~その8~ 一臣さんの惚れる相手
カランカラン…。鐘の音が鳴ったって、どういうことかな。
一臣さんは、しばらく黙り込んで私の顔を見ている。それから優しく頬を撫で、また指でつっついた。
「お前のほっぺた、ぷにぷにだな。つっつくと面白いな」
む~~~。今はそんなことを言っている場合じゃないのに。
「あれ?ふくれてるのか?ほっぺが固くなったぞ。面白いな」
まだ、面白がってるし。
「でも、大学時代はもう少し痩せてたか?」
「はい。今より、貧相な暮らしをしていたので、体重もあの頃より3キロも太りました」
「3キロ?それはやばいだろ。あ、いや…。でも、今のほうがちょうどいいのかもな。痩せたらこのぷにぷにのほっぺじゃなくなるだろ?そうしたら、つっつきがいがなくなるし」
そう言って、またほっぺたをつっついてきた。
「あのっ。話の途中でしたよね?」
ちょっとむくれながらそう言うと、一臣さんは頬にチュっとキスまでしてきた。
「あ、あの…」
「キスした感触も変わるのかな。今は大福みたいで気持ちいいんだけどな」
大福…。なんでいつも、食べ物に例えるんだ。せめて、マシュマロのほうがよかったかも。
「そういえば、他の女にキスして気持ちいいと思ったこともないし。あれって、痩せてる女ばかりだったからか?」
「さ、さあ」
じゃあ、私がいいんじゃなくて、私にくっついている贅肉がいいとでも言いたいんだろうか…。微妙。
「卒業式だったんだ」
え?いきなり、何?あ!本気になりそうだった人の話?
一臣さんはまだ、私を優しく見ながら話を唐突にし始めた。
「卒業おめでとうございますって、目に涙浮かべて言ってきた」
ズキ…。よく覚えているんだな、その人のこと。それも、同じ大学の人だったんだ。じゃあ、私もその人のことを知っているかもしれないんだな。
「写真一緒に撮ってもらってもいいですか?って聞いてきた。でも、すぐに断った」
「断ったんですか?」
そういえば、私も断られたっけ。じゃあ、みんなに断っていたんだな。
「撮ってもよかったんだけどな。でも、やばいって危険信号が出ていたんだ」
「危険?」
「ブザーの音じゃなくて、鐘の音だったけど、こいつとかかわったらやばいって、とっさにそう思った」
「本気で好きになるからですか?」
「多分そうだろうな。潤んだ目とか、赤くなっているほっぺとか、可愛いって一瞬思ったんだと思うぞ」
ズキ。
そうだったんだ。可愛いって思った人いたんだ。
私だけだって言ってたけど、いたんだ。それ、思い出しちゃったんだ…。
「すっかりそんなことがあったことも忘れてた。なんで、忘れていたのかもわからないが」
え?
「…一瞬にして封印でもしたのかもな。俺が断ったら、ごめんなさいって言って、泣きながら走って行った。追いかけようと一瞬足が動いたけど、追いかけていって、名前聞いて、写真撮って…なんてしたって、どうせ付き合うこともできないしな」
「……」
駄目だ。その人とは何もなかったとしても、聞いていると胸が痛む。
「本気で付き合ったら、辛くなるのは目に見えていたし、相手にも辛い思いをさせるだけだろ?」
「……はい」
ギュ!
一臣さんは、私を抱きしめてきた。それから髪にキスをして、
「でも、追いかけて行ったとしたら、どうなっていただろうな」
とそう言ってくすっと笑った。
なんで笑ったのかな。
「まず、名前を聞いて、俺はドン引きするかもしれないし、逆にその場で喜ぶかもしれないし」
「え?な、なんでですか?」
「あはは!やっぱりお前もわかっていない」
「え?」
「お前、卒業式の日、赤っぽい振袖に紺地の袴だっただろ?」
「はい。成人式の振袖を着ていました」
「だよなあ。確か、見合い写真もその着物だろ?なんで、その時にぴんとこなかったんだろうな。とにかく俺は、こいつに関わったら本気になるからやばいってことしか、頭になかったし」
「え?え?え?」
どういうこと?頭がついていかないんだけど。
「そういえば、見合い写真見ても、なんとも思わなかったんだよな。なんでだろうな。あの時は瓶底メガネもかけていなかったし、素に近い写真だったろ?あ、そうでもないか。けっこう修正した写真だったんだっけ?」
「え、えっと…。多分、ちょっとは」
「それでか?なんだよ。素の写真だったら、写真だけでも惚れていたかもしれないだろ?」
「は?!」
なんですと?言っている意味がまったくわからない。
「あれ?卒業式はなんであの瓶底メガネじゃなかったんだ。コンタクトにしていたのか?」
「いえ。お金いっぱい貯めて、レーシック受けたんです」
「そうか。だから、今もメガネをかけないのか」
「はい」
一臣さんはまだ、私を抱きしめたままだ。
「あの…」
「なんだ?」
「私がメガネかけていなかったこととか、卒業式の着物とか、どうして知っているんですか?」
「はあ?話の流れでわかるだろ。だから、俺が惚れそうになって、やばいからって気持ちを一瞬にして封印した相手がお前だったんだよ」
「え?!!!!」
私?!!!!
