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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第11章 婚約の危機?!
159/195

~その11~ 新たなる決意

 ゆるい時間が流れた。一臣さんはしばらく、私の背中を撫でたり、指を絡めて来たりしている。そして、

「はあ~~あ」

とため息をついた。


「?」

「そろそろ、屋敷に帰るか…」

「はい」

「まだまだ、こうやっていたいけどな」


「はい…」

「まあ、屋敷に帰っても、弥生とまったりできることはできる…あ!」

「え?」

「そうだった。そろそろ、おふくろがアメリカから帰ってくるんだ。今日あたり、帰っているかもしれないんだよなあ」


「そうなんですか?」

「そうしたら、夕飯は、弥生と二人で食べれないんだな」

「お母様と、串揚げ屋さん、行かないと」

「……なんだよ。俺のことを置いていくつもりか?」

「は?」


「今日はダメだぞ。行くなら、俺が仕事で遅くなる日にしろ」

「はい」

 ムギュウ。一臣さんが私を抱きしめてきた。

 一臣さんって、もしかして甘えん坊なのかな。私に甘えているんだろうか。


 ブルルル…。一臣さんの携帯がテーブルの上で振動した。

「あ、等々力が着いたのかもな」

 そう言って、一臣さんは電話に出た。

「ああ。部屋は1101だ」

 それだけ言うと、一臣さんは電話を切った。


「私も着替えないと」

 一度は着ようとして脱がされた、肌襦袢や長襦袢を着た。一臣さんはその間、ずっとベッドに寝そべったまま、私を眺めていた。


「やっぱり、いいな。和服って」

 また言ってる。

 

 そのあと、私は部屋にある大きな鏡を見ながら着物を着始めた。鏡にはベッドから私を見ている一臣さんの姿も映っている。じいっと私を物珍しそうな目で見ていた。


「すごいな。弥生は着物、自分で着れちゃうんだな」

「はい。祖母から教わりました」

「ああ、そうか。俺の誕生日パーティの前に、猛特訓したって言ったよな」

「はい」


 するすると帯もしめ始めると、

「へ~~~~」

と一臣さんは、やたらと感心している。


「一臣さん、すみません。帯のはじっこ持っていてもらえますか?」

「ああ。いいぞ」

 もそっと一臣さんはベッドの布団から抜け出てきた。でも、素っ裸だった。

「あ!バスローブは着てください」


 思い切り、鏡に一臣さんの全裸が映っていた。もろに見ちゃったよ!恥ずかしい。

「ああ、はいはい」

 一臣さんはそう言いながら、バスローブを羽織ってから私のそばに来た。


「ここを持っていたらいいのか」

「はい」

 一臣さんに手伝ってもらって、私は帯をしめた。そして、帯締めをして、完成した。


「弥生はやっぱり着物が似合うな。それも、こういう明るい色の着物が似合う」

「そうですか?」

 なんだか、照れる。


 等々力さんがやってきて、一臣さんは服を受け取り、

「着替えが済んだら、すぐにチェックアウトする。また、電話を入れるから、そうしたら車を回してくれ」

と頼み、ドアを閉めた。


 一臣さんが着替えを始めた。今度は私がうっとりと見つめてしまった。

 今日は、いつもとちょっと違う。半袖のTシャツに、細めの黒のパンツを履き、そして、渋い色のジャケットを羽織った。あ、あれ。この前一緒に買い物に行った時のジャケットだ。


 うわ~~~~~~。こういう格好も似合う。


「なんだよ、うっとりと見ているなよ」

「だって、一臣さん、かっこいい」

「…じゃあ、デートでもこれからするか?昼飯、このホテルで食うのもいいかもな」

「だけど、等々力さん…」


「ああ。等々力にも昼飯、どっかで食ってもらえばいいし」

「一緒にですか?」

「別々にだ。等々力が一緒だったら、デートじゃなくなるだろ」

「はい」


 わあ~~い。デートだ!嬉しい。

「弥生、やっと顔が明るくなったな?」

「え?」

「昨日から、ちょっと変だったぞ。ああ、そうか。瑠美って女のことが気になっていたのか?」


「…はい」

 それだけじゃない。本当は鴨居さんのことも。でも、なんだか言いづらい。

「そうか。じゃあ、うまいものでも食って、元気になれよ」

「…はい」


 一臣さん、私を絶対に食いしん坊だって思っているよね。お昼を食べられるから、嬉しいわけじゃなくて、一臣さんとデートできるから嬉しいのに。


 まあ、いいや。デートだ。思い切り楽しんじゃおう。

 

