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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第2章 婚約は波乱万丈!
18/195

~その4~ 二日酔い

「イタタタ」

 目が覚めたら、ものすごい頭痛が襲ってきた。それに気持ちも悪い。

 ふっと視線を感じ横を見ると、一臣様が隣にいた。


 こっちを見て、

「二日酔いか?」

と呆れた顔をして聞いてきた。


「……あれ?なんで私、一臣様の部屋に」

 確か昨日、お屋敷は追い出されたはず。

「ここはホテルだ」

 あ!そうだった。中華レストランに行って、それからお酒飲んで、私また、寝ちゃった?


「あれだけで、二日酔いか?お前、本当に酒弱いな」

 一臣様がまた、呆れた声でそう言った。

「……」

 ガンガン頭痛がする。それに私の顔のすぐ横に一臣様の顔があって、こっちをじ~~っと見ているから、ドキドキして頭痛と吐き気と動機でおかしくなりそうだ。


「…あ、あの、何か?」

「いや。華奢に見えて意外と、お前って重いんだなあと思って」

 ええ?!

「私、まさか、お店で寝ちゃって、一臣様が運んでくれたとか?」


「ああ、抱えるようにして部屋まで来たぞ。最後なんてお姫様抱っこだ」

「どひゃ~~~~?!!」

 お姫様抱っこ?


「イタタタタ」

 自分の大きな声で、また頭痛が…。

「なんでそんなに驚くんだ。お前が言ったんだぞ、抱っこしろって」

「い、言ってません」


「言った。抱っこ~~って」

「い、言いません。そんなこと一臣様に」

「覚えていないのか?」

「………」


 うそ。まさか、そんなこと言ったりしていないよね?これ、一臣様がからかってるんだよね?

「じゃあ、そのあとの…」

「はい?」

「………いや、まあ、覚えていないならいいけど」


「……わ、私、何か、変なことしちゃったとか?ただ、眠っちゃっただけじゃないんですか?」

「お前、酒癖悪いのか?」

「いいえ!ただ、寝ちゃうんです。だから、なるべく外では飲まないようにしてて」

「外で飲んで寝たことがあるのか?」


「はい。友達にすごく迷惑かけたみたいで。私のこと抱えてタクシーで、私のアパートに連れ帰ってくれて」

「男か?」

「お、女友達です!!!」

「…そりゃ、苦労しただろうな、そいつ」


「はい。注意されました。弥生ちゃん、酔うと変わるから外でなるべく飲まないほうがいいって」

「…だろうな」

「だから、飲む時はいつもアパートの大家さんの部屋で飲みました。それなら、そこで寝ちゃっても、大家さんの部屋だし、同じアパートの中だし、安心だったから」


「大家って男か?」

「え?いいえ。70過ぎのおばあさんです。でも、お酒強くて」

「ああ、おばあさんか…」

「はい。他の住人とも一緒に飲んでましたけど、大家さんが一番お酒強いんです」


「他の住人?みんな女か?」

「いえ、私以外はみんな男性…」

「男と一緒に飲んでいたのか?!」

「…はい。みんなも、すごく酔って、翌日記憶がないんですよね。あ、私も寝ちゃってて、記憶もなにもなくなってるんですけど」


「………お前、なんか、すごいところに住んでいたんじゃないのか」

「え?」

「周りみんな男だろ?すげえ、危ないところじゃないか…。あ、まさか、そこの誰かと、関係持ったり」


「関係?!!」

 ズキズキ!

「イタタ。頭痛い…。そ、そんな関係って、変な関係なんてないです。だって、私には一臣様っていうフィアンセがいたし、誰とも付き合うこともなく、結婚するまではどなたとも、キスはおろか、手を繋ぐことだって…。あ、中学の時のフォークダンスでは、手、繋いじゃいましたけど」


「………どうだか」

「え?」

「酔っ払ってて、記憶ないんだろ?じゃあ、どうだかな」

「そんな!私、酔っていたって、ちゃんと頑なに守り抜いていました!!!」

「……へ~~~~。そうは思えないけどな」


 また、一臣様は意地悪そうな目をして、じとっと私を見た。

「なななな、なんでそんなことを言うんですか?」

「お前、本当に昨日のこと覚えていないのか?」

「はい」


「俺に抱っこしてってせがんだこともか?」

「そ、そんなこと、するわけないじゃないですか?」

「…俺が抱っこしたら、俺に抱きついてきたぞ」

「まさか!そんなことしません」


「それに、いきなり泣き出したぞ」

「私が?」

「そうだ。上野さんとデートしないでくださいとか言い出して、びえ~~~って泣いたと思ったら、そのまま爆睡しやがって。お前抱えたままドアを開けて、ベッドに寝かせるのだって、大変だったんだぞ」


「………」

 私は、なんだか悪い予感がして、まだ頭痛と吐き気がする中、布団の中を覗いた。

「!!うわ?!私、服着てない?」

「そうだ。服がシワになったら、お前着替えもないし困るからな。脱がすのだって、一苦労したんだ。お前、本当に重かったし」


「………」

「下着は脱がせていないから、安心しろ」

 どひゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!

