~その12~ 龍二さんの協力
お屋敷に戻り、私と一臣さんが玄関から入ると、車の音で気が付いたのか、京子さんが出迎えに来た。
「おかえりなさい、一臣様、弥生さん」
「……お一人ですか?龍二は?」
「まだですわ」
一臣さんの言葉に、京子さんが答えた。
「わたくし、大広間でピアノを弾いていました」
「へえ。ピアノも弾けるんですか」
「ええ。少しですけれど。よかったら、一臣さんもご一緒に弾きませんか?」
「申し訳ない。最近仕事が忙しくて、ようやく早く帰れたので、部屋で休みたいんですが」
一臣さんはそう丁寧に言って、すぐに階段を上ろうとした。
「わたくしも明日は、会社に行きますわ」
「え?」
「お屋敷にいてもすることもないし、会社を見てみたいんです」
「それは、僕ではなく龍二に言ってください。あなたは龍二の婚約者なんですから」
「まだですわ。わたくし、まだ返事はしておりませんから」
「……どっちにしろ、僕は忙しいので案内などできませんよ」
一臣さんは、いきなり口調を変えてクールにそう言うと、颯爽と2階に行ってしまった。
私も慌てて2階に行った。そして、自分の部屋に入った。すると、一臣さんが私の部屋に通じるドアを開け、私を待っていた。
「弥生、早くに飯食って、早くに風呂入るぞ」
「はい」
「じゃあ、さっさと着替えて…、ストッキングは履くな。生足でいいぞ」
本当に生足が好きだよなあ。
「ダメだ。龍二がいるんだった。足を見せない格好をしろよ」
「はい…」
一臣さんはそう言い終わると、部屋に戻って行った。
龍二さんか…。なんとか、一臣さんとの仲が戻らないものかなあ。
着替えをして、一臣さんの部屋に行くと、一臣さんもスーツから着替えていた。
「これなら、いいですよね?」
私はスカートではなく、7分丈のパンツを履いた。
「ああ。足に触れなくて残念だが、龍二に見られるよりはいいからな」
私の足なんか、見ないと思うし、興味もないと思うんだけど。
「弥生」
一臣さんが私に近づいてきて、グイッと抱き寄せられた。そして、熱いキスをしてきた。
ガクン。足の力が抜けて、座り込みそうになると、一臣さんがそのまま私を抱きかかえ、ソファに座った。
「龍二は、京子のことが気に入っているんだよな」
「多分そうですよね。だから、婚約者に京子さんを選んだんでしょうし」
「…さて、どういう作戦にするかな」
「作戦?」
「龍二にそのまま、京子を狙わせるには、俺が京子に気がある振りでもしたらいいのか」
「え?」
「龍二が、お前に関心を持つことだけは避けたいんだ」
「……龍二さんなら、一臣さんに私は嫌われていると思っています」
「そんな話をしたのか?」
「はい。会社で一臣さんに私が叱られているところも見られたし、だから、大丈夫です」
「何がだ?」
「作戦なんか練らないでも」
「そうか。じゃあ、今までのように、龍二の前で仲の悪い振りを続けていたらいいんだな」
「はい」
そんなことも、本当はしたくないけど。だって、龍二さんを騙していることに、心が痛んできちゃった。
「だから、二人きりでいる時には、思いっきりいちゃつくぞ」
そう言って一臣さんは、またキスをしてきた。
わ~~~~~。クラクラする。体中の力が抜けていく。
ギュルルル…。
うわ。また、こんなタイミングでお腹がなっちゃったよ~~。
「夕飯の時間か。呼びに来ないが、そろそろ食堂に行くか」
「…はい」
もうちょっと、いちゃいちゃしていたかったのにな。ダイニングに行くと、一臣さんそっけなくするんだろうな。あれ、けっこう寂しいんだよね。
案の定、一臣さんのそっけなさは半端なかった。目の前に座っている私を一切見ないし、話しかけるのも京子さんに対してだけだ。
お母様が私に話を振ってくれても、一臣さんは私の答えに対して完全に無視。でも、京子さんが話すと、
「へえ、そうなんですか」