「お前だってわかっていたら、惚れようが付き合おうがよかったのにな」
「わ、私っ?ほ、本当に私?!」
「そうだ。今より顔が細かったな。ほっぺたに肉がついたんだな」
そう言って一臣さんは、私の頬をぐにっと引っ張った。
「……わらひ?」
頬を引っ張られたまましゃべったから、私がわらひになってしまった。
「なんだよ。目をまん丸くさせてさっきから何度も…。お前だって言ってるだろ?俺だって忘れてて、さっき車の中で思い出したんだよ。樋口や等々力が聞いているから、その話をしなかったけどな」
「だから、黙っていたんですか?」
「ああ。黙ってにやけてた」
「に、にやけてって、なんでですか?」
「そりゃ、俺が惚れる女って、なんでお前ばっかりなんだろうなってさ」
「………は?」
「そうだろ?俺の初恋もお前だぞ。8歳でお前に惚れて、結婚するとまで言い出したくらいだ」
「あ…」
「そのあと、誰にも心奪われなかったのに、卒業式で、一瞬にして惚れそうになった。で、それもお前だ」
うそーー!嘘でしょ。あの時惚れそうになっただなんて!
「黒目が大きくて、潤んでて、鼻の頭やほっぺた赤くしてて、可愛かったのを覚えてるぞ。ああ、この目だ。なんで今も目、潤ませてるんだよ」
「だ、だって。卒業式の日、勇気振りしぼって声をかけたんです。でも、写真断られて、すごく落ち込んで」
「ああ、泣いて走って行ったもんな、お前」
「ショックだったんです。大学最後の思い出に撮りたかったし。私、レーシックでメガネをかけなくてすむようになったけど、化粧とかはまだ覚えていなかったし、すっぴんだったと思うんです。きっと、こんな私じゃ写真も撮りたくないんだろうなって思って、ショックを受けて」
「そうだったのか。悪かったな。そこまでショックを受けてるとは思わなかった」
「い、いいえ、いいんです。私、それで、もっと化粧も上手にできるようになって、もっと大人の綺麗な女性になって、スタイルも抜群になって、一臣さんに再会しようって、あの時、家に帰ってから決心したんです」
「その決心の結果が、あの悲惨なメイクとはちゃめちゃな服か…」
グッサリ。
「う~~~ん。やっぱりあの時、声かけときゃよかったな。そうしたらお前、あんな無茶なメイクもしないですんだんだな」
「う…」
なんて言っていいか微妙。でも…。
「それって、私の素顔が一臣さんは気に入ってくれたってことですか?」
「ああ。だから言ってるだろ。見合い写真も修正なんかしないで、素で撮っていたら俺が惚れていたって」
「…本当に?」
「ああ。お前、素のほうが可愛いからな」
きゃあ。なんだか、嬉しい。
「狸みたいで可愛いからな」
う…。また、そんな意地悪言う。
「本気で好きになれる女が、お前で良かったと思ってるぞ」
「え?」
「もし、お前以外の女が俺のフィアンセだったら、本気で好きになれないし。もし、それでどこかでお前に出会っちまったら、俺はお前に惚れるだろ?そうしたら、辛い思いをお互いしていたかもしれないだろ?」
「はい」
そうだよね。親が決めたフィアンセなのに、私も一臣さんに一目で恋に落ちたし。
「でも、あれか。結局親父は俺がお前と結婚したいって、8歳の時に言いだしたから、お前と婚約させたんだろ?じゃ、俺の思いが叶ってるってことなんだから、政略結婚でもなんでもないのかもしれないんだよなあ」
「………あれ?そういうことになるんですか?」
「それとも、上条グループがでかくならなかったら、親父はお前と婚約なんかさせなかったのかな」
「そうしたら、他の女性と結婚するってことですか?」
「ま、いいか。俺はお前と婚約して結婚するんだ。もしものことなんか、考えなくたってさ」
「はい」
ギュウ。一臣さんのことを私も抱きしめた。一臣さんのコロンに包まれ、胸がドキドキした。でも、安心する。
「お前、変なやつ」
そう言って一臣さんも私をギュっと抱きしめた。
「なんでですか?」
「俺に何度も惚れられてるなんて、変なやつだろ?いや、変って言うより、すごいやつかな」
何度も惚れられてる?!
