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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第12章 気弱な私
171/195

~その5~ 仲のいいふり

 着替えを済ませた頃、亜美ちゃんが、

「夕飯の準備ができました」

と呼びに来た。私は一臣さんの部屋に顔を出し、

「私の部屋から、ダイニングに行ってます」

と、一臣さんにそう告げた。


「ああ」

 一臣さんの言葉は一言。それに、まだスーツ姿だし、何やらまたパソコンを開き、画面と睨めっこをしている。


 先にダイニングに行くと、そこにはすでにお母様と京子さんがいた。

「弥生さん、今日からまたご一緒させていただきますので、よろしくお願いします」

 京子さんはすっと席を立ち、私に挨拶をしてきた。

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

 私も、ぺこりとお辞儀をした。


「一臣は?」

「まだ、お部屋にいると思います」

 私はそう言ってから、あ、仲のいいふりをするんだっけと思い出し、

「今、パソコンでお仕事をしています」

と、今まで一緒にいたんです…みたいな嘘をわざとついた。


「そうですか。最近、一臣は忙しそうね」

 お母様はそう言うと、私と京子さんに座るよう促した。

「一臣様の前の席が、弥生さんの席なんですね」

 私がいつもの席に座ると、京子さんがそう言ってきた。


 あれ?京子さんは、龍二さんの前に座らないのかな。

「京子さんも龍二と婚約したら、龍二の席の前に座ることになりますよ」

 お母様が静かにそう京子さんに言うと、京子さんは「はい」と頷いた。


 そこに、龍二さんが静かにやってきて、黙って席に座った。いつもなら、欠伸をしながらだったり、ぶつくさ文句を言いながら、うるさくやってくるというのに。


 それから数分後、一臣さんも颯爽とやってきた。一臣さんはいつものごとく、風を切りながらダイニングに入ってきた。


「やっと揃ったわね。国分寺、みんな揃いましたよ」

 お母様が自分の後ろに立っている国分寺さんにそう告げると、国分寺さんは「はい」と丁寧に返事をして、給仕を始めた。


「龍二、どうですか?お仕事のほうは」

「…皆さんに丁寧に教えてもらってますよ」

 龍二さんが、お母様にそう答えた。今のは嫌味なのか、本当のことを言ったのか、そのへんがいまいちわかりにくい。


「そうですか。早くに仕事を覚えて、大阪で頑張ってくださいよ、龍二」

「……はいはい」

 あ。龍二さん、今、思い切り嫌そうな顔をした。


「京子さんは、しばらくお屋敷でのんびりなさってね」

「わたくしも、ぜひ会社に行ってお仕事の手伝いがしたいですわ」

 お母様の言葉に、京子さんがそう答えると、

「今はいろいろと大変な時だから、会社に来ても誰も相手にできませんよ」

と、一臣さんがすごくクールに京子さんに言った。


「……そうだな。俺も京子さんが来ても、会社の案内もできないくらい忙しいし、屋敷でのんびりしていたほうがいいと思いますよ」

 龍二さんまでがそう言うと、京子さんは暗い顔をして頷いた。


 それから京子さんは、ちらっと一臣さんを見た。一臣さんも気が付き京子さんのほうを見たが、ふっと視線を外し、ちょうどグラスに注がれた水を飲んだ。


 夕飯の間は、みんな静かだった。お母様も黙っているし、メイドさんたちも緊張しているし、一臣さんや龍二さんも誰も話さないので、息が詰まりそうになった。


 料理はおいしいんだけど、喉を通りにくいなあ。

「弥生さん」

「はい?」

 突然、お母様が私の名前を呼んだので、びっくりした。


「お野菜の天ぷらが美味しいですよ。もう召し上がった?」

「まだです」

「冷めないうちに、食べて。京子さんもね」

「はい」


 京子さんも返事をして、それから天ぷらを口にした。私も食べてみると、本当に美味しかった。

「美味しい」

