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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第13章 大事な人
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~その9~ 元カノ

 会社帰り、等々力さんの車で例のエステに行った。そして、またオイルマッサージをしてもらって、ロビーでゆっくりとハーブティを飲んだ。

 するとそこに、やっぱりマッサージを終えた綺麗な女性が現れ、ハーブティを飲みながら、英字新聞を読みだした。


 綺麗なロングヘアー。組んだ脚は長く、横顔は鼻が高くてなんとも美しい。あ、一臣さんのタイプかもしれない。


「上条様、こちらの化粧品、どうぞお持ち帰りください」

 その時、店長さんが現れて、私に化粧品を持ってきた。

「え?」

 びっくりして聞き返すと、

「一臣様から、弥生様に一式渡すようにと仰せつかっています」

と、店長さんは丁寧に言った。


「一臣さんが?」

 あ。もしかして、祐さんが一臣さんに言ったのかもしれないな。化粧品、買ってあげなさいよ…とか。


「一臣様って、緒方商事の?」

 英字新聞を読んでいた綺麗な女性が、そう私に聞いてきた。

「え?はい」

 一臣さんを知っているのかな。あ、付き合っていた人かも。


「そう。あなたが、上条弥生さんなのね。一臣のフィアンセの…」

 呼び捨て?


「私のことは聞いてる?ヨーコっていうの」

「ヨーコさん?」

「一臣とは長い付き合いよ。もうかれこれ、6年になるかしら。一臣がアメリカから帰ってくる時の飛行機に、私が乗っていたの」


「あ。キャビンアテンダントのヨーコさん…?」

「そう。なんだ。私のこと知っているんだ。一臣、なんて言ってた?性格のきつい女とでも言っていたんじゃないの?」

 そう言いながら、ヨーコさんはくすくすと笑った。


 かれこれ、6年の付き合いって言った?そんなに長いの?あ、アメリカ留学から帰ってきた時に出会ったってこと?


「一臣、あなたと結婚するんでしょう?婚約もものすごく嫌がっていたけど、今日正式に発表になったみたいね。でも、婚約しても結婚しても、彼の浮気癖はなおらないかもね」

「え?」

 そ、そんなことないです!心の中で言い返した。


「一臣、しばらくスキャンダルになるようなことはしないって、私と会うのもやめているの。でも、そのうちにまた会いに来るかもね。何度か、別れたのよ。でも、結局またひっつくの」

「え?」

「一臣と別れている間は、彼の弟の龍二と付き合うの。知ってる?龍二。でもねえ、若すぎちゃって。やっぱり、一臣のほうがいいのよね」


「……りゅ、龍二さんも婚約するんです」

「銀行の頭取の娘?」

「いいえ。大学病院の院長の娘さんと」

「へえ。聞いてた話と違うようね」


「…それに、一臣さんは、もう…」

 女遊びなんかしません。って、ここで堂々と宣言してもいいのかな。

「一臣って、年上女が好きなのよ。知ってた?年下って、甘えん坊だし、嫌いみたい。甘えられるのも、べたべたされるもの嫌いだから。甘えさせてくれる女性が好きなのよね~」


 甘えさせてくれる女性?

 この人、一臣さんよりずっと年上かな。6年前もキャビンアテンダントだったんだもんね。ってことは、龍二さんとだと、相当な年の差?


 あ。そういえば、キャビンアテンダントとか、海外行き来しているから、あまり会う機会がなくて、それで長く付き合っていた女性もいたって、前に聞いたことある。それって、この人のことだったんだ。


「あなた、一臣のタイプじゃないのねえ。かわいそう」

「は?」

 かわいそう?って何?

「でもまあ、跡継ぎを産めばいいんだものね」

 何それ?!


「だけど一臣、あんまりセックス好きじゃないしなあ。跡継ぎ産むだけのためにあなたを抱くんでしょう?一臣もかわいそう。好きでもない女とあまり好きじゃないセックスしないとならないなんて」

 ムカムカムカ~~~~~。


「どうするのかしらねえ。疲れていると、まったく精力もなくなるみたいだし。どうやってあなたを抱くのかしら。あの一臣が…」

「あの!!私はもうエステ終わったので帰ります」

「エステ、なんのために来たの?まさか、一臣に抱かれるから、それで?」


「…こ、こ、婚約初夜のためです」

 言ってしまった!