と相槌を打つ。
そんな私と一臣さんを横目で龍二さんが見ながら、ふっと口元を緩め、
「ほんと、可哀そうだね。兄貴のフィアンセ殿は」
と、嫌味たっぷりな口調で話してきた。
「何がだ?龍二」
「フィアンセっていうのも名ばかりで、ずっと存在すら無視され続けているわけ?こんなで、立派な跡継ぎなんか産めるのか?」
「お前には関係ないだろ」
「まあね。跡継ぎが生まれようが生まれなかろうが関係ないし。あ、まさか兄貴、外に子供作って、その子を養子にしようとか考えているんじゃないだろうな」
「そんなことは考えていない。だいいち、そんなことがどこがでばれてみろ。上条グループとの縁もなくなるだろ」
「一応は、上条グループのお嬢様である弥生に、跡継ぎを産ませるってわけだ」
龍二さんはさらに、口元に笑みを浮かべた。
「龍二には、関係ない話だろ?」
「………まあね」
返事をするまでの意味深な間、なんだったなろうなあ。
一臣さんは、眉間に皺を寄せ、龍二さんを睨むように見ると、ナプキンで口を拭き、
「ご馳走様。疲れているからこれで、失礼します」
と、京子さんに向かってそう言うと、席を立った。
「わたくしも、早くに部屋に戻ります」
京子さんはそう言うと、先にダイニングを出て行こうとした一臣さんのあとを追うようにして、出て行った。
「……では、弥生さん、今日もお仕事ご苦労様。わたくしも、これで失礼しますよ」
お母様も静かにそう言うと、静かに席を立ち歩いて行った。
「……ご馳走様でした」
ああ。やっぱり、凹んじゃった。でも、一臣さんの部屋に行ったら、きっと優しい一臣さんに戻っているよね。
「おい」
席を立ってダイニングを出ようとすると、後ろから龍二さんに声をかけられた。
「はい?」
「あんたさあ、なんか兄貴にしたわけ?」
「いいえ。何も」
「じゃあ、あそこまで兄貴があんたを嫌っている理由はなんだ?あんた、兄貴に食われたんじゃないのかよ」
「く、食われる?」
「兄貴、京子にフィアンセは誰でもよかったなんて言っていたけど、本当は京子が良かったなんてことないよな。今日もやけに京子に興味示していたけど…」
「………」
「京子の体が弱いからって理由で、京子を選ばなかったけど、子供さえ弥生に産ませたら、あとは京子と仲良くやって行こうなんて思っていないよな」
「京子さんは、龍二さんと結婚するんじゃないんですか?」
「そうだ。俺は京子と結婚しようと考えている。でも、俺と京子が結婚した後に、兄貴はあんたほっておいて、京子と仲良くやっていこうなんて考えているかもしれないだろ?」
「京子さんは龍二さんの奥さんになるのに?」
「平気でそんなことだって、するかもしれないだろ?あの兄貴のことだからな」
一臣さんは龍二さんのことをまったく信用していないけど、龍二さんだって一臣さんのことをまったく信用していないじゃないか。
「あの兄貴って、どういう意味ですか?」
「そりゃ、女癖が悪い、平気で女をとっかえひっかえして遊べる最低なって意味だよ」
「そんなこと、一臣さんは…」
「あんた、知らないわけ?兄貴が何人の女と遊んでいたか。でも、すぐに飽きてぽいって捨てるんだ。まあ、女のほうも、本気で付き合っている女はいなかったから、兄貴と別れて俺と付き合っている女も多かったしな」
「じゃあ、一臣さんのこと言えないですよね?」
「俺は、飽きてすぐにぽいっとはしないからな」
「でも、数人の人と同時に付き合っているんですよね?」
「……まあ、そう言われりゃそうだけどな」
「龍二さんこそ、京子さんと結婚した後も、他の女性と付き合っていくんですか?」
「……京子次第だ」
「え?」
「京子が俺より兄貴を慕っていたり、京子が俺を裏切るようなことがあれば、俺も裏切ってやる」
「……」
なんか、怖い。目には目を、歯には歯をっていう感じなわけ?
