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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第10章 甘いフィアンセ
134/195

~その3~ 拗ねる一臣さん

 5時を過ぎ、

「上条さん、お疲れ様。15階に戻っていいわ。そろそろ一臣様も戻ってくる頃でしょ?」

と細川女史に言われた。


「あ、でもまだ、鴨居さんの分が…」

「大丈夫です。私が鴨居さんに教えておきますから」

 江古田さんがそう言ってくれたので、私は15階に行くことにした。

「では、お先に失礼します」


「上条さん、ありがとうございました」

 鴨居さんに元気に挨拶された。私もぺこっとお辞儀をして、他の人たちの丁寧な、

「お疲れ様でした」

という言葉にも、お辞儀をしてから部屋を出た。


 そして、スキップしそうになるのを抑えながら、エレベーターホールに向かった。

 ああ。何時間ぶりに一臣さんに会える?早く会いたいよ!


 15階にエレベーターが着き、わくわくしながら一臣さんのオフィスに向かった。そして、中に入ると、樋口さんもいないし、一臣さんの部屋に、一臣さんもいなかった。

 なんだ。まだ帰ってきていないんだ。


 がっかりしながら、ソファに座った。

「あ~~あ。早く帰ってこないかなあ」

 一臣さんの部屋は、一人だと寂しくなる。広いからか、静かだからか。

 時計の音だけがして、あとはなんの音もしない。


 受付で話をしていても、この部屋には聞こえない。防音がしっかりとしているようだ。だからたまに、一臣さんは大きな音で音楽を聴いたり、映画を楽しんだりしていたって、前に話していたことがあった。

 

 し~~~んと静まり返った部屋。本当に寂しい。

「何していようかな。テレビとか観ちゃおうかな」

 ソファから立ち上がり、本棚を覗いた。難しそうな本ばかりが並んでいる。


 DVDは、映画ばかり。観たことのないものばかりみたいだ。これ、勝手に観たら怒られるよね。

 それから、雑誌。車の雑誌も多いけど、そういえば、一臣さんって確か免許持っているんだよね。でも、今は等々力さんの運転する車にしか乗っていないけど、免許はどうしたのかな。


 事故を起こしてからもしかして、車運転していないのかな。だけど、車の雑誌が多いってことは、車が好きなのかもしれない。

 

「暇だなあ」

 またソファに座った。暇すぎて眠気に襲われ、知らない間に私は寝ていたようだ。


 つー…。

 なんか、太ももに感触。あったかい何かが太ももにある。ううん。太ももだけじゃない。あご、くすぐったい。なんだっけ、これ。


 あ。この匂い。一臣さんのコロンの匂いだ。ああ、そうだ。ここ、一臣さんの部屋だもん。一臣さんの匂いがするのは当たり前だよね。

「チュー…」

 んん?何の音?それから、なんか胸のあたりが痛いような、変な感触。


 パチ。目が覚めた。目の前に一臣さんの顔があった。

「あ…」

「ただいま、弥生。待ちくたびれて寝ていたのか?」

 

 一臣さんだ~~~。ギュウ。一臣さんの首に両手を回して抱き着いた。


「おかえりなさい。あ、私、寝ちゃってたんですね」

「ああ。気持ちよさそうにグースカ寝ていたぞ」

 うそ。まさか、いびきまでかいてた?

 

「弥生、手をどけろ。もう屋敷に帰るぞ」

「はい」

 抱き着いていた手をほどかれた。私はソファに寝っころがっていた体制から、起き上がろうとして、

「あ!」

と、スカートが思い切りまくれ上がっていたことに気が付いた。


 わあ。寝相悪すぎだ、私。太ももがもろ見えてた。これ、一臣さんに見られたよね。恥ずかしい。

 ふと、胸元がやけに涼しい気がして、ブラウスも見た。

「あ?!」

 なんで、ボタン、あいてるの?ブラジャーも丸見えって、これは私じゃないよね。


 まさか、さっきの胸がちょっと痛かったのって…。

 ブラジャーをほんのちょっとずらしてみた。すると、しっかりとキスマークがついていた。


 やっぱり~~~!!寝ているうちにキスマーク付けたんだ。じゃあ、このスカートがまくれ上がっていたのも、一臣さんの仕業?あ、そういえば、太ももにあったかい感触があった。寝ているすきに撫でてた?!


