表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第2章 婚約は波乱万丈!
21/195

~その7~ 兄の策略

 私は、帰りの車の中、

「ごめんなさい。実は夜も、兄と食事をすることになり、またあのホテルに行くことになりました」

と等々力さんに告げた。


「構いませんよ。何時にホテルにつけばよろしいですか?」

「レストランは7時に予約を入れているらしくて」

「はい、かしこまりました。その時間に間に合うようにお屋敷を出ましょう」


「すみません。何度も」

「それは、一臣様はもうご存知なんですか?」

「はい。兄から電話で、樋口さんに連絡していましたから」

「仲のいいご兄弟なんですねえ」


「え?あ、あの。久々に会えたので…。昔っから会うと、離してくれなくなっちゃうんです。実家だったら、もっと大変でした」

「あはは。そうなんですか。可愛くて仕方ないんでしょうねえ。そういえば、10歳離れていらっしゃるとか」

「はい」


「それでしたら、可愛がるのも無理はないですね」

「はい」

 ああ、心苦しいです。嘘ついちゃって。

 本当の理由は、兄のすすめる人とお会いすることだなんて、そんなの誰かに知られたら。


 ハッ!あそこのホテルって、一臣様もよく利用するんだよね?耳に入ったりしないかな。だ、大丈夫かな。いきなり不安になってきた。

 でも…。

 でも、もしかすると、一臣様は、私が他の人と一緒にいたとしても、気にならないのかもしれないし。


 あ!でも、久世君とのことは、やたらとうるさく注意してきた。

 でもなあ、あれも、嫉妬とかじゃないよなあ。久世君は前から、要注意人物だと、日陰さんが言っていたし。


 ああ。あれこれ考えても仕方ない。とにかく、私は一臣様との婚約を解消するようなことは、絶対にしないんだからっ!

 やっと、やっと憧れの大好きだった一臣様の近くに来られたのに、なんだってまた、離れないとならないわけ?


 よし!気合入ってきた~~!


 寮に着くと、キッチンにそっと行き、

「コック長。今日のまかない、食べられなくなっちゃいました。ごめんなさい」

と謝った。


「大丈夫ですよ。では、また明日にでも」

「はい」

 と言いつつ、キッチンに漂う、すごくいい匂いが私の後ろ髪を引かせた。ああ。美味しそうだった。夕飯のメニューなんだろう。そうそう今の時期、手に入らないってものだよね。その材料がまかないに入っていたかもしれないんだよねえ。


 ってなわけないか。全部、お母様が召し上がることになるんだろうし。

 ってことは?あのダイニングにお母様がお一人?

