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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第13章 大事な人
182/195

~その1~ 危ない社長

 少し前に時間は遡る。私に秘書課で待機と言った一臣さんは、監視室に樋口さんと行っていた。

「燃料部の古淵係長の最近の行動を見せてくれ」

 一臣さんはそこで、ここ数日古淵さんを監視していた映像を見た。


「機械金属部によく行っているな。あ、今の画面巻き戻してくれ」

「はい」

 一臣さんは、古淵さんが何かを誰かに渡しているのを見逃さなかった。そしてその相手は、日吉さんだ。


「やっぱりな。日吉が怪しいと思っていたんだ」

「日吉さんですか。どうしますか?呼び出して話を聞きますか?」

「いや。今はまだその時じゃない。15階に綱島を呼んでくれ」

 樋口さんは15階まで綱島さんを呼んだ。


 その間、5時半を過ぎ、一臣さんは細川女史に、

「弥生に先に帰るように伝えてくれ」

と連絡を入れていた。


 綱島さんは、15階の一臣さんのオフィスまで呼び出され、かなり緊張していたようだった。

「あの、何か問題でも起きましたか?」

 ソファに座ると同時に綱島さんはそう聞いた。一臣さんもソファに腰かけ、

「いいや。聞きたいことがあるだけだ」

と、低い声で話を始めた。


「綱島が菊名と工場の視察に行ったよな。確か、日吉が行くはずだったのが、菊名が行っただろ?」

「はい。日吉さんが体調が悪いから、代わりに菊名さんに行ってもらうことになったと、そう朝連絡が来て…」


「日吉から菊名に頼んだのか」

「はい、そう聞きました」

「日帰りのはずが泊まることになっただろう?2日目の工場見学を提案したのは菊名か?」

「はい。ですが、日吉さんにアドバイスを受けたと言っていましたよ。それに、泊まる宿も日吉さんが総務部に聞いてくれたとか…」


「やはり、日吉がいろいろと手配していたんだな」

「はい。日吉さんは、菊名さんにいろんなアドバイスもしていたようです。菊名さんが張り切って仕事をしていたし、昇進も狙っていたので、力添えをしていたみたいですね」


「…日吉が?」

「はい。菊名さんが辞めてしまわれて、残念がっていましたよ」

「綱島にそう言っていたのか?」

「はい。優秀な人材だったのに、なんで一臣様は菊名さんをプロジェクトから外したのだろうと…」


「ふん。ずいぶんと日吉はできた人間なんだな」

「そうですね。いろんな人に信頼もされていますし」

「たとえば?」

「総務部の人や、機械金属部の人からも」

「そうか。綱島も信頼しているのか?」


「はい。仕事もできますしね」

「なるほどなあ」

「菊名さんも、日吉さんを信頼していろいろと相談に乗ってもらっていました。辞めてからも連絡を取り合っていたようですし、菊名さんの再就職先も、日吉さんが決めてあげたんじゃないですか?」