「なんだよ、その目」

 じとっと一臣さんを見ながら、私はブラウスのボタンを閉めていると、一臣さんが眉をひそめて聞いてきた。

「寝ているすきにエッチなことしないでください」

「なんでだよ、いいだろ?別に」


「よくないです」

「いいんだよ。弥生は俺のものなんだから」

 ええ?何その理由。


「じゃ、じゃあ、一臣さんが寝ているすきに、私がキスマークつけてもいいんですか?」

「ああ、いいぞ」

「キスしてもいいんですか?」

「ああ、いいぞ」


「じゃ、じゃあ、他にも…」

「何かしてくるのか?」

「い、いいえ」

 わあ。今、妄想しちゃった。寝ているすきに一臣さんの胸触ったり、お腹の筋肉触ったり、髪撫でたり、腕の筋肉触ったり、そんなことをしている私を。


 ちょっとしてみたい。いや!やっぱり、そんな破廉恥なことできない。

「いいぞ。触りたかったら触っても。俺は別にかまわないぞ」

「え?!!」

 今の妄想、ばれた!?


「触りたいのか?前にそう言っていたもんな、弥生は」

 ドキーー!そうだった。ばらしちゃっていたんだ。

「他の女性には、うっとおしいから、そういうのはやめるように言っていたんだが、お前だったらいいぞ」

「え?そういうのって」


「俺の体に触ってきたり、抱き着いて来たり、キスを勝手にしてきたり」

 そうかな。確か葛西さんがキスした時、何も抵抗しなかった気が。あ、私が見ているのに気がついて、すごくクールに私の名前を呼んだんだった。あれ、なんであんなにクールだったのかな。


 ダメだ。思い出しただけでも落ち込んだから、もうやめよう。とっとと忘れよう。

「ああいうのは、本気で嫌がってた。勝手に俺に触るな。俺の体は俺のもんだって、そう思っていたしな」

 は?


「寝ているすきになんて、絶対に許せないよな。俺の許可もなく触るだなんてな」

「許可したらいいんですか?」

「まさか。許可なんかしなかったぞ」

「でも、勝手に葛西さん、キスしてた…」


 あわ!言っちゃった。もう、なんだって、言うのをやめようと思っていることを次の瞬間、口に出しているんだろう、私って相当バカだ。

「葛西?」

 ほら、一臣さん、片眉上がった。きっとしつこいって思っているよね。いまだに葛西さんの名前出したりして。


「ああ、あの時のキスか」

「………」

 あれ?怒らないの?しつこいって。


「そういえば、勝手にキスしてきたよな。やっぱり、いい気はしなかったぞ。でも、あの時はお前が覗いているのに気が付いて、それどころじゃなくなって」

「え?」

「お前、真っ青だったし。どっかで俺も、やばいって思っていたし」


「やばいって?」

「………。そりゃ、お前に見られてやばいって。だが、俺からしたわけでもないしな。言ってみりゃ、あれは俺が被害者だ。あっちが勝手にしてきたんだからな」


 なにその言いぐさ。もう~~。

「弥生」

 一臣さんが私を抱きしめてきた。それから、チュっとキスをした。


「お前ならいいぞ。いつでも許可する。勝手に触ってこようが何をしようがかまわない」

「…」

 なんか、すごいことを言われている気がしてきた。それに、私がなんだか、相当なスケベなんだって思われているような気もしてきた。

 

 そんなに私、一臣さんの体に触りたいってわけでも、キスをしたいってわけでも…。したいけど、ものすごくしたいってわけでは…。してみたいけど。


「俺はお前のものだから、いいぞ?」

 え!?今、なんて!?

