~その8~ 信頼関係
如月お兄様のホテルの部屋に、私たちは入った。部屋は最上階にあり、スイートルームだった。私たちは、豪華なソファやテーブルのある部屋に入り、如月お兄様は冷蔵庫から水を取り出し、4個のグラスに水を注ぎ、それをテーブルに持ってきた。
私は一臣さんと二人掛けのソファに座り、一人掛けのソファにトミーさんが座った。
「まあ、水でも飲んで、気持ちを整えよう」
そう言って兄もソファに座ると、水をゴクンと飲んだ。私も、一臣さんも水を飲み、トミーさんだけは、足を組んで何やら考え込んでいた。
「さて。葉月にも電話を入れよう。まだ、ホテルの中で父さんたちといるかもしれないな」
兄はそう言って、携帯で葉月に電話をした。するとすぐにつながり、すぐに部屋に行くと返事をしたらしい。
「やっぱりな。父さんたちとホテルのレストランで、一杯ひっかけていたよ」
葉月ったら、お酒飲んでいたのか。
「さてと。葉月が来る前に、トミー、瑠美ちゃんとのことを聞かせてくれるか」
「ああ」
トミーさんは、私たちの顔をゆっくりと順に見てから、話を始めた。
「ルミとはイギリスで会った。彼女はイギリスの大学に4年在籍していて、多分、夏休みを利用して日本に行き、その間にパーティで一臣君と会ったんだと思うよ」
「そうだな。瑠美ちゃんはイギリスに留学していると、父から聞いたことがあるな」
兄がそう言うとトミーさんは頷いた。
「うん。僕が大学時代、休学して世界をリュック一つで回っていただろう?イギリスに行った時に、彼女に出会ったんだ」
「それ、何年前だ?トミー」
「7年前だよ。イギリスには知り合いがいて、リュック一つの旅で、けっこう貧乏旅行をしていたから、ついつい知り合いに頼っちゃってさ、知り合いの家に泊めてもらったんだ。で、その知り合いって言うのが、ルミの同級生の子の家だったんだよ」
「なるほど。その家でルミに出会ったってわけか」
「まあね。で、ルミと知り合いのところの娘さんと共通の友達っていうのが、かなりのお嬢様で別荘を持っていて、そこにみんなで招待され、夏の間、2週間くらいだけど泊りに行ったんだ」
「へえ…」
「金もなかった僕にとっては、ラッキーな申し出だし、ひょいひょいとついていったんだ。知り合いの子の娘は、もともと顔見知りだし、その子の友達連中だから、もちろん手を出そうなんて気はなかったよ。だけど、僕の部屋にある晩、ルミがやってきたんだ」
「え?瑠美ちゃんから?」
「そう。リュック一つで旅行だなんて、すごく興味があるって言って。自分もそんな冒険をしてみたいけど、絶対に親が許してくれないってね。僕は、彼女に旅行先の話をしてあげた。彼女は喜んで聞いていた。それから、二人の仲が一気に深まって、僕はルミのことを真剣に思い始めたんだ」
「遊びじゃなくて?」
私が聞くと、トミーさんは天を仰ぎながらため息を吐いて、
「僕は、そんなにプレイボーイじゃないんだよ、弥生」
と、悲しげな表情を見せた。
「ルミも僕に好意を持った。そして、2週間があっという間に過ぎ、最後の晩に僕たちは愛し合った」
「え?!」
そこにいたトミーさん以外のみんなが、目を丸くした。そして一瞬静かになり、
「じゃあ、一臣君が初めての相手じゃないじゃないか」
と、兄が一番に沈黙を破った。
「うん。家訓に従えば、僕がルミの結婚相手になるんだろうね」
「え?!じゃ、じゃあ、その時瑠美ちゃんは、処女だったってわけかい?」
また、兄がトミーさんに聞いた。今度は間髪開けずに。
「うん。彼女、初めてだったよ。僕は感激した。僕はアメリカの大学に留学していたし、それに旅行の途中だった。彼女はイギリスに留学中。しばらくは会えないことになるけれど、いつか日本に帰ってから、ちゃんとお付き合いをしようとそうルミに言ったんだ」
「それで?」
「ルミは、無理だって言ってきた。そんなに長い間、あなたを待っていられないって。ひと夏だけの恋愛で終わらせたいってさ」
「え?!」