 ホテルの部屋を出て、廊下を歩いている時から、私は一臣さんの腕に手を回した。

「あ、なんだか新鮮だな。腕を組んで歩くのも」

 一臣さんがそう言った。良かった。嫌がられなかった。


 本当に今日の一臣さんも、かっこいい。こんなかっこいい一臣さんとデート。すっごく嬉しい。スキップしたいくらいだ。


 そしてエレベーターが一階に着き、フロントでチェックアウトをしていると、そこで運悪く、兄とトミーさんに遭遇してしまった。


「やあ、弥生、オミ、おはよう」

 トミーさんがにこやかに、声をかけてきちゃった。それに、

「これから、軽く食事をしようと思うんだ。弥生たちも一緒にどう?」

と聞かれてしまった。


 嫌だよ。二人きりで食事するんだもん。そう思いつつ、べったりと一臣さんの腕にひっついていると、一臣さんの携帯が鳴り、

「悪い、弥生。親父から呼び出しがかかった。昼飯は如月たちと食べてくれ。それと、俺はタクシーで移動して、樋口と落ち合うから、弥生は等々力の車で屋敷に戻れ、いいな?」

と早口で私に告げ、兄たちにも軽く挨拶をすると、颯爽とホテルを出て行ってしまった。


「オミも多忙だな~」

「じゃあ、弥生、僕たちと一緒に昼飯食べに行こう」

 兄にそう言われ、私はがっかりしながら、足取り重く、兄たちと歩き出した。


「弥生、一気に暗くなった。わかりやすいねえ」

 トミーさんに笑われた。

「…だって、一臣さんとデートできると思って浮かれていたから」

「あはは。弥生は本当にオミのことを好きなんだね」


 明るくトミーさんが笑った。あれ?あんなに私と一臣さんの仲を壊そうとしていたのに、今日はなんでこんなに、爽やかに笑っているんだ?


「前にオミが、弥生を幸せにできるのは俺だけだなんて言っていたけど、本当だね。あれを聞いた時は、どれだけ自惚れの強い呆れた男だと思ったけれど、弥生はオミがいないってだけで、こんなに元気をなくしちゃうんだな」

「……自覚してます」


「弥生は、一人でも今まで頑張っていただろう?凛としていて、かっこう良かったのに、最近はオミのことで、沈み込んだり、泣いたり、暗くなったりすることが多いように見えるよ。いや、オミがちゃんと弥生を大事に思っているのは知っているけど、弥生はちょっと、オミに振り回されているんじゃないのか?」

 如月お兄様に言われてしまった。


「はい。私も、最近の自分は、自分じゃないみたいで嫌です」

「っていうのは?どういうこと?弥生」

 そう聞いてきたのは、トミーさんだ。


「前はこんなにすぐに凹んだりしませんでした。最近はちょっとのことでも落ち込んだりしちゃって、私ってこんなに暗くて弱い人間だったっけって、自分でもびっくりするくらいで」

 お昼ご飯の席で、私はそんな話をしだした。兄もトミーさんも、うんうんと真剣に話を聞いてくれた。


「まあね。恋をしちゃうと人は変わっちゃうもんだしね」

「トミーさんも、変わっちゃいますか?」

「うん。オミの奴に嫉妬もしたし。っていうか、あんな男のどこがいいんだって、ずっとそう思っていたし。だけど、オミのことを勝手に判断して決めつけて、最低な男なんだと思っていただけなんだけどね」


「え?」

「昨日オミと話してみて、いいやつなんだってわかったよ。如月が認めるのもわかる。それに、けっこうユーモラスで、僕も気に入ったよ」

 ユーモラス?一臣さんが?


「葉月も相当気に入っていたね。話がとっても合いそうだと言っていたよ」

「あれ?そういえば、葉月は?」

「朝一番に帰ったよ。今日はデートがあるらしい」

「そうなんですか」

 葉月ったら、一臣さんと気が合うって思ったのは、きっと一臣さんが私のことを狸だって言ったからだよね。


「そういえば、オミ、お父さんから呼び出しが来たって言っていたけど、まさか、瑠美ちゃんのことじゃないよな」

 兄の言葉に、私の体は硬直した。


「あ~~。ルミか~~~」

 え?なんでいきなり、トミーさんがうなだれているの?