 思わずそう口にすると、お母様がようやくにこりと笑った。


「アメリカでも和食のレストランがあって、天ぷらも食べましたけれど、あまり美味しくなかったわ。やっぱり、コック長の作る料理が一番よね、弥生さん」

「はい!」

 私もにこりと笑って答えると、メイドさんたちも微笑んだ。やっとダイニングに張りつめていた緊張がほどけたかもしれない。


 夕飯も無事に終わり、一臣さんが席を立ち、私もそのあとに続いた。龍二さんも、

「京子さん、2階まで一緒に行きましょう」

と言って、京子さんと共にダイニングを出てきた。


 それから、龍二さんはちらりと私を見て、目で何かを訴えた。ああ、一臣さんと仲いいふりをしろという合図だな。

 私は2階に上がりながら、一臣さんに声をかけた。


「一臣さん、あの。えっと」

 どうしよう。何を言ったらいいのかな。あ、もう2階に着いちゃった。

「ご一緒に、ゆっくりとしませんか…」

 一臣さんが私の顔を見て、片眉を思い切り上げた。お前、何を言い出したんだっていう表情だ。


「えっと。よかったら、大広間か、応接間か…、一臣さんのお部屋でのんびりと…」

「仕事がある。のんびりとなんかしてられない」

 一臣さんが、とっても冷たい声で私に答え、またクルッと前を向き廊下を歩き出した。


 演技だよね。でも、やっぱり、傷つくなあ。と思ってとぼとぼと歩きだしたら、隣に龍二さんが来て、

「もっと、行けよ」

と聞こえるか聞こえないかの音量で囁いた。


 行けって、どういうこと?と思いつつ、龍二さんの顔を見ると、

「強引に行け」

と口元だけ動かした。

 強引?そんなことしたら、一臣さんがもっと怒り出す。


「ほら!」

 龍二さんが目で訴えてきた。その後ろに京子さんがやってきて、不思議そうに私を見た。

「どうかなさったんですか?」

「い、いいえ」


 龍二さんは、京子さんに見られないよう、顎で「行け」と合図している。あ~~~。

 仕方なく私は、ドアを開けて部屋に入ろうとしている一臣さんに駆け寄り、

「一臣さん、部屋に入れてください」

と腕に手をかけた。その途端、一臣さんがバシッと私の手を振り払った。


 え?


「言っただろ。仕事があるんだよ。それ以上馴れ馴れしくするな!」

 きつい口調でそう言うと、一臣さんはバタンと勢いよくドアを閉めてしまった。


 ズキズキズキ。振り払われた手が痛む。でも、それ以上に、胸が痛い。演技だとしても、目も声も全部が怖いくらい冷たかった。


「大丈夫ですか?弥生さん」

 心配そうに京子さんが私のもとにきて、そう優しく聞いてくれた。

「え?あ、はい」

「兄貴、仕事モードになると見境つかなくなるからな」

 龍二さんまでが、私を慰めるような言葉を発した。え?なんで?


 びっくりして、龍二さんを見た。あ、そうか。演技か。私と一臣さんが仲がいいんだっていう演技。でも、今のを見たら、誰だって私が嫌われていると思うよね。


「京子さんも疲れているでしょう?もう、部屋で休んだらいかがですか?」

 龍二さんが京子さんに優しくそう言うと、京子さんも「おやすみなさい」と挨拶をして、廊下の奥の部屋に向かって歩いて行った。

 京子さんはどうやら、一番奥の部屋に泊まっているようだった。


「おい」

 その場に残った龍二さんが、京子さんが離れた途端、態度ががらりと変わり、

「なんだよ、さっきのは」

と、冷たい口調で話し出した。


 グサリ。なんだよって言われても。私だって、かなり傷ついているのに。

「あんた、本当に嫌われているんだな」

 グサグサ。

 そんなことはないんです。と言いたい。でも、仲悪いふりをしていないとならないし…。


 そう。これはふり。演技。だから、傷つかないだっていいのに。

 ボロ…。


 うわ!なんだって、涙が出たんだ、私。でも、ダメだ。涙がどんどん出てくる。

「泣くなよ。こっち来いよ」

 龍二さんは私の腕を掴み、ずんずん廊下を引き戻し、自分の部屋に私を引き入れた。


 うわ。思わず、抵抗なくついてきちゃったけれど、これ、やばいよね?自分の部屋に戻らないと!


