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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第9章 仮面フィアンセ?!
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~その13~ デート!

 車に二人で乗り込み、等々力さんが車を発進させた。

 私はデートが嬉しくてうきうきわくわくしていた。そんな私の手に一臣さんが指を絡ませてきた。

 ドキン。


「等々力、六本木に行ってくれ」

「はい」

 等々力さんは軽やかに答え、静かに運転をしている。


 一臣さんも静かだった。私もなんだかドキドキしてしゃべれなかった。

 絡ませていた指を一臣さんは外した。そして、すすすと一回私の太ももを撫で、また私の手を握った。

 ひゃ~~。車内で太もも撫でるのはやめて。赤面しちゃうし、胸は疼いちゃうし。


 握っていた手を離し、また指を絡めてきた。そして、

「やっぱり、リムジンにしよう」

とぼぞっと一臣さんは呟くと、また黙り込んだ。


 えっと。今のはどういう意味?車内でいちゃつきたいからってことかなあ。


 車は六本木に到着した。私と一臣さんは車から降り、ビルの中に入った。

「上条グループのビルだ。お前もたまにここに来るんだろ?」

「いいえ。1~2回しか来たことないです。ここ、高級店ばかりなので」

「お前、このビルのオーナーのご令嬢だろ?」

「はあ。そうなんですが」


「まあ、いい。まずは指輪を見に行くぞ」

「はい」

 一臣さんが私の背中に腕を回した。そして優しく私をエスコートしてくれる。

 なんだか、今日の一臣さん、いつものスーツ姿じゃないし、雰囲気が違っている。いつにもましてスマートで、背中に回している手も優しい。


「一臣様、上条弥生様、お待ちしていました」

 宝石店の中から黒のスーツを着た素敵な女性が現れ、私たちに向かってお辞儀をした。

 うそ。ここ、ティファニーだ。さすがの私もこの店は知っている。ティファニーで朝食をも観たことあるし。

 ここで、指輪を買ってくれるの?!


「弥生、入るぞ」

 私が固まって足を止めていると、一臣さんがそう言って私の背中に回した腕に力を入れた。

「あ、はい」 

 ひゃ~~。緊張する。こんな高級店、初めて入るかも。

 

「頼んでいおいたもの、用意してくれているか?」

 店の奥まで行くと、一臣さんがそう聞いた。

「はい。何点か用意させていただきました」

 え?もうすでに、頼んでいたってこと?


 キラキラと輝くダイヤの指輪を店員さんが見せてくれた。小さ目だけど、丸くてすごくキラキラと輝くもの、もうちょっと大きめの四角いダイヤ、あと可愛いハートのデザインの指輪など、5点見せてくれて、私はどれも薬指にはめてみた。


「うん。やっぱり、あんまり大きいものは似合わないな」

 それを見ながら、一臣さんがそう言った。

「弥生はどれが気に入った?」

 おいくらなんですか?と心の中で聞いてみた。でも、口に出しては聞けない。勇気がない。


 一番安いもので。心の中で呟いてみた。やっぱり口に出す勇気はない。お店の雰囲気、店員さんの笑顔、そして一臣さんのなんだか満足そうな顔を見ていると、とてもじゃないけど、そんなこと口が裂けても言えそうもない。


「えっと」

 私ははっきり言って面喰っていた。どれがいいと言われても、こんな高級そうな指輪はめたことも、見たこともないから、さっきから変な汗もかいているし、足も微妙に震えている。


「この、丸い形のもので」

 緊張して、囁くような小声になってしまった。とりあえず、一番小さい感じの指輪を選んでみた。これ、小さい感じがするし、安いかも。

「そうだな。それが一番綺麗だよな」

 一臣さんもそう言うと、私の薬指を持ってもう一度、その指輪をはめてくれた。


「うん。サイズもちょうどいいか」

「はい。一臣様が言われたサイズで用意しましたが、ちょうどいいサイズのようですね」

 店員さんが微笑みをずっと保ちながら、そう言った。


 そうか。私の指触っただけで、サイズがわかってしまったのか。今までも女性に指輪を買ってあげていたんだろうか。それで、サイズをあてるのも得意なのかもしれないなあ。


「これにする」

「はい。ありがとうございます。あとは結婚指輪ですね」

「ああ。それも今日頼んでおこう。弥生、結婚指輪はシンプルなものでいいか」

「はい、いいです」


「あんまり派手なのはしたくないしな、俺も…」

 ドキドキ。結婚指輪も買うんだ。そして結婚式のとき、指輪の交換とかしちゃって、そのあとずっと私の左手の薬指にはプラチナの指輪が光っていることになるんだ。わあ…。嬉しすぎてくらっとした。


 ティファニーの指輪だなんて、なんだか自分がお姫様にでもなった気がしてくる。

「さて。決まったし、さっさと服でも見に行くか」

「………」

 お姫様気分のまま、私は一臣さんとお店を出た。


 そして一臣さんとエスカレーターに乗り上の階に行った。

「あ!緒方様、いらっしゃいませ」

「ああ」

 エスカレーターを降りてお店に入ると、店員さんが一臣さんを見て、すぐににこやかに声をかけてきた。すごい。店員さん、一臣さんの名前知ってた。さっきのティファニーでも、一臣様って言っていたし、一臣さんってどこでも顔、知られているんだなあ。