 びっくりして顔を上げると、一臣さんはなぜか優しい目をして私を見ている。


「私のものって?」

「ん?そうだろ?お前と結婚するんだし、一生一緒にいるわけだし」

 きゃ~~~~。なんだか、またものすごいことを言われた気がする!

 顔が火照ってきちゃった。


「だから、お前も俺のもんだ。寝ているすきにキスしようが、触ろうが、キスマークつけようが、かまわないだろ?」

 う…。結局それを言いたかっただけ?


「ほら。今でもいいぞ。抱き着いてくるか?キスしてくるか?それとも、襲ってくるか?」

「しません!」

 両手を広げてふんぞり返った一臣さんに、私はそう言い返した。

「なんだよ。本当はしたいくせに」

 そう言って一臣さんのほうが私を抱きしめてきた。


「弥生と別行動を1日していたんだ。ずっと弥生のぬくもりが恋しかったんだぞ。弥生が待っているだろうって帰ってきたら、のほほんとソファで寝ていやがった。尻尾ふって俺に抱き着いてくると思っていたのに」

 え?そうなの?私だって、抱き着きたかった。


「太もも撫でても起きないし、キスしても起きないし。寝ているすきに襲ってやろうと思ったんだがな。胸にキスしているところで弥生が起きちまったから」

 え?もしや、あのまま襲われていたかもしれないってこと?


「セクハラ」

「違うだろ」

「じゃあ、痴漢」

「誰が?俺は弥生のフィアンセだろ?!」

「はい」


「さあ、帰るぞ。今日はさすがにもうできるだろ?」

「え?!」

「一緒に風呂も入るぞ」

「まだです」


「いい加減いいだろ?そんなに激しくはしないぞ」

「で、でも」

 まだ、生理終わってないよ~~。


「さ、とっとと帰るぞ」

 もしや、それで私をせかしているの?ああ、やっぱり、一臣さんの頭の中はエッチのことしかないような気がする。


 でも、手を繋いだだけで、ドキってした。

 エレベーターで、一臣さんが腰に手を回してきて、またドキッてした。

 もしかして、私も欲求不満?


 え~~~~~~~~。私って、そんなにスケベ?

 最近、自分で自分がわからない。一臣さんには、しませんって言っておいて、胸の奥は疼いたりして。

 

 帰りの車内、ずっと一臣さんの手は私の太ももの上にあった。

 恥ずかしい。絶対、等々力さんにも樋口さんにも見られているよね。


「そういえば、一臣さん!」

 なんとか、手をどけてもらえないものか。太もも触られているだけでも、キュンってしちゃうんだけど。

「なんだ?」

 話しかけつつ、足をずらそうとしてみた。


「一臣さんは運転しないんですか?」

「ああ。しない。免許親父に取り上げられたからな」

「事故を起こしたからですか?」

「ああ…。人様傷つけておいて、運転する資格なんかお前にはないって、思い切り怒られた」


 そうか。それもそうだよね。

「でも、もしかして一臣さん、車好きなんですか?」

「なんで知っているんだ」

「お部屋に車の雑誌があったから」


「…ああ。あれか。欲しかった車があるんだ。でも、今はどうでもいいけどな」

「そうなんですか?」

「前は車で飛ばしたら、気晴らしにでもなるかもと思っていたけど、今はお前がいるから別にいい」


「…は?」

「だから、お前、からかって遊んでいたら気晴らしになるからな」

 いいおもちゃができたってこと?


 つつつー。

 うわ!太もも撫でられた~!