「それに、彼女は僕に本気だったかどうかも…。今となってはわからないね。僕は真剣だったけどね」
「遊びだったってことか?向こうのほうが」
一臣さんが無表情のままそうトミーさんに聞いた。
「……」
トミーさんは、肩をすくめて苦笑いをした。
「じゃあ、一臣君が初めての相手じゃないのは、明らかだ。ああ、そうか。それで瑠美ちゃんはトミーを見て、慌てて逃げて行ったのか。トミーがいたら、自分が嘘をついているのがばれるからなあ。でも、なんだって嘘をついたりしたんだ?」
兄がそう言って首をかしげた。
トントン。
「兄さん?」
その時、ノックをする音と葉月の声がドアの外から聞こえてきた。
「ああ、葉月だ」
如月お兄様はソファを立ち、ドアを開けに行った。
「何?聞きたいことがあるって」
「まあ、いいから。こっちに座って、葉月」
そう言って兄は葉月をソファに座らせ、自分はチェストの前にあった椅子を移動して座った。
「だけど、今の話で一番腑に落ちないのは、瑠美の処女を俺が奪ったっていって、あの親父が俺に対して怒りまくっていた時、トミーさんはなんだって、なんにも言ってこなかったんだ?俺がルミの最初の相手だって」
一臣さんが片眉をあげながらそう聞くと、
「あの場で言えるわけがない。それに、ちょっとルミと一臣君が結婚しちゃえば、僕にとっても有利になるかと思ったしね」
とトミーさんは、口元に笑みを浮かべながら答えた。
「有利?」
一臣さんと同時に兄も、そうトミーさんに聞いた。
「そうしたら、弥生と僕が結婚できるかもとそう考えたんだ」
トミーさんはそう、ウインクをしながら言った。
「まったく、じゃあ、トミーはもう瑠美ちゃんにはなんの思いもないんだな?」
「7年もたっているしね。そりゃ、ふられた時は、ショックだったさ。旅行中はずうっとルミの思い出に浸り、酒ばっかり飲んでいたけどね」
トミーさんは兄に向ってそう答えながら、また苦笑した。
「瑠美ちゃんのことで、なんか問題になっているとか?」
葉月が何かを察したようにそう聞いてきた。
「ああ、そうだ。葉月、瑠美ちゃんのことで知っていることがあるのか?」
兄がそう聞くと、葉月はちらっと私と一臣さんのことを見て、
「瑠美ちゃん、広末物産の御曹司つかまえそこねたから、今度は一臣さんのこと狙っているって、そんな噂を耳にしたことがあるよ」
と、そう話し出した。
「御曹司狙い?」
トミーさんがそう言ってから、
「だから、僕じゃだめだってこと?」
と呟いた。
「よくわかんないけど、見合い相手もことごとくふっているのは、相当なお坊ちゃんを狙っているからだって聞いた」
「へえ。そんなふうには見えないけど、たいした女なんだな」
一臣さんがそう言ってから、
「ああ、じゃあ、俺と関係を持ったかもしれないよな」
と唐突にそんなことを言い出した。
「え?」
私がびっくりして聞くと、
「俺は遊んでいる女しか相手にしないからな。もし、あの瑠美って女が男と平気で遊べるようなら、俺は相手にしたかもしれないってことだ」
と、しれっとした顔でそう言った。
「そんな女と、僕は結婚するのか?OH!」
トミーさんがまた天を仰いだ。
「なんでだ?トミー」
「家訓だろう?初めての相手と結婚するって言うのは上条家の言い伝えだとしたら、ルミの相手は僕だ。僕が責任を取らされるんだろう?」
「…そんな女って、瑠美ちゃんはあんなに綺麗で、頭もいいし、スタイルも」
私が思わずそうトミーさんに言うと、
「だけど、平気で男と遊べて、御曹司なんかを狙っているっていう女だよ?僕はそういう女は嫌いだ。僕は弥生みたいに無垢で、健気なそんな女性が好みなんだよ」
と、トミーさんはそう私を見つめながら言った。
「トミー!弥生は俺の女だ。何度も言うが、弥生も上条家の言い伝えを守らないとならないとしたら、絶対に俺と結婚しないとならないんだ。わかってるよな?!」
一臣さんは、トミーさんを睨みつけた。
