表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第13章 大事な人
189/195

~その8~ 一臣さんにインタビュー

 いよいよ、いよいよ今日、婚約発表の日だ。とはいえ、私が何をするわけでもない。緒方財閥のホームページに一臣さんが婚約したという記事が載り、そこに一臣さんの写真がデカデカと載っていて、私の写真は、小さく載っていた。


 それも、この前の一臣さんの誕生日パーティで琴を弾いていた時の写真だ。私のプロフィールも載っているが、あの時の紹介同様、嘘八百が並んでいる。


 琴、お茶、お花をたしなむ、大和撫子…みたいな紹介で、本当の私を知っている人が見たら「嘘ばっかり」と思っているだろう。


 一臣さんは、いつ写真を撮ったんだろうか。わからないけれど、スーツをビシッと着こなした、麗しい姿が映っていて、ちゃんとコメント欄があった。


「上条グループのご令嬢、上条弥生さんと婚約をしました。緒方商事と上条グループは提携を結び、アメリカ進出に向けてのプロジェクトも着々と進んでいます。今後の緒方財閥の発展のためにも、弥生さんと力を合わせ、頑張っていきたいと思っています」


 なんとも、素晴らしいコメントだ。でもこれ、一臣さんがちゃんと言った言葉だと思うなあ。本気でそう思っていると思うし。


 私は、秘書課でそのホームページを見ていた。一臣さんは、総おじ様に呼ばれ、明日のパーティの打ち合わせをしているところだ。


「上条さん、一臣様へのインタビューのコーナーに飛べるようになっているわよ」

「え?」

「一臣氏に婚約について質問をしてみましたっていうページがあるの。もう見た?」

 パソコンで緒方財閥のホームページを見ながら、大塚さんが聞いてきた。


「まだです」

 私は慌ててそのページも見てみた。一臣さんがどんなことを言っているか、ものすごく気になった。

 変なこと言っていないよね?ドキドキ。


 誰が質問をしているのかわからないけれど、多分、広報部の人間だろう。担当Aとしか記されていないけど。



 担当A 弥生様にお会いした時の、第1印象は?

 一臣氏 初めて会ったのは、8歳の時。可愛い女の子だと思いました。

 担当A 8歳の時にお会いしていたんですか?その後もよくお会いになっていたんですか?

 一臣氏 いいえ。大学に入るまで、ずっと会っていません。


 担当A 同じ大学だったと伺いました。大学でよくお話をされていたんですか?

 一臣氏 いいえ。大学時代はまったく話もしませんでした。実は、婚約者が同じ大学にいることも知らされていませんでしたから。


 わあ。一臣さん、すっごく正直に話している。


 担当A 弥生様はどんな方ですか?

 一臣氏 明るくてバイタリティがあって、発想豊か。機械金属プロジェクトの発案者は彼女なんです。僕の仕事の補佐もしてもらっています。


「一臣様、上条さんのことすごく褒めていますね」

 江古田さんも同じページを見ながら、話に加わってきた。

「はい。嬉しいです」

「でも、お仕事のことばかりですねえ。褒めているのは…」


 う…。大塚派の人だ。何が言いたいのかな?

「そりゃ、こんなみんなが見るホームページに、可愛いだのなんだのって、書けないわよねえ」

 大塚さんが、フォローしてくれた。ありがたい。


「あ!でも、見てください。このあとの質問の答え!」

 江古田さんが、珍しく大きな声をあげてそう言ったので、私も大塚さんも慌ててスクロールして、続きを見た。


 担当A お仕事以外での弥生様は、どんな方ですか?

 一臣氏 料理も上手ですし、家事も何でもこなせるパーフェクトな女性ですよ。それに、素直で献身的な可愛らしい女性です。


「わお!褒めまくりだわ~~」

 大塚さんも大きな声を上げた。

 

