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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第10章 甘いフィアンセ
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~その4~ 本当にクール?

 屋敷に着き、

「喜多見さん、夕飯早めに頼む」

と車から降りると一臣さんはそれだけを告げ、私の手を引っ張りとっとと自分の部屋に向かった。


 亜美ちゃんたちが、

「おかえりなさいませ」

と言っても無視。私まで小走りで走らないとならなくなった。


 そして部屋に入るといきなり、熱いキスをしてきた。

 腰、砕ける…。


 ヘナヘナ…。その場に座り込みそうになった私の腰を抱き、部屋の奥まで行くと、一臣さんは私をソファに座らせた。

 ああ、本当に、強引だよね、いつもながら。


 女の人には、淡白だったとか、クールだったとか、いまだに信じられない。他の人にもスケベなことしたり、言ったりしていたんじゃないの?本当は。


「一臣さん」

 クローゼットで着替えをしてきた一臣さんに、私は唐突に質問したくなって聞いてみた。

「なんだ?」

「本当に一臣さんって今まで、淡白だったんですか?」


「…なんでそんなことを聞いてくるんだ」

「そう思えなくって。実は女好きだったとか」

「なんだと?」

 ひょえ。怒った?


「だだだって、いっつもスケベなことをしたり、言ったりしているから」

「お前にか?」

「はい」

「ふ~~~ん。それで、他の女にもそうだったんじゃないかって、疑っているのか」


「……はい」

 静かに私は頷いた。するとまた一臣さんは、

「ふ~~~ん」

と言いながら、片眉をあげた。あ、ちょっと今の顔、何かを企んでいる感じだった。


「じゃあ、今日はそうしてみるか」

「え?何がですか?」

「他の女と接していた時みたいにしてやるよ。それでお前も納得できるだろ?」

「え?」

 淡白でクールな一臣さんになるの?


 それ、ちょっと嫌かも。前にもそっけなくされたけど、すごく寂しくなった。

「そ、それは、あの、ちょっと」

 私が慌てると、一臣さんはふんと鼻で笑った。


「なんだかんだ言ったって、お前は嫌がっていないんだろ?俺に迫られるのも、抱かれるのも」

「え?」

「逆に俺が何もしないと、寂しくなるんだろ?ほっておくと、びーびー泣き出すんだろ?」

 ギクリ。その通りかも。


「でも、一回経験してみろよ。俺がどれだけ冷たく女と接してきたか」

「嫌です」

「まず、こうやって二人で同じ部屋にいても、一人で酒を飲むことが多い。たとえば、女がベッドにいたとしてもだ」


 そう言って、私をソファから立たせて、ベッドに連れて行った。もう、嫌だって言ったのに聞かないんだから。

「ここに座ってろ」

と私をベッドに座らせ、一臣さんは冷蔵庫を開け、水を取り出し、それを持ってソファに座った。


「これが酒だとして。俺は一人でソファでくつろぐ。女が俺を呼んでも、無視して」

 無視?

「俺の名前呼んでみろよ」

「一臣さん」


 一臣さんはペットボトルを開けて、水をゴクンと飲んだ。まったく私のほうなんて向こうともしないで。

「一臣さん」

「うるさいな。なんだよ」

 うわ。怖い口調。


「いいえ」

 私は黙り込んだ。今のも演技だよね?時々わからなくなるよ。

「そうだな。ホテルに行ったとしたら、さっさとシャワーを浴びさせて、俺も浴びて、さっさと終わらせて、また俺は一人でとっととシャワー浴びて、とっとと帰っていたな」


「は?」

「シャワー、さっさと浴びて来いよ」

「え?今ですか?」

 今の口調も怖い。声は低いし、抑揚がまったくない。顔まで無表情だ。


「まあ、こんな感じで言って、女が浴びに行ったら、その間は新聞見てるか、テレビでも見て、女が出てきたら、何も言わず俺が浴びに行く」

「はあ…」

 声の質変わった。顔の表情もガラッと変わった。俳優になれるかもなあ、一臣さんは。


 でも、さっきは本当に冷たい口調でびっくりしちゃった。

「で、出てくるだろ?」

「はい」

 一臣さんはソファから立ち上がり、ベッドまで来た。


「すでにバスローブとかになっているから、それを脱がせて、ベッドに寝かせて」

 そう言って、私の上に覆いかぶさってきた。

「で、こんなキスをして」

 そう言って、唇に冷たく唇を重ねた。本当に重ねただけ。すぐに唇を離すと、両腕を掴まれ、一臣さんはほんのちょっと胸に顔をうずめた。


 でもすぐに顔をあげ、

「適当にキスして、さっさと終わらせる」

と、そう言いながら私の顔をじっと見た。


「はあ…」

「まあ、時間で言ったら、30分くらいか?」

 え?

