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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第13章 大事な人
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~その10~ お屋敷で婚約のお祝い

 お屋敷に帰ると、トモちゃん、亜美ちゃんが元気よく出迎えてくれた。

「おかえりなさいませ」

「もう、夕飯の準備整っています」


「そうか。じゃあ、このまま食堂に行くか」

 一臣さんは私の腰を抱き、ダイニングに直行した。


「おかえりなさいませ!そして、おめでとうございます!」

 ダイニングのドアを、亜美ちゃんが開けてくれた。するとみんなが声をそろえ、私たちを出迎え、そのあと、「パン!パパパン!」と、クラッカーが鳴った。


「うわ」

 私も一臣さんもびっくりした。ダイニングには、でかでかと「一臣様、弥生様、ご婚約おめでとうございます」という、垂れ幕も飾られ、綺麗なお花もいっぱいテーブルの上に飾られていた。


「おめでとう、兄貴、弥生」

「おめでとうございます」

 龍二さんと京子さんもいた。それに、メイドさんたち、コックさんたち、庭師のみんなまで勢揃いしている。


「…喜多見さん、おふくろは?」

「奥様は、美容院に行かれていて、夕飯も外で食べられるそうです。私たちがお二人の婚約のお祝いの準備をしているのを知り、あなたたちだけでお祝いをしなさいとおっしゃっていました」


「…へえ。前だったら、従業員総出でこんなことをしたら、おふくろ怒っていただろうに」

「そうですね。今回は、見て見ぬふりをしてくれているようですよ」

「そうか。従業員がこんな派手なことをするのは許せても、参加はできないってことか」


「さあ、どうぞ、お掛け下さい!」

 日野さんに言われ、私と一臣さんは席に座った。京子さん、龍二さんも席に座り、そこにお料理が運ばれてきた。


 食事の間は、いつもの給仕をしてくれるメイドさんや、国分寺さんだけになったが、食べ終わると、ぞろぞろとまた、みんながダイニングに入ってきて、

「おめでとうございます」

と、みんなから、私と一臣さんにプレゼントをくれた。


「なんだ?」

「ささやかなものなんですが、みんなでお金を出しあって買いました」

 一臣さんが、袋の中から取り出した箱、それはささやかなものなんてことはない。高そうな一眼レフカメラが入っている箱だ。


「一臣様、一眼レフカメラはお持ちではないですよね?」

「ああ」

「ぜひ、お子さんが生まれたら、そのカメラでどんどん写真を撮ってください」


 亜美ちゃんがそう言うと、一臣さんは片眉を思い切り上げた。

 あれれ?気に入らなかったのかな。


「なるほどな。これが俺へのお祝いか。で、弥生には?」

 私は、もらった袋のリボンをほどいた。

「あ。シルクのパジャマ」

 薄いピンクと、白のシルクのパジャマが入っていた。


「一臣お坊ちゃまとお揃いのパジャマです」

 喜多見さんがにこにこしながら、私にそう言った。


「ああ、それ、着心地いいんだよな。良かったな、弥生」

「はい!ありがとうございます」

「…一眼レフカメラか。子供産まれる前は、弥生のことでも撮るか」


「え…」

 変な写真じゃないよね…。一瞬、疑いの目で見てしまった。

「夏に休暇取って、避暑地に行くだろ?その時に持っていこうな?弥生」

「…はい」


 そうか。バカンスの時の写真を撮るのか。

 じゃあ、私も一臣さんをどんどん撮りたい。そして、一臣さんの写真をコレクションにするの。なんて言ったら、ストーカーだってまた、怖がられるよね。


「サンキュ。高かっただろ。ありがとうな」

 一臣さんはみんなにお礼を言った。

「いいえ。本当におめでとうございます。従業員一同、心からお祝い申し上げます」

 喜多見さんがそう言うと、みんな揃って頭を下げた。


「ああ、ありがとう」

「ありがとうございます」

 うる…。嬉しくて涙が出てきた。感激だ。


 一臣さんの顔をうるんだ目で見た。すると、一臣さんも目を細め、感動しているようだった。


「はは…。まさか、婚約したくらいで、こんなに祝ってもらえるとは思わなかったな」

 そう言って一臣さんは、皆のことを見てから、ふっと視線を私に向けた。

「弥生だからだろうな」

「え、そ、そんなことないです。一臣さんがそれだけ、みんなに慕われているってことです」

「まさか。ずっと怖がられていたのに…。話しかけられることもなかったんだぞ?」


 一臣さんはまた目を細め、そして従業員のみんなのことをゆっくりと見た。

「弥生と結婚したら、子供も生まれるし、みんなにはいろいろと面倒を見てもらうことになると思う。これからも、よろしく頼むな」

 

