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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第10章 甘いフィアンセ
146/195

~その15~ 初級レベルを卒業?

「さあ、そろそろ出るぞ」

 一臣さんはそう言うと、露天風呂からザブンとあがった。もちろん、素っ裸だ。そのままシャワールームへと一臣さんは歩いて行った。


 ぼけら~。その後ろ姿を眺め、シャワールームでまたシャワーを浴びている一臣さんの姿を、うっとりと見つめていた。髪までシャワーをかけ、顔も洗い、シャワーを止めると一臣さんは顔を手で拭い、前髪をかきあげた。


 ほわわん。すべての仕草がかっこいい。うっとりと見ていると、一臣さんが私のほうを見て、シャワールームのドアを開け、

「こら!弥生。のぼせるぞ。いい加減出てこい」

とそう叫んだ。


「はい!」

 私は慌てて露天風呂から出て、ウッドデッキに置いておいたタオルで前を隠してシャワールームへと急いだ。一臣さんは、さっさとパウダールームに移り、バスタオルで体や頭を拭いている。


 それから、一臣さんはバスタオルを腰に巻き、歯を磨きだした。


 はう。歯を磨いている姿すら、かっこいい。腕の筋肉が引き締まっていて、なんてかっこいいんだ。あの腕に、あの引き締まった胸に、抱かれちゃったんだなあ。


 あ、いけない。また早くしろって怒られちゃう。慌ててシャワーで体を流し、シャワールームを出て、一臣さんの隣に並んだ。


「拭いてやる」

 一臣さんはもう1枚、未使用のバスタオルを引っ張りだし、私の体を拭いてくれた。

 ああ、やっぱり、恥ずかしい。でも、昨日露天風呂から上がった時は、恥ずかしさがなかった。それどころか私は、ずっとうっとりとしていた気がする。


 だんだんと鮮明に思い出してきた。確か、バスタオルで一臣さんは私の体を拭きながらも、私に熱いキスをしたり、肩や腕、胸や背中にキスをしまくっていたかも。


 ほてほて…。思い出して体が火照ってきちゃった。きっと私、全身キスされていたよね。


「ほら、髪は自分で拭けよ」

 一臣さんはそう言って、私の頭の上にバスタオルを乗せた。

 あれ?もうおしまい?今も、優しく体を拭いてもらい、ふわふわした気持ちになってきていたのに。


「ふあ~~~~。喉乾いた。水でも飲むか」

 一臣さんは、いつの間にか浴衣を羽織り、頭をバスタオルで拭きながら、パウダールームを出て行った。


 なんだ。甘美な世界はもうおしまいか。いちゃつくのも、もう終わりなんだな。

 って、なんで私はがっかりしているんだ。一臣さんにせまられている時には、嫌がるくせに。ううん。本当言うと、嫌がっているフリだけなんだけど。


 浴衣を羽織り、ドライヤーで髪を乾かしたり、顔を洗ったり歯を磨いた。とそこに、一臣さんも入ってきて、ドライヤーで髪を乾かしだした。


「腹減ってるか?弥生」

「減ってます」

「だろうな。朝からバカ食いするもんな、お前は」

「バカ食いはしませんけどっ」


 もう。今日も口の悪さ、絶好調だな。一臣さんは。

「俺はコーヒーを頼んだ。お前にも、朝飯頼んでおいたから、そのうち持ってくるぞ」

「朝食?」

「簡単なトーストか何かでいいと言っておいた。いいだろ?どうせ、またすぐに昼飯だ。午後1時に工場に行くから、早めに昼飯にするぞ」


「はい」

「このホテルのレストランでいいだろ?」

「はい!」

「……目、輝いたな。本当にお前、食い気のほうが勝るんだな。なんか、悔しいな」


 悔しい?

 一臣さんはドライヤーを止め、私の背後に回ると、後ろから抱きしめてきた。それどころか、するっと浴衣の胸元から手まで入れてきた。


「え?!か、一臣さん」

 なんでまた、そういうことを!

「食い気より、色気のほうが勝ることはないのかよ」

「え?え?」

 

 うわあ!うなじにキスまでしてきた。ちょっと待って!それも、前、鏡だから、一臣さんに思い切りせまられているのが映ってるよ。

 どひゃあ。恥ずかしい。見ていられない。


 思わず目を閉じた。でも、抵抗を全くしていない私。なんでだ?