 いや。今日は一臣様もお屋敷で食べるのかな。


 は~~~。とにかく、私はしばらく、お屋敷には入れないんだよねえ。

 そう溜息をつきながら、そうっとキッチンを出た。それから、寮の部屋に戻った。

 すると、喜多見さんがいた。


「あ、おかえりなさいませ、弥生様」

「ただいま。喜多見さんは休憩ですか?」

「はい。こちらに、一臣おぼっちゃまのお弁当箱、揃えておきましたので」

「え?!これですか?」


「はい。この大きさでしたら、十分かと。材料も買ってまいりますが、どのようなものがいいですか?」

「え、えっと。和食が得意なので、和食で」

「和食というと?」

「ひじきとか、切干大根とか、魚の煮物とか…。あ、ダメだ。茶色のお弁当になっちゃう。もっと、黄色や緑も入ったカラフルなものでないと」


 すると、本棚から一冊、お弁当の本を喜多見さんが取り出してきた。

「これは、娘が高校の頃に買ったお弁当の本なんです。参考になりますかしらねえ」

「わあ!見てもいいんですか?」

「はい、もちろん」


 その中から、卵焼きや、アスパラのベーコン巻きなど、カラフルに見えそうなおかずも選び、喜多見さんは買い物に出かけた。

「私が本当だったら、買い物も行くべきなんじゃないかなあ」

 私も一緒に行きますと言ったら、一人で大丈夫だって断られちゃったけど。


「ほら。また、暇になっちゃった…」

 う~~~ん。掃除でもしようかなあ。兄と約束の時間までまだまだあるし。でも、喜多見さんのおうちの中を勝手に掃除していいものかどうか。


「また、寮の中、探検に行くか」

 フラフラと探検に行くと、外が曇ってきたからか、暗くなってきた。

 また休憩室に入った。暗かったので電気をつけると、今にも切れそうな電気を発見した。

「お、仕事だ」

 とはいえ、脚立もなければ、交換する電気もない。


「また、明日誰かに聞いて交換するか」

 それから、どうせだったらと、休憩室を出てから、寮内にある電気を見て回り、いくつか切れそうな電気や、すでに切れている電気を見つけてきた。


 それに、中庭のベンチは、相当古いのか、色がハゲちゃっているし、花壇の周りの柵も、朽ち果てている部分がある。

「よし。これも、直そう。ペンキ塗り変えたり、木の部分を交換したりしたら、きっと綺麗になる」

 そう思うと、またワクワクしてきた。


「は~~~。なんだってこういうことが、私は好きなのかなあ。アパートどころか、寮にいた頃からかも」

 高校時代の文化祭、いつも私は舞台裏の仕事が好きだった。ペンキを塗って看板を作ったり、ドレスを縫ったり。


「舞台裏…。それが私には似合うのかなあ」

 舞台で主役をする生徒は、見るからに華があった。ただ、舞台の真ん中に立っているだけでも、絵になるようなそんな人が主役をしていたっけ。


 私とは違う人種って、何度か思ったなあ。

「はあ」

 あ、また溜息が出てた。今さっき、ワクワクしたばっかりなのに。


「気合だ、気合!」

 ガッツポーズを作ってみた。でも、今いち気合が入らない。

「なんか、最近立ち直りが遅いかも。それに、立ち直ってもすぐに落ち込んでいる気がする…」

 はあ…。また、溜息だ。


 ブルルル…。

「あれ?電話?!」

 携帯電話が鳴った。もしかしてまた、兄からかな?と、慌てて電話に出ると、

「弥生か?」

と一臣様の声がした。


「一臣様!?なんで、私の携帯に…。番号ご存知でしたっけ?」

「ああ、樋口に調べさせた。ところでお前、夜もまたお兄さんと食事をするのか?」

 ドキ~~~!それで、電話してきた?