「はあ。弥生、可愛そうに。こんな男に襲われたんだね?無理やり襲われたんだろう?可愛そうに」
「ち、違います。もう~~。トミーさん、一臣さんを誤解しています」
「そうだぞ。俺が無理やり襲ったんじゃない。弥生のほうが誘ったんだ。スケスケビラビラのパンツで…」
「ぎゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!一臣さん、それ言わないで!!!!」
「……」
「……」
うわあ。葉月も、如月兄も、それにトミーさんまで目を点にしている。開いた口もふさがらないみたいだ。
うわ。うわ。うわ~~~。もう!なんでばらすの?私の顔が、赤くなった後、青くなっていっている気がする。熱いんだか、冷たいんだかわからない状態だ。
「なんだよ。本当のことだろ?ちゃんと言わないと、俺が弥生を襲って、お前、俺に無理強いされたって思われるんだぞ。それでいいのかよ」
「よくないですけど、もっと言いようがあるじゃないですか~~」
「真実を言ったまでだ。なんで悪いんだ」
「弥生、お前…」
兄がそこまで言うと、はあっとため息をした。それにトミーさんは、天をまた仰ぎ、
「弥生はもっと純真無垢な、天使のような女性だと思っていた」
と、悲しい声を上げた。
「弥生が抱かれたいのは俺だけだ。どんな男でもいいわけじゃない。俺以外の男を誘うようなまねはしない。俺だから、そういう行動に出ただけだ。それの何が悪い」
わあ。わあ。わあ。一臣さん、もう喋らないで!なんか、どんどんどんどん変な方向に話が進んでいっちゃうよ。
「それはまあ、いい。いや、よくないが、とにかく今は、留美ちゃんのことがあの事件に関連しているのかどうか、そこが問題なんだ。弥生と一臣君の話は置いておいてだな、話を進めるぞ」
如月兄はコホンと咳ばらいをした後にそう言った。
「よくないよ。ああ、弥生が、僕の天使が…」
「勝手にトミーの天使にするな。弥生は俺のものだ」
「勝手に君の所有物にするのもどうかと思うけどね、一臣」
「ああ?!なんだって俺のことを呼び捨てた?」
「君のほうが先に僕を呼び捨てにしただろ?」
「トミーは愛称だろ?だったら、いいだろが。だいたい愛称にさんづけするほうがおかしいし、あんたなんか、弥生のことを最初から呼び捨てにしていたぞ」
「じゃあ、冬馬さんと呼べ」
「なんで、命令口調なんだ」
「そっちもだ。僕のほうが年は上だぞ!」
「だからなんだ!」
わあ。トミーさんと一臣さん、喧嘩になっちゃうよ。止めなくていいの?如月お兄様。
私はおたおたと、慌てふためいた。でも、如月お兄様も葉月も、ほおっておいて、水を飲んでいる。
「わかった。トミーでいい。愛称だからな。だったら僕も、愛称で呼ばせてもらう」
「はあ?!俺のことをか?俺には愛称などないっ」
「ニックネーム、僕が作ってやる。そうだな。カズ。それかオミ。どっちがいい?」
「さえないニックネームだな」
「カズってイメージじゃないな。じゃあ、オミだ。オミ!そう呼ばせてもらうからな」
「………」
一臣さんの目が怖い。無表情すぎる顔も怖い。怒ってる?ものすごく怒っているの?
「はあ。勝手にそう呼べばいいだろ」
「オミ。トミー。話は済んだな。じゃあ、事件のことについて話を進めるぞ」
さっきまで黙っていた如月兄がそう言いだすと、
「なんで、あんたまでが俺をオミって呼ぶんだ」
と一臣さんが怒り出した。
「あはは!如月、最高だな」
トミーさんが笑った。
「一応、このメンバーでは僕が最年長だ。プロジェクトでも僕がリーダーだ。オミ、僕のことはさん付けで頼むぞ?」
「トミーは呼び捨てにしているだろ。自分の上司に」
「トミーは親友だからなあ。同期入社だし」
「それがどうした」
「わかったよ。オミ。そんなにまで言うなら、君も如月を呼び捨てにするか、愛称をつけて呼べばいい」
トミーさんがそう言うと、一臣さんは片眉をあげ、
「………。いい。面倒くさい。呼び捨てにする」
と言い出した。
「………」
結局呼び捨て?
