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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第9章 仮面フィアンセ?!
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~その11~ あたたかい場所

 お屋敷に着くと、亜美ちゃん、トモちゃん、日野さんが元気よく出迎えてくれた。

「ただいまです」

 そう言って私は、みんなと一緒にお屋敷に入った。


 一臣さんは颯爽と階段を上りかけたが、

「一臣様、来週の慰安旅行、ありがとうございます」

と、日野さんがそう言ったので、踊り場で立ち止まり、

「俺じゃない。提案したのは弥生だ。お礼なら弥生に言え」

と振り返ってそう言った。


「弥生様、ありがとうございます」

「え?いえ。手配をしたのは樋口さんだと思うので、樋口さんにお礼を言ってください。それに、やっぱり、一臣さんが決めたことなんだし、一臣さんにお礼を…」

 そうあたふたしながら日野さんに言うと、

「慰安旅行なんて初めてだろ?今まで、そういうこともしてこなくて悪かったな」

と突然、一臣さんがみんなに謝った。


「い、いいえ!とんでもないです」

 逆にみんなが恐縮してしまった。その横で喜多見さんと国分寺さんは、にこやかに微笑んでいた。

「やっぱり、弥生に礼を言え。いつもお前たちに面倒を見てもらっているんだから、慰安旅行くらい連れて行ってやれと言ったのは弥生だからな」


 そう一臣さんが言うと、にこやかに笑っていた喜多見さんと国分寺さんまでが目を丸くして私を見た。

「え…。一臣様にそのようなことを?」

「一臣お坊ちゃまにおっしゃられたんですか?」

 小声で私に聞いてきたので、私は頷くしかなかった。


 確かに、そんなようなことを言った気がする。


 一臣さんは、また階段を上りだした。私もそのあとに続いて、一臣さんと一緒に部屋に入った。

 それから、一臣さんは上着を脱いで、ネクタイを外しながら自分のデスクの椅子に座った。何やら急いでいる様子。仕事かな。それとも、調べもの?


 パソコンを開き、起動させ、一臣さんはすごい速さでキーを叩きだした。そして、

「あれ?」

とパソコンの画面を見ながら、首を傾けた。


 調べもの?何かすごく気になること?それとも、仕事でやり残したこと?

 仕事だったら邪魔したら悪いなと思い、私は自分の部屋に着替えをしに行った。そして戻ってくると、一臣さんは私の顔を見るなり、

「なるほどな!」

とそう大声を出した。


「どうしたんですか?」

「弥生、俺はすごいことに気が付いたぞ」

「……」

 もしや、また私が何かの動物に似ているとでも言いたいのか。調べていたことって、まさか、私に似ている動物?


「お前、狸には似ていない」

 え?

「で、ですよね!私が狸に似ているわけないですよね!」

 やっとわかってくれたのか。


「ああ。今、狸の映像を見てみたんだ。狸ってのは顔が丸くなくて、けっこう細長い顔をしているんだな」

 は?

「で、俺は気が付いたぞ。お前が似ているのは、狸の置物だ」

 は~~~~~あ?!!!


「見てみろよ、弥生。そっくりだ」

 狸の置物?私はあんなに太っているっていうこと?

「ほら、こっちに来て見てみろ。顔、そっくりだ」

 私はむくれながら、一臣さんの後ろに行って、パソコンの画面を見てみた。


 まんまるい狸の置物の映像がそこには映し出されていた。ああ、まんまるの顔だ。

「似てるよなあ、そっくりだな」

 酷い。もう、微妙とかじゃなくて、思い切り嫌だ。なんだって、こんなことに気が付いているんだ。っていうか、帰ってくるなり、急いで調べていたことって、狸の映像?!


 む~~~~~。

 膨れていると、一臣さんがくるっと振り返って私を見るなり、

「似てる。そのほっぺの膨れぐあいまで」

と言って笑い出した。


 酷過ぎる…。本当に私のこと好き?って疑いたくなる。あ、もしかして、好きな子をいじめて楽しむタイプ?


「弥生」

 一臣さんは、椅子から立ち上がると私を抱きしめてきた。

 ふんだ。今さら優しくしたって、そうそう簡単には機嫌がなおらないからね。


「まだか?今日も抱けないのか?」

 ガク…。私のご機嫌取りをしようとしたわけじゃないのね。

「まだです」

 私は一言冷たくそう言った。


「あ~あ。また今夜もおあずけか…」

 一臣さんは残念そうにそう言うと、抱きしめている腕を離し、

「着替えるか」

と、私のことをほおって、てくてくとクローゼットに向かって行ってしまった。


 なんか、エッチだけが目的で私と一緒にいるのかなって、そんな気もしてきた。ねえ、本当に私のこと好き?でも、聞けないよなあ、そんなこと。

 ううん。もし、聞いてみたら一臣さんはなんて答えるかな。怒り出すかな。


 好きだって言ってくれる?もちろんだって言ってくれる?それとも、阿呆、当たり前だ…とか。

 でも、もし、もう冷めた、とか、あんまり好きじゃない…とか言われたらどうする?