「なんで綱島は知っているんだ?」

「菊名さんのことが私も心配になって、連絡を入れてみようかと日吉さんに言ったら、菊名さんだったら心配はいらないと、そう言っていましたから」


「へ~~え。日吉はそんなことまで、面倒を見ていたのか」

「はい」

 そんな会話をして、綱島さんは自分の部署に戻って行った。


「要注意人物だ。今後どう動くか、日吉を見張っておくよう裏の組織に言っておかないとな」

「そうですね。では、早速…」

 樋口さんは、裏組織に連絡を入れた。だが、その時、裏組織から、

「久世氏がまた弥生様に接触してきたようです」

と、樋口さんは報告を受けた。


「一臣様、また久世氏が弥生様に近寄って来たようですよ」

「久世が!?」

「日陰氏が久世氏を捕まえて、話を聞きだすようです」

「忍者部隊の部屋まで連れてくるのか?」


「いえ。裏組織のことがばれては困りますから、車に呼んで話を聞きだすようです。監視室でその内容を聞くことができますが」

「すぐに行こう」


 そうして一臣さんは、すぐに監視室に移動した。一臣さんが移動してから、日陰さんが久世君に話を聞きだそうとした。だが、監視室に、

「弥生様と龍二様が、何者かに襲われています!」

という報告が入り、日陰さんはすぐにその現場に直行し、一臣さんと樋口さんも監視室から1階のロビーに移動した。


「弥生!龍二!」

 一臣さんと樋口さんが駆けつけた時、私と龍二さんはすでに黒のスーツ姿の男にとらわれたところだった。


「弥生様!」

 忍者部隊も来ていた。だが、黒スーツの男が手榴弾を投げ、煙幕の中、私と龍二さんが車に乗せられ、連れて行かれた。


「くそ!日吉がいたぞ。どういうことだ!!」

「だから、日吉に気をつけろって言ったのに」

 一臣さんのもとに久世君も駆けつけ、そう言った。


「久世、お前もあいつらとグルか?」

「いいや。ただ、やたらと俺に一臣氏の悪口を言い、弥生ちゃんと一臣氏を結婚させたらダメだと言って来ていた」

「……そうか。久世もあいつらにいいように使われていたのか」


「あいつら、相当やばい奴らなのか?弥生ちゃんは大丈夫なのか?」

「樋口!すぐに弥生と龍二を追うぞ。車を出せ」

「はい」


「一臣様!弥生様と龍二様が連れて行かれたと報告が入ったのですが」

 辰巳さんが、一臣さんのもとに駆け寄ってきた。

「ああ。すぐに警察に連絡をしてくれ。それから、応援部隊も頼む。俺も弥生と龍二の救出に行く」

「は!」


「俺も弥生ちゃんを助けに行く」

「邪魔だ。引っ込んでいろ。行くのは訓練を受けたものだけだ」

「訓練?」

「ああ。こっちはプロだ。お前みたいな素人が出る幕じゃない」


 久世君を残し、一臣さんは樋口さんと忍者部隊の車に乗った。そこには日陰さんと伊賀野さんも一緒だった。

「伊賀野。京子さんは大丈夫だったのか?」

「はい。すぐにお屋敷の方に、お送りするよう手配しました」


「…そうか。龍二と弥生だけが襲われたのか」

「いいえ。弥生様を日吉さんが連れて行こうとしたところを、龍二様が助けに入ったようです」

「龍二が?」

「はい。体を張って、弥生様に逃げろとおっしゃっていました。申し訳ありませんでした。京子様しかお守りできませんでした」


「…弥生は逃げなかったのか。龍二が逃げろと言ったのに」

「弥生様は、果敢にも龍二様に襲いかかっていた男に挑まれて…」

「あいつ…。なんだって、逃げないんだよ。まったく…」

「弥生様を捕まえた男は、弥生様が投げ飛ばしていましたよ」

「くそ!自信過剰なんだ。素直に龍二の言うことを聞いて、逃げりゃいいものを」


 一臣さんはギリリと唇を噛み、

「頼む。無事でいてくれ」

と、祈りながら車に乗っていた。


「龍二様、弥生様をちゃんと助けようとしたんですね」

 樋口さんの言葉に、一臣さんは、

「ああ」

と一言だけ、言葉を発して黙り込んだ。



 コツコツと足音を響かせながら、Aコーポレーションの社長が歩いてきた。

「上条弥生殿、初めまして」

 近づいてきて顔がはっきりと見えた。前に一臣さんにパンフレットを見せてもらったが、まだ30代かもしれない若い社長だ。


「それに、緒方龍二殿も初めましてですね」

 そう言って、社長はふふふと笑った。

「弥生には手を出すなよ」

 龍二さんがすごんだ。でも、社長はまだ、ふふふと笑っている。


「弥生殿は、兄上のほうの婚約者でしょう?それも、あなたと一臣殿は仲が悪いと聞いていますよ」

「……」

 龍二さんは黙った。でも、社長を思い切り睨んでいる。


「さあて。龍二殿まで手に入れた。どうしましょうかねえ」

 社長はそう言って、今度はくっくっくと気味悪く笑った。


 だが、すぐにその笑顔は消えた。私の前にしゃがみこみ、私の顎を持ってクイッとあげ、

「やはり、弥生殿を私のものにするのがいいかもしれないですね」

と、無表情のままそう言った。


「おい!弥生に手を出すなって言っただろ!人質なら俺だけで充分だろ!」

「人質?いいえ。弥生殿を連れてきたのは、そんな目的ではありせんよ。それに、龍二殿がなんの役に立つというんですか?」

「え?」


「緒方家でも、役立たずの人間だと聞いていますよ。そんな人間を人質にとったところで、なんの意味がありますかねえ」

「お兄さん、龍二はそんなに役立たずなわけ?連れてこないほうが良かった?」

 日吉さんが社長にそう言った。


 私は、今すぐにでも、社長の腹を蹴飛ばしたかった。でも、今はまだ、様子を見るしかない。


 見張りの人間は何人いるんだろう。この社長も、日吉さんと戸田さんも、たいしたことはない。すぐに倉庫から逃げ出せるかもしれないけれど、倉庫の外に何人も図体のでかい男がいたら、また捕まるかもしれない。