 一臣さんがみんなにそう言って、にっこりと微笑んだ。みんなは、思い切り深く頷き、

「もちろんです」

と、元気よく返事をしてくれた。


「俺らは、そのうちこの屋敷を出て、大阪に行っちまうけどな」

 ずっと黙っていた龍二さんが、口を開いた。

「ああ、でも、たまには東京にも来るだろ?その時には、屋敷に泊まって行けよ。多分、賑やかになっていると思うぞ」


「そうだな」

「わたくしも、よろしいですか?龍二さんと一緒にお屋敷に来ても」

 京子さんが、静かな声で一臣さんに聞いた。一臣さんは京子さんのほうを向き、

「もちろんですよ」

と、優しく答えた。


「大阪には、ここまででかい屋敷は建てないが、京子さんと住む家を建てようと思っているんだ。おふくろが、メイドとコックを、数人、連れて行ったらいいと言っていた。おふくろが大阪に来た時には、その家に泊まってもらおうと思う。だから、兄貴と弥生も大阪に来た時には、泊まって行けよ。二人の部屋も用意しておくから」

「ああ、ぜひ、泊まらせてもらうよ」


 龍二さんに一臣さんは、にこりと微笑みながらそう言った。龍二さんも、嬉しそうな顔をして頷いた。


 なんか、とっても、いい雰囲気だ。仲のいい兄弟になっちゃってる!京子さんも、龍二さんの隣で嬉しそうだし。


 私と一臣さんは、プレゼントを大事に手にして部屋に戻った。

「一臣さん!楽しみですね。そのカメラ使うの」

「なんなら今日撮るか?お前のシルクのパジャマ姿」

「い、いいです。そんなの撮らなくても。あ、私が一臣さんを撮ります」


「俺を?」

「はい。スーツ姿、Yシャツ姿。それから、パジャマ姿も」

「…怖いな。お前、俺の裸とか、こっそりと写したりするんじゃないのか」 

「ま、まさか!素っ裸はさすがに」


「……素っ裸はさすがに?ってことは…」

「いえ。なんでもありません」

 きゃ~~~。上半身裸なら、撮りたいってちょっと思っていた。


「撮るなよ。もし撮ったら俺も撮るからな。お前の素っ裸」

「ダメです!絶対に!」

「じゃあ、撮るなよ」

 がっかり。


「おい」

「え?」

「今、がっかりしただろ?」

「あ…」

 ばれてた。


「まったく。写真には撮るなよ。うっとり見ているんだったらいいけどな」

「はい」

 そうか。見惚れているのだったらいいんだ。良かった。


「あのなあ、そんなにあからさまに喜ぶなよ」

「え?」

 喜んだのわかっちゃったか。


「しょうがないな。一緒に風呂入ってやるよ」

「は?」

「そうしたら、俺の裸見放題だぞ」

 そんなこと言われて、見れるわけが…。見ちゃうんだけど…。


「お前も、肌がどれだけ綺麗になったか見てやるから」

 そんなこと言われたら、恥ずかしくて裸になれないよ。でも…、簡単に一臣さんに脱がされてしまった。

「ああ、つるつるだな」

「はい」


 恥ずかしいから、あんまり見ないでっ。

「なんで胸隠しているんだよ。手、どけろ。洗えないだろ」

 きゃあ。きゃあ。洗ってもらうのはやっぱり、恥ずかしい。


 でも、一臣さんの背中や腕、胸がお腹を洗うのは、うっとりだ。

「はう…」

「おい。俺の体洗いながら、そんなため息をつくな。怖いなあ」

「ごめんなさい」


「まあ、いいけどな。たいてい、俺の裸見て、みんなうっとりとしていたし」

「え?!みんなって、今迄付き合ってた女性ですか?」

「ああ」


 嫌だ~~~。でも、そうか。一臣さんの裸、みんな見ているんだよね。それで、私みたいにうっとりとしていた人もいるんだよね。

 なんか、久々のショック。


「でも、俺の体を洗ったのはお前が初めてだ。こんなふうに俺の体に触り放題なのは、お前だけだ」

「は?」

「抱き着かれるのも嫌いだったし、エッチしたら、とっととベッドから出て、シャワーを一人で浴びていたしな。肌と肌が触れ合うのも、嫌だったんだ」


「でも、ぬくもり求めていたんじゃないんですか?」

「そうなんだよなあ。求めるんだけど、いざ肌が触れ合うと、途端に嫌になる。まとわりつかれたりすると、うっとおしいし、あつくるしいし」

「……」


 一臣さんは、椅子に腰かけ、

「今日は髪も洗ってくれるか?」