 やっぱり、聞くのやめておこうかな。ドキドキ。

 あ、私から好きですって言ってみる?そうしたら、俺もだって言ってくれたり。

 いや、気持ち悪いってまた言い出されたら傷つく。だけど、そんなこともう言わないよね。


 ドキドキ。何だって私はこんなことで、悩んでいるんだろうなあ。一臣さんのこととなると、本当に気が弱くなってしまう。


「はあ」

 溜息をつきながら、私はソファに座った。一臣さんは着替えに行ったきり、なかなか戻ってこない。

 すると、スーツから、ジーンズと半袖のシャツに着替えた一臣さんが、電話を掛けながらこっちにやってきた。


 わあ!びっくり。一臣さんのジーンズ姿初めて見た。持っていたんだ、ジーンズなんて。でも、きっとブランド物の高いジーンズなんだろうな。


「ああ、予約とっておいてくれ。悪いな、樋口。お前は明日来なくてもいいぞ。等々力に運転はしてもらうが、俺と弥生だけで行くから」

 そう言って、一臣さんは電話を切った。


「樋口さんに電話していたんですか?」

「ああ。明日の昼のレストラン、予約しておくよう頼んでおいた」

 そうなんだ。そういうのはやっぱり、全部樋口さんに頼んでいるんだな。


「一臣さん、ジーンズなんて履くんですね」

「意外か?今まで履いたことなかったか?」

「はい。はじめて見ました。私も学生時代はよく履いていたんですけど」

「そうか。じゃあ、明日、お前のジーンズも見に行くか?今、一本も持っていないよな」


「え、ジーンズ履いてもいいんですか?」

「なんで駄目なんだ」

「お嬢様は履かないのかと」

「お前、お嬢様か?」


「………」

 えっと。今のはどういう意味かな。お嬢様ってがらじゃないだろうってことかな。それとも、お嬢様だなんて思われたことが一回もないのかな。それとも?


「自分でお嬢様だって自覚があるのかって、聞いているんだ」

「ないです」

「だろ?だったら、気にするな。ジーンズも履きたいなら履けよ。まあ、お嬢様だって、ジーンズが好きなお嬢様もいるだろ。俺だって、こう見えても世間で言うお坊ちゃまだ。でも、ジーンズも好きだぞ」


「……はい。じゃあ、履きやすいジーンズ、買いたいです。それで、その…。日曜大工とかしちゃっても、いいですか?」

「ああ、いいぞ。でも、おふくろがいない時な」

「はい」

 

 そうなんだ。そういのも一臣さんにとってはOKなんだ。

「一臣さん」

「なんだ?」

「いろいろと、許してくれてありがとうございます」


「は?」

「それから、一臣さん…」

「なんだ?改まって」

「す、好きです」


 言っちゃった。あ、目、丸くしてる。どうしよう、怖いとか言い出すかな。

「どうした?俺が日曜大工をするのを許したから、そんなことを言いだしたのか?」

「違います。好きだから、好きですって言っただけです」

「変な奴だな」


 変じゃないよ。俺もだっていう言葉が欲しかっただけで…。やっぱり、言ってくれないのかな。

「あ、お前も俺に抱かれたくなったのか?するか?今夜」

「しません。それに、そういうことじゃないですから!」

 もう~~。体だけが目当て?なんて思っちゃうよ。そんなことはないと思うけど。


 だいいち、淡泊なんだよね?一臣さんって。なのに、なんだって毎日のようにこんなスケベなことを言って来るの?

「じゃあ、キスか?そういえば、最近、濃厚なキスしていないもんな。でも、あれは危険だぞ」


「え?危険?」

「ああ。濃厚なキスをしていると、俺は時々理性吹っ飛んで、お前のこと襲いたくなるからな」

「……じゃ、じゃあ、遠慮しておきます」


「なんだよ。本当はしてほしいんだろ?」

 違うもん。好きだっていう言葉が欲しいんだもの。だけど、ちょっとだけ最近、大人のキスしていないなあって思っていたけど。


「弥生、素直に言えよ。してほしいんだろ?」

「一臣さんは、私のこと本当に好きですか?」

 わわ。なんだって、私はいきなりそんなこと聞きだしたんだ。返事が怖かったくせに。

「ん?」


 あれ?また目を丸くした。なんで?

「なんだ?なんでそんなことを今聞いてきたんだ。キスとどう関係がある?濃厚なキスをしていないから、俺がお前のことを嫌いになったとでも思ったのか?」

「違います」


「じゃあ、どうしてだ?また変なこと考えだしたのか?お前は」

「…だって、狸の置物に似てるとか、レッサーパンダに似てるとか言ってるから」

「あはははは!そんなことで?」

 う。笑われた。


「でも、しかたないだろ。本当に似ているんだから」

 ひど~~い!真顔で言われた!