「弥生、もし、ルミがオミと結婚したいだの、初体験の相手はオミだとか言って来ても、大丈夫だから。僕がちゃんと真実を言ってあげるよ」


「え?でも、そうしたら、トミーさんと瑠美ちゃんが結婚することに」

「なるだろうね」

「い、いいんですか?」

「まあ、僕はいいけど、ルミはどうかな」


「え?」

「僕はルミのことを真剣に好きだったから、いいけどね。ルミは遊びだったとしたら、僕とは結婚したくないって言い出すかもしれないね」

「……でも、トミーさん、もうルミさんのこと」


「………。そうだね。僕は弥生みたいな子がタイプだから、今のルミはどうかな」

「今の?」

「出会った頃のルミは、本当に可愛かったんだ。まだ何も知らない、穢れを知らない女の子っていう感じだったし。あ、そうか、そんなルミを汚しちゃったのが僕なのかもしれないなあ」


 トミーさんはそうぽつりと言うと、

「だから、やっぱり僕が責任を取らないとならないのかもね」

と、力なくそう続けた。


「責任…か。だけど、上条家に伝わる言い伝えっていったって、僕も知らなかったわけだし、そんな家訓、変えてしまってもいいと思うけどね、僕は」

 兄がそう言うと、トミーさんは肩をすくめて苦笑した。


「じゃあ、如月は、どう変えるって言うんだい?」

「家訓を?そうだなあ。たとえば、心から愛す相手と結婚をすること…とかね?」

「OH!それはロマンチックだ。如月からそんな言葉を聞くとは思わなかった」

「トミー、僕のことをどう思っていたんだ?だいたい、僕も卯月も、それに、父さんだって、愛する女性と結婚したんだ。僕たち上条家に相応しい家訓だと思うけどね」


「そうしたら、弥生はその家訓に従っているっていうことだね?愛するオミと結婚するわけだから」

「はいっ!」

「わかりやすいねえ、弥生は。今、目が輝いたよ」

 トミーさんはまた笑った。


「トミーさんは?今まで、結婚したいと思った女性はいないんですか?」

「うん。いるよ。弥生とは結婚したいって思ったよ」

「わ、私以外で…」

「いないなあ。他の女性とも真剣に付き合ったけれど、結婚までは考えられなかった」


「どうしてですか?」

「う~~ん。みんな自立している女性だったし、僕も仕事に夢中だったしね」

「ルミさんは?」

「ルミと出会った頃は、僕もまだ若かったし。世界を回っている最中で、いろんなことにチャレンジしたいと思っていたしね」


 トミーさんはそう言ってから、水を飲むと、ふって小さく笑った。

「ルミは、僕のそんな夢物語を、目を輝かせて聞いていた。私も世界を回ってみたいとか、いろんなことをやってみたいと…」

「瑠美ちゃん、そんなこと言ってたんだ。でも、実現は難しかったんじゃないかな。なにしろ、高仁おじさんの言いなりになっていたしね」


「言いなりって?」

 私は気になり、兄に聞いてみた。

「上条家のルールとして、中学を卒業したら、家を追い出されるっていうのがあるだろう?」

「はい」


「それは、瑠美ちゃんも例外じゃない。だけど、瑠美ちゃんは一人娘だしね、高仁おじさんが溺愛していたから、高校は超お嬢様学校の寮に入れさせて、大学はイギリスのこれまた、金持ちしか入れないような大学の寮に入れさせたんだ」

「それじゃあ、私やお兄様みたいに、アルバイトを必死にしたりしたわけじゃ」


「ないんだよ。高仁おじさんにカードをもらっていて、それを使っていたようだしね。だから、まったく苦労知らずのお嬢様なんだ」

「だから、私みたいに庶民的な匂いがしないんですね」

「うん。上流階級の人たちとのお付き合いばかりをして、本当にお嬢様だったんだけどねえ。早くに結婚もすると思われていたのに、今でも独身でいるし…」


 兄はそう言うと、ふむ…と言って考え込んだ。

「いいとこのお坊ちゃんを狙っているって葉月が言っていたけど、お見合い相手はどの人も、一流の人だったと聞いているし、才色兼備だし、引く手あまただと思うんだけどねえ」