 へまはできない。龍二さんもいる。なんとか、逃げ出す方法はないものか。


「ここは、どこなんですか?」

 いろいろと話しかけ、時間を稼ぐか。緒方財閥の裏組織なら、ここまで本当に助けに来てくれそうだ。助けがくるまで時間を稼いでいるしかないかもしれない。


「そんなこと聞いてどうするんですか?逃げますか?くっくっく。あなたみたいな小娘に何ができますか?」

 また、社長は気味悪く笑った。そして、私の顎を持ち、じろじろと私の顔を見ている。


 気味悪い。ああ。今すぐに蹴り倒したい。


「あまり、私好みじゃないんですけどねえ。ですが、私と弥生殿が結婚すれば、上条グループは、緒方財閥との提携を取りやめますかねえ?」

「ま、まさか!だいたい、私はあなたなんかと結婚しません」


「いやでもすることになるかもしれませんよ。私の赤ちゃんを身ごもれば」

「弥生に手を出すな!その薄汚い手で弥生に触るな、この変態野郎!!!」

 そう龍二さんは言いながら、立ち上がって思い切り、社長の頭に蹴りを入れた。


 ドカッ!

 社長は倒れこみ、頭を押さえ痛がった。


「お兄さん!」

「社長!」

 日吉さんと大男が社長のもとに駆け寄った。そして、男は龍二さんを捕まえようとしたが、龍二さんはロープをほどき、すぐ近くに立てかけてあったパイプ椅子を男に向かって放り投げた。


 その隙に私もロープから抜け出し、立ち上がった。


「龍二さん!逃げよう!」

 私は龍二さんと一緒に、倉庫の出口に駆けだした。でも、瞬く間に黒スーツの男が何人も倉庫に入ってきて、私たちは取り囲まれてしまった。


「くそ!」

 龍二さんは私の前に立ち、私を守るようにしてその男たちを睨みつけた。

「俺が相手にしている間に、なんとか弥生だけでも逃げろよ」

「相手って言っても、ここに6人もいるよ。私も戦う」


「はあ?何言ってるんだよ。きっと助けがすぐそこにまで来ているから、なんとか倉庫から抜け出て、弥生だけでも助けてもらえ」

「冗談でしょ。龍二さんを置いて行けるわけないでしょ」


「置いて行けよ。どうせ俺は、緒方家のお荷物だ。こんな時くらい、役に立たせろ!」

「龍二さんはお荷物じゃないっ。一臣さんの大事な弟だし、私の弟にもなる人なんだからね」

「あほか!兄貴は俺のことなんか、大事に思っていないって。親父やおふくろだって」


 そんなことを言い合っていると、

「私の頭をよくも蹴りましたね。それに、いったいいつ、ロープから抜け出たんです」

と、社長が頭を押さえながら立ち上がり、私たちのほうにやってきた。


「武器があればな」

 龍二さんが小声でそう言った。

「武器なんかいらない」

 私も小声でそう言い返した。


「素手で戦う。戦うために武術を習ったわけじゃないけど、今は大事な人を守るためだから、これは言いつけを破るわけじゃない」

「なんのことだ?」

 こそこそと、龍二さんにだけ聞こえるように私は話していた。


「おじい様と約束しているんです。合気道を戦うための道具にしないって。でも、自分や大事な人を守るためならって、そう言われています。だから、今だけ戦うために使います」

