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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第11章 婚約の危機?!
153/195

~その5~ 初めての相手

 初めての相手は一臣様なの……。


 瑠美ちゃんの?

 一臣さん、瑠美ちゃんとも付き合っていたの?


「じゃ、じゃあ、瑠美ちゃんと一臣さんは」

 そこまで言葉が出た。でも、それ以上は何も言えなかった。

「……。一臣様、なんだか荒れていたっていうか、嫌なことでもあったのか、お酒たくさん飲んでいたから。眠そうにしていたし、気分も悪そうだったし、だから、うちで休んで行ってもらおうと思ったのに…。なのに…」


 瑠美ちゃんはそう言うと、顔を赤らめた。そして、

「でも、一夜限りだとしても、私は一臣様だったらいいって思っちゃったから。ずっと思い出として胸に秘めておこうと思ったんだけど、だけど、やっぱり、それじゃ、家訓を破ることになるでしょ?」

「………」


 瑠美ちゃんは私のほうを見ると、

「緒方財閥って今、大変なんですってね。上条グループと提携を結んだのは危機を脱するためでしょ?弥生ちゃんと一臣様って、いわゆる政略結婚だって聞いたわ。一臣様はあまり乗り気じゃないことも。だって、大金銀行の頭取の娘と婚約したいって一臣様は言っていたんでしょ?」

と、顔を近づけそう話を続けた。


「でも、緒方財閥のために、弥生ちゃんと婚約したって。だけど、別に弥生ちゃんじゃなくても良かったのよね?上条グループの人間なら、それが私でも」

「え?!」


「弥生ちゃん。私、家訓に背くわけにはいかないわ。一臣様と一夜だけの関係なんて言ったら、一臣様父に怒られるかもしれないけど、それでも、家訓は家訓よ。だから…」

 瑠美ちゃんは一歩私に近づいた。そして、

「父にちゃんと話して、私が一臣様と婚約するわ」

と、耳元でそう囁いた。


 え?


 なんで、瑠美ちゃんが?!


「ごめんね?でも、弥生ちゃんと一臣様、正式な発表前なわけだし、それに、こんなこと言ったら弥生ちゃんを傷つけるだけだと思うけど、だけど、一臣様って弥生ちゃんとの結婚を喜んで受け入れたわけじゃないでしょ?」

「ち、違うんです。それは…」


「女癖が悪い男で、女遊びもひどいって聞いたわ。だから、私にも簡単に手を出したんだと思うわ。だけど、私だって悪かったの。簡単に男の人を自分の部屋に入れたんだもの」

「え?」

「弥生ちゃんは無垢で、男の人とも付き合ったこともないんでしょ?そんな弥生ちゃんには、一臣様は荷が重すぎる。もっと、誠実な真面目な人と結婚したほうが弥生ちゃんのためよ」


 待って。瑠美ちゃん、何を言っているの?


「わ、私は…!」

「あっといけない。ほら、もう披露宴が始まっちゃう。席に着きましょう」

 腕時計に目をやって、瑠美ちゃんはそう言うと、颯爽と化粧室を出て行ってしまった。


 頭がガンガンする。今、何を言われたんだろう。えっと。瑠美ちゃんが一臣さんと婚約する?何それ。


 婚約破棄にでも、変更でもできるだろ。たとえば、いとことか…。


 今、頭に久世君が言った言葉がよみがえった。久世君と瑠美ちゃんが知り合いだとしたら、瑠美ちゃんが私のいとこだってことも久世君は知っていたのかもしれない。

 そして、もしかすると、久世君は瑠美ちゃんと一臣さんの関係も知っていた?!


 ダメだ。思考するのが辛い。

 でも、もし、本当に初めての相手と結婚しないといけないという家訓があるのだとしたら、私だって、一臣さんが初めての相手だ。


 それに、一臣さんは私のこと嫌がっていない。

  

 ギュ。唇を噛んだ。しっかりしろ、弥生。久世君の言葉、瑠美ちゃんの言葉、惑わされてばかりいるけど、一臣さんは私をちゃんと選んでくれたんだ。弥生としか結婚しないって言ってくれたんだから。