「あ、あの。昼ご飯の時、兄がゆっくりできなくて、それで、また夜ゆっくり食べようっていうことになって…ですね…」


 ああ。心苦しいせいか、変な日本語になっている。

「どこで食べるんだ?」

「昨日のホテルの最上階…」

 ハッ!教えたらやばかったかな。


「フレンチ?お前コース料理苦手だろ?」

「いえ、あの、あの」

 ダメだ。嘘つけないよ~~。

「ローストビーフのお店だって、兄が言っていました」


「ああ。フレンチの隣にあったな。俺も入ったことはないんだが…。そうか。二人でか?俺も今夜は特に何もないし、同席してもいいか?」

「はあ?!ななな、なんでですか?」

「上条グループ次期社長とは、一回ちゃんと話がしてみたかったんだ」


「ダメです」

「え!?」

「あ。いえ、あの…。兄はどうやら、私と一緒に色々と話がしたいみたいで。なので、兄と一臣様が食事をするのは、またの機会にしてもらってもいいですか?」


「……ああ、そうか、俺は邪魔か!」

「いえ。そういうわけでは…」

 ひえ~~~~。怒った。絶対に怒った。


「ふん。ブラコンなんだな、お前は。まあ、せいぜい兄貴が日本にいる間は、甘えるんだな」

 そう言うと一臣様は電話を切ってしまった。

「……」

 ごめんなさい。嘘ついた。一臣様に嘘ついちゃった。


 あ~。ますます、落ち込んだ…。やっぱり、兄にちゃんと断れば良かった。

 ドスンと気持ちが沈んだまま、私はまた車に乗ってホテルに向かった。あまりにも車内で静かなので、等々力さんは心配していた。


「どこが具合でも悪いんですか?」

「いいえ。大丈夫です。ちょっと、お腹すいちゃっただけで」

「ああ…。でも、美味しいものをお兄様にご馳走してもらえるんじゃないですか?」

「……はい」


 そんな優しい表情をして言われると、罪悪感で胸が痛む。一臣様も兄に甘えてこいって言ってたなあ。うう。申し訳ないなあ。


 ホテルの正面玄関に到着した。すぐにベルボーイが飛んできて、

「弥生様。お待ちしていました」

と、車のドアを開けてくれた。


 それから、なぜかエレベーターで最上階まで案内してくれた。

「如月様がお待ちです」

「はい。ありがとうございました」

 そして、レストランに入ると、これまた支配人らしき人がすっ飛んできて、

「弥生様。お待ちしていました」

と、個室に案内された。


 もしや、ここでもVIPルーム?みたいだなあ。

「弥生。待ってたぞ」

 兄はもうその部屋にいた。そしてその横には、見た目思い切り外人の、背の高い男の人が立っていた。


「弥生。昼に話した赤坂君だ」

「赤坂冬馬です。はじめまして」

「上条弥生です。はじめまして」


 うわ~~。目、青いよ。髪は栗色だ。

「日本語、お上手なんですね」

 ぼ~~っとしながらそう言うと、

「何言ってるんだ、弥生。赤坂君はハーフだって言っただろ?大学はアメリカだけど、日本育ちなんだよ」

と兄に言われた。


「あ。そ、そっか。すみません」

「はっはっは。こう見えても、横浜生まれの横浜育ちなんですよ、僕は」

 なるほど。そりゃ、流暢な日本語を話せるのも当たり前か…。


「どちらかというと、英語の方が不得意で、留学してから苦労したくらいですよ。それも、この顔だから、みんな英語が出来ると思い込んで話しかけてくる…。随分と苦労したんですよ。ハハハ…」

 あかる~~~い。それに、人懐こい笑顔。


「ま、立ち話もなんだし、座ろうか」

 そう兄に言われ、私たちは椅子に座った。


「トミー、何飲む?」

 突然兄がそう赤坂さんに聞いた。

「と、トミー?愛称ですか?」

 私が赤坂さんに聞くと、

「はい。アメリカで自己紹介をすると、必ず、冬馬をトーマスと勘違いされて、そのあとずっと、トミーと呼ばれてしまうんです」

とこれまた、明るく答えてくれた。


「へえ」

「弥生もトミーって呼んでくれて、構わないですよ?」

 弥生?いきなり呼び捨て?!

「えっと。あ、はい。じゃあ、トミーさんって呼びます」


「はっはっは。さん付けですか。トミーだけでいいんだけどなあ。ああ、如月、僕はビールにするよ」

「そうか。じゃあ、僕もビールだな。あ、弥生はアルコールはダメだぞ」

「弥生はまだ未成年?」

 トミーさんが聞いてきた。


「弥生は酒に弱いんだ。すぐに寝ちゃうんだよ。だから、烏龍茶でいいよな?」

「はい」

 飲み物を頼み、それが運ばれてきて3人で乾杯をした。それから、ローストビーフや、サラダなどが運ばれ、3人で楽しく会話をしながら食べた。


 トミーさんは本当に気さくな人で、兄ともすごく仲が良かった。兄よりも、5歳下だが、兄を呼び捨てにしているあたり、なんだか大物って感じがする。でも、

「同期なんだよ」

と兄が教えてくれた。


「え?だけど、如月お兄様って、入社って何歳の時でしたっけ?」

「29だ。トミーも大学を休学したりしていたから、入社したのが24歳だったっけ?」

「そうそう。2年も、大学行かないで遊んでた」

 トミーさんは明るくそう言った。


「ちょっとね、大学生の間に世界を回ってみたかったんだ。リュック一つで旅に出た」

「わあ!してみたい、私も」

「言うと思った。弥生、思い切り興味あるだろ?トミーに色々と聞いてみたらどうだ?」

「え?いいんですか!?聞きたいですっ」


 興味津々の目で、トミーさんを見ると、

「あっはっは。弥生は如月が言っていたとおりだね。好奇心旺盛で、行動的!僕の好みの女性だね!」

と、ものすごく嬉しそうに笑いながらそう言った。


 え?

 私は、トミーさんとは全く反対の反応を示してしまった。一気に、顔が硬直して笑うこともできなくなった。

「弥生。僕はね、いろんな人ともっと接して、お前に視野を広げて欲しいと思っているんだ。特に、トミーみたいに世界を回ってきた人間と話すと、いろんなことが知れて面白いぞ」

 兄に気づかれてしまった。


「でも…」

「弥生は、緒方財閥の御曹司の婚約者として、候補に挙がってるんだって?」

「え?!」

 トミーさんの言うことにびっくりした。なんだ?その候補って。


「そうなんだよ、トミー。父が勝手に決めてしまってね。僕はあまり、緒方財閥の一臣氏はおすすめできないんだけどね」

「弥生は自分の婚約者になるかもしれない男のことを、知っているのかい?」

 トミーさんが、なんだか真剣な顔をして聞いてきた。


「はい。それはもう、しっかりと、ばっちりと」

「いいや。弥生は全く彼のことをわかっていない。僕のほうが詳しく知っているくらいだ」

「なぜ?お兄さま。会ったこともないのになぜわかるんですか?」

「わかるさ。彼のことはリサーチ済みだ」


 今度は兄が真剣な顔をしてそう言った。

「お前は、大学時代、遠くから一臣氏を見ているだけで、な~~んにも彼のことはわかっていないんだろ?どうせ、緒方財閥の御曹司ってだけで、勝手にいいイメージを膨らませ、恋に恋していただけだ」