「弥生も兄貴が他の女に手を出したら、同じことをしてやれば?」
「同じって?」
「浮気。ああ、でも、弥生が浮気しても、兄貴はどうでもいいのかもしれないけどな」
浮気~~~?
「わ、私が他の男の人と?あり得ない。考えられない。一臣さん以外の人とだなんて」
「…あんた、そんなに兄貴に惚れてんの?ほんと、哀れなやつだよなあ。まさかと思うけど、兄貴のそばにいられるだけでいいとか、そんな感じ?」
私は黙って頷いた。すると、龍二さんが首を横に振りながら、やれやれっていう顔をした。
「あんたさあ、社員の前で、久世ってやつに言い返しただろ?」
「はい」
「社食行ったら、その話で持ちきりになっていたぞ。兄貴に全然思われていないくせに、あんたは健気にも思うだけでなく、兄貴のことをかばったりしてってさ。みんなにあんたの評判上がったらしいけど、俺から見たら単なるバカなやつだよな」
グッサリ。
「でも、そこまでバカを貫けるなんて、尊敬するよ」
「それも、バカにしているんですよね?」
「いいや。本音。あんたみたいなやつ、そうそういないし。俺、本気であんたを応援したいと思うし。ああ、そっか。周りにいた社員も、あんたを応援したいって言ってたけど、そんだけバカ貫くと、応援したくなるのかもなあ」
喜んでいいのかどうか、わからないなあ。さっきから、バカバカって。
「まあ、なんか協力してやることがあれば、してやるから」
龍二さんはそう言うと、にこりと笑った。
あれ?今の笑顔、なんとなく一臣さんに似ている。いつもの、嫌味たっぷりな微笑とは違ってた。
そんなことを龍二さんと話しながら2階にあがり、龍二さんの部屋の前にいると、なぜかバタンと一臣さんがドアを開け、部屋から出てきた。
「あ…」
やばい。龍二さんと話をしているところを見られた。近づくなって言われていたのに。
「なんだよ、兄貴」
「…お前こそ、何しているんだ?」
一臣さんが怖い顔をして、龍二さんに聞いた。
「京子は?」
「とっくに自分の部屋に戻っただろ。話しかけられたが、疲れているって言って、俺はとっとと部屋に入ったし」
「ふうん。兄貴、京子のこと気に入っているようだったから、部屋に連れ込んだかと思ったよ」
「そんなことするわけないだろ。だいたい、京子さんはお前のフィアンセになる女なんだし」
「へえ。兄貴のことだから、見境なく平気で手を出すかと思ったけどな」
そう龍二さんが言うと、また一臣さんは龍二さんを睨みつけた。
「体が弱い京子さんに、手なんか出すわけないだろ」
「じゃあ、体が丈夫な弥生には、もう手を出したわけ?あ、まさか、一回出して飽きたとか?」
「お前には関係ない」
ますます、一臣さんの顔が怖くなった。
すると、龍二さんがにやっと笑い、もっと調子に乗ってきた。
「なあ、兄貴。跡継ぎっていうのは、上条弥生が緒方家の血をひく子供を産めばいいんだろ?それ、別に兄貴の子じゃなくたって、俺の子でもいいってことだろ?」
「今、なんて言った?」
わ。一臣さん、鬼の形相だ。でも、龍二さんはひるまず、私の腕をいきなり掴み、
「俺が弥生に俺の子を産ませてもいいってことだろ?」
と一臣さんに、また嫌味たっぷりな笑みを浮かべながら、そう言った。
「お前の子を産ませる?弥生に?」
ど、どうしたわけ?なんだって、いきなり龍二さん、そんなことを言い出したの?目には目をってこと?でも、一臣さん、別に京子さんに手を出したわけでもないのに。
「ああ。そうしたら兄貴は、嫌いな弥生を抱かなくても済むじゃん。そんで、他の女とでも遊んでいたら?」
「……。弥生が産むのは俺の子供だけだ。俺の子供じゃなきゃ、意味がない」
「それ、俺のDNAじゃ、役不足だってこと?」
龍二さんの顔が、ほんの少し曇った。
