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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第4章 ロマンもムードもない
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~その3~ ロマンチックにならない

 とっても静かな中、一臣様は書類を見ている。私は、一臣様が目を通し終えた書類を眺めていた。すぐ隣に一臣様がいて、幸せを感じながら。


 グ~~~~~。ギュルル~~。

 ああ!なんだって、こんな時に鳴るの?私のお腹!


「ああ、もうそんな時間か」

 一臣様はそう言いながら、書類を片づけだした。

 え。今、時計も見なかったし、なんにも時間のわかるものを、一臣様は見ていなかったよね。


 書類を片付け終えてから、一臣様はデスクの上の時計を見て、

「すごいなあ。ちょうど7時だ。お前の腹は正確だな」

と言われてしまった。ああ、私の腹時計の音で、仕事を終わらせたのか…。


「さてと、今日は何が食いたいか?」

「え?!今日も一緒に夕飯食べられるんですか?!」

「ああ。屋敷に帰ったって、おふくろと一緒に食べるのは窮屈だしな。お前といたほうが退屈しないで済むからな」


「……」

 どうも、一臣様の言葉って、いつも棘がある感じがするけど。それか、一言多い。でも、一緒にいられることを素直に喜ぼう!


「じゃあ、えっと。昨日は和食だったから…」

「イタリアンにでも行くか?」

「え?」

「パスタやピザがうまいところがあるぞ。そこにするか?」


「はいっ!!」

「ほんと、お前って、食い意地張っているよな」

「ち、違います~~!一臣様と一緒にいられるのが嬉しいんです!」

「出た。ストーカー発言」


「ストーカーじゃありません!」

「ははは」

 一臣様は笑いながらデスクのインターホンを押して、

「樋口か?イタリアンの例の店、今から席を予約できるか聞いてくれ」

と、そう言った。


 例の店だけでわかってしまうのか。やっぱり、他の女性とも行くお店なのかな。

 あ~~~。最近、そういうことばっかり考えてる。嫌だなあ。私のこの性格。別に、他の女性と行った店だっていいのに。


 それから二人で、役員専用のエレベーターに乗った。その時、私に一臣様はカードキーの使い方を教えてくれた。

 一臣様は一階のボタンを押した。


 エレベーターでも2人きりだなあ。一臣様のコロンの香りが漂っていてドキドキしてくる。

 一臣様、今日のスーツもネクタイもかっこいいなあ。一臣様って、時計もかっこいいのをつけているし、結構オシャレだよね。


 女物の服だって、よく私に似合うものを選べるよなあ。センスいいんだろうなあ。

 うっとり。


「気持ち悪いぞ、その目」

「え?!」

「今、うっとりとした目で俺を見ていただろう?」

 酷い。なんでそこで、気持ち悪いって言われちゃうの?


「はい。一臣様が今日もかっこいいって、見惚れていました!」

 開き直ってそう言ってみた。すると、一臣様は眉をぴくっと動かし、

「怖いぞ」

と、一言、少し私から離れてそう言った。


 ガックリ。2人きりでのエレベーターの中も、まったくムードないよね。 なんでかなあ。私とだからなのかなあ。いい雰囲気かもって思うと、いつもこうやってからかわれたり、嫌味を言われたりしちゃう。


 エレベーターは一気に一階まで下りた。そして、エレベーターを降りたちょうどその時、一臣様の携帯が鳴った。


 一臣様は着信の番号を見てから、片方の眉をあげ、電話に出た。

 誰なのかな。ドキドキ。

「もしもし?ああ、上野か?」

 ビクン!上野さん?!


 なんで?なんで?上野さんから電話?上野さんは一臣様の携帯の番号知っているの?こうやって、いつも電話をかけて来るの?!


「今日は駄目だ。それに、もう帰りにどこかに寄ることもできないって言ってあるよな?」

 一臣様は、クールな声でそう言った。

 もしや、上野さんからの誘いの電話?


「それに、なんだって、電話なんかしてきたんだ。電話ももうするなと言ってあるよな?俺の番号も削除しろと…」

 え?