「いや、そんなに時間かかったこともないかな」


 そ、そうなんだ。

「やばい。抱きたくなってきた」

「は!?」

 何を唐突に…って、目がなんだか熱を帯びちゃってない?さっきの無表情の目とは、まったく違っちゃってる。


 うわ!思い切りキスしてきた。さっきの重ねるだけのキスじゃない。舌まで入れてきた!きゃ~~~!


 唇を離すと、一臣さんは私の顔をまたじっと見て、

「夕飯、あとでもいいか?今、抱きたいんだけどな」

と言ってきた。


「え?ダメです。そんな…」

 ぐ~~ぎゅるる~~~。

「今の、お前の腹だよな?」

「は、はい」


「腹減ってるんだな?思い切り」

「ごめんなさい」

 なんだって、このタイミングで鳴るのかな、私のお腹は。


「しかたない。夕飯のあとにするか」

 一臣さんはそう言って、私の上からどいた。

「お前も着替えて来いよ。そろそろ呼びに来るぞ」

「は、はいっ」


 私はベッドから起き、一目散に自分の部屋に戻った。でないとまた、一臣さんがその気になられても困る。

 

 それにしても、冷たい一臣さんを実演してくれたけど、確かにキスも「それだけ?」って感じだし、唇のぬくもりすら違って感じた。

 そのあとの、濃厚なキスは、溶けちゃうくらい熱かったのに。ああも、違うんだな。


 あ、一番初めにキスされた時のことを思い出しちゃった。エレベーターホールで、冷たいキスされたっけ。感情も何もこめられていない、事務的とも思われるようなキス。


 ただ、唇を重ねるだけ。ううん。くっつけるだけって言ったほうがいいかな。優しさも何もなかった。

 思い返してみると、葛西さんにキスをされていた時の一臣さんって、顔は真顔だし、目は私を見つけて、私のほうを見ていたし、ずっとクールだったよな。


 あんな感じで、女の人とすっごくクールにキスをしていたのか。

 

 上野さんにも?他にもしつこく言い寄ってきていた人いたよね。そういう人って、あんなクールでそっけない一臣さんでもよかったのかな。

 あ、ユリカさんは、クールな一臣さんがいいって言っていたっけ。


 私は嫌だな。一臣さんが言うように、そっけない一臣さんだったら、寂しくてびーびー泣いていそうだ。


 クローゼットを開け、ちょっと悩んだ。でも、思い切って履いてみた。ひらひらの膝丈より上のスカート。

 上はサマーセーター。そして、ストッキングを脱ぎ、生足になってみた。今日はちょっと蒸し暑いくらいだし、このくらいでも十分だ。


 大胆かな。一臣さんを刺激しちゃうかな。でも、家にいる時くらい、こんな恰好してみてもいいよね。

 このスカートは初めて履くけど、一臣さん、どんな反応するかな。


 ドキドキしながら、一臣さんの部屋に戻った。すると、ソファに座って本を読んでいる一臣さんは、私を見るなり、立ち上がって私のほうにやってきた。

 

「生足か?」

「はい…」

 いきなり、そんな質問をしてくるとは思わなかった。


 うわ!それも、太もも撫でられた!

「やっぱり、生足のほうがいいよなあ。撫でがいがある」

 なんつうことを言うの?やっぱり、こんなスカートやめたらよかったかな。


「やばいな。襲いたくなってきたぞ」

「ダメです」

「お前、わざとこういう格好して、俺をじらして遊んでいるだろ?」

「そ、そんな趣味の悪いことしません」


「じゃあ、なんだってそんなスカート履いてきたんだよ」

「一臣さんが喜ぶかと思って」

 ひょえ?私、なんつうこと言っちゃった?

「俺を喜ばせようとしたのか?」


「……」

 ひえ~~~~~。なんて言ったらいいの?

「そうか」

 一臣さんは満足げな顔をして、私を抱きしめてきた。


「お前、やっぱりこういう格好も可愛いよな」

「え?」

「スーツもそそられるんだけどな。たまにオフィスにいる時、襲いたくなるけど」

 ええ?!うそ!