 わあ。こんなこと一臣さん言ってる!これ、本当に一臣さんが答えたの?うまく、他の誰かが編集したんじゃなくて?って、つい、疑っちゃうくらい、私のこと褒めてる。


 担当A ご結婚は、半年後と伺いました。待ち遠しいですね。

 一臣氏 そうですね。でも今も、弥生さんには仕事の補佐もしてもらっていますし、お屋敷にも来ていただいているので、結婚しても今とあまり変わらないかもしれませんね。


 担当A 緒方家のお屋敷で、一緒に住まわれているんですか?では、いつでも弥生様とご一緒なんですね。

 一臣氏 はい。いつでも一緒にいます。緒方商事でも一緒にいるところを見かけた社員は多いと思います。

 担当A 一臣様、本当にご婚約おめでとうございます。

 一臣氏 はい。ありがとうございます。


 インタビューはそこで終わっていた。なんか、できすぎって言うくらいのインタビュー…。


 私は、秘書課で大塚さんや江古田さん、町田さんや矢部さんにまでひやかされ、顔を赤くして15階に戻った。一臣さんは、打ち合わせも済み、オフィスでのんびりとくつろいでいた。


「弥生、ホームページ見たか?」

「はい。見ました…」

 顔を赤くしたままそう言うと、

「ちゃんと、インタビューのところも見たか?」

と、一臣さんは確認してきた。


「はい。みんなで見ました。大塚さんたちにひやかされました」

「そうか。みんなの反応は良かったか。仲の良さをアピールできたんだな」

「え?」

「まずまずだったよな?ところどころ、歯の浮くような台詞もあったし、俺がこんなこと言うわけないだろっていう箇所もあったが、まあ、あんなもんだよな」


「えっと…。歯の浮くような台詞って、どの辺が?」

「なんだったっけ?パーフェクトだの、素直で献身的な可愛い女性だの…」

「あ…。え?それって、一臣さんが言ったんじゃ…」

「まさか。全部、樋口や青山に任せた。俺は仕事で忙しかったからな。樋口の奴、8歳の時に出会ったことまで載せやがった」


 やっぱり、一臣さんじゃなかったのか~~~~~。

 ああ。赤くなったり、感動して損をした。


「じゃあ、じゃあですよ。もし、一臣さんが本当に質問に答えていたら、なんて言っていたんですか?」

「何がだ?」

「私のことについてです」

「ああ。バイタリティがあって、発想豊か。ちょっとのことじゃへこたれない。体が丈夫で、大食漢。武道が特技で、めちゃくちゃ強い」


 当たっているけど、酷過ぎだ~~~。

「いいです、もう。樋口さんと青山さんに任せて正解だったと思います」

「そうか?」

「がっかりです」


「なんでだ?俺が言っているほうが、本当の弥生だろ?」

「大食漢は余計です」

「なんだよ。本当によく食うじゃないか」

 そうだけど。


「あとは、そうだな。日曜大工が得意。腹時計がやけに正確」

「いいです!もう~~~」

「あとは…」


 一臣さんは、私を抱き寄せ、

「抱き心地がいい。隣にいるとぐっすり眠れる。着物姿が色っぽい。尻と太ももの触り心地がいい。あとは…」

と続きを言い出した。


「スケベ発言になっています!」

「最後まで聞け。俺にべた惚れて、俺が原動力で、俺がいないと元気がなくなっちまう、すげえ可愛い奴…」

「え?」

「俺が唯一、この世で惚れている女だ」

 ドキッ!


「そ、そんなこと書いたら、大変です」

「そうか?そこまで書いたら、仮面フィアンセの噂なんか、すぐに消えると思わないか?」

「思いません。一臣さんが変態だって、みんなにばれちゃいます」

「どこが変態なんだ。ああ、お前に惚れているっていう時点でもう、十分変態か」


 また、そんなことを言う~~。

 ふくれていると、一臣さんは私のほっぺを指で突っつき、そのあと私の腰を抱いて、ソファに腰掛けた。そして私を、膝の上に座らせた。


「明日だな?」

「はい。今から緊張です」

「ははは。だから言ったろ?お前が緊張することなんか、何もない。俺の隣にいたら、それでいいって」

「でも、司会の人に何か聞かれるかもしれないんですよね?」


「何もない。最後によろしくお願いしますと挨拶をしたらそれでいい」

「はい…」

「あとは、酒だけは飲むな。あ、それから、あんまり美味しい料理が出てきたからって、全部をたいらげるなよ。お前が大食漢だって、みんなにばれるからな」


「しません!もう~~~」

「はははは」

 からかってばかりなんだから。でも…。なんか、今日の一臣さん、すっごく機嫌いいかも。


「明日のパーティでは何が聞きたい?」

「え?なんのことですか?」

「ピアノを弾く予定だ。お前のリクエストを弾くぞ」

 あ、それでもしかして、昨日弾いたのかな。あれって、練習だった?


