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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第12章 気弱な私
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~その7~ 見られた!

 等々力さんの車で、一人寂しく会社に行った。等々力さんがまた気を遣い、ポップミュージックをかけてくれた。

「弥生様、今の忙しさが終わるまでの辛抱ですよ」

 等々力さんが優しくそう、私を励ましてくれる。


「はい。ありがとうございます」

 私には、たくさんの応援してくれる人がいる。会社に行けば、江古田さんや大塚さんも、細川女史も励ましてくれる。


 ありがたいことだ。でも、龍二さんの言葉が、まだ私の頭を占めていて、落ち込んでいる。

 俺もあんたも、兄貴に信頼されていないんだから、仕方がない…。


 私も信頼されていないから、今の大変な事情も何も教えてくれないんだろうか。心配かけたくないからではなくて、私は邪魔なんだろうか。

 

 暗い。朝からどんよりだ。

 15階に行っても、一臣さんも樋口さんもいなかった。私はカバンを置き、すぐに14階に行った。


「おはようございます」

「おはよう、上条さん。あれ?元気がないけど」

 大塚さんにすぐにばれてしまった。


「大丈夫です」

「あれはつけてきたの?」

 大塚さんは私のすぐ横に来て、小声で聞いてきた。

「はい、一応」


「頑張ってね」

「でも、どう頑張っていいのか」

「そりゃ、一臣様に迫るに決まっているじゃない。そのためにつけてきたんでしょ?」

 迫る?!

「私から?」


「そうよ。頑張ってね」

「でも、どこで?」

「そりゃ、15階の一臣様のお部屋で」

 大塚さんはそう囁くと、自分のデスクに戻った。


 わあ。わあ。わあ。迫るってどうやってしたらいいの?したこともないし、そんなこと、誰も教えてくれないからわかんないよ。


 真っ青になっていると、

「大丈夫ですか?」

と矢部さんが心配そうに聞いてきた。

「はい、大丈夫です」


「今日は、午前中に大きな会議が入ってて、そちらにほとんどの秘書がお手伝いに行くらしくて」

「あ、そうなんですか。じゃあ、私も」

「いえ。私と大塚さんは、応接室での打ち合わせに、お茶を出しに行けと言われていて。鴨居さんは事務仕事をさっき、一臣様から頼まれていたから、上条さんはそのフォローをしてほしいと、細川さんがおっしゃっていました」


「え?一臣さん、もう秘書課に来たんですか?」

「はい。それで、鴨居さん、張り切って今…」

 矢部さんが小声でそう言いながら、ちらっと鴨居さんを見た。確かに、ものすごく張り切っている様子で、鴨居さんはキーボードを叩いている。


「わかりました」

 そこに細川女史が入ってきた。そしてすぐに、

「大塚さん、矢部さん、応接室にお茶を出しに行ってくれる?」

と声をかけた。


「はい」

 二人はさっと席を立ち、部屋を出て行った。

「鴨居さんは一臣様から依頼を受けたデータ入力を、引き続きお願いね。それから、上条さんは、応接室での打ち合わせに顔を出してほしいと、さきほど一臣様がおっしゃっていましたよ」

「え?はい」


 私は席を立ち、慌てて応接室に向かった。そうか。一臣さんが打ち合わせに使うんだ。その打ち合わせに私も参加できるんだ。ちょっと嬉しいかも。ううん。かなり、嬉しい。


 ああ。今、大変な時なんだから、喜んだりしたら不謹慎だよね。でも、お役にたてるかもしれないと思うとわくわくする。


「失礼します」

 ノックをしてからドアを開けた。応接室には、一臣さんとエロ専務…じゃなくて、目黒専務がいた。

「あの?」

「ああ、弥生。これから上条不動産の社長が来るから、弥生にも来てもらったんだ」

 一臣さんが私にそう声をかけた。


 私は一臣さんの隣に座った。そしてすぐに、樋口さんが正栄おじ様を連れてやってきた。

「正栄おじ様、この前は兄の結婚式に来てくださりありがとうございました」

「うんうん。立派な結婚式だったね」

 正栄おじ様は嬉しそうにそう言いながら、ソファに座った。

 

