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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第10章 甘いフィアンセ
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~その13~ スイッチオン

 ざわざわ…。風が吹き、木がざわめいた。

「あ、あの」

 ほんのちょっと一臣さんに近づいた。一臣さんはまだ、目を閉じている。


「一臣さん?」

 もうちょっと近づいた。お湯の水面が揺れ、一臣さんが目を開けて私を見た。

「なんだ?」

「えっと…」


 怒ってますか?心の中で聞いてみた。

「どうする?もう弥生は出るか?」

「い、いいえ。今、入ったばかりだし」

「ん?」


 一臣さんが私の顔を近づいて見た。それから、目を細めると、

「お前、泣いてるのか?」

と聞いてきた。

「な、泣いていません。でも…」

 泣きそうになっています。


 一臣さんのほうが私に近づき、私の背中に腕を回すと私をぐいっと引き寄せた。それから、私の耳にキスをして、

「あほだな。泣くことないだろ」

と言ってきた。


「……一臣さんが、一人で入ったほうがいいって、そんな意地悪言うから」

「俺が悪いのか?お前のほうが先に俺をつきはなしたんだろ?」

「私がですか?」

 え~~。私がいつ?


「大人しく露天風呂に入ろうって言ったのはお前だろ。先に俺の気分を下げて、がっかりさせたのは弥生のほうだからな」

「……がっかり?それで、怒ったんですか?」

「ふん!いじけたんだ。かなり凹んだぞ」

 

 凹んだ?うそ。一臣さんが?へそ曲げたんじゃなくって?

「俺がどれだけ楽しみにしていたか、お前だって知っていただろ?」

「……」

 そんなに楽しみにしていたの?って、えっと…。露天風呂でいちゃつくことをだよね?


「弥生は、時々嫌がるよな」

 一臣さんが低い声で聞いてきた。ちょっと顔がしょげているようにも見える。

「え?何をですか?」

「俺に愛されるのをだ」

 ドキ。


「嫌がってません」

「嫌がるだろ?体洗ってやるって言っても、自分でするって言うし」

「恥ずかしいだけです」

「何で恥ずかしがるんだよ。恥ずかしがる必要ないだろ」


「でも…」

 どう言っていいかわからず、黙り込むと一臣さんは私の頬にキスをした。

「まったく…」

「呆れてるんですか?」


「いいや。いつまでたってもお前って、純情なやつだよなあって思っただけだ」

「それ、呆れているんですよね?」

「……お前みたいな女と付き合ったことないし」

「え?」


「もっと、すれてる女や、男慣れしている女ばかりだったからな。新鮮っていえば新鮮だが、ちょっと扱い方に困る」

 困ってたの?私は思わずじっと一臣さんを見てしまった。

「こ、困っているんですか?いつも」


「ああ、困っているぞ。泣かせたくはないのに、結局泣かせちまうことが多いだろ?」

「…こ、困っていたんですね」

 なんか、ショックかも。私が一臣さんを困らせていたなんて。


 はむ…。

 私が俯いていると、一臣さんが突然私の耳たぶを噛んだ。

「ひゃ?」

「………俺は、四六時中お前といちゃついていたいんだけどな」

「……」


「弥生は違うのか?」

「い、いいえ。一臣さんにそっけなくされたり、冷たくされると途端に不安になるし、本当はいつもかまってほしいって思っています」

 ああ。正直に言っちゃった。


「それだったら、なんだっていつも、嫌がるんだよ」

「…ごめんなさい。本当に恥ずかしいんです。ドキドキしちゃうし」

「だったらそう言え。ただ、嫌がるだけだと、俺だって自信をなくすこともあるし、凹むこともあるんだ」

「…そ、そうなんですか?自信なくすようなことがあるんですか?」


「あのなあ。俺をなんだと思ってるんだ。俺だって人間だからな」

「そ、そうですけど」

 かなりびっくりだ。いつも自信満々なのに。


「やばいな。俺はさっきから、随分とかっこ悪いところを見せているな。酔ったせいかな」

「え?」

「酔うと弱くなる。前もそうだったろ?」

「一臣さんがですか?弱くなった時なんてありましたっけ?」


「なんだ。覚えていないのか。お前が屋敷から実家に戻って、3人で飲みに行っただろ」

「3人?」

「浩介と行っただろ?」

「あ、はい」


「その時、俺はお前に弱音を吐いた。それに、お前に甘えてただろ?」

 私に?そうだったっけ?