 慌てて、龍二さんの腕を振り払い、ドアを開けようとしたけれど、

「あんたが兄貴に嫌われていようがなんだろうが、どうでも良かったけどさ、でも、あんた見てると、俺を見ているみたいで嫌になるんだよね」

と、ため息交じりに呟いたので、つい振り返ってしまった。


 龍二さんは両手を腰に当て、暗い顔をして私を見ていた。そしてまた、は~~~っとため息を吐いた。

「俺を見ているみたいでって?」

 ずずっと鼻をすすって、私はそう聞いた。


「あんた、兄貴を慕っているんだろ?でも、相手にもされず、ずっと蔑まされているんだろ?それが、俺に似ているって言うんだよ」

「え?」

「俺も、子供の頃、兄貴を慕ってた。兄貴も俺を可愛がってくれてた。だけど、だんだんと俺から離れて行って、まったく相手にもされなくなった。それどころか、いつの頃からか、俺を見下しているみたいに、冷たい態度で接してくるようになった」


 一臣さんが?

「兄貴に何かを求めても無理だ。あいつは、感情ってものがないんだ。俺は特別な人間で、お前とは違うって目でいつも俺を見て、従業員のやつらにだって、いばりちらしてて、怒る以外には他の感情がないんだよ」

「……」


「メイドたちだって、兄貴に近づくことすら怖がってた。あんたも、わかってるんじゃないか?さっきの冷たい態度で」

 そう言えば、この屋敷に来た頃、トモちゃんや亜美ちゃんは、一臣さんを怖がっていた。龍二さんのほうが話やすいって言っていたこともあったっけ。


 でも、今は違う。一臣さんは変わった。


「会社でも、あんた怒られてたよな。他の奴がミスしたことを、お前の責任だって言われて」

「…はい」

「いっつもえらそうなんだよ、あいつはさ」

 龍二さんはそう言うと、部屋の奥に進んでいき、ドスンとソファに座った。


 龍二さんの部屋は、一臣さんの部屋みたいに改造はされていなかった。私の部屋の作りによく似ていて、違うのは窓際にベッドが置いてあり、手前にソファやデスクが置いてあることだけだ。


「京子さん、さっきの兄貴の態度を見て、あんたと兄貴が仲いいとは思わないよな」

「で、ですよね」

「まあ、いいか。兄貴が冷たい嫌な奴だって思えば、兄貴を好きになったりしないだろうし」


「龍二さんは、京子さんに本気なんですか?」

「本気って?」

 私は、龍二さんが怖い目で私を睨んだから、変なことを聞いたかもとひるんでしまった。


「あの…。京子さんをフィアンセに選んだのは、どうしてですか?」

「兄貴が気に入っていたからだよ」

「それだけですか?」

「………まあ、それだけじゃないけどな。あいつ、おとなしくて従順そうだろ?」


「それが、選んだ理由ですか?」

「しつこいな」

「………」

 龍二さんは、じろっとまた私を睨み、それから下を向いて息を吐いた。


「あんたは、なんだってあんなとんでもない兄貴を慕っているんだよ。どこがいいんだ?」

 下を向いたまま、龍二さんが聞いてきた。

「どこって…。私はずっと一臣さんがフィアンセだって父から聞いた頃から、一臣さんのお役にたてるよう、それだけを目標に生きてきて」


「なんだ?それ。悲くないのか」

「悲しくはないです。大学で一臣さんを見かけた時から、一臣さんを好きでしたし」

「ああ。見てくれに惚れたってわけか」

「その頃はそうでしたけど。でも、近くに来てわかったんです。一臣さんが今、会社のことで悩んだり、大変な思いをしていることも。そして、自分の立場を受け止めて、必死だっていうことも…」