「な、なんでそんなことを言うんですか?」

 兄に馬鹿にされたような気がして、思わず頭にきてそう聞き返した。

「そうじゃないのか?卯月からも聞いているぞ。一臣様が、今日は優しく微笑んでくれただの、一臣様の姿は今日も素敵だっただの、そんなことばっかりあいつにメールしていたそうじゃないか」


 うきゃ~~~!卯月お兄様、如月お兄様にばらしていたんだ!酷い!

「葉月も言っていたぞ。ちゃんと一臣氏を知って好きになったわけじゃない。あいつが勝手に一臣氏を王子様のようにイメージして、妄想膨らませているだけだってな」


 葉月までそんなことを言ってたの?ひどすぎる!いっつも、うんうん、良かったなって、メールで返事してくれていたのに!


「でも、今は、会社に入って一臣様のことを身近で見て知って、それでも、私は変わらず一臣様のことを…」

「彼に何人の女がいるのかわかっているのか?」

 グ…。

「そ、それは…」


「ああ、いることは知っているのか」

 兄はそう言うと、はあって溜息をついた。

「僕も一臣氏は、弥生には合わないとそう思いますよ」

 トミーさんまでが言ってきた。


「だろう?」

「うん。弥生がこんなに純情そうないい子だって、会うまでわからなかったけど、これじゃ、如月が反対するのも頷ける。一臣氏には、昨年、ちょうど僕が日本の本社に来ていた時に会ったことがあるけれど、綺麗な女性の秘書をはべらかせ、あまりいい印象はなかったなあ」


 はべらかす?誰のこと?葛西さん?あ、青山さんかなあ。

「僕は昨日が初対面だった。そういえば、お前、また飲んで寝ちゃったんだろ?それでそのまま、このホテルに一臣氏と泊まったのか?」

「それは、本当に何もなくって。えっと、寝ちゃったから、一臣様が部屋まで連れて行ってくれたけど、本当にそれだけで、何も…」


 私は慌てながらそう兄に言った。

「わかってるよ。お前を見たらそういうのもちゃんとわかるし、お前が嘘をついているかどうかくらい、僕には見抜けるからね」

 うわ。言われた。そうなんだ。如月お兄様には嘘が通用しないんだ。全部バレてしまうから。


「でもこのまま、彼のそばにいたら、いつ彼の毒牙にやられるか」

 あれ?それどこかで聞いた。ああ、祐さんも同じようなこと言っていたっけ。


「やはり、僕は全力で阻止するからな」

「待って!日本にいる間に、一臣様を見て判断するって言ってたのは嘘なんですか?」

「ああ。言った。2週間滞在するから、その間に、彼をしっかりと見張らせてもらう。まず、明日、夜に会食をするようにさっき、秘書の樋口氏に連絡を入れた」


「え?一臣様とお兄様で?」

「海外事業部の合同会議に、一臣氏も参加することになっている。そのあとに、会食の場を設けさせてもらった。お前もちゃんと参加するんだぞ、弥生」

「私も?」


「お前と一臣氏が、どんな感じなのか、そこでちゃんと見させてもらうからな」

 …お、お兄さまの目、怖い。

「僕も明日の会議も、会食も参加しますよ、弥生」

 トミーさんはめちゃくちゃ明るい笑顔でそう言った。


「………はあ」

 なんでこの人、こんな笑顔なんだ?

「トミーはすっかり弥生のことが気に入ったのか?」

 え?!


「ああ、如月。とってもチャーミングな女性だ。キュートで、僕好みだよ!」

「………」

 うそ。


「それは良かった。絶対に気に入ってもらえるって思っていたんだ」

 お、お兄さま?!だから、私にはフィアンセがいるって言っているのに。

 あれ?でも、フィアンセ候補って言っていたよね?え?そうなの?

 ってことは、私以外にも候補者はいるってこと?

 え?違うよね?!


 なんだか、どんどん不安になってきた。あ~~~~~~~~。頭痛までする。

 一臣様、私たちって、ちゃんと婚約しているんですよね?!

 お父様。私って、一臣様の婚約者ですよね!?


 やたら明るい兄とトミーさんと対照的に、私はすっかり暗くなってしまっていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