「ああ、そうだ。弥生が産むのは次期社長だ。緒方財閥の総帥になる人間だ。だから、俺の血を受け継がなくちゃ意味がないんだ」
「……へえ。そんなに兄貴のDNAは優秀なのかよ」
「……緒方財閥の人間の血だったら、誰だっていいわけじゃない。それに、上条家の人間だったら、誰だっていいわけでもない。弥生が、俺の子供を産むんだ。だから、龍二、弥生には手を出すなよ」
「……だったら兄貴も、他の女に手なんか出さず、弥生だけを抱いてたらいいだろ」
「他の女になんか手を出していない。そんなことお前に言われる筋合いはない。だいたい、俺は京子のことだって、なんとも思っていない」
そう一臣さんは言ってから、しまったという表情を見せた。
「じゃあ、弥生だけをそばに置いておけよ。弥生をほっておくと、俺が手を出すかもしれないぞ」
ムッとした表情をして、一臣さんが私の手を取った。
「今日にでも抱いてやれば?弥生が他の男にやられて、妊娠したりしたら大変なんだろ?」
「うるさい。お前が、弥生に近づかなければ問題はないんだっ」
ああ。とうとう、一臣さん切れたかも。こめかみにすごい青筋。
「俺だけじゃないだろ?宅配便のアルバイトがちょっかい出しているって噂、聞いたけど?」
「うるさいっ!あのアルバイトならクビにした。ああ、わかった。お前の言うとおり、弥生はそばに置いておく。首に縄でもつけてな!」
そう捨て台詞を吐き、一臣さんは私を引き連れ一臣さんの部屋のドアを開けた。そして、先に部屋に入り、私を引っ張りいれた。
その時、私は龍二さんの顔を何気に見た。なんだって、あんなことを言い出したのか気になって。すると、龍二さんはウインクをして、口だけで、「チャンスだ。迫れ!」とそんなことを言った。
チャンス?まさか、私が一臣さんと二人になるように仕向けた?
あれって、まさかと思うけど、龍二さんなりの演出?あれが龍二さん流の協力?!
バタン。私が部屋に入ると、一臣さんが思い切りドアを閉めた。そして、私を睨んでいる。
「あ。あの?」
「龍二に近づくなと言っただろ?」
「はい」
「油断も隙もない。龍二は弥生にまったく興味がないと思っていた。なのに、あんなことを言い出すとは…」
ギリ…。一臣さんが唇を噛んだ。
「お前に龍二の子を産ませるだと?冗談じゃないっ」
「あ、あれはきっと、一臣さんをからかっていたんだと思います。そんな気はきっとないですよ」
「お前なあ!何を呑気なことを言っているんだ。下手したら部屋に連れ込まれていたかもしれないんだぞ!」
う。でも、部屋なら前にも入ったことあった。だけど、別に何もされなかったけどなあ。
「あいつに気を許すな。近づいたり、話したりもするな!あいつが弥生を俺のそばに置いておけって言ったんだから、俺はこれからはどうどうと、弥生を屋敷でもそばに置いておくからな」
「え?」
「くそ!腹が立つ。龍二の奴!」
一臣さんは、ギリギリと歯ぎしりをしながら、私の手を引っ張り、バスルームに入った。
「風呂入るぞ」
「え?はい」
「龍二に触られた腕も、綺麗に洗ってやる」
「……はい」
「弥生」
「え?」
ギュ~~~。いきなり、一臣さんが力強く抱きしめてきた。
「お前と二人で暮らせたらいいのにな」
「え?」
「本当は、他の奴なんかいらない。飯食う時だって、弥生と二人でいい」
その割には、思い切り私のことを無視していたけどなあ。あれ、泣きそうになった。
「弥生…。今夜は邪魔が入らないから、思う存分、二人きりの時間を持てるぞ」
「はい」
嬉しい。
一臣さんは私の髪を優しく撫でるとキスをしてきて、キスをしたまま、私の服を脱がしだした。
トロン。キスだけで、スイッチが入った。二人きりの甘い夜、なんだか、久しぶりの気がする。
体を洗ってくれている時も、ジャグジーで抱きしめられている時も、体を優しく拭いてくれている時も、ずうっと私はうっとりと天にも昇る気持ちでいた。