 そりゃ、キャミソールは着ているけど、でもでも、太ももは顕になっているし…。っていうか、ストッキングも履いていないけど…?!


「着痩せしてるんだな。あ、そうだ。前に喜多見さんにお前のブラジャー揃えさせたんだが、小さかったんじゃないのか?お前、もうちょっと胸あるよな?」

「……う、うわうわうわ」

 頭がグワングワンしてる。目が回る…。


 私はギューっと布団を抱きしめ、一臣様から胸を見られないようにした。

「今さら、隠しても…。それより、小さくなかったのかって聞いてるんだ」

「き、喜多見さん、もう一つ大きめのカップも用意してくれたから、大丈夫です」


「さすがだな」

「………」

 み、見られた。いくらブラジャーつけていたとは言え…。いや、まさかと思うけど、中身まで見ていないよね。


「ふあ~~~~。そろそろ起きるか」

 そう言うと、一臣様は布団から起き上がった。

「あ、あ、あの、なんで一臣様は、上半身裸なんですか?!」

 っていうか、もしや、パンツ一丁?


「俺か?俺は家にあるシルクのパジャマなら寝れるが、それ以外はどうもダメなんだ」

「は?」

「だから、パジャマがない時は、何も着ない」


「……」

 ひえ~~~~。じゃあ、ずっと隣に、パンツ一丁の一臣様が寝てて、私は下着姿で…。

 う、うわ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。

 お父様、すみません。結婚前に私は、フィアンセがいる身でありながら、こ、こんな破廉恥なことを。


 って、待って。そのフィアンセだから、別に、いいのか?

 でも、結婚前だし!

 でも、でもでもでも、グースカ寝ていただけで、それ以外に何かあったわけでは。


「一臣様!」

 ベッドから出て、バスローブを羽織った一臣様に、私は思い切り大きな声で声をかけた。そして、自分の声でまた、頭がガンガンしてしまった。

「イタタタ」


「なんだ?」

「あ、あ、あ、あの。私、朝まで爆睡していたんですよね?」

「そうだ。イビキまでかいてうるさかったぞ」

「ごめんなさい。じゃあ、一臣様、寝れなかったんじゃ」


「いや。俺も朝まで眠れた。すごいよなあ。隣でイビキかいてても、眠れるもんなんだな」

「……ぐっすりと?」

「ああ。ぐっすりと。お前、二日酔いなんだろ?朝食はルームサービス頼むから、オレンジでも持ってきてもらうか。二日酔いにはビタミンを摂取するのが一番だぞ」


「……じゃあ、何も、その、昨夜は」

「え?」

「だから、あの。私と一臣様の間に、何も」

「ああ。なんにもなかった。残念だったか」


 グルグルグル。思い切り首を横に振り、

「イタタタタ」

とまた、ものすごい頭痛がして私は頭を押さえた。


「あほだな。つくづく…」

 そう言って、一臣様はバスルームに入っていった。


「…よ、良かった」

 何もなかったんだ。

 いや、でも、いずれは私、一臣様に捧げるんだから、その覚悟はしておかないと…。

 でも、まだ、まだ、まだ、心の準備が。


 ううん。体だって。お腹の肉も見られたかな。もっと、ボン、キュ、ボンのナイスバディになってから、一臣様にお見せしたかった。

 あ~~~~~~~~~~~~~。重いって散々言われたし、私が実は着やせしているだけで、太っていることもバレたし、最悪だ。


 それに、酒癖が悪い?あれも、冗談で言ってるわけではなさそうだ。

 ってことは、私、本当に一臣様に「抱っこして」と言って、お姫様だっこさせてしまったり、抱きついたり、泣き出したりしてしまったってこと?!


 それも、上野さんとデートしないで…なんて、そんな心の奥底に隠していた思いまで、暴露してしまったってこと?!


 どひゃ~~~~~~~~~~~~~~~!!

 恥かしさのあまり、布団に潜り込んだ。

 うわ。布団…。一臣様のコロンの匂いが思い切り…。クラ~~~~~。


 うっわ~~~。一臣様の素肌、もろ見てしまったし…。それも、そんな上半身裸の隣で寝てしまったと思うと、ああ、また目が回ってきた。クラクラする…。


 一臣様がバスルームから出てきても、まだ私は布団の中に潜り込み、恥ずかしがっていた。

 それから、一臣様はルームサービスを頼み、そのあと、私の隣にドスンと座ってきた。


「生きてるか?」

「はい」

「そんなに二日酔い、辛いのか?」

 ああ、恥ずかしがって起き上がれなかったのに、一臣様、心配してくれてるんだ。


「だ、大丈夫です」

「いつも、飲んだ次の日はそんなか?」

「た、たまに…」

「お前、なるべくどころか、絶対に外で飲むなよな」


「……はい」

「あのレストランでも、ホテルでも、もう噂になってるな」

「え?噂って?」

 私は驚いて顔を上げた。すると、髪が濡れたままで、バスローブを羽織っているセクシーな一臣様が、私の顔の目の前にいた。


 うわ。色っぽすぎる。また、頭がくらくらしてきた。

「そりゃ、緒方財閥の御曹司が、女連れてきて、酔わせて、そのまま部屋に連れ込んだって」

「ええ?!」

「ま、いっか。その相手が、お前だってわかったところで、婚約者なんだから、ゴシップにもならないだろ」


「………でででも、まだ、結婚前」

「は?」

「だから、その」

「そんなの、婚約者なんだから、結婚前だろうがなんだろうが、一緒だろ?」


 一緒って?!