「なんだってこうも、俺はお前ばっかりに惚れるんだろうな。そういう運命なのかな」
「え?」
「ま、いっか。惚れた相手と結婚できるんだから、俺は本当に幸せなやつだよな」
「私もです」
「ああ。お前もな?」
一臣さんは抱きしめる腕の力を緩め、私の顔をじっと間近で見ると、チュッとキスをした。
「可愛いよな、弥生は」
そう言ってまた私を、ギュッと抱きしめた。
「生理中じゃなかったら、今すぐに押し倒したんだけどな」
「いえ。食事がまだです」
「ああ。そうだったな。でも、食事よりお前が食べたいんだけどな」
「い、い、いえ。困ります」
「わかってるよ」
一臣さんは、抱きしめている手を離すと、
「そろそろ夕飯だな。着替えるか」
と言って、ソファを立ち上がった。
「はい。私も着替えてきます」
一臣さんの部屋から、自分の部屋に戻った。胸はまだドキドキしていた。
まだ、信じられない。私のことだったなんて。
もし、その時、私の名前を聞いて、一臣さんのフィアンセが私だってわかっていたら、どうなっていたんだろう。あの時からお付き合いが始まっていたんだろうか。
それとも、名前を聞いて、ドン引きされた?そうしたら、付き合うこともなく、あのまま別れたんだろうか。
もし…。なんて今考えても、過去には戻れない。今は今。今、私は一臣さんのすぐそばにいられて、幸せでいる。それだけでいい。
ほわわんとした気持ちのまま着替えをして、私は一臣さんの部屋に行き、一緒に手を繋いでダイニングに行った。ダイニングでは今日も、私と一臣さんだけの夕飯が用意されていた。
また二人で、ほんわか夕飯も食べられるんだ。
そんな二人をちょっと離れたところから、亜美ちゃんやトモちゃんが見守っている。
一臣さんもずっと、穏やかなまま。ああ、幸せだな~~~。
思えば、一臣さんは私が不安になるたびに、ちゃんと安心させてくれる。それに、不安がっていることも、ちゃんとわかってくれる。
これからもそうなのかな。たびたび私は、不安になったり、落ち込んだりするかもしれない。でも、ちゃんと一臣さんと向き合えば、一臣さんは安心とまっすぐに私に向かっている気持ちを、伝えてくれるんだろうな。
そして、今日みたいに、ギュッと抱きしめてくれるのかもしれない。
夕飯後は、一臣さんと部屋に戻ってテレビを観た。お笑いの番組で、こんな番組も一臣さんは観るんだなってびっくりした。
「あははは」
と声を出して一臣さんは笑っている。
そして、一緒にベッドに入り、また一臣さんに抱きしめられたまま眠りについた。
は~~、幸せだ。幸せすぎちゃうくらいだ。
翌朝、6時に一臣さんは目を覚まし、
「今日も走ってくるから、お前はもうちょっと休んでいていいぞ」
と言われた。
でも、私も目が覚めたし、そうだ!お弁当を作ろうと思い立ち、着替えて化粧もそこそこにキッチンにすっ飛んで行った。
「弥生様?おはようございます」
コックさんたちを驚かせてしまったが、コック長はいつもの冷静さのまま、
「おはようございます。お弁当を作りに来たんですか?」
と聞いてくれた。
「はい。いいですか?お邪魔じゃないですか?」
「大丈夫ですよ。何を作りますか?冷蔵庫も開けてみて、どうぞ必要なものは使ってくださってかまいません」
「ありがとうございます」
コック長はお弁当箱も、すぐに用意してくれた。私は冷蔵庫にあるもので、あれとあれを作ろうと決め、キッチンを借りて作りだした。
「弥生様、おはようございます。お弁当作りですか?」
喜多見さんもそこに来た。
「はい。あ、一臣さんは今、走っています」
「今日もですか。一臣おぼっちゃまも、体調がよろしいんですね」
「はい」
喜多見さんやコック長、他のコックさんとも仲良く和気あいあいと話しながら、お弁当を作った。そして、出来上がったお弁当を持って、ダイニングに行った。
亜美ちゃん、トモちゃんはダイニングにいた。
「おはようございます。お弁当はできましたか?」
「はい!」
「幸せそうですね。やっぱり、好きな人にお弁当を作るのって、幸せなんですね」
いきなりトモちゃんがそう言ってきた。
「トモちゃんも彼氏が欲しいんですって」
亜美ちゃんがそう耳打ちした。