 ドキ。ドキ。それでも、一臣さんが瑠美ちゃんと会った時のことを考えると胸が苦しくなる。すごく不安だ。

 もう!たたでさえ、鴨居さんのことでやきもきしていたのに、なんだってこう、次から次へと不安要素が現れるんだ。やっと平和で、ラブラブな毎日になってきていたのに。


 ちょっとふらつきながら、私も披露宴会場に向かった。中に入ると、一臣さんがすでにいて、父や祖父と話をしていた。


「ああ、弥生、どこに行っていたんだよ」

 葉月が私を見つけて呼んだ。その隣で如月お兄様も、

「弥生、姿が見えなかったから心配したぞ。それに、顔色悪くないか?」

と私の顔をじっと見ながら聞いてきた。


「大丈夫です。ちょっとトイレで休んでいただけで」

 そう言いながら、みんなのテーブルに近づいた。どうやら、一臣さんは私の隣の席で、私の家族と同じテーブルのようだった。


「弥生?具合悪いのか?」

 一臣さんの隣の席に座ると、一臣さんが心配そうに聞いてきた。

「大丈夫です」

 一臣さん、まだ、瑠美ちゃんに会っていないよね?


 ドキン。会ったら、思い出すよね。その夜の出来事。

 どうしよう。やっぱり、不安になってきた。


「一臣さん、俺、いえ、僕と会うのは初めてですよね。葉月です」

「ああ。葉月君のことはよく弥生から聞いていたよ。幼い頃一緒に遊んだって」

「はい。これからも、よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ」


 一臣さんは、ちょうど席の真ん前にいる葉月に向かって、微笑んだ。葉月もにっこりと笑っている。

 平和だ。今はまだ平和だけど、この平和はいつまで持つんだろうか。


「おじ様、おめでとうございます」

 ドキ!瑠美ちゃんだ。

「やあ、瑠美ちゃん。久しぶりだねえ。相変わらず美しいねえ」

「嫌だわ。おじ様ったら。そういえば、父を見ませんでしたか?」


高仁こうじんだったら、各テーブルを挨拶しているよ。僕よりも社交的だからね」

「まあ、そうですか」

 瑠美ちゃんはそう言ってから、ちらっと私と一臣さんを見た。そして、

「おじ様、あちらにいらっしゃるのは、緒方財閥の…?」

と父に聞いている。


「ああ。紹介するよ」

 父が席を立ち、瑠美ちゃんと一緒に一臣さんのほうに歩いてきた。

 う、うわ。顔が引きつる。血の気が引いて倒れそうなくらいくらくらしてきた。


「弥生の婚約者、緒方商事の次期副社長の緒方一臣君だよ、瑠美ちゃん。一臣君、この子は僕の姪っ子の、上条瑠美ちゃんだ」

「…一臣様、ご無沙汰しています」

 瑠美ちゃんは、そう言ってお辞儀をすると、顔を上げてからじっと一臣さんの目を見つめた。それも、微笑みながら。


「……初めまして。ですよね?どちらかでお会いしましたか?」

 一臣さんは、席を立ち軽くお辞儀をしてそう瑠美ちゃんに聞いた。顔はにこやかだが、一臣さんの声がやたらと冷静だ。


「ええ。大学の時、パーティでお会いしましたわ」

「そうですか。どのパーティでしょうか。いろんな人とあの頃は会っていたし、パーティにもよく参加したので、覚えていなくて失礼しました」


 一臣さんはそう言うと、また頭を下げた。それを聞いた瑠美ちゃんは、ちょっと眉をしかめたけれど、すぐにまたにこやかな表情を作った。


「夏のパーティでしたわ。わたくしが大学4年でしたから、一臣さんは3年かしら。わたくしよりも確か、一つ下だと伺いました」

「ああ。じゃあ、僕が2年の時ですね。1年間留学をしていたので」

「そうですか。覚えていらっしゃいます?六本木でのパーティでした」


「う~~~ん。1年、2年の時は特に派手に遊んでいたので、覚えていないですね。3年生から、仕事を覚えさせられ、会社に行くことが多かったので、あまりパーティにも参加できなくなりましたが」

「……わたくし、あの頃と変わっちゃったかしら。一臣様はあの頃とそんなに変わっていませんわ。でもあの頃より、逞しくなられましたのね」


「……まあ、そうですね。大学2年というと、まだ21歳くらいですよね。まだまだ青さが残っていたと思いますよ」

 一臣さんはそう笑顔で言うと、なぜか話を如月お兄様に振った。それも、仕事の話なので、瑠美ちゃんもそれ以上は一臣さんに話しかけられなかったようで、すごすごと自分の席に戻って行った。


 でも、ちらちらと一臣さんのほうを見て、そのあとも一臣さんのことをずっと気にしている様子だった。


「弥生」

 小声で円卓の向かいの席から、葉月が私を呼んだ。

「なに?」

 私は口だけ動かして聞き返した。


「やっぱり、要注意だ。気をつけろ」

 ぱくぱくと葉月が口を動かし、そしてちらっと目で瑠美ちゃんのほうを見た。

 ああ、瑠美ちゃんが一臣さんを狙っているから、注意しろと言いたいんだよね。でも、もっと衝撃的なことを聞いちゃったんだよ。葉月。どうしたらいい?