ふわふわと体が浮いている感じ。そして、そのままお姫様抱っこをされ、ベッドに連れて行かれた。
はあ…。今日の一臣さん、いつにもまして、セクシーだ。
「一臣様」
一臣さんが、私の胸に優しくキスをしている時、部屋の外から京子さんの声が聞こえた。
「一臣様、もうお休みになられたんですか?」
そう言って、ドアもコンコンと、何度もノックしてくる。
「…ちっ。邪魔が入った。待ってろ、弥生。さっさと追い返してくる」
そう言うと一臣さんは、バスローブを羽織り、ドアを開けに行った。
あ。髪も乾いていないし、やたらとセクシーな一臣さんの姿で行っちゃった。
「どうしたんですか?」
一臣さんがそう言いながら、ドアを開けた。
「あ。シャワーの後ですか?」
「…何か用ですか?」
「少し、お話がしたかったんです」
「京子さんは、龍二のフィアンセになる人です。それに、俺には弥生っていうフィアンセがいます。あなたとは何の話もありませんよ」
「相談に乗っていただきたいんです」
「じゃあ、明日会社で少し時間をもうけます。その時に聞きますよ」
「今じゃダメですか?」
「こんな恰好で話は聞けません」
「私はかまいませんから。部屋に入れてください」
え?部屋に?!
「ダメです」
「少しの時間でいいですから」
「弥生がベッドで待っているからダメです。察してもらえませんか?今、お楽しみの最中だったんですけどね」
わ~~~~~~~~~~~!すっごいことを一臣さんが言った!!!!
きゃ~~~~~~~~~~~~~~。お、お楽しみって!!!
「ずっと忙しかったんですよ。やっと時間が取れたんです。久しぶりに弥生が抱けるのに、邪魔しないでもらえますか?」
うわ。そんなことまで、ばらしてる!!!信じられない!!!
「そんなの信じません。だって、夕飯の時、まったく弥生さんとお話もしていなかったですし」
あ、あれ?信じてもらえてない?
でも、それもそうかな。本当に一臣さん、私のこと無視していたもんな。
「じゃあ、部屋に入って、ベッドで裸で待っている弥生を見ますか?そうしたら、信じますか?」
ぎゃ~~~~~~~~~~。なんつうことを言ってるの?
私は慌てて、掛布団の中に潜り込んだ。
「いいですわ。今夜は帰ります。お疲れなんですよね?おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「でも、最後に一言だけ言わせてください。一臣様が弥生さんを嫌がっているのは存じでおります。あまり、会社のために無理だけはなさらないでください」
「…は?」
「それでは」
京子さんが去って行ったようだ。一臣さんはドアをバタンと閉め、戻ってきた。
「いろいろと誤解しているよな。京子は…」
「……。部屋に本当に入れるかと思いました」
「まさか。ああ言えば、さすがに引き下がると思ったんだ」
「……」
本当に?
一臣さんは掛布団をバサッとはぎ、私の上に覆いかぶさると、
「邪魔が入った。続きだ、弥生」
と、私の胸にまたキスをしてきた。
「あ、あの」
「なんだ」
「京子さんは絶対に、一臣さんのことを諦めていないと思います。お屋敷に来たのだって、きっと一臣さんに会うためだと」
「だから、なんだ。俺が無視していたら、済むことだろ?」
「そうでしょうか…」
「あとは、龍二が積極的に京子を口説けばいいことだ。俺らには関係ない」
「でも」
「弥生…」
「ひゃ!」
耳たぶ、甘噛みされた。
「もう黙れ。今から、甘美な世界に連れて行ってやるんだから」
うわ~~。そんなことを耳元で囁かれたら、それだけで腰抜ける!
そして、一臣さんが言うように、甘美な世界に連れて行ってくれた。
甘い、甘い、とろける世界に二人で何時間もいた。そして、二人でいつの間にか、眠りについていた。