 理由は自分でも、十分わかっている。そうだ。私、喜んでる。すでにスイッチ入っちゃってる。


「あれ?」

 一臣さんが、手を止めた。それから、うなじから唇を離して、黙り込んだ。

 ……。もう、おしまい?まさか。


「弥生?」

「は、はい?」

「抵抗しないのか。いつもみたいに、ダメです!とか、お腹すきました!って言わないのか?」

 いつも、お腹すきましたなんて言っていないってば。


「こんなことしても、いいのか?」

 一臣さんは浴衣の隙間から手を入れ、太ももまで撫でてきた。

「ひゃ!」

 思わず声が出た。うわ。恥ずかしい。と思っている間もなく、今度は耳たぶを甘噛みした。


「あ!」

 うわ。また声が出ちゃった。恥ずかしい。と思っている間もなく、くるっと一臣さんは私を一臣さんのほうに向かせると、甘いキスまでしてきた。


 ひゃ~~~~~~~~~~~。

 と、とろける。でも、私、きっと今、喜んでる。その証拠に、勝手に手が一臣さんの背中に回ってる。


 キス、長い…。腰が抜けそうになり、私はもっと一臣さんにしがみついた。


「スイッチ、入っちゃったんだな?」

「はい」

「へえ。食い気より、勝ったんだな?」

「…え?」


 とろりん。うっとりと一臣さんの目を見つめた。

「やばいな。そんな目で見られると。ちょっとその気にさせてやるだけのつもりだったのに、すっかりその気になったんだな、お前…」

 ちょっと、その気にさせるって?え?


「っていうか、俺もその気にすっかりなったぞ」

 え?

 待って。朝ご飯運んでくるんじゃ…。それなのに、その気になられても。

「ダメです。朝ご飯、運んでくるんですよね?」


「大丈夫だ。勝手に和室に用意して、出て行くだろ」

「い、いいえ!こ、こんなところで…」

「しいっ。声を出すのはさすがにダメだぞ、弥生」


 え?!

 ガチャリと一臣さんはパウダールームのカギをかけた。それから、熱い視線で私を見ると、また熱いキスをしてきた。


 ひゃ~~~~~~~~~~~~~。待って、待って。いや、待ってって言ったって待ってくれるわけもない。それに、もう私もスイッチ入っているし。


 トントン。

「お食事お持ちしました。失礼します」

 仲居さんの声が聞こえた。


 うわわわ。

「ああ。テーブルに置いておいてくれ!まだ、顔洗っているから」

 一臣さんがそう言って、蛇口から水を出した。

「はい、かしこまりました」


 水がジャー…と出ている音がパウダールームに響いた。一臣さんは私の浴衣の帯をほどき、浴衣を肌けさせ、胸にキスをしてきた。


 ひゃあ。ひゃあ。ドキドキドキ!

 異常に胸が高鳴っているかも。


「では、失礼します」

 そう仲居さんの声がした。一臣さんは水を止め、

「ああ!」

と返事をした。


 それからバタンとドアの閉まる音がして、私はほっとすると、一臣さんがグイッと私を抱き寄せた。

「もう、声出しても平気だぞ?弥生」

「だ、出しません」

「なんでだよ。強情なやつだな。でも、そんなこと言っておいて、出すんだよな?お前」


 うわあ。また、恥ずかしいこと言われた!


「そうだ。弥生」

 一臣さんは、私にキスをして唇を離すと、ささやき声で話しかけてきた。

「はい?」

「エッチしている時は、呼び捨てにしろって前に言ったよな?」


「え?」

「呼び捨てでいいぞ」

「え?」

「一臣って呼べよ」


「い、言えません」

「なんでだ?恥ずかしいのか?呼び捨てにするのが?」

 私の顔に思い切り顔を近づけ聞いてきた。


「はい」

「なんでだよ」

 一臣さんはそう言って、私を抱きしめる。


 あれ?そういえば、一臣さん、いつものコロンの匂いだ。はう…。この匂いを嗅いでいるだけでも、ちょっとくらくらしてきちゃうんだよね。部屋に戻った時に、つけてきたのかな。


「こ、コーヒー冷めちゃいますよ」

「ああ。だから、さっさと早く…」

「え?」

「一臣って呼べ」


 ああ。もう。また、強引で駄々っ子の一臣さんになってる。酔っている時のほうが、あっさりと引き下がるのに。弱気になるからなのかな。お酒入っていないと、思い切り強気だよね。


「よ、呼べません」

「なんでだよ」

 あ、へそ曲げた?かと思ったら、また熱いキスをしてきた。


 腰、抜けた。

「腰抜かすのは早すぎだぞ、弥生」

 ふへ?でも、もう立っていられない。へなへなと体が崩れていった。


 あれ?いつもなら、腰を抱きしめ、座り込まないように一臣さんが支えてくれるのに。床にぺたんとお尻をついちゃったよ。


 一臣さんも私の前に座り込んできた。と思ったら、いきなり私の上に覆いかぶさってきた。

 ええ?!

