~その1~ 追い出された!
会社には、一臣様お一人で行かれた。私はまだ、屋敷で療養をしていないとならないらしい。
そこで、私は亜美ちゃんに頼んで、屋敷内の案内をしてもらった。
屋敷の1階には、あの長い食卓のテーブルがある食堂の他に、ホームパーティができる大広間があったり、立派な家具やソファの置いてある応接間がある。
他にも、お客様用のお部屋が二部屋、1階の一番奥に有り、その部屋も大きなお部屋で、セミダブルのツインのお部屋だった。
2階には、階段の左側を行くと、社長と社長夫人のお部屋があるらしい。そこはさすがに見せてはもらえなかった。おふたりはずっと関西に出張しているということで、私はいまだにおふたりとお会いしていない。
右側には、空いているお部屋がいくつかあり、一臣様のお部屋、そして私の部屋がある。
空いている部屋というのは、龍二さんの部屋だったり、一臣様の従姉妹の汐里様という方のお部屋だったりするらしい。
この汐里様というのは、社長の弟の娘さんで、今、アメリカに住んでいるのだとか。なんでも世界的に有名なチェリストで、時々日本に帰ってきた時に、この屋敷に滞在するらしい。
社長の弟ご夫妻も、アメリカにもう30年前から住んでいるらしいが、このおふたりは日本に帰ってこないのだろうか。
「社長の弟さんは、お帰りになることはないんですか?」
「はい。社長の弟の緒方健次郎様は、アメリカで美術館を経営されていらっしゃいます。もともと、日本にいた頃から、美術品がとても好きだったらしく、骨董品から、絵画まで、いろいろと集められていたそうです。美術館ができるほどの量になり、本当にアメリカで美術館を作ってしまわれたと、そんな話を喜多見さんから聞いたことがあります」
亜美ちゃんはそう教えてくれた。
亜美ちゃんとは、庭園を歩いていた。バラの庭園は、社長のお母様、つまり一臣様のおばあさまが、バラが好きでここを作ったらしい。
今は、会長と会長夫人として、名前だけは残しているものの、仕事からは引退し、おふたりでハワイに住んでいらっしゃるということだ。
なんとも、優雅な生活をみんなしているのだなあ。
「ここの芝生は気持ちいいですね」
私と亜美ちゃんはバラの庭園を抜け、芝生の広場に来た。
「はい。ここでよく、一臣様と龍二様は遊ばれていたようですよ」
へえ。やっぱりそうだったんだ。
「私も子供が生まれたら、ここで遊ばせたいなあ」
ぽつりとそう言うと、亜美ちゃんの顔色が若干暗くなった。
「え?何か、変なこと言ったかな、私」
「いえ。もしそれが叶う日が来たら、是非私もご一緒にお子様たちと遊びたいです」
「ほんと?嬉しいな、そう言ってもらえると」
そう言ってからまた亜美ちゃんを見た。亜美ちゃんは作り笑いをしているのが見ていてわかってしまった。
なんでかな。子供と一緒に庭で遊ぶことなんてできないのかな。まさか、それまで誰かに注意されてしまうんだろうか。あ、まさか、一臣様に?