「俺はもう、上野の電話番号もメアドも消したぞ。お前もさっさと消せよな」

 そう言うと、簡単に一臣様は電話をブチッと切ってしまった。


「一臣様」

 役員専用の出入り口で、樋口さんが待っていた。

「予約取れたか?樋口」

「はい。窓際の席を予約しました」

「そうか」


 それから、役員専用の出口のすぐ前に止まっていた等々力さんの車に乗り込んだ。

「樋口はまだ、仕事があるのか?」

「はい」

「じゃあ、今日は樋口、迎えに来なくていいぞ。等々力が弥生を送ってから、その車で屋敷に帰るから」


「そうですか。そうしてくださるとありがたいです」

 樋口さんは、等々力さんの車が出るまでビルの前で私たちを見送っていた。

「樋口さん、お忙しいんですね」

「ああ。秘書課もいろいろと変革していかないとならないしな」


「今日はイタリアンですか」

 いきなり、等々力さんが聞いてきた。

「はい。あ、等々力さんも食べたいですか?じゃあ、ご一緒に」

「いいえ。わたくしは、お二人が召し上がっている時に、他のお店で食べてまいりますので」


「え?でも」

 なんだか、申し訳ない気が…。

「お二人のお邪魔はしませんよ。せっかくのデートなんですから、楽しんでください、弥生様」

「……デート?!」


「はい。良かったですね。ずっと一臣様と会えなくて、ふさぎこんでいましたもんね、弥生様」

 うひゃ~。て、照れる。顏が火照った。でも、きっと一臣様は嫌がってるよね。

 こわごわ一臣様のほうを見た。すると、一臣様は優しい目でこっちを見ていた。


 ドキン!

 目が合った。するとすぐに一臣様は、反対のほうに顔を向けてしまった。

 ああ、顔が見れなくなっちゃった。


 大きなビルの駐車場で等々力さんは車を停めた。

「じゃあ、等々力、帰る時に連絡する」

 そう言って車を降りると、一臣様は私の背中に手を回した。


 ドキン。ちゃんとエスコートしてくれるんだ。なんだか、こういうのもすごく照れちゃう。

 不思議だな。トミーさんが背中に腕を回してきた時には、なんだか嫌な感じもしたのに、一臣様だとこんなにドキドキしちゃう。


 エレベーターに乗った。そして最上階で降りた。

「ここから見る夜景も綺麗だぞ」

 一臣様がそう言って、お店に入って行った。


「緒方様、お待ちしていました」

 店長らしい人がやってきて、一臣様と私を窓際の夜景がとてもよく見える席に案内してくれた。


「わあ!夜景が綺麗」

「だろ?」

 一臣様は口元に笑みを浮かべて、それから椅子に腰かけた。

  

「ありがとうございます」

 私は椅子を引いてくれた店員さんにお礼を言って、椅子に腰かけた。


「本当に夜景が綺麗ですね…。なんだか、ロマンチックですよね。店内の明かりも落ちてて、それにテーブルにはキャンドル」

「イタリアンっぽくない店だろ?でも、出てくるものはピザやパスタだ」


「緒方様。お飲み物はどうなさいますか?」

「ああ。俺だけビールをもらう。弥生は…、ノンアルコールのビールあるよな?」

「はい、ございます」

「じゃあ、それで」

「かしこまりました」


 ボケ~~~。そんな一臣様と店員の会話をぼ~っと聞きながら、私は一臣様をうっとりと見ていた。なんで、こういうオシャレなお店が似合っちゃうんだろうなあ、一臣様って。

 絶対に居酒屋とか似合わないよね。酒飲みまくって、ネクタイ頭に巻いて踊っちゃう…なんておじさんにはならないんだろうなあ。


 言葉遣いはけしていい方じゃないと思うけど、立ち振る舞いはとっても上品だ。姿勢もいいし、仕事をしている時には足を組んだりするけど、こういう席ではそんな座り方もしたりしない。


「気持ち悪いぞ」

「え?」

 ぽわんとしていた私の周りの空気が、パチンとはじけた。


「うっとりと見つめるな。怖いから」

 また、言われた…。そんなに気持ち悪いのかなあ。私って…。


 ドヨン。あ、落ち込んだ。でも、目の前に一臣様がいて、一緒に食事ができるんだから、落ち込んでいたらもったいないよね。


「お前って、男と付き合ったことがなかったんだっけ?」

「はい」

「じゃあ、デートをしたこともないのか」

「はいっ」


「自慢するなよな。自慢できることじゃないだろ?」

「いいえ。一臣様以外の男性とは、お付き合いなんてする気全くなかったし、ずっと一臣様一筋だったから」

「ストップ。それ以上言うな。鳥肌が立った」

 グサ…。


 なんで~~?!