「ま、いっか。あのふたりは、婚約発表前からお付き合いをしていたようだ。くらいにしか思わないだろ。いや、逆に、仲がいいという噂でも流れりゃ、好都合かな」


「……好都合?」

「ああ、でもなあ。おふくろにバレたら、うるさそうだよなあ。やっぱり、ホテルのやつや、レストランのやつに、口止めさせておくかな」

「………」


 クラクラ。もう、思考がついていっていない。もっと目が回ってきちゃった。


 コンコン。

「緒方様。朝食をお持ちしました」

 ドアをノックする音がした。

「ああ」


 一臣様は、バスローブのまま、隣の部屋に行った。っていうか、今、隣にも部屋があることに気がついた。さすが、一臣様が泊まる部屋だけある。多分、スイートルームって部屋だ。私は、初めて泊まったけど。


「オレンジも持ってきてくれたか?」

一臣様の声が隣からした。

「はい。オレンジも、オレンジジュースも持ってまいりました」

 ホテルマンの声も聞こえてきた。


 すると、

「弥生。オレンジ以外は食べられるのか?ハムエッグとトーストも、持ってきてもらったが」

と、隣の部屋のドアから一臣様は顔を出し、平気でそう聞いてきた。


「…、食べられます」

 私は布団の中に顔をまたうずめ、そう答えた。

「お飲み物は、紅茶かコーヒー、どちらになさいますか?」


「ああ、俺はコーヒー。ブラックだ。弥生もコーヒーでいいか?」

 また、一臣様は顔をドアから出して聞いてきた。

「はい。あ、でも、お砂糖多めと、ミルクも」


「だから、太るんだ。お前、甘いもの控えろ。でないと、婚約披露パーティで着るドレス、着れなくなるぞ」

「……」

 うそ~~~~~~~。そんなことまで、ホテルの人がいるのに、ばらしているし。


「では、わたくしはこれで」

「ああ、駒込。こいつ、俺のフィアンセなんだ。それで、まだ正式な婚約発表前だから、こいつと泊まったことは、口外しないよう、他のスタッフにも言っておいてくれないか」


「はい、かしこまりました」

「中華レストランの支配人にも、そう言っておいてくれ。昨日、言い忘れたから」

「はい。それでは、ごゆっくり」

 ホテルマンは、静かに部屋を出ていった。


「し、知り合いですか?」

 一臣様は、ゆっくりと隣の部屋から歩いてきた。そんな一臣様に、私は布団からもそっと顔を出して、そう聞いた。

「駒込か?あいつは、俺専属っていうか、緒方財閥の担当になっている」

「そうなんですか…」


「ほら。バズローブ羽織れ。朝飯にするぞ。食ったら二日酔いなんて、すぐ治る」

「はい」

 一臣様はまた、隣の部屋に行った。私は一臣様がいなくなってから、ベッドから起きだして一臣様が置いていったバスローブを羽織った。

 

 それから隣の部屋に行くと、豪華な応接セットや、ドッシリとしたデスクがあり、その応接セットのテーブルに、朝食が乗っていた。


 一臣様はすでにソファに座って、コーヒーを飲んでいる。

「い、いただきます」

 私も静かに一臣様の真向かいのソファに腰掛け、オレンジジュースを飲んだ。

「美味しい」


「うまいか?」

「はい」

「オレンジも食べておけ。二日酔いにいいぞ」

「はい」


 私はオレンジも食べた。そうしたら、どんどん食欲が出てきて、トーストやハムエッグも、ばくばくと食べてしまった。

「美味しかったです。ご馳走様」

 そう言ってコーヒーを飲んで、ほうっと一息つくと、一臣様に笑われてしまった。


「な、何か?」

「二日酔いなのに、よく食えるなあと思ってな」

「…う」

「もう、頭痛は治ったのか?」


「はい。すっかり」

「ほんと、お前って、回復力半端ないな」

「……そ、そうですか?」

「はははは」


 そうかもしれないけど。でも、もし回復力が早いのだとしたら、一番の効果は目の前に、一臣様がいるからじゃないのかなあ。なんて…。

 新聞を読みながら、コーヒーを飲んでいる一臣様の姿が麗しくって、私はしばらくうっとりと、一臣様を見つめていた。




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