臣様、そんな冗談言ってる。だいたい豊洲さんって、男だし。このおじいちゃん、女の秘書だと勘違いしてるよね。


「そうか。ははは。すまないね」

 おじいちゃんは嬉しそうに笑っている。あ、おじいちゃんじゃない。一臣様、相談役って言ってたっけ。


 そのおじいちゃん、じゃなく、相談役と一緒にエレベーターに乗り、14階に下りた。一臣様は相談役のすぐ隣に立ち、私をエレベーターの壁際に追いやった。


 あ、もしかして、このおじいちゃんが私にくっつかないよう、間に入ってくれたのかな。なんて、そんなの私の勝手な思い過ごしかもしれないけど、そういうことにしておこう。


 14階に着くと、一臣様は、相談役のおじいちゃんを先に会議室に行かせ、エレベーターの前で、携帯を取り出し、何やらメールチェックをし出した。


 というのは、演技だったらしい。相談役が会議室に入って行くのを見てから一臣様は、さっさと携帯を内ポケットにしまい、

「おい。弥生。ああいうエロ爺に気をつけろよ」

と私の耳元で囁いた。


「は?」

「エロ爺だ。何がぴちぴちだ。弥生のどこを見て、ぴちぴちだなんて言ってるんだ」

 だよね。私、どこもぴちぴちでもないし、フレッシュでもないもんね。


「足か、胸か、それともケツか?」

「………え?」

「とにかく、スケベな目でお前のことを見ていたってことだけはわかった。ああいう爺には近づくなよ。絶対に部屋の蛍光灯をかえてくれなんて言ってきても断れ。あと、秘書として着いてきてくれなんて言っても、断固として断れよ」


「…は?」

「秘書課は俺や、社長、副社長の秘書だけしているわけじゃないんだ。役員たちからの要請があれば、会議や、接待、たまには出張にも秘書課の人間を連れて行ったりするんだ」

 そうなんだ。あ、じゃあ、ずっと湯島さんや豊洲さんは専務だけじゃなく、相談役だったり、他の役員たちにもくっついていっていたわけか。


「出張なんかは、必ず男をつけさせている。前に問題になったことがあってな。秘書課の若い女性に手を出そうとしたエロ爺がいたんだよ。まあ、公にはなっていないけどな」

「う、うそ」

 手を出す?ゾゾ~~~。それ、思い切りセクハラ?


「ああ、いい。お前は俺につく秘書なんだから、細川女史にもしっかりと他の奴にはつかせないように言っておくから。とにかく、俺以外からどんな要請があったとしても、断れよ」

「…はい」


「それにしても、何がぴちぴちだ。あのエロ爺。今度弥生のことをそんな目で見たら、相談役辞めさせてやる」

「え?」

「くそ」

 なんか、怒ってる?一臣様。


 ……。ヤキモチなわけないよなあ。まさかね。


 一臣様は会議中も、苦虫をつぶしたようなそんなムスッとした顔をしていた。私は会議室の一番隅に、樋口さんと細川女史と一緒に椅子に座っていた。


 会議が終わり、役員たちが椅子から立ち上がったり、伸びをしたりしていると、横にいた細川女史が私に耳打ちしてきた。

「一臣様、ご機嫌悪い?なんか、上条さん、怒らせた?」

「え?いえ。私じゃなくて、相談役が」


「相談役?」

「えっと。さっき、エレベーターが一緒になって、私のことをぴちぴちの若い子って言ってきて」

「それで一臣様、怒ったの?」

「はい。相手の人には直接言わなかったですけど、あとでグチグチと怒りだして」


「なんて?」

「い、言ってもいいんですか?」

「大丈夫。一臣様にも言わないから。なんて言って怒ってたの?」

「え、エロ爺って言って。私にああいうエロ爺には気をつけろって」

「ブッ!」


 思い切りふきだしたのは、私の反対側に座っていた樋口さんだった。小声で話していたのに聞こえてたんだ。

「そんなこと一臣様が言ったの?」

 細川女史は驚いたように目を丸くした後、くすくすと笑いだした。


 ああ、なんか、やっぱり言っちゃやばかったかなあ。

「上条さん、面白いわね」

 私?なんで私?


「ねえ、樋口さん。上条さんが現れてから、一臣様は変わったわね」

「はい。お二人でいる時も、楽しいですよ。見ていて」

「そうなの?へ~~~」

 細川女史はそう言って目を輝かせた。


 樋口さん。なんでまた、そんなこと言っちゃうのかなあ。それも、楽しいって何?なんか、面白がってる?


 一臣様も席を立つと、私のところに来て、

「おい、寝ないで起きていたか?」

と聞いてきた。

「はい。ちゃんと起きて聞いていました」

「えらいな、お前」

「一臣様は眠っちゃったんですか?」

「い~や。面白くもない会議に出ても、寝れないくらい重症だ」

「え?」


「だから、早くに仮眠を取りに行くから、お前も来い。あ、細川女史、こいつ、午後の3時くらいまで借りるから」

「はい。どうぞ」

 細川女史は簡単にそう言って、樋口さんと会議室を片づけだした。


「あ、私も片づけます」

「お前は俺と15階に来るんだよ」

「え?でも…。お昼は?」

「あ、そうか。どっかで食うか」


「私、お弁当があるから、それを食べないと」

「お前が作ったのか?」

「はい」

「たまには、高い弁当でも食え。樋口に買って来てもらうから」


「え?でも、私にはお弁当が」

「それは俺が食う」

「…え?」

「ロッカーにでも入っているのか?それを持ってとっとと15階に来いよ、わかったな。樋口!弥生に弁当買ってきてくれないか。お前と細川女史の分も一緒にいいぞ」


「はい、かしこまりました」

 樋口さんはすぐに会議室を出て行った。

 細川女史は会議室の電話から、

「会議終ったから、片づけに来て」

と秘書課の誰かを呼んでいた。


 いいのかな。私、片づけなくて。

「弥生!早く弁当持って来い!」

 私がぼけっと佇んで考えていたら、会議室のドアの前で、一臣様が私にそう怒鳴ってきたので、私は慌てて会議室を出て、ロッカー室に向かった。


 廊下では三田さんと、湯島さんとすれ違い、

「ちょっと、仕事ほおってどこ行くの?会議室の片づけは?」

と、またきつい口調で三田さんに言われてしまった。


「え?あの…」

 なんて答えるか躊躇していると、すぐ後ろから、

「上条には、ある仕事を頼んだんだよ。ほら、とっとと行って来い!」

と一臣様がそう怒鳴ってきた。


「はい」

 私はまたロッカー室へと走りだした。 

 内心、これからしばらくの時間、一臣様と過ごせることを喜びながら。



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