「睡眠障害にまでなったし?同情してんの?まさか」

「同情ではないです。本気で、お役にたちたいって。それだけで、私は…」

 そうだ。それだけでも、満足だった。なのに、今は相手にされないからっていじけたり、他の人に優しいからって妬んだり…。


 ボロ。また、いきなり涙が出てきた。

「なんで泣くんだよ?」

 呆れたように龍二さんが聞いてきた。


「自分が嫌で」

「は?」

「嫉妬したり、凹んだり、いじけたりしている弱い自分が嫌になって…」

 ボロボロ。また涙が溢れ出た。私は手で涙をぬぐい、必死に涙を止めた。


「いいんじゃねえの?嫉妬しても、ひねくれても、俺もそうだし」

「え?」

 意外な言葉を龍二さんが発したので、驚いて顔を上げた。すると龍二さんは目を細め、私を見ていた。

 あ、その目つき、一臣さんもたまにする。


 ふいっと視線をまた龍二さんは外した。そして、

「わかってんだよ、俺も。ガキの頃と変わってない自分がたまに嫌になる。兄貴にかまってもらいたくて、バカなことをする。それでも、こっちも見てもらえなくて、もっとバカをやる…」

と暗くつぶやくように言った。


 え?え?

「俺以外に興味をもたれると、無性に頭に来て、そいつらに八つ当たりをする」

「それで、一臣さんの車も…」

「兄貴は、それでも俺を怒らない。いや、軽蔑の目で見下して、もっと俺から離れていく」

「………」


「ふん。親もそうだ。どうしようもない出来そこないの次男はいらないんだ。それでアメリカに追いやられた。この屋敷からも、追い出されたってわけだ」

 龍二さんは作り笑いを浮かべたあと、眉間にしわを寄せた。


「だけど、お母様は龍二さんのこと、ちゃんと気にかけて」

「気にかけてだと?違うだろ。監視しているだけだ」

「そんなことは…」

「どうでもいいんだよ、俺のことなんか。誰も気にとめちゃいない。大事なのは跡継ぎの兄貴だけだ」


「……」

 そう思っちゃうのも、無理はないのかな。きっと、大人たちがかまったのは、一臣さんだけなんだ。

 なんだか、ひねくれちゃったのもしょうがないのかもって、そんな気もしてきた。


「あんた、兄貴の役に立てたらそれでいいって言ってたな」

「はい」

「本当にそれだけで満足かよ。上条グループとのつながりのためだけの結婚。あんた自身を必要としている人間なんかいない。兄貴だって、あんたが上条グループの令嬢だから結婚をすることにしただけで、あんた自身に惚れてるわけでもないし、大事に思っているわけでもないし、それはこれからも、ずっとかもしれないんだぞ。そんなんで、いいわけ?」


「………。そ、そりゃ、私も大事に思われたいですけど。でも、やっぱり、私が一臣さんを大事に思っていけたら…。いいえ。大事なんです。それだけなんです。きっと私は、その思いだけで、ここにいるんだと思います」

「へえ。あんたって、心底アホだね」

 グサリ…。


「だけど、他の女に嫉妬して、自分のことをないがしろにされて、凹んでいるんだろ?」

「う…」

 図星。


「だ、だから、こんな自分が嫌で。私、そんなに弱くないんです。今までだって、ここまで落ち込んだりすることなかったんです。たいていのことは、ちょっとの時間で立ち直れたし、へこたれることもなかったんですけど」

「上条グループの育て方は、変わっているらしいからな。逞しく育つんだろ?」


「はい。でも、一臣さんのこととなると、どうしてもいじいじしちゃって」

 あれ?私、なんだって、こんなこと龍二さんに言ってるんだろ。こんな弱み見せちゃっていいのかな。


「そんだけ、兄貴に惚れてるわけか」

「え?」

「好きな奴には誰だって、弱くなるんじゃないのか?」

「龍二さんもですか?誰に?あ、京子さんに?」


「………」

 龍二さんが黙り込んで俯いた。もしや、本気で京子さんに惚れているとか?


「兄貴には言うな。バカにするかもしれないし。でも、あんた、本気で兄貴が京子に手を出さないよう見張っていろよ」

 ええ?なんか、兄弟そろって同じようなことを言っているかも。一臣さんは、龍二さんが私に手を出さないよう、近づくなって言っているし。


 でも、この人、私には手を出したりしないんじゃないかな。あ、それって、私が一臣さんに大事に思われていないって思っているからとか?