 こんなこと、葉月に相談できないよね。それに、もし如月お兄様の耳に入ったら、一臣さんのことをまた怒り出して、婚約破棄にさせるかもしれないし。


 どうしよう。

 でも…。


 隣に座っている一臣さんを見てみた。まだ、如月お兄様と話をしている。まったく、瑠美ちゃんのことを気にしている様子もないし、知っているのにすっとぼけている雰囲気もなかった。もう、見るからに初めて会った。もしくは、前に会ったとしても覚えていないって感じだった。


 それに、パーティで会ったからって、それがどうしたっていう返答だった。覚えていないことも悪びれていない。たくさんの人に会ったんだから、忘れてもしょうがないだろ…くらいの表情をしていた。


 だったら、私は安心してもいいのかな。

 いや。瑠美ちゃんは高仁おじ様を探しているみたいだった。そうだ。父に打ち明けるって言っていたから、あとで、高仁おじ様に、一臣さんとの一夜の話を打ち明けるつもりなんだ。


 どうしよう。

 私はつい、横に座っている一臣さんの袖を引っ張った。

「ん?どうした?」

「な、なんでもないです」


 そう言ってから、すぐに気持ちを切り替えようとして、

「あ、あの。今日も一臣さん、かっこいいです。黒のスーツ似合いますね」

とそう言ってみた。


「ああ。お前も似合っているぞ。その着物の下は今日も、裾よけだけか?」

「……はい」

 一臣さんは囁き声で聞いてきた。だから、みんなには聞こえていないだろうけど、なんだっていきなりそういうことを聞いてくるんだか。


「そうか。それじゃ、屋敷に戻ってから楽しみだな」

 やっぱり、そういうことを考えていたんだ。


 私はそれどころじゃないのに。あ。あ。大変だ。高仁おじ様が、瑠美ちゃんのもとに来て、何やらこそこそと二人で話している。そして、高仁おじ様は、思い切り一臣さんのほうを見て、顔を青くさせた。


 あれって、瑠美ちゃんから事情を聴いたからだよね?!


 でも、その時、司会の人が話を始めたので、高仁おじ様は席に着いた。

 

 披露宴が始まった。純白のドレスに身を包んだ雅子さんと、真っ白なタキシードを着た卯月お兄様が会場に入ってきた。そして、各テーブルに回りながらキャンドルに火をともした。


 拍手や歓声、カメラのフラッシュ、みんなが二人に注目をしている中、瑠美ちゃんと高仁おじ様は一臣さんを見ていた。それも、高仁おじ様は、ふるふると顔を震わせ、怒った表情で一臣さんを睨んでいる。


「おい」

 隣で一臣さんが小声で私に声をかけた。

「はい?」

「あそこの親父、誰だ?俺のことをさっきから睨んでいるように見えるんだが」

「高仁おじ様です。父の弟の」

「何で俺を睨んでいるんだ。失礼な人だな」


「身に覚えがないんですか?」

 はっ!私ったら、何を聞いちゃったんだ。

「え?俺が先に何かやらかしたか?」

「い、いえ。でも、あの。瑠美ちゃんのこと、本当に覚えていないんですか?」


「う~~~ん。大学2年だろ?パーティにたくさんの女が来ていたから、ちょっと一回話したくらいじゃ覚えていないぞ」

「一回、話しただけ…じゃなかったら?」

「どういうことだ?お前、何か知っているのか?」


「いいえ」

 私はそう言ってから、口を閉じた。まさか、一臣さんと一夜を共にした相手です。とか、一臣さんが酔った勢いで抱いた女です。なんて言えない。


「もしかして、俺と関係でもあるとかか?」

 ドキン。心臓が口から出そうになった。

「う~~~ん。でも、覚えがないなあ。ただ、あの頃、よく遊んでいたからなあ」

 一臣さんはそう言ってから、私に顔を近づけ、

「でも、遊んでいるような女しか相手にはしていないぞ。もし、あの瑠美って女が遊んでいるような女じゃなかったら、相手にはしていないから安心しろ」

と囁いた。


「……」

 遊んでいるような女じゃなくても、お酒飲んだ勢いでってことだってあるかもしれないですよね?今まで処女は相手にしなかったって言っても、もしかして、わからなかっただけってこともありますよね?