「俺に一筋で、だから男と付き合わなかったわけじゃなくて、そう言う以前に全く男から相手にされなかったんじゃないのか?」

「………」

 う。それ、図星かもしれない。


「高校の頃は、まだ俺と婚約していたわけじゃないし、男と付き合ったって問題はなかったわけだろ?」

「女子校に行っていました。それも、寮に入っていたし、男の人と会う機会も本当になかったし」

「…なるほどな。お前って、ある意味、箱入り娘だな」

「え?」


「世間知らずなわけだ…」

「そんなことは…」

「男と付き合ったことないんだろ?じゃあ、男のことはまったくわからないだろ?」

「………。お、男友達がいなかったわけではないので」


「え?いたのか?男の友達が?」

 あれ?一臣様の片眉があがった。それに、目が真剣?

「えっと。下宿先の住人とか。みんな、仲良かったので」

「…一緒に酒飲んでつぶれてたっていう住人か。お前、そいつらに、飲んで寝ている隙にやられなかったのか?」


「や、やられる?」

「だから、手を出されなかったのかって聞いてるんだ」

「まさか!ないです、そんなこと」


 そこにビールが運ばれてきた。一臣様はビールをググっと飲むと、

「は~~~~~あ」

と、溜息をついた。


「どうだかな。記憶すっ飛んでいるんだから、わかんないじゃないか」

 ぼそっと一臣様はそう言うと、私をじろっと睨んだ。

「な、ないです。ありえないです。私、みんなに友達とは思われていたけど、女性として意識されていなかったと思うし」


「ああ、瓶底メガネでひっつめ髪の時か」

「はい」

「お前みたいなのを相手にするような物好き、いなかったってわけか」

 グサ~~~~。だから、一臣様はなんだっていつも、傷つくようなことを平気で言うのかなあ。


「そうです。それにみんな、あんまり女性とお付き合いすることに興味を持っていませんでしたし」

「どういうことだ?ああ、みんな、祐さんみたいに男が好きだったとかか?」

「いいえ。一人の人は、3次元の女性に興味がなかったんです」


「…ってことは、あれか。アニメオタクとかか?」

「アニメやゲームが大好きな方で。私もいっぱい面白いアニメ、観させていただきました」

「……。他の奴は?」


「もう一人の人は、アイドルが大好きで、私も一緒にDVDを観させていただきました。それにうちわや、ハッピを作るのもお手伝いしました。私、裁縫得意だし、とっても喜んでくれていました」

「ああ、そう…。で、あとの奴は?」


「もう一人の人は、東大に行っているとっても頭のいい方で」

「へえ。そいつは何に興味があったんだ」

「物理学とか」


「…物理学?」

「はい。部屋にはずらっとそういう本が並んでいて、たまに実験とかお手伝いしていました。面白かったですよ。説明されても難しすぎて、よくわかりませんでしたけど」


「……ああ、そう。物理学に興味があって、女性には興味が持てないやつだったのか?」

「はい。全くと言っていいほど、興味がないと言っていました」

「なるほどな。そんなやつらに囲まれていたのか」

「はい。皆さん、個性も違えば、興味のあるものも違うので、みんなで集まってお話しすると、いろんな話が聞けて面白かったんです」


「で、お前はどんな話をしていたんだ?」

「私はおもに…。武道家の精神の話…とか」

「その話を俺にするなよ。まったく興味ないからな」

「はい…」


 一臣様はビールをまたグビッと飲むと、

「そうか。そういうやつらだったら、安心だな」

とボソッと呟いた。


「安心?」

「なんでもない。それより、ほら、サラダがやってきたぞ。あと、でっかいピザも」

 そう言って一臣様は私の後ろを指差した。


 振り返ると、本当だ。トレイにサラダと大きなピザが乗っかっている。

「わあ!美味しそう~~~」

 ワクワクしながらそう言うと、

「やっぱり、食い意地張ってるじゃないか…。絶対にお前の場合、花より団子だな」

と一臣様はそう言って、はははと笑った。


 サラダも、ピザも、パスタもめちゃくちゃ美味しかった。私はぺろっとそれらをたいらげた。一臣様は、ビールをおかわりして、料理はピザを一切れと、サラダとパスタも私よりも少ない量を食べただけだった。