「こういう可愛い格好も、そそられるよなあ」

 ぎゃあ。またスケベ発言。

「でも、一番は着物だよなあ」

「え?」


「裾よけ1枚。あれは鼻血が出そうになったぞ」

 もう~~。こういう発言をするから、淡白だったと思えなくなるんじゃないか。

「じゃあ、他の女性が裾よけ履いてたら、やっぱり欲情するんですか?」

 思わず、そんな質問を投げかけてみたくなる。あ、でも。欲情するって言われたら困るし、聞かなかったらよかったかな。


 一臣さんは私の顔を見ると、

「弥生がいい」

と呟いた。

「は?」

「俺以外の男が、Yシャツのボタン外して、色っぽい鎖骨見えてたら、お前、襲われたくなるのか?」

 はあ?


「一臣さん以外の人の鎖骨見ても、きっと色っぽいなんて思いません」

「じゃあ、襲われたくならないのか?他のやつに」

「当たり前です!一臣さんだけです。襲ってもらいたいのなんて」

 ん?今、私、なんかとんでもないこと言っちゃった?


「だろ?俺だけには襲われたいんだろ?」

 ぎゃあ。私、そんなこと言っちゃってた?

「だから、俺だって、お前だけなんだよ。何度もそう言ってるだろ」

「は、はい」

  

 自分で言ってしまったことに、穴があったら入りたいくらいの心境になって、恥ずかしさでいっぱいになった。襲ってほしいだなんて、とんでもないことを言ったよ、私。


 その時、亜美ちゃんが夕飯の準備ができましたと、呼びに来た。私は真っ赤な顔をしたまま、一臣さんに手を引っ張られ、ダイニングに行った。


「ほら、弥生。さっさと食え」

 また、そうやって、私をせかす。なんだか、胸がまだドキドキしていて、そんなに早くに食べられないのに。

「一臣様、ご招待状が届いております」

 急いで食べだした一臣さんのところに、国分寺さんが封筒を持ってやってきた。


「なんの招待状だ?」

「上条卯月様の披露宴の招待状です」

「卯月氏の?俺にか?」

 え?卯月お兄様の?


 一臣さんは、いったん、食べるのをやめて封を開けた。

「ああ、俺にも出席してほしいと書いてある」

「今週末のですよね?」

「俺に気を使って、席を設けてくれたんだろうな」


「一臣さん、その日、忙しくないんですか?」

「土曜だろ。暇だぞ。お前もいないし、何をして過ごそうかと思っていたところだ。ペットがいないと暇なんだよな。からかう相手もいないし」

 う。そのペットっていうのが私だよね?


「国分寺、出席すると卯月氏に連絡を入れておいてくれ」

「はい、かしこまりました」

 国分寺さんは、招待状をまた手にしてキッチンに戻って行った。


 それにしても、国分寺さんって社長の執事だよね。でも、ほとんど、屋敷の中で一臣さんの世話をしている気がするなあ。もう、一臣さんの執事みたいなもんだよね。


「あの…。一臣さんは何を着ていくんですか?」

「お前は?着物か?」

「はい」

「そうか。俺は普通に冠婚葬祭用のスーツだ」


 あ、そうか。黒のスーツか。それに白いネクタイだよね。でも、きっと一臣さんのことだから、似合うよね!

 わくわく。


「また、お前、着物着るんだな」

 にやり。一臣さんが意味ありげに微笑んだ。あ、今の、スケベな顔になってた。絶対にすけべなこと考えたよね。


「あの、変なこと聞いてもいいですか?」

「嫌だ」

 だよね。失敗した。変な質問は受け付けないんだよね。

「じゃあ、素朴な質問です」


「…どうせ、くだらない質問だろ?なんだよ」

「男の人ってみんな、スケベなんですか?」

 ぶふっ!一臣さんは食べていたものを、のどに詰まらせそうになり、慌てて水を飲んだ。でも、そのあと、むせてしまったようで、ゴホンゴホンと咳き込むと、

「く、くだらない質問をするな」

と、怒りだした。


 ああ、くだらない質問だったのか。

「でも、男だけじゃないだろ?」

「え?私もってことですか?」

「ああ」


 わあ。変なことを聞いてしまった。私は黙り込み、もくもくとそのあとご飯を食べた。

「まあ、一般男子はみんなすけべだろ?俺は違うと思い込んでいたが、やっぱりすけべだったしな」

 一臣さんはそう冷静に言うと、最後の一口を食べ、水を飲み、

「早く食えよ、弥生」

と、また私をせかした。


 あ~~~。自分ですけべだって認めちゃってるし、私のことまでスケベだって言い出すし、困った人だ。でもきっと、私は心のどこかで、自分だけが特別だってことを喜んでいるんだよね。



 


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