 兄はそう言いながら、隣に座っているトミーさんを見て同意を求めた。


「そうだね。ルミだったら、素敵な人に見初められてもおかしくないだろうね」

 だよね。それは私も同意見だ。私と比べたら、月とすっぽんだもん。


「なんで、オミが初めての相手だなんて嘘をついたのかもわからない。弥生とオミの結婚を邪魔しようとしたのか…」

 兄はそこまで言うと、また、難しい顔をして考え込んだ。


 一臣さんは、どうして総おじさまに呼ばれたんだろう。今頃、どんな話をしているんだろう。それに、Aコーポレーションのことも気になる。

 なんだか、いろんなことが起きてきて、不安な気持ちは拭えない。


 そういえば、一臣さん、私を守るって言ってた。だけど、私だって、一臣さんを守りたいし、緒方財閥だって守りたい。


 そうだよ、弥生。瑠美ちゃんや、鴨居さんのことで落ち込んだりしている場合じゃないよ。私も、何かの役に立てるよう頑張らないと!一臣さんに守ってもらっているばかりじゃダメだ。


「お兄様、今回のことですけど、今後何かあったら、私にもちゃんと報告してくれませんか?」

「弥生に?」

「そうだぞ、如月。僕にまで内緒にしていたけれど、ちゃんと言ってくれよ。僕は如月の片腕だろう?」

「ああ。そうだな。トミー。ただ、オミがまだ、トミーには黙っておいてくれと言っていたから。だけど、もうオミもトミーを信頼したんだ。これからは、トミーにも報告するようになると思うよ」


 兄はトミーさんにはそう言ったが、私には何も返事をしてくれなかった。

「お兄様、私にもです。私も、一臣さんの役に立ちたいんです」

「弥生には、言えない」

「どうしてですか?」


「オミに許されていない。いや、僕も弥生を巻き込みたくないしね」

「なんでですか?」

「Aコーポレーションって会社、やばいかもしれないんだよ。かなり、裏であくどい事をしているみたいだから、危険がともなうんだ。弥生を危険な目に合わせたくないっていう意味では、僕もオミも同意見なんだ」


「え?」

「弥生は、この事件には関わっちゃだめだ。いいね?わかったね?」

 お兄様にそう念を押された。


「大丈夫です。私、自分のこと守れます」

「うん。弥生が強いことはわかっている。でも、やっぱり僕も大事な妹を危険な目に合わせられない。わかってくれないかな、弥生」

 兄はそう目を細めて言った。


「弥生はレディなんだ。僕も如月に賛成だ。あんまり弥生は、首をつっこまないほうがいいね」

 トミーさんも、真剣な表情をしてそう言った。

「………」

 私は納得できなかった。


 女だからって何?どうして蚊帳の外にいないとならないの?一臣さんだって、心配いらない、心配いらないってそれだけしか言ってくれない。


 一臣さんがいきなり、忙しくなったのだって、どんな事情があるかもわからなかった。それに、危険っていうことは兄や一臣さんだって、危険な目に合うかもしれないってことだよね。


 そんなの嫌だ。危ない目にあってほしくないのは私だって同じ思いだ。なんにも知らないで、のほほんとなんてしていられない。


 私にできることってないのかな。

 

 私は兄に返事もしないで、黙り込んだ。兄もトミーさんも、そんな私を心配そうに見ている。

「はい。危険なことには首をつっこまないようにします。でも、話を聞くことくらいできます。何も知らないでいるのは、辛いです」

 そう正直に言うと、兄は深いため息を吐いた。


「弥生は、そんじょそこいらのお嬢様とは違うからなあ。そう言いだすんじゃないかと思ってはいたが」

 兄はそう言った後、困ったという表情を見せた。

「僕が口を滑らせたのがまずかったんだな。でも、弥生に知られてしまったからには仕方ない。とりあえず、報告だけはしよう。でも、それだけだ。関わるのは無しだぞ、弥生」


「はい。わかりました。約束します」

 でも、私にできるだけのことはします。と心の中で私は、誓っていた。




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