「あの…。お腹空いていないんですか?」

 私が聞くと、一臣様は、

「俺は酒飲む時には、基本、そんなには食べないんだ」

とそう答えた。


 そうなんだ。だから太らないのかな。でも、がりがりに痩せてるわけでもなく、けっこう筋肉もついているみたいだけど。ジムとか通っているのかなあ。


「お前はよく食うな。それに、8時間は寝るんだっけ?そりゃ、健康的に肉がつくわけだ」

 グッサリ。それ、褒め言葉じゃないよね。

「ダイエットした方がいいですか?」


「別に。無理なダイエットをして痩せても、綺麗にはなれないぞ。リバウンドするしな。でも、祐さんに聞いてみろ。綺麗に痩せられる方法も教えてくれるかもしれないぞ。あ、それで思い出した。お前、エステにも通わないとならなかったな。毎日、こんなに食ってたら、もっとぶくぶく太っちゃって、婚約パーティで着るドレスも着れなくなるな」

「…え。そ、そうですよね」


 そうだよ。バクバク美味しいって食べてる場合じゃないんだよ。一臣様の誕生日パーティだってあるんだし、他の素敵なお嬢様に負けないよう、綺麗になるんじゃないの?弥生。


 ………。

 負けないようにっていうのは、無理かな。どう頑張っても負けてるかも。

 あ、私って、いつになく弱気。でも、一臣様にさんざん、お前には無理だって言われ続けているからか、最近、弱気になって来ちゃった。素敵なお嬢様になるなんて、私には一生かけても無理なんだろうなって。


「祐さんに連絡いれて見ろよ。名刺もらっていたろ?エステに行きたいって言ったら、連れて行ってくれるぞ。祐さん、お前のこと気に入っていたし」

「はい。そうしてみます」


「…まあ、婚約パーティまで、ひと月くらいしかないし、たいした効果も出ないかもしれないけどな。気休めくらいにはなるだろ」

 だから。それ。その一言が多い。


「なんだ?なんか暗いな、お前」

「い、いいえ。少しでも、綺麗になるよう頑張ります」

「ああ。頑張らなくていい。お前、そういうことを頑張ると、どうも方向性がずれるっていうか、もっとみょうちくりんになるからな。ま、エステシャンに任せて、お前はいつも通りでいろよ」


「……」

 これも、褒められていないよね。っていうか、もっとみょうちくりんになるって、酷過ぎるような気が…。


「デザート頼むか?」

「え?デザート?イタリアンのデザートですか?」

 ワクワク。どういうものがあるんだろう。

「冗談だ。お前、それ以上食ったら、全部が贅肉になるぞ」

「……」


「そんだけ食っておいて、よくデザートを食べようっていう気になれるよな。ああ、あれか。別腹っていうやつか」

「はい」

「ははは。お前の別腹、でかそうだもんな」

 うえ~~~ん。もう、泣きたくなってきた。


「いいです、デザートは食べません」

「じゃあ、帰るぞ」

「はい」


 ああ。窓から見える夜景を見てみた。ロマンチックだ。隣りの席のカップルは、ゆったり、まったり、2人の世界を作り上げ、ムードたっぷりの中、食事をしている。

 なのに、なんで、私と一臣様だと、まるでコント劇みたいになっちゃうんだろう。ボケとつっこみ?お笑いコンビ?


 はあ…。ちょっと溜息。

 だけど、きっとこんな二人でも、一緒にいられたらそれだけで幸せなんだよね。


 なんて、結局は前を歩いて行く一臣様のスーツの後姿を見て、私は幸せを噛みしめているのであった。



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