 そこに、大塚さんと矢部さんがお茶を持って入ってきた。大塚さんに目黒専務が、

「やあ。君、また秘書課に戻ったんだね」

と言いながら、大塚さんの背中辺りを触った。

「はい。戻りました。これからは、目黒専務、あまりうちの新人の子をからかわないでくださいね。私が見張っていますから」


「あははは。からかっていないよ~~。仲良くしようとしているだけなのに、みんな、嫌がっちゃうんだよねえ」

 そう言いつつ、大塚さんのお尻に手が伸びそうになり、一臣さんが思い切りゴホンと咳払いをすると、パッと目黒専務は手を引っ込めた。


「では、失礼します」

 大塚さんはにこやかに挨拶をして、矢部さんを引き連れ応接室を出て行った。


「目黒専務。セクハラはダメですから」

 一臣さんが念を押すように怖い声で専務に言うと、専務はバツの悪そうな顔をして、

「今日はいったい何の話があるんだい?」

とすっとぼけた。


「上条不動産に、Aコーポレーションっていうわけのわかんない企業が接触してきたそうなんです」

「Aコーポレーションだと?そこはやばい会社だろ」

 目黒専務が眉間に皺を寄せた。

「ご存知ですか?」


「ああ。取引先の会社が乗っ取られたんだよ。我が社にもその影響が出てね…。え?その会社が上条不動産を狙っているのか?」

「目黒専務、その、乗っ取られたっていう会社の話を詳しく聞かせてくださいませんか?」

 一臣さんが真剣な目でそう言った後、すぐに、

「いえ、詳しくはのちほど、目黒専務の部屋に聞きに行きます。今は、上条不動産に、どう接触してきたか、それが聞きたい」

と、正栄おじ様に向かってそう言った。


 正栄おじ様は、書類をカバンから出して説明を始めた。目黒専務も真剣な顔をして話を聞いている。

「そうか」

 一臣さんが、苦虫をつぶしたような顔で頷くと、む~~~と言いながら唸りだした。


「一臣君、どうも最近、社内でも変なことが起きているようだし、厳重に調べてみないといけないんじゃないのかい?」

「専務も気が付いていましたか?」

「と言うと?」


「……ここでは」

 一臣さんは言葉を濁した。専務は、「ああ」と何かに気が付いたように頷くと、

「では、社長、この件につきましては、また今度」

とそう言いながら、席を立った。それから、正栄おじ様と一緒に応接室を出て、樋口さんが二人と一緒に廊下を歩いて行った。


「一臣さん、今、そんなに大変なことが起きているんですか?」

「……。弥生は心配しないでもいいぞ」

「でも、今日、ここに呼んでくれたのは…」

「上条不動産の社長が来るから、弥生にも来てもらったんだ」

「それだけですか?」


「……。あとでな?」

「え?」

「それより、弥生」

 一臣さんが私の太ももを触ってきた。


「はい?」

「今日は、昼に時間が空いたんだ。1時間くらいある。少しだけ俺の部屋でゆっくりできるぞ」

 一臣さんは私の耳元で、そう囁いた。

 ドキン!


「え、本当に?」

 1時間でも嬉しい!

「ああ。本当だ」

 一臣さんは私の太ももから、スカートにするっと手を入れてきた。


 え?

「ちょ、ちょっと待って」

 やばい。ガーターベルトしているのばれちゃうかも!

「なんだよ。少しくらいいいだろ?」


「ダメです。あ!」

 やばい。スカートまくり上げてくるから、ガーターベルトのクリップが見えちゃった。

「ん?これはなんだ?」

 わあ。気が付かれた!


「ま、待ってください。スカートまくらないでください」

 そう言うと、一臣さんはやめるどころか、もっとスカートをまくってきた。

「ガーターベルトか?」

 きゃ~~~。ばれた。見られた!!