 一臣さんは私がむくれていると、私をソファから立ち上がらせ、ギュッと抱きしめてきた。


「可愛いよな、お前って」

 そう言って、髪を優しく撫で、それから耳にキスもしてきた。

 うわ。疼いた。キュキュンって。


「愛してるよ、弥生。お前こそ、俺のことを愛しているのか?」

 ひょえ~~!愛してるって言われちゃった!!それも耳元で!!顔から火が出るほど照れくさい。

「え、え、私も…」

「うん」


「私も…」

 愛してるなんて言うの、すっごく恥ずかしい。なのに、一臣さんはちゃんと照れもしないで言ってくれた。

「あ、愛して…、ますです」

 ああ、変な日本語になっちゃったよ~~。


 くす。

 一臣さんに笑われた。それから、キスをしてきた。大人のキスだ。

 うわ~~~~。体が宙に浮く。意識が遠くに飛んでいきそう。

 ふわ~~~~。もう飛んで行っちゃったかも。


「俺がちゃんと弥生を愛しているって、これでわかったか?」

「はひ」

「あ、また腰抜かしたのか?」


「だって…」

「気持ち良すぎてか?」

 黙って頷いた。

「お前、感じやすいんだな、きっと」


 そう言うと一臣さんは私の腰を抱いたまま、ソファに座った。私はべったりと一臣さんの肩にもたれかかり、うっとりとしていた。


 ほっとした。ほっとするどころか、嬉しくて心が満たされ、幸せいっぱいだった。

 好きどころか、愛してるって言ってくれた。

 ギュ…。一臣さんに抱きついた。一臣さんのコロンに包まれ、また私はうっとりとした。


 やっぱり、心配するのはもうよそう。一臣さんが私のことを嫌いになるんじゃないかとか、冷たくなっちゃうんじゃないかとか、そんなこと心配するより、一臣さんのことを信じよう。


 明日は、一臣さんとデートだし、何を着て行くか、わくわくしながら悩もう。そんな悩みの方がずっと楽しい。

 そうだ。一臣さんに選んでもらうのもいいかな。

 そんなことを思いながら、ずっと私はうっとりと一臣さんに抱きついていた。


 夕飯はまた、私と一臣さんだけ。でも、亜美ちゃん、トモちゃん、日野さん、国分寺さんが見守る中、2人で和やかに夕飯を食べた。

 今日は中華だった。ふかひれのスープと、海老のチリソース。この2品は一臣さんの好物らしい。それと、私のためにショウロンポー、水餃子が出てきた。


「うわ!嬉しい」

「女性にはこういうのが人気がありますから、弥生様にも喜んでいただき、良かったです」

 私が、喜んで食べていると、コック長が現れてそう言った。

「はい、飲茶、大好きなんです」


 そう言うと、一臣さんが、

「じゃあ、今度飲茶のうまい店に連れて行ってやるぞ」

と言ってくれた。


「ありがとうございます。でも、コック長の作る中華も、すっごく美味しいから、私、お屋敷でご飯を食べる方が嬉しいんです」

 私の言葉に、コック長が嬉しそうに微笑みながら、

「ありがとうございます」

と頭を下げた。


「ははは。やっぱりな。お前、コック長の料理、気に入ってると思ったぞ」

「はい。最高です。和食も中華もフレンチも」

「喜んでいただけると、作り甲斐があります。今度は飲茶形式で、ご用意させていただきます」


「本当ですか!すっごく嬉しい!」

 大喜びをすると、一臣さんにまた笑われた。

 あ、食いしん坊だって思われたかなあ。


「お前といると、本当に飽きないな。ただの夕飯が、とっても楽しいものになるから不思議だよな。なあ?コック長」

「そうですね。わたくしも、とっても毎日が楽しいですよ」

 わあ。そう言ってもらえると、私もすっごく嬉しい!


「私も、一臣さんや皆さんと一緒にいると、幸せですごく楽しいです」

 そう言うと、亜美ちゃんたちもにっこりと笑い、

「わたくしたちも、弥生様といると楽しいですよ」

と、いつの間にかダイニングに来ていた喜多見さんがそう言ってくれた。


「弥生と結婚して、子供が生まれてくるのも楽しみでしょう?喜多見さん」

 一臣さんがそう喜多見さんに聞いた。

「もちろんです。また、お屋敷が賑やかになりますね」


「そうだな。俺も楽しみだ」

 一臣さんがそう言って、満面の笑顔を見せてくれた。


 その笑顔は、私だけでなく、喜多見さんやコック長、そして亜美ちゃんたちの心もあったかくしたようで、みんなが優しい目で一臣さんを見つめていた。


 ただ、だだっぴろく、寒々しく感じていたダイニングは、今夜もとってもあったかくて優しい場所になっていた。





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