表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第10章 甘いフィアンセ
142/195

~その11~ 菊名さんが来た!?

 また、部屋に戻り和室のテーブルの前に二人で座った。

「お茶、飲みますか?」

「ああ、入れてくれ」

 一臣さんと自分のお茶を入れ、二人してお茶を飲んだ後、ふうっとため息をついた。


「疲れたな」

「はい」

 一臣さんは、上着を脱いでネクタイもはずしていた。


「浴衣になりますか?そっちのほうがゆっくりできるかも」

「いや、風呂から上がってからでいい」

 なんだ。浴衣姿、見たかったのになあ。一臣さんの浴衣姿、きっとセクシーなんだろうな。

「あ、でも、お前は浴衣になってもいいぞ?」


「なんでですか?」

「そっちのほうが色っぽそうだ」

「……」

 すけべ。と言えないのは、私も似たような発想をしていたから。


「じゃあ、やっぱり着替えましょう。せっかく温泉に来たんだから、浴衣でゆっくりしましょうよ」

「そうだな」 

 わあい。


 押し入れの横に、クローセットがあったので、そこに一臣さんのスーツをかけ、浴衣を取り出した。一臣さんも部屋を移動して私の横に来ると、Yシャツを脱ぎだした。


 あ、つい、服を脱いでいる姿に目がいっちゃう。私も相当すけべなのかなあ。

「スラックスもかけておいてくれ」

 そう言われて、

「はい」

と私は受け取りハンガーにかけた。


 あ、一臣さん、パンツ一丁…。でも、すぐに浴衣をばさっと広げ、それを羽織った。

 残念。体が引き締まっていて、パンツ一丁も麗しいのに。っていう発想が危ないってば、私。


 浴衣を羽織ると一臣さんは帯も締め、ぼけっと一臣さんを眺めていた私のことを見た。

「弥生は着替えないのか?」

「はっ!着替えます」

 つい、見惚れてた。


 慌てて、私もスーツの上着とブラウスを脱いだ。

「ブラウス、かなり汚れているな。掃除したからか?着替えは持ってきているのか?」

「はい。持ってきています」

 

 そう言いながら、浴衣を広げて羽織ろうとすると、

「おい。順序が違うだろ」

と、なぜか浴衣を取り上げられた。


「は?」

「スカート脱いでいないぞ」

「あとで脱ぎます」

「ストッキングは?」

「それもあとで」


「浴衣着てからか?」

「はい」

「それは、着替えの順序を間違っているだろう。ほら、早くスカートとストッキングを脱げ」

「はあ?」


 なんで?

「そうしたら、浴衣、着せてやる」

 ええ!なんで?!

「自分で着れます」


「いいから、脱げよ」

 そう言いながら、一臣さんは私に浴衣を返そうとせず、じっと私を見ている。

 すけべだ、やっぱり。私が下着姿になるところを見たいんだ。って待てよ。私もパンツ一丁の一臣さん見て喜んでいたんだから、人のことは言えないのかも。


 でも…。じとっと一臣さんを見ていると、一臣さんがなぜか私の両腕を掴んできた。そして突然、胸元にキスをした。

「な、なんですか?」

「さっさと着替えないと、俺が欲情するぞ」


「ままま、待ってください」

 うわ~~。そう言ってもまだ、キスしてる。あ!また、キスマークつけてるんだ。

 と、慌てていると、その時ドアをトントンとノックする音が聞こえてきた。


「お食事の準備をさせていただきます」

「うわ!」

 私はもっと慌てた。でも、一臣さんは冷静に、

「ああ」

と返事をして、やっと浴衣を渡してくれ、

「早く着替えろ」

と私に言うと、隣の部屋に戻り、襖を閉めた。


「失礼します」

 仲居さんが隣の部屋に入ってきて、テーブルに夕飯の準備をしているらしく、食器のカチカチいう音などが聞こえてきた。


「お飲み物はどういたしますか?」

「ビールと…、あとはそうだな」

 私は浴衣に着替え、襖を開けて顔をのぞかせた。

「ああ、弥生はノンアルコールのビールを飲むか?」

「はい」


「ビールとノンアルコールビール、それと冷酒も頼む」

 めずらしく、お酒飲むんだな、一臣さん。


 それから5分もたたないうちに、ビールや冷酒も運ばれ、すべてが整った。

「ビールお注ぎします」

 そう仲居さんが言って、ビールの栓を抜いたが、

「いい。あとは自分たちでするから」

と、また一臣さんはさっさと仲居さんを部屋から追い出そうとした。


「では何かありましたら、電話で申し付けください」

と仲居さんは丁寧に三つ指ついてお辞儀をすると、すすすっとまた襖を音もなく閉め、部屋を出て行った。


「すごく豪華な食事ですね」

「ああ、うまそうだな。まず、乾杯するか」

「はい。あ、ビール注ぎます」

 私は一臣さんのグラスに、ビールを注いだ。一臣さんも私のグラスに、ノンアルコールビールを注いでくれた。


「じゃあ、乾杯だ」

「はい!」

 嬉しい。一臣さんとグラスを鳴らし、それからゴクゴクっとノンアルコールビールを飲んだ。

「お前、間違ってこっちのビールを飲むなよ」

 一臣さんはそう言いながら、グラスをテーブルに置いた。


「だ、大丈夫です」

 私だって、酔っぱらって寝たくはない。今夜は一臣さんと二人きりの夜を満喫したいもん。


 いつもの食事には、必ず誰かがそばにいる。給仕をしてくれるのはありがたいけど、二人きりで食事をすることができなかった。でも、一臣さんがさっさと仲居さんを追い出してくれたおかげで、今日は二人きりを満喫できるんだ。