 冷たいパウダールームの床に、私は仰向けになった。その上に一臣さんが体重をかけ、私の指に指を絡ませ、首筋から胸元にかけて、キスをしまくってる。


 まさかと思うけど、まさか、ここでするの?うそ!

「か、一臣さん」

「一臣でいいって言ってるだろ?」

 そう言うと、一臣さんが私の口を唇で塞いだ。


 うわ。また、あっついキスだ~~~~~。ダメだ~~~。もう完全にノックアウト。とろけちゃって何も考えられなくなった。

 どんどん体が熱くなる。背中のひんやりした床が、気持ちいいと思えるほどに。


 床は冷たいし、固いのに、ふわふわ雲の中に浮いている気分になってくる。


 そして、思考回路は止まる。私の腕は一臣さんを抱きしめる。一臣さんの熱い視線に、もっと私の脳みそは溶ける。


「弥生、腕を離せ」

「え?」

 ほわわんとした意識の中で、一臣さんからそう言われ、私は一臣さんの背中に回した腕を離した。それから、一臣さんは上半身をあげた。


 なんでかな。ギュってしすぎたかな。


 そんなことをぼんやりと考えていると、一臣さんは自分の帯をほどき、浴衣をするりと脱いだ。 

 はう。そんな姿がやけに色っぽい。


 そして私の浴衣も、するりと一臣さんは脱がした。私はまったく抵抗することもしないで、されるがまま。それどころか、さっきから一臣さんをうっとりと見つめていて、浴衣を脱がされると、すぐにまた一臣さんに抱きついてしまった。


「こら。弥生。まだ、抱きしめてくるな」

 ええ?なんで?思考回路が回っていないから、ぼんやりとただ一臣さんを見つめた。

「パンツが脱げないだろ」


 う。そ、そうか。私はまた、一臣さんの背中から腕を離した。一臣さんは起き上がるかと思ったら、なぜか私にキスをしてきた。

 あれ?パンツは?と、一瞬考えたけど、またキスで思考回路が止まった。


 知らぬ間に、一臣さんは私にキスをしたまま、パンツを器用に脱いでいた。そして、私の両手を握りしめ、全身に熱いキスを浴びせてきた。


 ダメだ~~~~~~~~~。なんか、もう、何もかも、考えられない。

 そしてまた、知らない間に私は一臣さんを抱きしめ、何度も私からキスをしていた。


 体、ほてりまくって、熱い…。


 

 とろんとまだ、夢心地で、朦朧とした意識の中、私は腕を一臣さんに引っ張られ、起き上がった。

「こんなところで、寝るなよ。弥生」

 う…。だって、力尽きて、立てなかったんだもん。


「大丈夫か?」

「大丈夫じゃないです…」

「部屋まで抱っこして行ってやろうか?」

「はい」


 一臣さんはひょいっと裸のまま、私をお姫様抱っこすると、和室まで運んだ。テーブルの上にはしっかりと朝食が用意されていた。


 一臣さんは、私をお姫様抱っこしたまま、襖を器用に開けた。奥の部屋は布団がまだ敷いたままだった。

「こっちの部屋、襖を開けて見なかったんだな。それもそうか。お前が裸で寝ている可能性もあったんだもんな。そりゃ、開けられないよな」


 そんなことを言いながら、一臣さんは布団の上に私を寝かせた。それから私のカバンを持ってくると、

「ほら、そろそろ着替えろ。いつまでも裸でいると、また俺に襲われるぞ」

と、そう言ってカバンを私のすぐ横に置いた。


 もう~~。勝手に浴衣脱がせたくせに。何て思いつつも、私は布団に寝転がったまま、動けないでいた。


「おい。大丈夫か?」

「ダメです」

「激しくし過ぎたか?そうだな。俺も、ちょっと反省しているぞ」

 ちょっとだけ?


「でも、お前だって悪いんだからな」

「え?」

 なんで?

「あんなに感じまくっているから、つい俺も、激しくなって…」


 えええ?