「合気道?」

「はい。私、こう見えても、合気道の…」


 最後まで言い終わる前に、黒スーツの男が龍二さんに殴りかかってきた。龍二さんはそれをよけ、回し蹴りをした。

 今のは?カンフー?空手?もしや、少林寺?わかんないけど、龍二さんも武術ができるようだ。


 そのあと、他の男も龍二さんに向かってきた。私はその一人の足を払い、投げ飛ばしてから、急所を突いた。

「うう!」

 その男は動けなくなった。


 続いて、龍二さんを羽交い絞めにしようとしている男の背中に膝蹴りをして、その男が痛がりながら、龍二さんから離れたところで、その男の肘を掴んだ。

「いててててて!」

「しばらく、動きを封じます」

 その男の急所も突き、その男も床に這いつくばって痛がった。


「つ、つえ~~。弥生」

 それを見て、龍二さんは驚いたが、また龍二さんに男が襲いかかってきて、私にも二人男が同時に向かってきた。


 するっと一人の男の懐に入り、肘を掴んだ。

「いて~~~!!!いてえ。離せ!」

 その男は思い切り痛がった。


 龍二さんは、向かってきた男に回し蹴りをしようとしたが、かわされてしまい、胸ぐらを掴まれている。

 私にはもう一人の男が背中から、私を羽交い絞めにしようと襲いかかってきていた。でも、私は肘を掴んでいる男を盾にしてかわした。


 と、その時、ものすごいエンジン音とともに、トラックが1台突っ込んできた。その後ろから、ワゴン車もやってきて、中からどっとまた、黒スーツの男が現れた。


「また来た!」

 胸ぐらを掴まれ、男と睨みあっていた龍二さんが、顔を曇らせそう言った。でも、

「弥生様!龍二様!」

という、辰巳さんの声が聞こえて、トラックから降りてきた男たちが、侍部隊の人たちだということがわかった。


「辰巳さん!」

 私は肘を掴んでいた男の急所を突いた後、そう叫んだ。

「龍二さん、助けが来ましたよ」

「仲間か!辰巳さんか!」

 龍二さんはほっとした声でそう言った。だが、その時、敵に後ろから羽交い絞めにされてしまった。


「龍二さん!」

 私は慌てて龍二さんを助けに行こうとした。そして、私まで男の一人に後ろから羽交い絞めにされてしまった。


 しまった!腕が動かせない!


「弥生!!!」

 え?


 この声。

「一臣さん?!」

「弥生!」

「弥生様!」

 樋口さんの声もした。トラックの後ろのワゴン車から、一臣さんと樋口さんが駆け寄ってきた。日陰さんと伊賀野さんの姿も見える。


 ワゴン車のあとにも、何台も車やトラックが到着した。そして、ぞろぞろと黒スーツが降りてきて、倉庫内に入ってきた。


「弥生と龍二を離せ。お前らに逃げ道はないぞ」

 一臣さんが先頭に立ち、そう言って近づいてきた。


「そうかしら?」

 戸田さんが鼻で笑いながら、私のすぐ隣に立った。

「いいものを見つけたの。ほら。こんなものが落ちていたわ」


 戸田さんの手には、私が割ったビール瓶があった。ああ、ちゃんとビール瓶の方も隠しておけばよかった。

「弥生に何をする気だ」

 一臣さんが、近づこうとしていた侍部隊の人たちを止めた。そして、自分もその場に立ち止まった。


「この可愛い顔に傷を作るとか、どう?」

「やめろ!弥生に手を出すな」

 龍二さんが、そう怒鳴った。でも、羽交い絞めにしている大男が、龍二さんの首を腕で締め付けて、龍二さんは、「う!」と言ったきり、声を出せなくなった。


「龍二さん!」

 私は龍二さんを呼んだ。一臣さんは黙り込み、龍二さんを見た後に、すぐに私のほうを見た。


「弥生に危害を加えるな。弥生を離せ。俺が代わりになる」

「それは無理ですね。弥生殿はあなたとの婚約を破棄し、私と結婚するのですから」

 社長がそう言って笑いながら、私の隣に来た。


「弥生がお前と結婚だと?冗談だろ」

「いいえ。弥生殿には私の子供を産んでもらいますよ。だから、あなたに返すわけにはいきません」

「なんだと?」

 一臣さんの顔が、思い切り怖くなった。ううん。一臣さんだけじゃない。樋口さんや、他の人まで。


「私の妻になるのだから、傷を作ってもらっちゃ困ります。傷つけるなら、龍二殿にしたらどうですか?それとも、龍二殿を傷つけても、一臣殿は痛くもかゆくもないですかね?龍二殿は緒方家の役立たずのようですしね」

「……龍二も、傷つけるな」


「はい?何か言いましたか?」

 社長は戸田さんからビール瓶を取り、それを持って龍二さんの近くに寄った。


 この男はかなり危ないやつだ。本当に龍二さんを傷つけるかもしれない。

 どうしよう。なんとか、今すぐ助けないと!



           


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