「こ、こ、これは」

 わあ。どうしよう。

「どうしたんだ?まさか、青山が買ってきたのか?」

「いいえ。自分で」


「自分で買ったのか?」

「あの。大塚さんが、勧めてくれて」

「大塚が?」


「いいえ。あの、だから、その。一臣さんが喜ぶんじゃないかと」

 わ。わわわ。私、変なこと言っちゃったかも。

「ごめんなさい!手を離してください。恥ずかしいから見ないでください」

「なんでだよ。俺のために買ったんだろ?俺を喜ばそうとしたのなら、ちゃんと見せてみろ」


「ダメです!全然似合わないし、色っぽくないんです。へんてこりんなだけです」

「見ないとわからないだろ。手を離せよ」

 必死にスカートのすそを掴んでいると、その手を一臣さんが力づくで離してしまった。


「ダメ!」

「いいだろ?」

「ダメ!」

 きゃ~~。スカート、思い切りまくっている!


「だ、だ、ダメ!」

 そう言っているのに、一臣さんはスカートをまくしあげ、とうとう真っ白なガーターベルトとパンティまで見える位置までまくってしまった。


「弥生…」

 恥ずかしい!!!きっと今、呆れている!!じゃなきゃ、がっかりしている!!

 私は必死に一臣さんの手をどかそうとした。でも、一臣さんは手を離すどころか、体を私に押し付け、いきなりソファに私を押し倒してきた。


「か、一臣さん?」

「弥生…。やばいだろ、こんなの見たら」

「え?」

「欲情した」


 え~~~~!!!冗談でしょ?ここで?こんなところで?

「ダメです!こんなところで、ここ、応接室です!」

「色っぽくないだと?どこがだ」

「ダメです」


 うわあ。太もも触っている手が、お尻にまで伸びてきている。それに、もう片方の手は私の胸に…。

「ダメ!ダメダメ!やめてください!」

「ダメって言われると、燃えるんだって」

 わあ。そんなこと耳元で囁かないで!


「ダメです~~~!離してください!!」

 きゃあ。首筋にキスまでしてきた。

「やめてください!!」

 私まで疼いちゃうよ~~~!ダメダメ。こんなところで。


「やめてください、目黒専務!!」

「弥生、大丈夫~~っ?!」

 バタンと思い切りドアが開き、大塚さんと矢部さんが応接室に飛び込んできた。


「え?」

 一臣さんは顔だけドアのほうを向いた。でも、しっかりと私の上に覆いかぶさり、片手は胸を、片手はお尻を揉んでいた。


「わあ!ごめんなさい。一臣様。失礼しました!!!!目黒専務に弥生がやられているのかと勘違いして」

 大塚さんが慌てて、真っ青な顔をしてぺこりとお辞儀をして部屋を出ようとした。でも、その隣で、びっくりした顔で矢部さんが私たちを凝視し、その後ろには鴨居さんの、愕然とした顔までが見えた。