 言えない!喉まで出かかったけど、とてもじゃないけど、そんなこと言えない。


 出かかった言葉を飲み込んで、私はまたくらくらしていた。


 披露宴は、やっぱり盛大だった。雅子さんはずっとにこやかに笑っていて、卯月お兄様はにやけていた。時々雅子さんを見ては嬉しそうにする。今日の日を本当に待ち望んでいたんだろうな。


 12月、私も一臣さんと式を挙げられるのかな。その前に破局になったりしないよね。

 はっ!いけない。また思考が暗くなってる。このまま、勝手に悪いほうばかりを妄想し始めるところだった。


 ちらっと一臣さんを見た。一臣さんは、食事よりもお酒が進んでいた。

「大丈夫ですか?そんなに飲んで」

「ああ。お前と違って酒には強いからな」

「……」

「どうした?お前もあんまり食べていないな。さっきから元気もないし。本当に具合が悪いんじゃないのか?」


「い、いいえ。ちょっと帯がきつくて、食べられないだけです」

「ああ、なるほどな。着物も大変だな。でも、いっつも帯をきつく締めていたら、ダイエットできるんじゃないのか?夜は裾よけでエッチもできるし、屋敷でも着物を着ていろよ」


「そういう話をこんなところで、しないでください」

 いくら小声で話しているっていっても、一臣さんの隣にいる如月お兄様に聞こえちゃっているかもしれないじゃない。


「それにしても、半年後はあの席に俺とお前が座っているんだな」

 一臣さんはそう言って、新郎新婦の席を眺めた。

「はい」

 ドキ。一臣さんもそういうこと思ったりするんだ。


「面倒くさそうだな。ずっと、あそこでああやっていないとならないのか。いい見世物だよな」

 は?今なんて?

「式、挙げたくないよなあ。でも、挙げないわけにはいかないよなあ。スピーチは一人3分と決めておくか。砂時計でもおいて、3分立ったら、鐘でも鳴らして終わらせて…」


 はあ?

「酒でも飲んで、気を紛らわすか。あ、お前は飲むなよ。あの席で寝たら孫の代まで語り継がれるぞ」

「飲みませんから…」

 もう~~~。なんだって、一臣さんはなんでも面倒くさくなるの?結婚式だよ?卯月お兄様はあんなに嬉しそうなのに。


 時々、不安になる。私との結婚、本当はどう思ってる?本当は結婚なんてしたくなかったりするの?


「なあ、弥生」

「はい?」

「婚約発表後、早めに籍だけ入れるか」

「え?」

 ドキン。


「式は12月って決まっちまっているけど、籍だったらその前に入れたっていいわけだし」

「ど、どうしてですか?」

 胸がドキドキして、変な質問をしたかもしれない。

「どうしてって、そりゃ、早くに籍を入れないと…」

「はい」


「久世みたいなのがお前にまた、プロポーズするかもしれないし、面倒なことが起きないとも限らないし…」

「え?」

「さっさと弥生は、上条弥生から緒方弥生になれよ。そうすりゃ、緒方財閥も安心なんだし」

 それが、理由?


「久世はまじで、やっかいなやつかもしれないからな」

「緒方財閥にとってですか?」

「ああ。そうだ」

「………」


 一臣さんの顔、今とってもクールだ。眉間に少ししわを寄せ、ワインを飲んで、

「いろいろと本当に面倒だよな」

と、ぼそっと呟いた。


 何が?結婚が?式が?

 問題でも起きているの?それとも、何?


 ドキドキは胸騒ぎに変わった。幸せすぎて怖いくらいだったあの旅行。天国にいるみたいの二日間。ずっと一臣さんと一緒にいて、そばにいたからずうっと安心できた。


 でも今は、一臣さんが遠くに感じる。

 何を考えているの?何が面倒なの?もし、今後瑠美ちゃんのこととか、一臣さんが知ったら、もっと一臣さんは面倒くさがる?

 私との結婚や、二人の時間は?ううん。私のことは?


 いつか、面倒くさい存在になったりするの?


 そんなことを思うと、一臣さんに「何が面倒なんですか?」っていう質問もできず、もっと心の中はもやもやして、私の気持ちは沈んでいった。


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