「じゃあ、昨日の…雨だれで」

「ショパンの雨だれか?」

「はい」

「よし、わかった」


 わあい。嬉しい!でも、きっとうっとりと聞いちゃう女性が多いんだろうなあ。

「明日って、どんな方がお見えになるんですか?」

「緒方家の人間は、誕生日会でお前にもう会っているからな。緒方商事の会社の人間と、緒方財閥関係の会社の人間を呼んだ。来るのは部長クラス以上だ」


「そうなんですか」

「あとは、上条グループの人も呼んだぞ。弥生の親父さんや、如月もトミーも来る」

 すっかり、如月お兄様や、トミーさんと仲良くなっちゃったんだなあ。


「すごい人数になりませんか?」

「なるな。だから、立食パーティだ。上条グループの人間と、緒方財閥の人間の顔合わせみたいなもんだ」

「そうなんですか。やっぱり、緒方商事と上条グループのプロジェクトには、大きな影響の出るパーティなんですよね?」


「そんなに堅苦しく考えるな。単なるパーティだ。結婚式のほうがもっと、大きなものになるんだから、婚約程度でビビるなよ」

「え?」

「緒方商事の次期社長の結婚式ともなれば、そりゃ、注目されられるし、話題にも上るだろ。その頃には、アメリカ進出も進んでいるから、海外からも注目される。マスメディアでも、報道されるだろうしな」


「テレビや雑誌の取材とか、来るんでしょうか?」

「来るだろうなあ」

「明日は?」

「明日も来るかもしれないが、まあ、そこそこだろ?婚約だけだし。ただ、株なんか、影響出るだろうなあ」

「……株?」


「お前はいいんだよ。そんなこと考えないで、明日の夜のことでも考えておけ」

「夜?」

「ああ。俺にまた、思い切り愛されることになるんだからな。覚悟しておけよ」

 う、うわ~~~。なんだって、そういうことを言い出すんだ。いきなり、変態スケベ発言するんだから。


「今日はやめておいてやる」

「は?」

「さすがに連日は、お前も疲れるだろ?明日のこともあるしな。あ、そうだった。忘れてた。祐さんがエステの予約入れたって、メールが来てた。仕事終わったら、行ってこいよ」