「それ、叶わないことだと思いますか?亜美ちゃん」
思い切ってそう聞いてみた。すると、亜美ちゃんは明らかに動揺して言葉に詰まってしまった。
「誰かに止められちゃうのかな。一臣様とか、奥様からとか…」
「いえ。そういうことは大丈夫だとは思いますが…」
しばらく言葉を濁していた亜美ちゃんは、突然、
「大丈夫です。ちゃんと弥生様は一臣様と結婚して、お子様も産んで、ちゃんと社長夫人として、きっと…」
と、途切れ途切れに言い出した。
えっと…。きっと…って何かな。なんか、結局は最後、言葉を濁してしまったけど。何が言いたかったんだろう、亜美ちゃんは。
「汐里様は時々、日本に帰られて、このお屋敷でリサイタルをすることもあるんです。緒方財閥の一族が一同に集まり、そのリサイタルを聴きに来ます。素晴らしいですよ。汐里様のチェロの音色は…」
「へえ~。聴いてみたいなあ」
「その時、奥様もフルート演奏をされることもあるし、一臣様のピアノの音色も聴くことができます」
「え?一臣様ってピアノ弾けるんですか?」
「はい。とても上手ですよ。あまり、人前で弾かれないので、本当にそんな時でないと聴ける機会がありません」
「そうなんだ。初めて知った。聴いてみたい!」
「お屋敷で、たまに練習をお一人でされていることもあります。大広間にグランドピアノがありましたよね。あちらで、ピアノを弾かれるんですが、誰も大広間に入ることを許してくださらないんです」
「……大広間にお一人だけで練習を?」
「はい。でも、お屋敷内から一臣様のピアノの音色が聴こえてくると、みんなしばらく仕事を止めて、うっとりと聴き入ってしまうんです。ただ、それを知られると怒られるので、大広間から離れたところでこっそりと聴くようにしています」
「き、聴いてみたいな…」
ああ、一臣様のピアノの音。どんななんだろう。力強い?それとも、繊細?それにしても、ピアノまで弾けてしまうなんて、なんでそんなに完璧なんだろうか、一臣様って。
「弥生様は何をされていたんですか?」
私はうっとりと一臣様がピアノを弾いているところを妄想していたが、亜美ちゃんに質問され、我に返った。
「え?何って?」
「楽器です」
「私?別に特には…」
「え?そうなんですか?」
「あ、やっぱり、お嬢様なら楽器のひとつくらい出来たほうがいいですか?」
「いえ。すみませんでした。変な質問をしてしまって」
亜美ちゃんが恐縮そうにそう答えた。
「…あ、一つだけ、おばあさまに習ったものがあります。あれだったらきっと、今でも弾けます」
「弾くというと、弦楽器か、ピアノですか?」
「いいえ。琴です」
「琴?」
「うち、本当に日本のものが好きで…。おばあさまは琴の先生なんです。それからおばあさまは、お習字の先生でもあるんです」
「素晴らしいですね!本当に日本の文化を大切にされている一族なんですね」
「あの。一族っていうほどのものではないんですが。まあ、家族か、親戚ってくらいで…」
私がそう言うと、また亜美ちゃんは顔を赤くして私に謝った。
「あの、そんなに謝らなくても大丈夫です。もっと、友達みたいに接してもらったほうが私も気が楽で」
「とんでもございません。また、一臣様に叱られてしまいます」
あ、そうだった。メイド達を守るくらいのことをしないとダメなんだった。こんなふうにフランクにするのって、きっと一臣様や緒方家の人たちにとっては、NGなんだろうなあ。
私と亜美ちゃんはあずまやの中に入って、ベンチに腰掛けた。
「ここ、気持ちいいですね、亜美ちゃん」
「はい」
「あ、どこからか、鳥のさえずりが聴こえてくる…」
昨日はカラスの鳴き声で怖かったけど、今日の鳥のさえずりは、リラックスできる癒しの声だなあ。
「亜美ちゃん、一臣様ってどういうお方なんですか?」
私は思い切って聞いてみた。
「一臣様ですか?わたくしは、4年前からここに勤めていますが、その頃からまったくお変わり無いです。いつも、眼が鋭くって、気を許さないというか、屋敷内でも気を張っている感じがあって」
そうなんだ…。じゃ一臣様って、ご自分の部屋でしか、ゆっくりとできないんだ。
「あまり笑顔を見たこともありません。厳しい方ですから、失敗したりすると怒られます。一臣様のおそばにいられるのは、一臣様の身の回りをしている喜多見さんと、秘書の樋口さん、運転手の等々力さんくらいで、ほかの者とはあまり関わろうともしません」
「え?そうなんですか?」