「お前の肩にもたれかかって、癒されてた」

 あ、そうだった。思い出した。


「あの時は嬉しかったです」

「嬉しかったのか?」

「はい。だって、お役に立てるっていうか、一臣さんに頼ってもらうのは嬉しいですし」

「じゃあ、なんでいちゃつくのは嫌がるんだ。これだって、俺は癒されたがっているんだ。お前を抱くと一気に気持ちが落ち着くし、癒されるし、お前、あったかいし」


「…」

 そうか。それでなのか。じゃあ、私が拒んだら、傷ついていたのかな、一臣さん。

「あの…。私は一臣さんを癒せるんでしょうか」

「え?」

「私のぬくもりって、一臣さんを癒しますか?」


「今頃そんなことを聞くなよ。お前が隣にいると眠れるのはお前に癒されているからだ。そんなの、前からお前だってわかっていただろ?」

「わ、私と愛し合っていると、一臣さんは落ち着くんですか?」

「ああ。満たされるからな。すっごく」


「……い、いちゃついている時も?」

「ああ。もちろんだ。お前は違うのか?」

「……ドキドキします」

「それ、喜んでいるんだろ?違うのか?」

「きっとそうです」


 ふわ。一臣さんが私の頬を優しく撫でた。それから、私にキスをしてきた。それも優しいキス。

 ほわわん。それだけで溶けそう。

「弥生、俺からキスされると、いつもうっとりとするよな」

「え?う、は、はい」


「腰抜かすしな」

「はい…」

 面目ない。

「気持ちいいんだろ?キスされるの、嫌じゃないよな?」


「嫌じゃないです」

「じゃあ、触られるのは?頬撫でたり、髪を撫でると、やっぱりうっとりとするよな?耳にキスしても感じるんだろ?」

「う…」


「正直に言えよ」

「はい。その通りです」

「本当は、太もも撫でられたって、胸にキスしたって、気持ちいいんだろ?」

「……」

 うわ~~~~~。その辺のことを聞かれると、ものすごく恥ずかしくなる。


「素直になれよ」

「でも、恥ずかしいんです」

「まだ、弥生は初心者か?そろそろ中級に進んでもいいんじゃないのか?」

「ですけどっ」


「なんだよ」

 なんだよって言われても、返す言葉がないよ~~。

「じゃ、じゃあ、素直になれるよう努力します」

「努力が必要なのか」


「あと勇気も…」

「なんの勇気だ」

「素直になるための」

「は?素直になるだけだ。簡単だろ?気持ちよかったら気持ちいいと素直に言え。お前、肩揉んでもらったら、気持ちいいですと素直に抵抗なく言うだろ?それと同じだ」


「違います。まったく違っています」

「おんなじだ!素直になるのに勇気なんか必要ない。なんで抵抗するんだ。俺に嫌われるとでも思っているのか?」

「ちょっと、私がすけべだとかエッチだとか思われたら、ドン引きするかなあって思ったりも…」

「しないから安心しろ」


「ほ、本当に?」

 ドキドキしながらもう一回聞いてみた。

「俺のことをうっとりと見ていたって、ドン引きしないし、嫌わないし、怖がらないぞ」

「……」

 怖がるって…。


「大学時代は確かに、寒気を覚えたこともあったけど、今はそんなことないから安心しろ」

 寒気を覚えた?さっくり来た。

「弥生」

 一臣さんが私の顎に手を当てた。そして、くいっと私の顔を一臣さんのほうに向け、キスをした。それも、大人のキス。


 わ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。

 腰、抜けた。

 ふわふわする。体が溶けていくようだ。


 そうなんだ。結局、ちょっと抵抗してみたって、このキスで私は一気に落とされる。抵抗できなくなる。

 ううん。本当はきっと、最初から抵抗なんかする気がないのに、してみせようと演技をしているのかもしれない。

 私がすけべだの、エッチだの思われないように。嫌われないように。そうなのかもしれない。


 そんなことを考えていたけど、キスをずっと一臣さんがしているから、だんだんと意識が朦朧として、何も考えられなくなった。


 ただただ、ふわふわして気持ちいい。

 チュウ…。一臣さんは私の下唇を優しく吸い、唇を離した。そして頬にもキスをして、それから耳にもキスをして、耳たぶを噛み、私の首筋に唇を添わせた。


 つーっと舌で首筋をなぞり、指で私の背骨をなぞる。