「夏のワンピースで、こいつに似合うのってあるか?」

 一臣さんはそう言って、私をグイッと引き寄せた。

「はい。お待ちください」


 その店員さんは、30代くらいの女性。上品な感じの大人の女性だ。そして、4~5点、ワンピースを持ってきた。

「とても可愛らしい方なので、こちらなんて似合うと思いますよ」

 わあ~~。裾がひらひらしているワンピース。それも花柄。


「着てみるか?弥生」

「はい」

 こんなの似合うかなあ、と思いつつ、私は試着室に入った。そして、ひらひらのワンピースに着替えていると、

「緒方様、珍しくありません?いつももっと、大人の雰囲気の女性、連れていらっしゃるのに」

と店員さんの声がしてきた。


「……あいつは、俺の婚約者だ」

「え?婚約者?緒方様、婚約されたんですか?」

「ああ。上条グループのご令嬢だ」

「上条グループの?まあ。可愛らしい女性と婚約されたんですね。おめでとうございます」


「……」

 あ。一臣さん、無言だ。なんで?

「さっきのワンピース、あれを着たら少しはお嬢さんぽく見えるか?」

「は?」


「ご令嬢に見えるか?」

「ええ。もちろんです。とても可愛らしい清楚なお嬢様に見えますよ?」

「そうか。そりゃよかった」

「なぜですか?あの方、上条グループのご令嬢ではないんですか?」

「いや、ご令嬢だ。ただ、周りには、なかなかご令嬢と認識されなくて困っている」


「まあ。どういう事情があるかわかりませんが、ご令嬢に見えるような服をお探しということですね」

「夏に着れるスーツもあるか?ツーピースでもいい。会社に着ていけて、ご令嬢に見えるもの」

「はい。では、お持ちしますね」


 う~~~ん。ご令嬢に見えるものを私に着せようとしていたのか、一臣さんは。

 私はひらひらのワンピース姿を見て、ちょっと気持ち悪くなった。似合わない。これ、私じゃないよ。

「弥生、着れたのか?」

「似合いません。だから、もう脱ぎます」


「待て」

 一臣さんは勝手に試着室のドアを開けた。私はすでに背中のファスナーを半分おろしていた。

「あ」

「……。脱ぐの手伝うぞ」


「大丈夫です」

 もう、何を言っているのよ~。

「じゃなくって、ちょっと待て。似合わないこともないぞ」

 一臣さんはそう言いながら、ファスナーをあげてきた。


「そうですか?自分で見てて気持ち悪いんですけど」

「………。まあ、お前の性格知っていると、かなり変な感じもするが」

 どういうことよ。


「まあ、可愛らしい!とってもお似合いです」

 さっきの店員が、ツーピースを2着持って現れ、高い声でそう言った。

「そうか?似合っているか?」

 一臣さん、眉をしかめながら店員さんに聞いてるけど、やっぱり似合っていないんだよね?


「ああ。このツーピース、これなら似合いそうだな」

 一臣さんはそう言って、薄いピンクのツーピースを店員から受け取り、

「ほら、今度はこっちを着てみろよ」

と渡してくれた。


「はい」

 私はまた試着室に入って着替えた。あ、さっきのよりは、こっちのほうが落ち着いている。すっきりとしたデザインだからかなあ。

「着たか?」

「はい」


 一臣さんがドアを開けた。それから私を見ると、

「ああ。これなら、清楚に見えるし、いいんじゃないか」

と満足げにそう言った。


「はい」

「うん。これにしよう。それから、こっちも似合いそうだから着てみろよ」

 試着室につるしてあった、白いワンピースも一臣さんは指差した。

「白は太って見えそうで…」


「そうか?清楚な感じがするけどな」

 清楚!どうもその言葉に私は弱い。

「着てみます」


 また試着室のドアを閉めた。そして着替えてドアを開けると、一臣さんは若い可愛らしい店員さんと話していた。

「あの…」

 ドアを開けたのにも気が付いていない。


「あ、お客様、とても似合いますよ」

 その若い店員さんが言ってきた。でも、その人も可愛らしい白のワンピースを着ていて、とっても似合っている。私はその人に比べたら、まったく似合っていないし、みょうちくりんに見える。


「一臣様、似合っていますよね?新しくできた恋人ですか?でも、婚約されるから、女の人とは縁を切っているって噂、聞きましたけど?」

 その女性が一臣さんにそう言った。


「そいつが婚約者だ」

「え?」

 その女性もまた、相当驚いている。なんだってみんな、驚くんだ。

「一臣様のタイプとは、ずいぶんとかけ離れているんですね」

「悪いか?」


「い、いいえ。そんなことはございませんけど。あ、じゃあ、どちらかのご令嬢?」

「上条グループのご令嬢だ。知っているだろ?何しろ、このビルは上条グループのビルだもんな」

「え?上条グループのご令嬢と婚約されたんですか?この方が上条グループのご令嬢?」

「ああ、そうだ」


「……」

 その女性はなぜか、顔を青くした。なんでかなあ。

「すみません、一臣さん。この服はあまり私に似合わないと思います」

「そうか?清楚には一応見えるけどな」

「でも」


 その女性みたいな可愛らしい人が着たら似合うかもしれないけど、私には似合っていないと思います。とは、言えなかった。

「じゃあ、こっちだ。着てみろよ。オフィスに着ていくには、カジュアルな雰囲気だから無理があるが、屋敷の中や、どこかにデートに行く時にはいいぞ。たとえば、避暑地とか」