「忙しいので、お屋敷にいる時間もあまりないですし…。だから、口をきいたのも4年間でほんの僅かです。それも、怒られる時だけです」
「……」
やっぱり、メイドたちにも怖い存在なんだ。一臣様って。
「どちらかというと、弟の龍二様の方が話しやすいです。ただ、龍二様も年に1~2回しか帰って来られないので、そんなにお話をしたわけではないのですが」
あ、そうなんだ。龍二さんの方がフランクなのかな。
「あの…」
「はい?」
「わたくしたち弥生様のメイドは、みな弥生様の味方です。ですから、どんなことがあっても、頑張ってください。いつでも何かありましたら、申し付けください」
「え?」
亜美ちゃんはそう言ってベンチを立つと、
「そろそろ昼食のお時間ですので、お部屋に戻りましょう」
と言って、黙々と庭園内を歩き出した。
えっと。亜美ちゃん。どんなことがあってもっていうのは、何か深い意味があるのかな?とは聞けず。私はそんな亜美ちゃんの後ろをただ歩いていた。
部屋に戻り、また暇になった。昼食はあと、小1時間でできるらしいが、それまで何をしていよう。
「いいよなあ。一臣様のお部屋にはなんでも揃っていて」
今朝、一臣様は食堂に来なかった。そういう日がほとんどらしい。自分の部屋でコーヒーだけを飲み、出社してしまうのだとか…。
朝食抜きの日もあれば、朝早くに会社に出社してから、軽い朝食を自分の部屋で取ったりしているらしい。つまり、朝は一緒にご飯を食べられないということだ。
おかげで、あの広い食堂を私だけで独占できてしまった。だが、あまり嬉しくない。周りに、執事の国分寺さん、日野さん、亜美ちゃんや、トモちゃんまでが黙って立っていて、その中で黙々とご飯を食べるのは、ほんと、辛かった。
隣に座って一緒に仲良く食べてくれたらいいのに。やっぱり、そこに一臣様や奥様がいなくても、NGなんだろうなあ。そういうのは。
「はあ。もしや、昼ご飯もそんな感じ?う~~~、たまらんぞ」
息が詰まりそうだ。自分でお弁当作って、今日は天気もいいし、外で食べたい気分だ。
「あ!それってダメなのかな。あずまやか、芝生にお弁当を持って行って食べるのって」
いきなり思い立ち、私は部屋を出て食堂に行った。
食堂には誰もいなかった。食堂の奥にキッチンにつながる扉があり、そこからキッチンに行くと、キッチンからいい匂いが立ち込めてきた。
「あの…」
キッチンの中にちょこっと顔を覗かせると、日野さんがびっくりして私の方に来た。
「どうなさったのですか?」
「お昼、もう作っちゃいましたよね」
「いえ。今、お作りしているところですが」
「良かったら、お弁当みたいなのにしてもらってもいいですか?庭園奥の芝生にシートを広げて、ピクニックみたいにして食べたいんですが」
「え?」
「あ、やっぱり無理ですか?」
日野さんが困惑した表情を見せた。でも、その奥から喜多見さんがきて、
「ピクニックですか?一臣おぼっちゃまが子供の頃は、時々していましたよ」
とにっこりと笑いかけてくれた。
「今日、天気良くてあったかいし、どうですか?みんなで」
「…みんなでは無理ですが、わたくしと弥生様のメイドは一緒にお供いたします」
「本当ですか?!やった!」
私は思い切り喜んでしまった。
そうして、私、喜多見さん、日野さん、亜美ちゃん、トモちゃんとでシートを持って、お弁当や水筒を持ち、庭園を抜け芝生の広場に行った。
シートを広げ、みんなでお弁当をつっつき、いろんな話で盛り上がった。
「そろそろ、風も出てきましたし、お屋敷に戻りましょうか」
喜多見さんの言葉で、みんな片付けをしようとその場を立ち上がった。と、ちょうどその時、
「何をしているんですか、あなたたち」
という、怖そうな声が私たちの後ろから聞こえてきた。
「お、奥様!いつお帰りで?」
「先ほど帰ってまいりました。喜多見さん、あなたに一臣のことを聞こうとしたら、中庭の方に行ったと聞いたのでこちらに来てみたんです」
お、奥様ってことは、一臣様のお母様?
わあ、初めてお会いする。ちゃんと挨拶しないと…。
っていう雰囲気じゃないかな、もしかして。お母様はもしや、今、思い切り怒ってる?顔も声も怖いし、手がふるふると震えているし。
なんて思いながら黙っていると、一臣様のお母様は一回息を呑み、
「一体何ごとですか!みんなでシートを広げて、堂々とサボっていたんですか?あなたたちは、わたくしたちが留守の間、こうやっていつも庭でサボっていたんですか?自分たちの仕事もしないで!」
と、顔を真っ赤にして怒鳴りだした。
ややや、やばい。謝らないと!