 はあ…。背中も首筋もくすぐったさを通り抜け、一気に気持ちがよくなって、うっとりとしたため息が漏れてしまった。


 チュ…。一臣さんは私の肩にキスをして、今度は背中を優しく掌で撫でた。その手は私の腰にまで伸び、私の腰を一臣さんは抱き寄せた。

「弥生?」

「はひ?」


「腰抜かしているか?」

「た、多分、へなへなってしていると思います」

「じゃあ、こうやって支えてないと、風呂の中に沈む可能性もあるのか?」

「あるかも…」


「そんなに気持ち良かったのか?」

「はい」

「なんだ。素直になったな?」

 一臣さんが耳元でそう囁いた。


 素直になるとか、ならないとか、恥ずかしいとか、恥ずかしくないとか、そんなのとっくに通り越した。今は、そんなこと考えていられない。思考回路は停止し、ただただ、うっとりとしているだけだ。

 胸の奥がきゅきゅきゅんって疼く。そのたびになにか甘いものが、胸いっぱいに広がる。


 一臣さんの手はなんでこうも、優しいんだろうって何度も思った。

 私に触れる手、指、舌、全部が優しいって。その優しさに毎回とろけてしまう。


 こんなふうに結局いつもとろけるんだから、抵抗なんてしないでもいいってわかっている。

 とろんってとろけると、恥ずかしいとかそういうのもどっかに吹っ飛んじゃうから、だったら、最初から恥ずかしがらないでもいいのにって、そう思うけど、やっぱり、恥ずかしいものは恥ずかしい。


 でも今は、恥ずかしさもどっかに吹っ飛んでる。これって、きっと、正気になったらかなり恥ずかしくって、やばい状態だ。

 だけど、熱を帯びた一臣さんの目を見ていると、理性も羞恥心も消えてしまう。


 私の体も熱を帯びて、肌寒いと感じた冷たい風が、心地いいと思えるほど、体が熱い。

「ああ、そうか…」

 一臣さんが私の胸元にキスをしてから、顔を上げて私を見るとそう呟いた。


「え?」

「お前、スイッチ入ると大丈夫なんだな」

「スイッチ?」

「ああ、なんでもない。俺の独り言だ。気にするな」


 スイッチ?なんの?まさか、私がすけべになるスイッチ?

 理性が吹っ飛んじゃうスイッチってこと?だよね、きっと。

 そこまでは脳みそが動いていた。でも、その先はまた思考回路が停止した。


 スイッチを入れたら大丈夫なら、いつでも一臣さんが入れて。


 って一瞬頭に浮かび、自分の考えにびっくりした。でも、また一臣さんにキスをされ、一瞬冷静になった頭が、また溶けた。

「か、一臣さん」

 熱を帯びた一臣さんの目を見つめながら、私はうっとりとした。そして、何やら突拍子もないことを口に出してしまった。


 一臣さんは一瞬、目を丸くした。でも、そのあと耳元で、

「ああ、わかった」

と囁いた。


 はれ?私、なんか今、とんでもないことを言った気が。でも、それすら覚えていないくらい、脳みそが溶けちゃってる。

 あ。そうだ。こういう気持ち、こういう気分。甘美っていうんだ。


 と、突然、頭にその漢字が浮かんだ。甘い、美しい。ああ、これだ。うっとり…。


 そんな言葉が浮かんで消えた。そんなこと考えている余裕もないことを、私は口走っていたのに。

 あとで思いだし、顔から火が出るほど恥ずかしくなり、一臣さんに必死に、あれはなかったことにと申し出たが、「なかったことになんてさせないからな」と、にんまりした顔で言われてしまい、すんごく後悔するはめになってしまった。


 そう。私は、勝手に頭に浮かび、せっかく冷静に自分の考えに気づき、何を考えているんだって思ったのにもかかわらず、そのあと、一臣さんに口走ってしまっていたのだ。


「じゃあ、一臣さんが、いつもそのスイッチをいれてください」

 その先にも実は、とんでもないことを言っていた。そう、甘美の二文字。

「甘美な世界に、いつも連れて行ってください」


 一臣さんはその言葉にも、一瞬目を丸くした。だけど、にっこりと笑い、

「ああ、連れて行ってやる。今すぐに」

と、また私にあつ~~いキスをしてきたのだ。


 うっとり。ほわわん。

「声、出してもいいぞ?弥生。誰も聞いていないんだからな」

 一臣さんのそんなスケベ発言にも、うっとりとしていた私。


 ああ。穴があったら入りたいくらい、恥ずかしい!



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