 一臣さんは、お酒がはいったせいもあったのか、陽気だった。いつもの食事ではこんなに話したりしない。でも、今日はよく話すし、よく笑う。

「美味しい。これも、美味しいですよ」

「ああ、うまいな」


 一臣さんも、いつもより美味しそうに食べている。いや、いつものコック長の料理も美味しいんだけど、多分、人前ではあんまり、そういう表情を出さないんだろう。今日はやけに嬉しそうにしているし、顔がずっとほころんでいる。


「この冷酒もうまい」

「いいなあ」

「ダメだ。お前、エッチもしないで寝る可能性あるからな。絶対に酒は飲むな」

「それが、目的なんですか?」


「…。なんだよ。お前は俺に愛されたくないのか?」

 あ、一気に一臣さんの顔が曇った。

「い、いいえ。愛され…たいですけど」

 途中で恥ずかしくなり、声が小さくなってしまった。


「ん?」

 一臣さんが片眉を上げて聞き返してきた。

「私も、今日は一臣さんと二人きりの夜を、満喫したいって思ってます。だからお酒は飲みません」

「満喫?」


「……はい」

 言った後に一気に恥ずかしくなり、私は俯きながら頷いた。

 一臣さんからの返答がない。あれ?まさか、呆れていたり、嫌がっていたりとか?とこわごわ顔を上げると、私のことをものすごく優しい目で一臣さんは見つめていた。


 わあ。今、胸がきゅんってした。時々、一臣さんはものすごく優しい目で私を見ている時がある。


「弥生はやっぱり、浴衣が似合うな」

 あれ?優しい目だと思っていたけど、実はエッチなこと考えていただけ?

「一臣さんも似合いますよ。バスローブも色っぽいですけど、浴衣も…」

 あ、いけない。変なこと言っちゃったかも。私もすけべだってばれちゃう。いや、またドン引きされられるかな。


「ふん。お前だって、俺が着替えているところとか、よくうっとりと見ているよな?さっきも見ていただろ」

 ギクリ。

「なのに、俺がお前の着替えているところや、下着姿を見ようとすると嫌がるよな。それ、ずるくないか?俺だけがスケベみたいに言っているけど、お前もなんだからな?」

「はい」


 何も言い訳できませんし、否定できません。きっと、私もスケベなんです。


「で、どこが色っぽいんだ」

「は?」

「だから、浴衣の俺のどこが色っぽいんだと聞いているんだ」

「それは、えっと。胸がはだけてて、鎖骨とか、胸やお腹の筋肉が見えたりして、それでドキッと」

 ととと。思わず、また怖いって思われるようなことを言ってしまった!


「なるほどな。そういえば、俺の裸を見て、うっとりとする女、多いもんな」

 え?!

「女だってスケベな生き物だって、俺はそう思っていたぞ。お前も例外じゃないよな」

 なんですって?っていうことは、今まで一臣さんと付き合っていた女性も一臣さんの裸見て、うっとりとしていたってこと?


 うわ~~。なんか、嫌だ。一臣さんの裸、他の女性も見ていたんだよね。ううん。見ただけじゃなく、触ったり、抱きしめたりもしたんだよね。それも、大勢の女性が。


 なんか、もんもんとしてきちゃった。嫉妬してもしょうがないことなのに。


「どうした?怖い顔して」

「え?い、いいえ。ただ、ちょっと」

「なんだよ。俺にスケベだって言われて怒っているのか?」

「いいえ。それは、その…。きっとそうなんだろうなって、自分でも思うから、怒れないっていうか、否定できないっていうか」


「やっと認めたか。じゃあ、なんで怒っていたんだ?」

「いいえ。怒っていたんじゃなくって、ちょっと嫉妬したっていうか」

「ああ。他の女にか」

「はい。ごめんなさい」

 今頃嫉妬するなって、怒るかな。


「安心しろ。もう、他の女が俺に触ることもないし、俺の裸を見ることもないから」

 一臣さんはそう言って、しばらく私の顔を見つめた。

「あ、はい…」

 私は素直に頷いてみた。


「言っただろ?俺はお前のもんだって」

 ドキン。

「はい」

「こんな肌けた浴衣姿見せるのも、お前だけだ」

「はい」


「着替えているところも、俺の裸もお前だけだぞ、見れるのは」

 どうだ。嬉しいだろっていう表情で一臣さんは私を見た。

「えっと」

 素直に喜べない何かがある。でも、これは喜ぶところかな?


