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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第10章 甘いフィアンセ
141/195

~その10~ ホテルに到着!

 ホテルに車は到着した。私たちが降りるとすぐに、従業員の人が飛んできて、

「お待ちしていました。緒方様」

と私たちの荷物を持って、ホテルの中に案内してくれた。


「樋口、ここからはもう、のんびりしていいぞ。チェックインも俺がするし、俺たちとは別行動していいからな」

 一臣さんは後ろからやってきた樋口さんにそう言い、私の背中に手を回してカウンターに行った。


 そしてチェックインをしていると、

「一臣様!」

と、ロビーのソファに座っていた人が立ち上がり、声をかけてきた。


「やっぱり、このホテルに泊まるんですね、よかった」

「………」

 声をかけてきたのは、なんと今日日帰りするはずの菊名さんだ。その後ろには、何やらすまなそうな顔をしている綱島さんもいた。


「な、なんでここにいるんだ」

 一臣さんは相当びっくりしたのか、なかなか言葉を発しなかったが、ようやくそう二人に話しかけた。

「すみません。明日急遽、この近くの工場に視察に行くことを、菊名さんが決めてしまいまして」

「なんだと?」


 わあ。一臣さん、額に青筋。

「今日行った工場で、今にも閉鎖されそうになっている工場があると聞いて、電話をしたら、明日ぜひ見に来てほしい、そして何とかしてほしいと言うものですから」

 菊名さんは綱島さんとは違って、ほのかに嬉しそうにしながら一臣さんにそう言った。


「……それで、なんでここにいるんだ」

「泊まる宿を、総務部に聞いて調べてもらったら、ここに緒方商事の人が泊まるというのがわかり、もしかして一臣様かと思って、ここに来たんです」


「……待て。総務部のやつがそう言ったのか?樋口!」

 別行動していいぞと言われ、チェックインを済ませ、部屋に行こうとしていた樋口さんを一臣さんは引き留めた。

「なんで、総務部のやつが、ここに泊まることを知っているんだ!?」


「それは、一臣様と弥生様が今回は出張ということでお泊りになるので、ちゃんと総務部に連絡を入れ、出張費として扱ってもらったからですが。あ、でも、一臣様と弥生様の名前は出していませんよ。機械金属部で申請していると思います」


「……」

 一臣さん、眉間にしわが…。

「わかった。だが、二人が泊まるのは、本館だな?俺と弥生は別館に泊まる。くれぐれも、別行動にしてくれ」

 一臣さんは、二人に冷たい口調でそう告げた。だが、

「私と綱島さんも別館です。本館にはお部屋がないとかで…。団体のお客様がはいっていらっしゃるとのことでした」

と、菊名さんはなぜか嬉しそうにそう言った。


「はあ?団体だと?」

 くるりと、一臣さんはフロントのほうを見た。いや、見たというより、睨みつけた。

「申し訳ありません。本館は、樋口様ご一行の皆様が予約され、全室うまってしまいましたので」

「…樋口ご一行?」


「ええ。団体名は、えっとですね。緒方本家のお屋敷従業員様で、申し込まれたのが樋口様で…」

 ちらっとフロントの人が、樋口さんを見た。

「じゃあ、他に部屋がないのか」

「はい。別館の離れの4部屋のうち、3部屋は空いていますので…」

 