なんか、不思議な関係になっているかもしれない。兄と、一臣さんとトミーさん。
「オミ。葉月もここにいるが、話をしてもいいか?」
「いいんじゃないのか。葉月は信頼できる相手だからな」
あれ。葉月までを呼び捨てに…。葉月、どう思うかな。と思いつつ葉月の顔を見ると、なぜか嬉しそうにしている。信頼できると言われたからかもしれない。
「で、如月、どんな事件があったんだ」
トミーさんがいきなり真面目な顔をして兄に聞いた。
「ああ。実は緒方財閥の子会社が、何社か買収されている。その買収先の会社が上条グループに、接触を始めているんだ」
「え?」
「Aコーポレーションっていって、最近やけにでかくなった会社だ。裏でなにかやばいことでもしているんじゃないかとオミは睨んで調べていく間に、買収されている子会社との関係が見えてきたんだ」
「関係?」
トミーさんがまた聞いた。
「買収した先は、直接Aコーポレーションなわけじゃない。一見したところ、Aコーポレーションとはまったく関係性のない会社だが、裏で繋がっているのがわかったんだ」
「Aコーポレーションって、一度我が社に来た…」
私が思い出してそう一臣さんに聞くと、
「ああ。そうなんだ。あの時から何か臭っていたから、探らせていたんだ」
と一臣さんは片眉を上げそう答えた。
「あの、秘書の人も変でしたよね」
「…その秘書だが、俺になんとか会いたいと何度か言ってきた。樋口が丁重に断っているが、それも作戦のうちかもしれないしな」
「…。そうなんですか」
「Aコーポレーションは、直接うちと取引がしたいと言ってきた。それを断ったら、上条グループのほうに近づき始めた。その頃から、買収が始まったんだ」
「どういうことですか?」
「う~~~ん。わからない。今、いろいろと探らせている。緒方商事にもスパイがいるかもしれないし。どうも買収方法も変なんだ。裏でいろいろと汚い手を使っているようにも見える」
一臣さんはそう言うと、う~~~んと唸りだした。
「まあ、うちだけじゃなく、上条グループにまで手を出そうとし始めているからな。それで、如月にも相談をしているんだ」
「最近のことですか?」
「ああ。ごくごく最近、買収先がAコーポレーションだとわかったんだ。それで、まあ、副社長と相談したり、今頃は副社長が親父に相談をしている頃だと思う。変なことになる前に、なんとかしないとならないんだが、どんな目的があるかもわからない」
「緒方財閥を崩しにかかっているのか…。もしかすると、うちと緒方財閥の提携も、失敗するよう仕向けてくるかもしれないよな」
兄がそう言うと、一臣さんは難しい顔をしてまた唸った。
「で、それとルミが関連していると思ったのはなんでなんだ?如月」
トミーさんがそう、いぶかしげな顔をして聞くと、
「いや。どうも、なんでも最近、疑わしくなってしまってね」
と、兄は目を細めてそう答えた。
「トミー、あんただって、弥生にやけにちょっかいを出すから、疑わしかったんだぞ」
「僕が?まさか、如月まで疑っていたのかい?」
一臣さんの言葉にトミーさんは驚いて、兄に聞いた。
「いや。僕は信頼しているさ。ただ、まだ、話を持ちかける時期じゃないと思っていたんだ。悪いな」
「……。如月、僕は信じてくれよ。弥生のことは本気で、幸せにしたいとそう思っただけなのに」
トミーさんはそう言って、悲しげにため息をついた。
「だが、久世は怪しいな。弥生にやたらとかまってくるし、その久世と瑠美は知り合いだったわけだろ?ますます怪しい」
「久世君が?」
「ああ。俺と弥生の結婚を阻止するよう仕向けて、緒方財閥と上条グループの結びつきを崩させようとしていたのかもしれない」