「か、一臣様が、セクハラ?」

 矢部さんがそう言うと、鴨居さんは、

「うそ」

と、信じられないといった様子で、私たちを呆然と見た。


「ちょっとあなたたち、何をしているの?邪魔したらダメでしょ。さっさと退散するわよ」

 大塚さんが二人の腕を掴み、部屋を出ようとした。一臣さんは私から体を起こし、私のスカートを元に戻してから、

「大塚」

と低い声でそう呼んだ。


「はいっ!」 

 大塚さんは、跳ね上がりながら返事をした。

「矢部、鴨居」

 一臣さんは、矢部さんと鴨居さんの名前も呼んだ。でも、二人は呆然としたまま黙っている。


「今見たことを、勝手に誰かにばらすなよな」

「もちろんです」

 大塚さんだけが答えた。でも、矢部さんは黙り込み、鴨居さんは、

「し、信じていたのに」

と、泣きそうになっている。


「は?」

 一臣さんは片眉を上げ、鴨居さんに聞き返した。私はソファから立ち上がり、乱れた服を直した。一臣さんも、ソファから立ち上がって、鴨居さんのほうを向いた。


「みんなの噂が嘘なんだって、そう信じていたのに。一臣様は紳士な方で、秘書に手を出しているなんて噂、嘘だって…。そう信じていたのに」

 わなわなと震えながら、鴨居さんは涙ながらなにそう言った。


「俺は秘書になんか手を出していない。その噂は紛れもなく嘘だ」

「でも、今、この目で見ました。まさか、一臣様がセクハラなんて。それも、無理やり襲おうとしていたなんて!」

「俺が無理やり?弥生を襲う?!」

 一臣さんが、こめかみに青筋を立ててそう叫んだ。


「そうです。あんまりです。酷いです、一臣様!これじゃあ、上条さんがあまりにも…」

 矢部さんまでが必死にそう訴えると、

「違うわよ。何を勘違いしているの?」

と、大塚さんが、二人にそう言って誤解を解こうとしている。


「鴨居、矢部、お前ら、何を言っているんだ?俺が弥生を無理やり襲うわけもないし、セクハラなんかじゃないぞ」

 一臣さんはそう言うと、むすっとした顔をして、

「弥生。邪魔が入った。15階の俺の部屋に行くぞ」

と、私の腕を掴んで応接室を出ようとした。


「ま、待ってください。部屋に連れ込むなんて、そんな…」

 矢部さんは真っ青な顔をして、一臣さんを止めようとした。その隣で、鴨居さんは、一臣さんが近づくと、思い切り避け震えあがった。


「なんだよ、アヒル」

 そんな鴨居さんを見て、一臣さんが眉間に皺を寄せた。

「……め、目黒専務がセクハラしてきた時、一臣様は優しかったし、セクハラに対しても怒っていたのに、まさか…ご自分が…」


「だから、弥生にセクハラをしていたわけじゃないって言っているだろ?確かに迫ってはいたけどな」

 ビク!一臣さんが鴨居さんに一歩近づきながらそう言うと、鴨居さんは大塚さんの後ろに隠れるようにして、怯えてしまった。


「おい。そんなに怯えるな。お前には手なんて出さないから安心しろ」

「……じゃあ、なんで、上条さんに」

「は?」

「上条さんは、やっぱり、あの…。一臣さんの愛人」

「はあ?!」

 一臣さんが思い切り片眉を上げた。


「お前、何を言っているんだ」

「そうよ。弥生は一臣様のフィアンセよ」

 大塚さんが自分の後ろに隠れている鴨居さんに、そうはっきりと告げた。

「え?」


 鴨居さんがびっくりした顔で私を見て、それから、一臣さんの顔も、こわごわ見た。

「そうだ。弥生は俺のフィアンセだ。もう俺の屋敷で一緒に暮らしている。おい、弥生がダメだ、ダメだってでかい声で抵抗するから、こんなややこしいことになったんだぞ」

 ええ?私のせい?


「で、でも、一臣さんが、こんなところで、迫ってくるから」

「お前が、そんなガーターベルトなんかしているから、欲情したんだろうがっ」

 ぎゃあ。そんなこと、みんなの前でばらさないで!

 

 私が慌てふためいていると、

「じゃ、弥生、成功したんだ」

と大塚さんが、思わずそう口にしてから、慌てて手を口に当て黙り込んだ。


「ああ、大塚が弥生に買わせたんだってな?ガーターベルト」

「すみません。でも、弥生、いえ、上条さんが悩んでいたから」

「弥生が?」

「え、いえ。あの…。一臣様を喜ばせたいなって、そう…」


 うそうそ。そんなこと私言ってないよ。

「っていうか、その…」

 私が必死に目で訴えたのがわかったのか、大塚さんは、

「寂しい思いをしているようなので、ちょっとだけ助言を」

と、そんなことを言い出した。


 うわあ。それは、真実かもしれないけれど、でも、そんなことを言ったら…。

 あわ、あわ、あわ。一臣さんの顔を見てみた。すると、片眉をあげたまま、大塚さんを見てから私の顔を見て、私が困り果てているからか、

「ふん、まあ、いいけどな」

と、そう言って、また私の腕を掴み、応接室をずかずかと出て行った。


 でも、また、くるっと振り返り、

「矢部、鴨居、いいか?俺と弥生は仲がいいんだ。いちゃつくほど仲がいいっていう噂なら、どんどん言いふらしてもいい。だが、セクハラだの、無理やりだの、そういう変な噂は立てるなよ。いいな?真実をちゃんと言え」

と、言い放ち、また私を引き連れ、廊下をずんずん歩き出した。


「は、はい」

 矢部さんがあっけにとられたように返事をした。でも、鴨居さんはまだ、真っ青な顔のまま、その場に佇んでいた。



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