「エステですか?」

「ああ。明日のヘアメイクは、祐さんがしてくれるからな」

「はい」

「今日はエステで、肌磨き上げて来いよ。明日のために」


「は、はい」

「明日の夜のためにだぞ?」

「はい。…え?夜?」

「そりゃ、婚約して最初の夜を迎えるんだ。肌、綺麗にしておかないとだろ?」

「……新婚初夜じゃないんだし」


 ぼそっとそう言うと一臣さんが後ろから、私の耳を甘噛みしてきた。

「ひゃう」

「惚れているフィアンセに抱かれるんだから、綺麗にしてこい」

「はい」


 もう。さっきから、発言がどぎまぎしちゃうのばっかり。どうしちゃったんだ。いや、一臣さんがスケベなのは今に始まったことじゃないけど。


「そういえば、弥生。買ったのか?」

「え?何をですか?」

「新しいガーターベルトだ」

「いいえ」


「なんでだよ。オフィスで楽しめないだろ?買っておけよ」

 また~~~。

「オフィスでなんて、そうそうしないからいいんです」

「そんなこと言って、俺にほっぽかされると、すぐに寂しくなるくせに」


 う…。そ、そうなんだけど。それは本当にそうなんだけど…。


「まあ、いい。青山に買いに行かせる」

「いえいえ。そんなこと、頼んだりしないでください。恥ずかしい」

「いいだろ、別に、あいつ、そういう買い物好きそうだしな」

 なんで、知ってるの?やけに青山さんのこと詳しいよね。


「あいつも、いろんな色っぽい下着つけて、親父のこと誘っているらしいし」

「え?それ、総おじ様から聞いたんですか?」

「いいや。青山からだ」

「…そ、そんな話をするんですか?」


「ああ。勝手に青山が教えてくれるんだ。お前がうぶで、なんにも知らないお嬢様だって知って、あれこれ、世話を焼きたいみたいだぞ?」

「え?なんで、何も知らないうぶだって、わかっているんですか?」

「そんなの、一目瞭然だろ」


「………ですよね」

「でも、お前も初心者卒業したしな。これからも、どんどんレベルアップしていこうな?弥生」

「は?もう、卒業できたんだから、レベルアップもないですよね?」

「まだまだだ。若葉マークが外れただけで、中級者のレベル1ってところだぞ」

「え?もっと上があるってことですか!?」


「ああ。もちろんだ。楽しみだろ?」

「いえいえいえいえ。もう十分です」

「遠慮はするな」

「遠慮していません~~~~~」


 そう言っているのに、一臣さんはまた、私の耳たぶにキスをして、後ろから抱きしめてきた。

「俺が、まだ十分じゃない。弥生のもっといろんな顔が見たいんだ」

「は?」

 いろんな顔?


「こんな純情そうな顔をしているのに、夜になるとガラリと女の顔になるんだ…なんて、そそられるだろ?」

「そういう考えがもう、ついていけません。まったくわかりません!」

「でも、そうなっていくんだ。言っただろ?俺が変えていくんだって」

「悪趣味。変態!」


「なんとでも言え。こんな俺に惚れたお前が悪いんだからな」

 ええ?何それ。

「覚悟しろって言ってあったよな?」


「い、言ってましたけど。こういうことだとは、思ってもみませんでした。だいたい、一臣さんは恋愛に淡白で…」

「ああ。俺だって、お前に会うまでそう思っていたさ。だけど、お前に惚れて、俺の本性を知っちまったんだからしょうがないだろ?」


 開き直ってる?

「だいたい、弥生がいけないんだ」

「は?わ、私の何が?あ、まさか、あんまりにも知らなさすぎるから?免疫なさすぎだから?」

「ああ。純情で可憐すぎる」


「はあ?可憐!?」

「そんなだから、俺が変えたくなるんだろ?」

 何その言い分!!!もう、本当にさっきから、変態発言ばっかりしているんだから!


「本当に弥生は、可愛いよな。食べたくなるくらい可愛いから、いつも食っちまうんだ」

 はあ~~~~?

「弥生の全部可愛いから、つい全身キスしちゃうし、撫でまくっちゃうし」

「きゃわ~~~。もう、いいです!なんか、聞いててめちゃくちゃ恥ずかしくなってきました」


 っていうか、いつも私にストーカー発言で怖いって言っているけど、一臣さんのほうがよっぽど危ない発言しているってば。


 私が真っ赤になって、一臣さんの膝の上でじたばたしていると、私の太ももを撫で、

「だから、そういうところが可愛いんだって。やばい。欲情しそうだ」

と、私のうなじにキスまでしてきた。


「ダメです!確か、このあとも、用事あるんですよね?」

「ああ。樋口や青山、細川女史と明日の最終打ち合わせだ」

「じゃあ、もう、行かないと」

「弥生!こっち向け」


 わあ。キスしてきた~~~!!!ダメ。そんな思い切り熱いキス。腰抜ける!


 そのうえ、キスが終わると一臣さんは、熱いまなざしで私を見つめてきた。

「やっと、無事に婚約だな」

「はひ?」

「腰抜かしたのか」


「はひ。だって、キスが…」

 情熱的すぎて…。ヘナヘナです。


「やっと婚約だ。結婚まではまだ半年ある。いろいろと忙しくなるし、大変だろうけど、ずっと俺のそばにいろよ?」

「もちろんです」

「そのあとも、ずうっと俺のそばにいろよ?」


「はい。嫌だって言ってもそばにいます」

「ははは。怖いな」

 そう一臣さんは笑ってから、私の耳元に口をつけ、

「絶対に嫌がったりしないから、安心しろ」

と優しく囁いた。


 あ。今の言葉でまた、腰抜かした…。


 大好きな一臣さんと婚約できた。そして、こんな言葉を囁かれてしまうようになった。

 幸せすぎて、一臣さんの熱い思いにおぼれそうだ。


 ギュ。一臣さんのほうに体を向け、私も抱き着いた。一臣さんのコロンに包まれた。はう。また、甘いため息が出た。ずうっと、私はうっとりと幸せな時間を過ごしている。一臣さんのすぐそばで。


 これからもずっとずっと、こんな甘い時間を過ごして行けるのかな。

 ちょっと幸せすぎて、怖い気もしてきた。

 ずうっと、こんな幸せな時間が、続きますように。そっと心の中で、私はそう祈っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