 キュキュン。思い切り疼いた!ダメだ。顔が赤いかも。どうにか話でもしてごまかさないと。


「一臣さん、そういえば、タバコ吸っているのを見たことがないんですけど。部屋に灰皿もないし。やめたんですか?」

「ああ。そんなに好きなほうじゃなかったしな。大学でもたまにしか吸わなかったぞ。働き出してからは、もうやめた」


 そうだったんだ。

「酒はけっこう飲んでいたけどな」

「お酒?でも、あんまり飲んでいるのを見たことないです」

「お前と一緒だと、酒に頼らないでもいいからな。ちゃんと眠れるし」

 あ、そういうことか。


 すりすり…。

 あ、もっと太もも撫でてる!話をしていても、なんだって手だけはしっかりと私の太もも撫でいるんだろう。


「弥生、秘書課の新人はどうだ?使えそうか?」

「はい。優秀です。矢部さんは覚えるのも早いし、パソコン得意だし。鴨居さんは多少、覚えるのに時間がかかりそうですけど、ガッツだけはあるみたいです。体育会系だし」


「カモは確かソフトボールかなんかをやっていたんだよな。部活で鍛えた精神力があるってことか」

「鴨居さんですよ、カモじゃなくて」

「矢部は、気が強そうだし、秘書課には向いていそうだな」

 鴨居さんだって訂正したのは、しっかりと無視したな、今。


「等々力、今日、道混んでいないか?」

 突然、一臣さんは等々力さんに声をかけた。

「そうですね~~。どうやら事故があったようですよ。裏道を抜けていきますので、もうちょっとお待ちください」


「あ~~あ。早くに帰りたいって思った日に、こうなるんだよなあ」

 一臣さんはそう言って、窓の外を眺めながらため息をついた。

「何か、お屋敷で用事でもありましたか?」

 等々力さんがそう言いながら、樋口さんのほうを見た。樋口さんは、何も用などありませんといった感じで、首を横に振った。


「ある!早くに帰って、早くに飯食って、弥生との時間を取るっていうすご~~く大事な用が」

 げ!そんなこと、二人にばらしているし!

 あ~~~。赤面。ずっと顔が赤くならないよう、我慢してごまかしていたのに、もう無理だ~~。


 なんだって、そういうことをしっかりとばらしちゃうのかなあ。

「ああ、それは大事なご用事ですね。なるべく、すいている道を探して帰りますので」

 等々力さんは笑うのをこらえながらそう言った。


「でも、今でも二人きりの時間は持てますよ。わたくしはこれからのスケジュールの見直しをしますし、等々力さんは運転に集中しますから、どうぞ二人の時間を過ごされてはどうですか?」

 そうものすごくクールに言ったのは、樋口さんだ。


「……うるさいぞ、樋口。どうせ、お前たち、耳を澄ませて俺たちの話を聞いているんだろ?お前たちがいるのに、弥生といちゃつけるわけないだろが」

 あ。一臣さん、思い切り拗ねた。でも、太ももにある手はまだどけてくれない。十分、いちゃついている気がしないでもないんだけどなあ。


 でも、一臣さんは拗ねながら窓の外を見て、そっと私の太ももから手を離した。

 あ、いちゃつくのやめたのかな。と思っていると、私の手を取って、指を絡めてきた。

 ドキン。


 それから、窓の外を見ていたのに、いつの間にか私のほうを向き、じ~~っと私のことを見つめだした。

 ?なんだって、黙って私のことを見ているのかなあ。


 まだ見てる。

「あの?」

 むに。鼻をつままれた。

「??」


 むに。今度はほっぺたつままれた。ちょっと痛い。あ、遊んでいるの?もしや。

「は~~~あ」

 なんで?ため息?


「キスもできないなんてな~」

 ぼそっと一臣さんが呟いた。

 キス?!


「どうぞ、私たちにおかまいなく」

 樋口さんが、すかさずそう言ってきた。

「やっぱり、聞いているじゃないか!樋口」

 一臣さんはそう言って、また拗ねた顔をした。それからは、ずっと窓の外を見てこっちを見てもくれなくなった。

 でも、手だけはずうっと、繋いでいたけれど。



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