「それは考えられるな。だけど、瑠美ちゃんがオミと結婚しても、結局は上条グループとつながりを持つわけだ。高仁おじさんが上条グループの副社長だ。その娘との結婚なら、弥生と結婚するのとそうそう変わらないだろう?」
「だけど、例えばだ。久世の奴が婿養子に入ったとしたら?上条グループを手玉にとれるようになるかもしれないだろ。いずれ社長の座について、一気に緒方財閥と手を切ることも、上条グループを自分の思い通りに牛耳ることもできるかもしれないだろ?」
「まさか!次期社長は僕だよ。弥生の結婚相手を社長にするわけがない。それに、婿養子にはしないだろうしね」
「うん。それは俺もそう思うな。久世の二男と瑠美ちゃんが絡んでいたとしても、Aコーポレーションと関係があるかどうかも…」
そう言いだしたのは葉月だ。
「瑠美が、Aコーポレーションとつながっていて、緒方財閥を牛耳ろうとしているとか?それか、スパイにでもなるつもりだとか」
「考えすぎだろ。それか、ドラマの見過ぎだな。オミ」
トミーさんが笑った。
「わからないさ。いったい何を考えているのか。俺ら緒方財閥はそうそう簡単に人を信じないし、疑ってかかる。そして徹底的に探る」
「怖いな。その考え」
そう言ったのは葉月だった。
「そうしないと、いつ緒方財閥をのっとられるかわからないからな」
一臣さんはクールな顔でそう答えた。
「だけど、ここにいるやつはもう、信頼できるだろ?オミ」
そう言ったのは如月兄だ。
「う~~~ん。トミーはまだかな」
一臣さんはそう、如月兄のことを見ながら言った。
「僕の部下だ。それに親友だ。まあ、弥生にちょっかいを出していたのは僕も納得いかないが、最初に弥生をトミーに紹介したのは僕だし、僕の責任もある。だから、僕に免じてトミーを許してくれ。それで、信頼してくれないか」
「ふん。如月の頼みなら、仕方ないな」
え。
えっと…。あれれ?
一臣さんはそう言った後、くすりと笑った。すると如月兄もくすりと笑い、
「さて。卯月は今頃、奥さんと幸せを満喫している最中かな。確か、披露宴の後すぐに新婚旅行に行ったはずだ」
と、そうにこやかに言った。
「新婚旅行はどこに行ったんだ?」
「ヨーロッパ一周だよ。雅子さんはヨーロッパが好きらしい、特にパリがお気に入りらしいぞ」
「かなりのお嬢様か」
「ああ。お嬢様だな」
「…どこぞのお嬢様とは大違いだな。なあ?弥生。お前は新婚旅行どこに行きたい?」
「ひょえ!?」
「新婚旅行だ」
「い、行けるんですか?行けるとしたらどこだって!ハワイでも、グアムでも、なんなら、熱海でも」
「あははははは!やっぱり、お前、貧乏性が板につきすぎてる!」
一臣さんが大笑いをすると、兄も葉月も苦笑した。
「弥生、緒方財閥の御曹司の嫁になるんだ。もう少し贅沢な新婚旅行を望んでもバチは当たらないぞ?」
そう言ったのは如月兄だ。
「せめて、外国にしておけ。熱海はないだろう、熱海は」
そうバカにした笑いをしたのは葉月だ。
「…だって、本当に一臣さんとだったら、どこでも…」
そう呟いたが、それを見て、
「OH!やっぱり、弥生は最高の女性だ。なんでこんなに健気で、可愛いんだ。僕の好みだ」
と、熱い視線をトミーさんが投げかけてきた。
「トミー!弥生は俺に健気なんだ。あんたにじゃない。いい加減、そのいかれた考え、どうにかしろ」
一臣さんはそう言って、私のことを抱き寄せた。
どうなるんだろう。わからないけれど、瑠美ちゃんのことも、いろんな問題も事件も、きっと解決するよね。それにしても、あの犬猿の仲だった兄と一臣さんがいつの間にか信頼関係を持っているから、びっくりだ。