 一臣さんの怖いオーラに負けそうになりながら、フロントの人はそう答えた。

「は~~~。この二人が来なかったら、離れは全部空いていたんだな?」

「はい。緒方様と樋口様ご一行様とは、絶対に分けてほしいとの要望でしたので、樋口様ご一行の皆様には、離れのお部屋をご用意しないようにいたしました」


 フロントの人はまだ、顔をひきつらせている。それもそうか。さっきから、一臣さん、睨んでいるもんなあ。

「俺たちの部屋はどこだ。端か?」

「はい。楓の間をご用意しました。離れの一番奥の、静かな広いお部屋でございます」


「それで、この二人は?」

「そのお隣の、朝顔の間と、菖蒲の間を…」

「待て。俺らが泊まる部屋の隣にするな。一つ部屋を開けさせろ!」

「あ、はい。かしこまりました」


「ったく。なんだって、こんなところまで来て、いろんな奴と遭遇しないとならないんだよ。こっちは静かにのんびりするつもりだったのに」

 一臣さんは顔をしかめた。でも、そんなのおかまいなしに、

「一臣様、今日行った工場の報告をさせてほしいんです。あと、いろんなアドバイスもぜひ」

と、菊名さんが一臣さんに言い寄った。


「あとで、お部屋に行ってもいいですか?」

「もう時間外だ。仕事のことなら、会社に出てから聞く」

「ですが」

「アドバイスなら、綱島に聞け。弥生、部屋に行くぞ」


 一臣さんがそう言って、また私の背中に腕を回した時、

「弥生様だ~~~!」

という雄叫びが、ロビーの奥の、エレベーターホールから聞こえてきた。そしてそこから、亜美ちゃんとトモちゃんが飛んできた。


「今度はあいつらかよ」

 一臣さんはもっと顔をしかめ、口をへの字にした。


「トモちゃん、亜美ちゃん」

 二人はすでに浴衣だ。

「今、大浴場入ってきたんです。大きくて気持ち良かったですよ~~」

「そうなの?いいなあ」


「今から、ゲームセンターに行こうかって思ってて。あとから、日野さんたちも来ます。弥生様もどうですか?」

「ダメだ!弥生は俺と別館に泊まるんだ」

 一臣さんがそう言って、私の背中に回した腕に力を込めた。


「か、一臣さん、ちょっとだけ。すぐに部屋に行きます。ダメですか?」

「………、まさか、風呂まで入ったりしないよな」

 一臣さんが耳元でこそっと聞いてきた。


「入らないです。ゲームセンターでほんのちょっと遊ぶだけです。えっと、30分。いえ、20分」

 一臣さんは時計を見た。

「まあ、早めについたから、30分だけだったらいいぞ」

「はい、ありがとうございます」


「では、その間だけでも、話を聞いてもらってもいいですか?」

 私から離れた一臣さんに、菊名さんが言い寄った。

「綱島と3人でロビーで話すならいいぞ。弥生が戻ってくるまでだ」

「…え、3人で?」


「二人が行った工場の報告だろ?綱島からも聞きたいしな」

 一臣さんは静かにそう言うと、ロビーのソファに座りに行った。私はそんな一臣さんを横目で見て、それから亜美ちゃんたちに続いてゲームセンターに行った。


 綱島さんもいるんだし、平気だよね。

 …。あれ?私、何を心配しているんだろう。


 私は亜美ちゃんたちとゲームセンターに着いた。すでに、若いコックさんたちも来ていて、

「あ、弥生様」

と私が来たことを喜んでくれた。


「まずは、エアーホッケーしませんか?」

 トモちゃんが言ってきた。2対2で対戦をした。私は亜美ちゃんと、トモちゃんはあとから来た日野さんとタッグを組んだ。


 トモちゃんがすごく上手で、あっという間に私たちは負けてしまった。

「悔しい」

 亜美ちゃんが悔しがった。私はとっても楽しかった。


 ゲームセンターは大学時代、アルバイトの忘年会のあと、行ったことがある。あの時も楽しかったよなあ。

「じゃあ、次は」

 亜美ちゃんに引き連れられ、他のゲームをしに行った。そうしてあっという間に30分が過ぎ、最後に亜美ちゃん、トモちゃんとプリクラで写真を撮って、私は走ってロビーに戻った。


 一臣さんはまだ、綱島さんたちと一緒にいた。そして私を見ると、

「弥生、遅いぞ!」

と大きな声をあげた。


「ごめんなさい」

「じゃあ、部屋に行くぞ。もう荷物は運んであるらしい」

「はい」

「すごい汗だな。そんなにハッスルしたのか」


「はい!楽しかったです」

「そうか。お前でもゲームセンターで楽しんだりするんだな」

「前にも一回行きました。その時も楽しかったです」

「誰と行ったんだ?」


「アルバイトしていた時の忘年会のあとで」

「……男もいたのか」

「はい、数人」

 あ、一臣さん、むすっとしちゃった。まさか、やきもち?