と私に聞いた。私は「はい」と頷き、一臣さんの髪も洗った。


 うっとおしいし、あつくるしい?でも、一臣さん、私には年中引っ付いているよなあ。

 そんなことを思いながら、一臣さんの髪を洗い、それから二人でジャグジーに入った。一臣さんは私の後ろに座り、私を後ろから抱きしめてきた。


 う~~~~ん。うっとおしいし、あつくるしいと言っていた人の行動とは思えない。

「私は、あつくるしくないですか?」

「ああ。弥生はあつくるしいどころか、あったかいし、抱きしめていても、触っていても気持ちいいぞ」

「でも、一臣さんの付き合ってた女性って、みなさん、スレンダーですよね。そんなにあつくるしい人いないと思うんですけど」


「そういう意味で言ったんじゃない。なんていうか…、多分、ベタベタされるのが嫌いなんだ」

 私には思い切りベタベタしているのに、不思議。

「弥生は別だ。ベタベタしてきていいぞ?弥生は可愛いからな」

「……は、はい」


 ギュっと抱きしめてきた一臣さんの腕を、私も握りしめた。

「私は、一臣さんに抱きしめてもらうの好きです」

「ああ、知ってる」

「え?」


「お前、いつも恥ずかしがったり、赤くなるけど、嬉しそうだからな」

「………はい」

「弥生が俺に惚れまくっているのも知ってる」

「は、はい」


 きゃわわ。胸、触ってきた。

「こうやって、俺が胸に触るのも、本当は喜んでいるのも知ってる」

 そうか。ばれているんだよね。

「俺のキスも、俺に抱かれるのも、弥生は喜んでいるって、全部知ってるぞ」


「…は、恥ずかしいです」

 か~~~。顔、熱くなってきた。

「弥生は、俺との婚約嬉しいか?」

「もちろんです」


「だよな?」

「はい」

「俺が副社長になったら、俺も弥生も忙しくなるかもしれない。でも、お前はお前でいろよ」

「え?」


「ずっと、このまんまの弥生でいろよ」

「はい。一臣さんさえそばにいたら、ずっとこのまんまの元気な私でいます。だって、一臣さんが原動力だから」

「俺もだ。俺も弥生がいたら、元気でいられる」

「……」

 嬉しいかも。


 チュウ…。一臣さんが私のうなじにキスをした。ドキン。

「愛しているぞ、弥生」

「はい…」

 その言葉だけで、腰が抜けそうになった。


 明日は婚約パーティだ。ずっと思い続けていた一臣さんと、婚約できて、愛しているなんて言ってもらえて、こんなに幸せなことってないよね。


 その日は、二人してシルクのパジャマを着て、ベッドに一緒に入り込み、

「避暑地に行ったら何がしたい?」

とか、

「新婚旅行も考えないとな」

なんて、そんなことを一臣さんは私の髪を優しく撫でながら聞いてきた。


「新婚旅行…。どこでもいいです」

「ああ。そうか。そう言っていたよな。俺は、忙しくするのは嫌だから、どっか一箇所にとどまってのんびりしたいな」

「いいですね」


「カリブの海にでも行くか。それか…、ドバイとかの高級ホテルに泊まるか?どっかの南国の島に行って、コテージでのんびりするのもいいよな」

「でも、私、泳ぎが得意じゃないんです」

「そうなのか?やっぱり、弥生は武道だけしか取り柄がないのか?」


 グッサリ。まあ、そうなんだけどさあ。

「俺の祖父や祖母がいるハワイに行くか。プライベートビーチがあって、別に泳がないでものんびり寝ていてもいいんだし。テニスや、ゴルフもできるぞ」


「じゃ、じゃあ、それまでに、テニスとゴルフできるように頑張ります」

「ははは。お前って面白いなあ。なんに対しても前向きで」

「だって、一臣さんと一緒にテニスしてみたいです」

「そうだな。いろんなことをこれから、していこうな」

「はい」


「仕事忙しいとは思うけど、お前との時間も大事にするからな?」

「はい」

 嬉しすぎる!

「でないと、俺がストレスになる。弥生とべったりしていないと、病気になりそうだ」


「は?」

「禁断症状がきっと出る。弥生中毒だからな」

「私も…」

 うっとりと一臣さんの腕の中に抱かれ、一臣さんのそんな言葉を子守唄代わりに聞き、いつの間にか私は寝ていた。



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