 一臣さんは私の髪を撫でた。それから私に顔を近づけたかと思うと、胸にキスをしてきた。

「お前、俺のコロンの匂い、しみついただろ。シャワー浴びるか?汗もかいたよなあ」

「あ。はい」


 でも、動けそうもない。

「ま、いっか」

 ああ。また、「ま、いっか」ですまされた。


「弥生」

 突然、一臣さんが私を熱い視線で見た。

「はい?」

 その視線で見つめられると、うっとりと見つめ返してしまう。


「お前、俺のこと、やっと呼び捨てにしたな」

「え?私が?いつ?」

「すっとぼけるなよ。さっき、洗面所で俺に抱かれていた時」


「え?!」

「呼んだだろ?一臣って」

 うそ。私が?

「なんで、びっくりした顔しているんだよ。まさか、覚えていないのか?」


「……あ。そういえば」

「思い出したか」

 きゃ~~~~~~~~~~。呼んだかも!

 それも、私、あの時…。


「声出してもいいと言ったけど、あそこまで出していいとは言っていないぞ。外まで漏れていたかもしれないぞ?」

 ぎゃあ。

「まあ、いいけどな?」


「よくないです」

「いいだろ?俺たちはフィアンセなんだし」

「そういう問題じゃなくって」

「聞かれていないって。こんな離れの奥まで人は来ないだろうからな?」


「仲居さんは?」

「来ていないだろ。でも、そろそろ朝飯食わないと、片付けに来るかもな」

「…そ、そんなに私の声、大きかったですか?」

「ああ」


 恥ずかしいよ~!!!!

「屋敷でもいいぞ?屋敷のほうが、誰かに聞かれることはないだろうからな。それなのに、お前いつも、声出すのを我慢していたんだろ?」

 う…。私は黙って頷いた。


「もう、我慢しないでいいからな?それから、一臣って呼び捨てにしろよ」

「いつも?」

「エッチしている時にだ。普段はさん付けだ」

「……」

「そっちのほうが、そそられる」

 やっぱり、一臣さん、変態だよ。っていう目で一臣さんを見た。


「やばいなあ、お前って」

 え?なんで、私が?やばいのは一臣さんのほうでしょ?

「そんな可愛い顔しているくせに」

「え?」

 何それ?


「色っぽい声あんなに出して、俺のこと呼び捨てにして呼んだりして」

 ええええ?!でも、それ、一臣さんが…。

 にやりと一臣さんが笑った。


「そろそろ、若葉マークもはずれたな」

「え?」

「おめでとう。やっとこれで、中級レベルになったな」

 中級?


「えっと。これで、もう、ステップアップも終わりでは?」

「はあ?まさかだろ。まだまだ、中級レベル1の段階だ」

 何それ。


「上級者レベルには程遠いんだからな」

 嘘でしょう?!

「さて。俺は着替えて冷めたコーヒー飲むぞ。お前も早くに着替えろよ。それとも、俺が着せてやるか?下着から…」

「自分で着れます」


 ち…。と舌打ちをして一臣さんは起き上がると、自分のカバンから下着や服を取り出し、さっさと着始めた。

 ドキドキ。そんな姿をぼけっと私はまだ布団に寝転がったまま見ていた。

 やばいなあ。パンツを履く姿まで絵になるって。私がおかしいのかな。それとも、一臣さんがそれだけかっこいいのかしら。


 うっとりと眺めていると、一臣さんはシャツを着てスラックスも履き、

「いつまでそうやっている気だ。早くしろ」

と片眉を上げて私に言った。


「はひ」

「ん?何で、目がそんなにうっとりとしているんだよ」

「だって…」

 一臣さんが、かっこよくって。


「それより、お前、素っ裸だそ。俺にまた、襲ってほしいのか」

「いいえ!」

 そうだった。呆けていて忘れてた。私、全裸だ。

 慌てて、起き上がり、一臣さんに背中を向け、カバンから下着やブラウスを出した。


 もそもそと下着をつけていると、一臣さんがすぐ後ろに座ってきて、

「ほら、ホックしてやる」

とブラジャーのホックをしてくれた。

 ああ。こんなことしてもらってもいいのかな。


 ブラウスを着ていると、

「ボタンとめてやる」

と言って、ボタンをしてくれるし…。そして、チュッとキスをして、そのあと、ギュウっと抱きしめられた。


 うわわ。

「最高だったな。弥生」

「え?」

「この二日間」

「はい」


「ものすごく俺は満たされたぞ。弥生は?」

「私も…」

 ほわわん。まるで天国にいるみたいでした。


 一臣さんはにっこりと微笑んで、隣の部屋に先に行った。私はしばらくぼけっとしていたけれど、お腹がぐ~~っと鳴り、慌ててスカートとストッキングを履いて、隣の部屋に急いで行った。


 冷めたトーストと、冷めたコーヒー。それでも、美味しく感じたのは、一臣さんが目の前にいるからかなあ。



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