 私たちが別館に行こうとすると、仲居さんが飛んできて、

「どうぞ、こちらです。ご案内します」

と言って、私たちの前を歩き出した。


 別館は本館からくねくねと曲がった渡り廊下を歩き、しばらくすると見えてきた。広い敷地内には、木々もうっそうと生えていて、どこからか、川のせせらぎも聞こえてくる。


 そして、

「ここが椿の間です」

とまず、綱島さんが部屋に案内された。そしてその隣が、菖蒲の間。そこが菊名さんの部屋になる。


「それから、この奥が…」

と仲居さんが廊下を歩き、私たちも進もうとすると、

「一臣様は、どちらの部屋なんですか?」

と、菊名さんが聞いてきた。


「奥のお部屋の、楓の間になります」

 仲居さんがそう答えると、

「じゃあ、この隣の、朝顔の間と書かれているのが、上条さんのお部屋ですか?」

と菊名さんが聞いた。


「え?」

 仲居さんは一瞬たじろき、

「別々のお部屋をお取りしたほうがよろしかったですか?一つのお部屋と伺ったのもですから」

と、一臣さんの顔色をうかがうようにしながら、聞いた。


「いや。一つでいい」

 一臣さんは片眉を上げてそう言うと、私の背中に回した手に力を入れ、どんどん奥に進んでいった。

「一臣様、今日はお話を聞けて嬉しかったんですが、もっといろいろと伺いたいことが」

「また今度だ」


 一臣さんは、後ろもむかずに菊名さんにそう答え、

「ここが、俺たちの部屋だな」

と仲居さんより先にドアを開け、勝手にずかずかと私を連れて中に入ってしまった。


「お茶のご用意をいたしましょうか」

 仲居さんはいつの間にやら、和室の隅に正座をしていた。一臣さんは座布団にあぐらをかき、私はテーブルの片隅にちょこんと座った。

「いや、自分たちで勝手にするからいい。夕飯の時間は何時だ?」

「はい。6時半です」

「あと30分もないのか」


「遅くにしたほうがよろしいのでしたら、時間を変えさせますが」

「いい。6時半までに揃えてくれ」

「はい、かしこまりました」

 仲居さんは正座をしたまま手をそろえてお辞儀をすると、すすすっと襖を閉め、部屋から出て行った。


「わあ…。広い部屋ですね。あ、襖の絵が見事な楓」

 私はわくわくしながら立ち上がり、部屋の確認をし始めた。


 襖を開け、廊下に続くドアの前に、もう一個ドアがあった。開けてみると、パウダールームがあり、その奥にはガラス張りのシャワールームがあった。

 もう一度私は、和室に入った。和室は10畳あるかな。真ん中に長方形のテーブルがあり、座布団が2枚ずつ並んでいる。その一つに一臣さんは、どかっと座っている。


 それから、一臣さんが座っている後ろ側の襖を開けた。すると、もう一つ和室があった。そこにはテーブルは置いていない。その部屋は8畳くらいの広さがあるかもしれない。


 その部屋にも入ってみた。襖には綺麗な赤い楓の絵が描かれていて、部屋の奥に押し入れがあり、そこにも楓の絵が描かれていた。

 私はその押入れも開けてみた。

 

 中には布団が入っている。あ、そうだった。今日は一つの布団で寝るんだよね、なんて思うとにやけそうになり、私は慌てて押し入れを閉めた。


 その部屋には板の間もあり、そこにはテーブルと椅子が二つ並んでいた。その奥にはガラス戸。そこもガラリと開けてみると、ウッドデッキにつながっていた。

 そしてウッドデッキからは、渓谷が見えた。


「わあ、一臣さん、外気持ちいいですよ」

 私は、隣の部屋でまだどっかりと座っている一臣さんを呼んだ。

 でも、一臣さんからの返事はない。疲れちゃっているのかなあ。


 私は一人でウッドデッキに出てみた。ウッドデッキの左側を見てみると、そこに露天風呂があり、広々とした空間もあった。その空間の奥にガラス張りのシャワールームがあり、そこからウッドデッキに出られるようになっていた。