 そう言って一臣さんは、丈の長いノースリーブのワンピースを指差した。生成り色というのかな、優しい感じのするワンピースだ。

「はい」

 私はそれも着てみた。わあ、本当に避暑地に行く雰囲気の可愛いワンピースだ。すとんとしたデザインだから、お腹のくびれがないのも気にならない。


「開けるぞ」

 そう言って一臣さんはドアを開けた。そして、

「その上にこのカーディガンでも羽織ってみろよ」

と半袖の水色のカーディガンを私に着せた。


「ほらな?似合うぞ。このまま、軽井沢にでも行きたくなるな。それか、海か…」

「麦わら帽子とか、似合いそうですね」

 さっきの30代の店員さんがそう言ってきた。あれ?若い店員さんは姿を消しちゃったなあ。


「よし。そのワンピースとカーディガンと、そっちのピンクのツーピースを買っていこう」

「はい、かしこまりました」

 そんなに買ってもらってもいいのかな。


 そして、試着室で着替えてから出ていくと、一臣さんはブラックカードで会計をしているところだった。私は一臣さんのほうに近づこうとしたが、若い店員さんが私に声をかけてきて、

「一臣様、よくうちのお店にお付き合いされている方を連れてきていたんですよ」

と、小声でそう言ってきた。

「え?」


「私がこの店に来たのは、2年前。私もよく食事に連れて行ってもらいました。一臣様が高校生の時、当時モデルの綺麗な方とよく来店されたようですよ。何を着ても似合っていたらしくって、一臣様、たくさん洋服をプレゼントしたとか」

 なんで、そんなこと教えてくれるのかな。それって、ユリカさんのことだよね。


「そのあとも、何人もの女性、連れてこられて…。あなたみたいなタイプは初めてですけど。あなたが上条グループのご令嬢なんですか」

 だから、何が言いたいのかなあ。私なんてご令嬢に見えないって言いたいのかな。

「おい」

 そこに会計を済ませた一臣さんがやって来た。それもかなり、怖い表情で。


「上条グループのご令嬢怒らせたら、お前、即クビだぞ。もうこのビルで働けなくなるぞ」

「え?そ、そんなことしません。私」

 私が慌てふためいてそう言うと、

「わかったろ?もう俺にちょっかいは出してくるなよな。俺にはもうフィアンセがいるんだからな?」

と、一臣さんはその女性にクールに言って、私の背中に腕を回してお店を出た。


「あの?」

「ああ。数回食事に行っただけなんだけどな。さっき、やけに絡んできたから、くぎを刺しておいたんだ」

「え?」

「あの店の店長。お前の服を見立ててくれた女性いただろ?」

「店長だったんですね」


「ああ。けっこうセンスがいいんだ。たまに外れたものを持ってきたりもするけど、たいてい、任せても間違いがない。それに、いろんなタイプの服も揃っているし、だから、あの店に買い物に行くことが多いんだが、あの若い店員、名前も忘れたが、行くと色目使ってきてしつこいんだよな」

「……私のこと聞いて、顔、青くしていました」


「俺が婚約して、それもこのビルの持ち主のご令嬢が相手だ。太刀打ちもできないし、あきらめるしかないと思ったんだろ」

「その割には、なんか、変なこと言ってきた…」

「何をだ?」


「いえ。なんでもないです」

「言ってみろよ。なんて言われた?」

 いいのかな。告げ口するみたいだな。だけど、正直に言ってみようかな。


「一臣様は、何人もの女性とこの店に来たとか、高校生の頃は、モデルの人とよく来ていたとか。その人はどんな服も似合っていたとか、たくさん服を買ってあげていたとか」

「ああ、ユリカだ。あの頃は俺の金じゃない。親父が作ってくれたカードでバンバン買いものしていた。親父に対しての反抗心もあって、そんな子供じみたことをしていたんだ」


「そうなんですか」

「反省しているぞ。今は、そんなに女性に金を使おうとも思っていないし」

「でも、あの婚約指輪、高そうでした」

「ん?そうか?だけど、お前は特別だからな。俺の結婚する相手だ。そんなに安いものなんて買えないだろ?」


「でも…」

「でももくそもないんだよ。さ、次は俺の買い物に付き合えよな」

「はい」


 なんだか、何かが気になっていたけど、私は一臣さんの買い物に付き合えることをわくわくして、気になっていることも忘れてしまった。

 でも、心の奥底では、何やら不安がうずめいていた。ユリカさん。一臣さんはなんとも思っていないと言っていたけど、どうしても私には気になる存在だった。




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