「婚約初夜~~?新婚初夜じゃあるまいし。正式に発表された今日、抱いてもらえると思っているの?」


「それは、その…」

 なんか、悔しい。一臣さんに綺麗にしてこいって言われたんだもん。って、堂々と言いたいよ。


 悶々としていると、

「弥生様、祐さんと一臣様がお見えですよ」

と、またそこに一回ロビーからいなくなった店長さんが現れた。

「え?一臣来たの?」


 バサバサとヨーコさんは、新聞を畳み、嬉しそうに髪を整えだした。

 なんだって、ヨーコさんが喜んでいるんだ。嫌だなあ、一臣さんとヨーコさんを会わせたくないよ。


「弥生ちゃん、どう~~?綺麗になった~~~?一臣君連れてきちゃったわよ~~~」

 祐さんが、ハイテンションの声を出して、お店の中に入ってきた。その後ろから一臣さんも顔を出した。


「ここ、男子禁制だろ?なんで祐さん、入れるんだよ」

「あら。女ですもの、私は」

 そんなことを言いながら、ロビーまで二人は来ると、

「あ。なんであなたが、ここにいるわけ?」

と、祐さんが最初にヨーコさんに気が付いた。


 祐さん、ヨーコさんのこと知っているんだ。

「いちゃ悪い?久しぶりね、祐」

 祐さんのことも呼び捨て?


「一臣!こんなところで会えるなんて思ってなかったわ。昨日ヨーロッパから帰ってきたの。しばらくオフなのよ」

「……」

 一臣さんはヨーコさんを無言で見た。


 ヨーコさんはかまわず、椅子から立ち上がり、一臣さんにべったりくっついてしまった。

 わあ。やめてくれ。べったりくっつかないでよ。


 べり!っと一臣さんは、張り付いてきたヨーコさんを引っぺがすと、

「弥生、終わったのか?化粧品はもらったか?」

と、私に近づき聞いてきた。

「はい」


「そうか。じゃあ、帰るぞ」

「あの…。なんで、一臣さんがここに?」

「祐さんの店で、髪を切っていたんだ。婚約パーティの前に、髪を切りに来いって祐さんに言われて。で、店が終わってから祐さんに連れてこられた」


「明日の打ち合わせは?」

「全部済んだぞ。祐さん、明日は弥生のメイク、頼んだぞ。めちゃくちゃ、綺麗に仕上げてくれよな?」

「任せて。明日は着物でしょ?弥生ちゃん」

「はい」


「清楚で可愛らしくて、純真無垢なお嬢様メイクにしてあげるわ。まだ穢れを知らない、真っ白なお嬢様っていうイメージで…」

 そう言いながら、祐さんは私のすぐそばまで来ると、

「あら?」

と顔や、私の体全体をしげしげと見つめた。


「一臣君。手、出しちゃったんだ」

「……ん?」

 祐さんのぼそっと言った言葉に、一臣さんが聞き返した。


「弥生ちゃんから、女の匂いを感じるわ。この前まで、生娘の匂いがしていたのに」

「こええなあ、相変わらず祐さんは…」

 一臣さんは、片眉をあげてそう言った。


「一臣!」

 そこにまた、ヨーコさんが割り込んで、一臣さんの腕を掴んだ。

「婚約が済んで、落ち着いたら、また私のマンションに来るのよね?」

「行かない。そう言ってあったよな?もう、別れたんだし」

「別れていないわよ。今は、スキャンダルなことを避けているって、そう言っていたじゃない」


「そうだったっけ?でも、俺はもう、付き合ってた女全員と手を切ったから」

「今は…でしょ?」

 一臣さんの腕に、ヨーコさんは腕を絡ませながらそう聞いた。


「いいや。今後未来永劫。弥生以外の女と付き合わないし、抱いたりもしない。あ、そうだ。龍二にも言い寄るなよ。あいつも、ようやく本気になれる女と出会えたんだからな」

「何よ、それ。一生いろんな女と付き合うんじゃなかったの?婚約者がいようが、結婚しようが、俺は外で女を作るって言っていたわよね?」


「若気の至りってやつだな。俺も、ガキだったってことだ」

 一臣さんは、ヨーコさんの腕をまた引っぺがすとそう言って、ヨーコさんから離れた。


「ど、どういうこと?どうしちゃったの?一臣」

「どうしたもこうしたもない。俺は弥生と婚約した。だから、他の女とは付き合わない。それだけのことだ」

「だって、あんなに嫌がってた相手でしょ?」

「そうだ。それだけ嫌がってた相手に惚れちゃっただけだ」


「ほ、惚れたって言った?今…」

「ああ。惚れている」

「こ、こんな女に?」

「こんな女とは失礼だな。俺のフィアンセだぞ。弥生は最高の女だし、俺が唯一惚れた女だ」


 ひゃあ!一臣さんがすごいこと言った。とびっくりしていると、

「きゃ~~~。一臣君、情熱的」

と、祐さんまでが真っ赤になって、飛び上がって喜んでいる。


「祐さん、うっさいよ。さあ、弥生、帰るぞ。腹減ったろ?コック長が、今日は弥生のために腕ふるっているらしいぞ」

「え?そうなんですか?」

「ああ。メイドたちも、俺と弥生を祝うために、いろいろと準備をしていると喜多見さんから連絡が来た。だから、もう帰るぞ」


「はい!」

 わあい。嬉しい!