「あの!初めまして。私、上条弥生と申します。今日は、お天気もいいので、お昼をこの芝生の広場で食べようと、喜多見さんたちにつき合ってもらいました。ですから、私の責任です。けしてみんなサボっていたわけじゃありません」
そう言うと、一臣様のお母様はものすごい鋭い目で私をギロッと睨み、
「あなた、上条グループのご令嬢の弥生さん?」
と聞いてきた。
「はい」
頷くと、さらに怖い顔をして、
「喜多見さん。わたくしは聞いていないですよ。この方が、緒方家のお屋敷に来ることなんて」
と喜多見さんに大声でそう言った。
「申し訳ありません。ですが、社長から弥生様をお屋敷に呼ぶようにと仰せつかっております」
喜多見さんではなく、お母様の後ろから執事の国分寺さんが現れて、頭を下げたままそう告げた。
「社長の?また、あの人はわたくしに相談もなく一人で勝手に決めたのですね」
え?そうだったの?
一臣様のお母様は、ふうっと息を吐き黙り込んでしまった。
国分寺さんも喜多見さんも、ほかのメイド達も頭を下げ、誰一人として口を開かなかった。ずっとお母様が話すまでじっとそのままの体勢で待っている。
「弥生さん」
「はい…」
ドキン。私に話しかけてきた。私もみんなと同様、下を向いていたが、顔を上げた。お母様はもう興奮することもなく、すごく冷静な表情をしている。
「わたくしは、あなたが一臣と結婚することを認めたわけではありません。社長が勝手に決めたことです」
え?!え?今、なんて?
「一臣も、わたくしと同じ意見で、あなたとの結婚を反対しているようですし、そんな認めてもいないあなたのことを、このお屋敷に置いておくわけにもいきません。それも、天気がいいからって芝生の上で昼食を召し上がるなどど、そんなお下品なことを平気でするなんて…」
「……」
は、反対?お母様は私と一臣様の婚約に反対していたの?
それ、初耳。一臣様もなんにも言っていなかった。
「それも、従業員と一緒にお食事を平気でしてしまうなんて…。どんな育ち方をしたか、伺えますわね。お母様の影響かしら?確か、上条グループで働いていた、単なる平社員でしたわよねえ?お母様は…」
ム…。なんでお母様のことがここで出てくるのよ。
「そんな人の娘に当たる人が、この由緒正しい緒方財閥に嫁いでくるだなんて、それも、次期社長夫人になるだなんて、わたくしは絶対に認められません」
「……そ、そんな人って、母のこと悪く言わないでください」
「はい?」
「母は、立派な女性だったんです!だから、父はそんな母と結婚したんです。それなのに、何も知らないで、母のことを悪く言わないでください」
「わたくしに、反論するんですか?」
「は、反論とかそういうことではなくって、ただ、母の悪口だけは、言われたくありません」
「……。ふ~~ん」
お母様は私のことを、見下したような目で見ると、
「正式な婚約発表前ですし、いくらでもまだまだ破断に出来るんですよ。わたくしにそんな口の利き方を平気でするような、そんな方が一臣と結婚できるわけがないってことを、あなたに思い知らせてあげます」
と声を低くしてそう言った。
え?お、思い知らせてやる?って言った?なんか、お母様の顔、ものすごく怖いんだけど。
「まず、緒方財閥の人間でもない人間が、この緒方家の敷地内にいることを認めません。即刻出て行きなさい」
え?出て行く?ここから?