「まあ、あんたも頑張れば」

「……え?」

「兄貴、血も通っていないような、冷たい奴だけど、犬には優しかったしな。あんた、犬っぽいところがあるから、そのうちペットくらいには思われるかもな」


 ペット。もう、すでにそうなりつつあるけど。

「もし、そんなふうに兄貴に思われたら、逆にすごく大事に思われるかもな」

「え?」

「兄貴は、一回信頼した人間は、裏切らないし、大事にするから」


「…樋口さんとか、喜多見さんとか?」

「ああ。なんだ、あんたもそういうのは見抜いていたんだ」

「はい」


「だけど、大変だぞ。兄貴は信頼するまで、とことん疑う。なかなか人を信頼しないからな。優しくなんか絶対にしないし、まず、自分の心の内も見せないだろ。自分の屋敷に帰ってきたって、鉄の仮面かぶっているみたいに、ずっとムスッとしているし。自分の部屋に人も踏み入れさせないしな」

 汐里さんが言っていたっけ。同じようなことを…。


「今は、部屋に入れるのは喜多見さんくらいじゃないのか?おふくろだって、入れさせないようだし」

「子供の頃は、龍二さんも一緒に部屋で遊んだりしていたって」

「兄貴が言っていたのか?」

「え?あ、いえ。喜多見さんが…」

 思わず、誤魔化しちゃった。


「喜多見さんは、俺らを平等に可愛がってくれてたから」

「じゃあ、龍二さんは今でも、喜多見さんのこと…」

「いいや。今は、喜多見さんも俺のことを、ゴミみたいに思っているんじゃないの?」

「そ、そんなことは…」


 もしかして、この人は誰からも信用されていなくって、どんどん意固地になってしまったんだろうか。


「あの、京子さんのこと本気だとしたら、私、応援します」

「は?」

「一臣さんと仲いいふりとか、そういう手助けじゃなくって、えっと。何をしていいかわからないんですけど、でも、心の中でちゃんと応援しますから」


「心の中で応援されても、意味ないんじゃねえの?」

「…。そ、そうですよね。でも、えっと。なんて言ったらいいか。だから、その。味方ですってことです」

 はれ?

 私、今、なんか変なこと口走ったかも。


 だけど、もし、誰も信頼できる人がいなくて、それに、信頼されていないとしたら、ものすごく孤独なことなんじゃないかなって、そんな気がして。

「味方?」

 龍二さんが、私をじっと見た。その目は、とっても怖い目だった。


 じ~~っと、私の心の奥まで見透かそうとしているように見ると、視線を外し、

「あんたって、単純なんだろうな」

と一言、そうぼそっと呟いた。そして、また私を見ると、

「裏表がなさそうだ。裏で何かやましいことを考えられそうもないくらい、脳みそが単純にできていそうだよな」

と、口元を緩めながらそう言った。


 う、う~~~ん、褒め言葉じゃないと思うけど、当たっている。

「はい。その通りです。人を疑わないよう、人を信じて生きなさい。だますより、だまされるほうがまだいいって、そんなふうに言われて育ってきましたし」


「親に?めでたい親だな。そんなで、よく上条グループは発展したよな」

「多分、そんなふうに人を信頼して築き上げた会社だと思います」

「なるほどね。緒方財閥とは、真逆なわけだ。だから、俺のことも信頼するし、あんたのことも信頼しろってわけか?」


「……。私のこと信頼しますか?」

 私は真剣に、龍二さんに聞いた。

「そうだな。あんたみたいな単細胞、疑っているほうがバカらしいし、敵にするほどの価値もなさそうだしな」

 価値がない?それは、酷いかも…。


「味方にしたって、なんの力にもなりそうもないけど、まあ、心の中でくらいの応援なら邪魔にならなさそうだしな。しててもいいぞ」

 龍二さんは、そんな嫌味な言い方をした。でも、言葉とは裏腹に、顔はとっても嬉しそうに笑っている。


 この人って、もしや、本当に子どもみたいだったりする?


 龍二さんの恋を応援するだの、味方になっただの、そんなことを一臣さんに言ったら、思い切り叱られそうだ。だから、しばらくは黙っておこう。

 でもいつか、一臣さんと龍二さんが、子供の頃のように仲良くなることを、私はその時心の奥で期待した。


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