 一臣さんは私の腰を抱き、ロビーから出た。祐さんは、

「ヨーコさん、あなたもとっとと結婚しないと、行き遅れるわよ」

と、そんな捨て台詞を吐いて、後ろから出てきた。


「ヨーコさん、目、まん丸くして驚いてた。くすくす」

「祐さん、仲悪かったっけ?彼女と」

「悪かったわよ。いっつも、嫌味を言う嫌な女で。ああ、いい気味。一臣君にふられて、ショック受けてたわ」

「そうか。仲悪かったのか」


「ユリカとは仲良かったけど、一臣君の付き合う女性って、いい性格の女いなかったんだもの。根性曲がった嫌な女ばっかりで」

「そんな女としか付き合わなかったんだ。本気で惚れたらやばいからな」

「それで、まっすぐで素直な、弥生ちゃんに惚れ込んじゃったわけだ」


「……」

 一臣さんは後ろから歩いている祐さんのほうを、ちらっと見ると、くすっと笑った。

「祐さんも、弥生を気に入ってるんだろ?」

「もちろんよ。私は純情な子がタイプなの」


「じゃあ、弥生が最高の女だってことは、祐さんもわかっているんだろ?」

「もちろんよ」

「はははは」

 一臣さんは笑いながら、もっと私を抱き寄せ、

「弥生、綺麗になってきたか?つるつるぴかぴかか?」

と耳元で聞いてきた。


「え?う、はい」

 ドキ!びっくりした~。いきなり、そんなことを聞いてくるとは。

「そうか。明日の夜が楽しみだな」

 きゃあ。もう、そんなこと言わないで。祐さんもいるのに。


「あ、そういえば、弥生ちゃん、あの嫌味な女に意地悪されなかった?大丈夫?」

「はい。大丈夫です。ちょっと頭に来ていましたけど」

「弥生は強いからな。へこたれないし、大丈夫なんだよ、祐さん」

「そんなことを言って、弥生ちゃんのこと泣かせたりしないでよ、一臣君」


「泣かせない。こいつは、俺が離れると、すぐに力をなくして、ジメジメするからな。ちゃんとそばにいてやるよ。これから先、ずうっとな」

 ひゃあ!また、すっごいことを一臣さんが言った。


「ど、どうしちゃったの?一臣君。なんか、いつも言わないような台詞ばっかり言っていない?」

 さすがの祐さんも呆れたのか、そんなことを一臣さんに聞いてきた。

「そうか?じゃあ、浮かれているんだろ」

「浮かれているんですか?一臣さん」


「ああ。そりゃ、弥生と婚約できたんだからな。明日は婚約パーティだし、そりゃ浮かれるだろ」

 うそ。

「うそ!」

 私が心で思ったことと同じことを、祐さんが言葉にした。


「すごいわねえ。一臣君が浮かれるなんて。弥生ちゃんの存在って、ほんとう、貴重だわ」

「ははは。そうだな。貴重だな。天然記念物だな」

 う。それは褒めているの?微妙なんだけど。もの珍しい動物みたいで。


「本当よねえ」

 祐さんは、何度も頷いた。


 お店には、樋口さんの車で来たみたいだ。でも、樋口さんはすでにいなくて、等々力さんが待っていてくれた。

「樋口も明日の準備で忙しいからな。先に帰したんだ」

 そう言って、一臣さんは車に乗り込んだ。

「祐さんも、送って行くぞ?」


「いいわよ。タクシー捕まえるわ。二人の邪魔はしないわ」

「そうか?じゃあ、明日、弥生のメイク頼んだぞ」

「わかったわよ」

 等々力さんが後部座席のドアを閉め、運転席に乗り込んだ。そして、車を発進した。


 私は一臣さんの手を、ギュって握りしめた。一臣さんは私のことを優しく見つめ、

「本当にあいつ、弥生を傷つけるようなことを言ってこなかったか?」

と聞いてきた。


「はい。大丈夫です」

 そう答えると、一臣さんは優しく私の髪にキスをした。

「もし、なんか言ってくる女がいても、気にしないでいいからな。俺は、弥生だけだから。な?」

「はい」


 一臣さんの肩にもたれかかった。等々力さんが気を利かして、思い切りムードが出るような、ジャズをかけてくれた。


 車内は静かに、ジャズのメロディだけが流れた。一臣さんは繋いでいた手を離し、私の肩を抱いた。私はべったりと一臣さんに引っ付いた。


 これからも、一臣さんと付き合っていた女性に遭遇しちゃうことはあるのかな。でも、もう不安になることはないかもしれない。

 何を言われても、私は一臣さんのことを信じているし。


 だって、一臣さんは、こんなにも優しい。

 片手で私の肩を抱き、もう片方の手で、一臣さんは私の髪を撫でたり、頬を撫でたり、太ももを撫でた。


 ドキドキ。胸は高鳴るんだけど、でも、安心もする。

 ほわわんと、夢心地になりながら、私と一臣さんはお屋敷に帰った。




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