「お、奥様。それは無理というものです」
喜多見さんが慌ててそう言った。そして、
「社長に了解も得ず、わたくし共は勝手に弥生様を追い出すようなことはできかねます」
と国分寺さんも、慌てた様子でそう訴えた。
「そう。それができないと言うのなら仕方ないわね。では、敷地内にいることは許します。ですが、お屋敷には入らないでちょうだい。わたくしは認めた人間しか、お屋敷内に置かないことにしています。わかりましたね。すぐにあなたの荷物をまとめて、従業員の寮に行きなさい」
「じゅ、従業員の寮にですか?」
喜多見さんが聞き返した。
「そうですよ。空いてる部屋の一つくらいあるでしょう。なかったら、布団部屋でも、どこでも結構です。喜多見さん、この人の荷物をさっさと屋敷内から出してちょうだい。弥生さん、あなたは、今後一切、わたくしが認めるまで、お屋敷には入らないように。わかりましたね」
「ですが、社長が…」
「社長にはわたくしから言っておきます」
国分寺さんの言うことにも、まったく耳を貸そうとせず、お母様はそう言って庭園の方に向かって歩き出した。
「待ってください。奥様。わたくしたちの責任です。弥生様をお屋敷から追い出すようなことだけはしないでください」
日野さんが、お母様にそう言って足を止めさせた。すると、お母様はゆっくりと振り向き、また意地悪そうな表情をした。
「責任?じゃあ、責任とってあなたに辞めてもらいますよ」
「え?」
日野さんをクビにするってこと?
「ここにいる者、全員責任とって辞めるということでしたら、わたくしも考えを変えますが、それでよろしいですか?」
うそ!
待って。私のせいで、クビになっちゃうなんて!
一臣様の言葉が脳裏に蘇ってきた。
「メイドを守ってやるくらいのことをしろよな!」
ああ、これじゃあ、守るどころか、私のせいでクビになってしまう!
「私、平気です!」
「この者たちがクビになっても平気ということですか?」
お母様が私の方を見て聞いてきた。
「違います。お屋敷を追い出されても、布団部屋で寝るようなことになっても、全然へっちゃらです。それに、一臣様と結婚することも、お母様に必ず認めてもらいます!」
「は?」
お母様の目が、点になった。
「日野さんたちは悪くありません。私が勝手に外に呼び出しただけです!」
私は、日野さんたちの前に立ち、お母様に挑戦的にそんなことを言ってしまった。
「………そう。よ~く、わかりました。では、わたくしからも宣言させていただきます。わたくしも、一臣も、あなたを緒方財閥の嫁として認めることなんて、100パーセントありえません。それに、もう、あなたよりもふさわしい女性を、決めております」
ええ?!!!
「そのうち、このお屋敷に招き入れようと思っています。まあ、せいぜいそれまで、従業員の寮で、従業員の真似事でもしているのですね」
お母様はそう言うと、クルリと後ろを向き、颯爽と歩いて行ってしまった。
「や、弥生様。申し訳ありませんでした」
喜多見さんが謝ってきた。日野さんたちも同時に、
「申し訳ありません」
と頭を深く下げた。
「……いいえ。みなさんと一緒にピクニックができて、私はすっごく楽しかったです。ありがとうございました。それから、みなさんがクビになるようなことがなくて、本当に良かったです」
「弥生様…」
「私の軽はずみな行動のせいで、みなさんにも迷惑をかけてしまって申し訳ありません。これからは、本当に注意します」
「弥生様が悪いわけでは…」
喜多見さんがそう言いかけた。
「いえ。一臣様からも言われています。私付きのメイドたちを守ってやるくらいのことをしろって。だから、軽はずみな行動はよせと言われていたのに、本当に申し訳ありませんでした」
私もみんなに頭を下げた。
「一臣様がそんなことを?」
日野さんや、亜美ちゃんがなんだかびっくりしている。
「そうですか。一臣おぼっちゃまは弥生様にそんなことをおっしゃっていたんですね」
喜多見さんは優しい表情でそう言った。
「はい。一臣様は優しい方なので、お母様はちょっと怖そうですけど、きっと一臣様はみなさんのことをちゃんと守っていくと思います」
「………」
私がそう言うと、日野さんたちは目を丸くしたが、喜多見さんと国分寺さんは、目を細めて嬉しそうな顔をした。
「私、大丈夫ですよ。何があっても、へこたれたりしませんから!」
もう一度みんなにそう言って、私は天を仰ぎ、
「頑張るぞ~~~」
と、ガッツポーズを作った。
ポカンと口を開けて見ている日野さんの横で、亜美ちゃんとトモちゃんだけが、
「私たちもついていきます」
とそうガッツポーズを作って言った。