 なるほど。シャワーを浴びて、露天風呂に入れるようになっていたのか。


 渓谷からは川のせせらぎ、それから風に吹かれて木々が揺れる音がして、なんとも自然を満喫できる場所だった。


「はあ。ここ、涼しくて気持ちいい」

 昼間は蒸し暑いくらいだった。でも、そこは肌寒いと感じられるくらい涼しかった。


「ああ、ここに露天風呂があるのか」

 一臣さんが、私のことを後ろから抱きしめながらそう言った。

 うわ。今、ドキッてしちゃった。いつの間にやってきていたんだろう。


「本当だ。気持ちいいな。自然を見ながら露天風呂に入れるんだな」

「はい」

「離れの一番奥だし、さすがにここなら声を出しても、菊名や綱島には聞かれないな」

「は?」


「川の音もけっこう響いているしな」

「……」

 声っていうのは。まさか…。

「エッチなことを今、言っているんじゃないですよね?」

 念のため、確認してみた。


「露天風呂でいちゃついた時、お前絶対声出すだろ?その声、聞かれたくないだろ?」

「わ、私、声なんて」

「いつも出しているくせに」


 え~~~~~~~!!いつ?いつ?!

「そ、そ、そんなに声出していません」

「我慢しているのか?いいぞ、我慢しなくたって。俺はいっこうにかまわない」

「いえ。私がかまいます。そ、そんなの恥ずかしい」


「恥ずかしがらなくてもいいぞ?」

「………い、い、いいえ」

 ひょえ~~。なんて言ったらいいの?あ、あれ?っていうことはまさか。


「菊名さんが隣の部屋にならないようにしたのって、まさか?」

「ああ。お前の声が聞こえないようにするためだ。すぐ隣だったら、露天風呂でエッチしている声、聞こえてしまうかもしれないだろ?」

 どわ~~~~~!!やっぱり、それで隣の部屋にならないようにしたの!?


 もう~~。何を考えているんだ。どうしてこう、エッチなことばっかり、一臣さんは考えているわけ?

「聞かれてもよかったのか?」

 私が何も答えないでいると、一臣さんはぎゅっと後ろから抱きしめる腕に力を入れて聞いてきた。


「い、いやです。困ります」

「だろ?」

「でも、私、そんな声なんて」

「………。声、あげるくらい、気持ちいいことしてやるぞ?」


「いいですっ!もう!セクハラ親父みたいなこと言わないでください」

「うるさい。露天風呂で思い切りいちゃつくのを楽しみにしてきたんだ。だから、いちゃつくって言ったら、いちゃつくんだよ」

 わ~~~。駄々っ子になってる。


 ああ、一気に胸がドキドキしてきちゃった。自然を満喫どころじゃないんじゃないの?これ。

 

 なんて、ドキドキしながら、一臣さんに後ろから抱きしめられていると、

「わあ!すっごい眺めがいい!」

という、菊名さんの声が聞こえてきた。


 横を見ても、隣の部屋のウッドデッキは見えないように柵がしてある。木でできている柵で、それもまた外観をそこねないような風情をしているが、声は思い切り漏れるようだった。


「一臣さん、隣の隣の部屋でも、しっかりと声聞こえるみたいですよ」

「………くっそ~~~。別館全部、貸切にしてやったらよかった。そうしたら、あの二人はこのホテルに泊まれず、違うところに移っただろうに」

 一臣さんは思い切り悔しがっているようで、言い終わった後、ぎりりと歯ぎしりまでしていた。


「だから、思い切りいちゃつくのは無しにしましょうね」

「嫌だ。いちゃつくものはいちゃつく。でも、お前、声あげるなよ。我慢しろよ」

 ええ?!


「あ。だけど、部屋だったら声あげて平気だよな?部屋でも、エッチしまくるぞ」

 ええ~~~~~!!!!!!


 ドキドキを通り越し、だんだんと私の顔は青ざめていくのであった。

 まだ、私は恋愛若葉マークですから、お手柔らかにお願いしますと言ったら、一臣さん、手加減してくれるかな。

 ……。無理かもな…。



  


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