「その代り、お前もそんな色っぽい浴衣姿、他の男に見せるな。お前の肌を他の男に触らせるな。いいな?」

「はい。それはもう、もちろんですっ。私は一臣さんだけのものですし、今までだって、他の男の人に触れさせていないですし、あ、手だけは繋いだことありますけど、ごめんなさい」

「手?」


「中学の時のフォークダンスで」

「ああ。なるほどな。でもお前、トミーに肩も抱かれていたよな」

「あ!あれは、そのっ」

「まあ、いい。これからは、そういうこともさせるなよ」

「はい」


「……。なんだって俺は、お前のこととなると、こうなるんだろうな」

「え?」

「女に対して、嫉妬したこともないし、独占欲も持ったことがない。お前だけだ」

 ……。ちょっと嬉しい。顔がにやけそうになるのを、私はこらえて、下を向いた。


 夕飯が済み、またお茶を入れて、二人でくつろいだ。すると、ドアをノックする音が聞こえた。

「グッドタイミングで片付けに来たな」

 そう一臣さんは言うと、大きな声で「入っていいぞ」とドアの外に向かって答えた。


「失礼します」

 ドアを開ける音がした。それから、何やら襖を開けるのを躊躇している間があった。

「入っていいと言っているだろ?」

 一臣さんは、座布団にゆったりとあぐらをかいたまま、仲居さんにそう言った。


 私はテーブルの上にあるお皿を重ねてみたり、片付けやすいようにしていた。襖には背中を向けていたので、襖が開いて、一臣さんの眉間にしわが寄った意味が、はじめ、わからなかった。


「何の用だ?」

 一臣さんが低い声で尋ねた。何の用だもなにも、片付けに来たんだよね…と思いつつ、振り返ると、そこには赤い顔をした菊名さんが立っていた。

「菊名さん?」

 私はびっくりして、手にしていたお皿を落としそうになった。


「お食事済みましたか?」

「見ればわかるだろう。それで、何をしに来たんだ?」

 一臣さんがぶっきらぼうにそう聞き返した。


「……お話を聞いてもらいたくて」

「それは、会社に出てから聞くと言ったはずだ」

「あ、お酒召し上がっていたんですか?まだ、お酒残っていますか?私も夕飯の時、ちょっとビールを飲みました」

 それで赤い顔をしているのか。


「もう残っていない。そろそろ風呂に入ろうと思っていたところだ。お前も部屋に戻れよ」

「いいえ。今日のうちに仕事の話を聞いてほしいんです。それで、ぜひ、アドバイスを」

「しつこいな。だったら、ここじゃなくて、綱島の部屋に行け」

「綱島さんの部屋は、さすがに男性一人の部屋だし」


「あいつは既婚者なんだから、問題ないだろう」

「いえ。だからこそ、問題があるっていうか」

「ここは、弥生がいるから安心だとでもいうのか?」

「……。夕飯、ご一緒だったんですね。私もご一緒したかった。そうしたら、綱島さんも呼んで、お仕事の話もできましたよね?」


「…冗談じゃない」

 一臣さんは小声でぼそっと呟いた。でも、菊名さんには聞こえなかったようだ。

「ほんの少し時間いいですか?」

 菊名さんは勝手に私の横に座ろうと、私の隣に敷いてある座布団の上に立った。でも、なぜだか座ろうとせず、ぐるりとテーブルの反対側に歩いて行った。


「ほんの少しの時間もない。言っただろ?これから風呂に入るんだよ」

 一臣さんがそう言っているのにもかかわらず、菊名さんは勝手に一臣さんの隣に座ってしまった。

「勝手に座るな」

「露天風呂に入るんですよね?さっき、私もウッドデッキに出てみました。渓谷が見えて気持ちいいですよね」


「……そうだ。だから、菊名、部屋に戻れ」

「一人だとけっこう寂しいし、夜に露天風呂はちょっと怖いです」

「そうか。じゃあ、大浴場に行けばいいだろ」

「上条さんは?部屋に戻ってから入るんですか?」


「は?」

 私と一臣さんが同時に聞き返した。

「一人は怖いので、一緒に入りますか?露天風呂」

「菊名。言っていることがよくわからん。弥生がどこの部屋に戻るっていうんだ」

「隣です。確か、朝顔の間」


「弥生はここの部屋に泊まるんだ」

「いいんですよ。私にまでそんな演技しないでも。あ、綱島さんも察していますよ」

「何がだ」


「隣の部屋をわざわざ一つ開けて、私たちの部屋を取らせたのは、隣の部屋に上条さんが泊まるからなんですよね?」

「はあ?」

 一臣さんが思い切り片眉をあげた。


「私も聞いています。政略結婚で、形だけのものだって」

「………」

 一臣さんは目を点にして、しばらく呆けていた。私はさっきから、何も言えなかった。っていうか、菊名さんが何を言いたいのかも、まったくわからなかった。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