「そうですよね。いい人現れたら嬉しいですよね」
「はい。特に最近の一臣様と弥生様を見ていると、そう思います」
そうなんだ。私たちを見ててそう思っちゃったんだ。なんか、恥ずかしいって言うか照れるなあ。
お弁当をテーブルに置いて、私はそのまま朝食を食べることにした。なごやかに、朝食の準備が進み、亜美ちゃんやトモちゃんともちょっと雑談をしながら朝食を食べ、それから、お弁当を持って一臣さんの部屋に戻った。
「弥生、朝飯食っていたのか?」
一臣さんはちょうどシャワーを浴び、バスルームから出てきたばかりのようだった。麗しいバスローブ姿で、バスタオルで頭をゴシゴシと拭いている。
「お弁当作っていたんです」
「俺の?」
「はい。一臣さんと私のお弁当。お昼に一緒に食べられたらいいなって」
私はそう言いながら、お弁当をテーブルの上に置いた。
「そうか。それはありがたい。また今日も午後は副社長と一緒に出ないとならないんだ。昼も一緒にと誘われても、愛妻弁当があるって断れるな」
「愛妻弁当?!」
「だろ?」
「きゃ~~」
「なんだよ?」
「い、いえ。その響につい、恥ずかしくなって。でも、嬉しいです」
愛妻弁当だって!それを作るのも、旦那様に喜んでもらえるのも、ずっと夢見ていたことだったから嬉しい。
私は自分の部屋で化粧を済ませ、カバンを持ち、お弁当を抱えて一臣さんの部屋に行った。
「紙袋にでも入れていくか?」
一臣さんが渡してくれた紙袋は、すごいブランドの名前が印刷されている紙袋だ。なんだろう。この大きさなら、カバンか、洋服でも買ったのかな。
そんなブランドの袋に、お弁当を入れていくとは。
「今度、お弁当を入れる袋を買ってきます。あ、これって、保冷剤でもいれておかないと、危ないですか?」
「そうだな。もう、暑くなってきたしな。会社に着いたらすぐに、冷蔵庫に入れたらいいんじゃないのか」
あ。そうか。一臣さんのお部屋、冷蔵庫もあるもんね。
「だったら部屋に電子レンジも置くか。あっためて食えるよな、そうしたら」
「……。なんでも揃っちゃうんですね。オフィスに」
「ああ。何か他にも欲しいものがあるか?置いてやるぞ」
「ないです」
あれだけ揃っていたら、もう完璧でしょう。
「そうだ。お前の部屋には?お前の部屋、何も置いていないだろ。テレビや冷蔵庫、欲しいものはないのか?」
「ないです。一臣さんの部屋に行けばテレビもあるし、冷蔵庫も…。あ、それって図々しいですか?私、一臣さんの部屋に入り浸っていたら、邪魔ですか?」
「………」
あれ?黙っちゃった。それに私の顔覗き込んできたけど。
「そうだな。お前の部屋にあれこれ物を置いて、お前が部屋に閉じこもっても、俺が寂しいしな。何も置かないで、俺の部屋にいろよ」
「いいんですか?」
「いいって言ってるだろ?お前が実家に戻った時には、本当にしんみりとしてしまって、寂しかったしな」
「じゃあ、いつも一臣さんの部屋にいてもいいんですか?」
「ああ。いいぞ。お前、いても邪魔になったこともないしな」
良かった。嬉しい!心が弾んだと同時に、体まで弾んだかも。
ギュ…。いきなり、一臣さんが抱きしめてきた。
「だから、そうやって全身で喜ぶなよ。可愛すぎて押し倒したくなるだろ?」
うわわ!耳元でそんなことを言われたら、胸が疼いちゃうよ。
駄目駄目。こんな朝から。
「もうちょっとの我慢か…」
ぼそ。一臣さんもそう呟くと、私の髪にキスをして、
「会社に行くぞ」
と、そう言って上着を着た。
「はい」
今日のスーツはダークグレイ。やっぱり似合う。
うっとりとしながら、私は一臣さんと一緒に部屋を出た。
車内でも、一臣さんと手を繋ぎ、樋口さんや等々力さんとも和やかに話をして、穏やかな気持ちのまま会社に行った。
役員専用のエレベーターで、一臣さんと二人きりになり、一臣さんはいつものごとく私の腰に腕を回し、髪にキスをして来たり、私も一臣さんにべったりくっついたりしていちゃいちゃムード満載で15階に行った。
その日もスケジュールはびっしりで、11時まではアポが何人か入っていて、11時からは、プロジェクトのミーテングをしに4階に移動した。
そしてようやく、私と一臣さんは知ることになった。会社中に流れ出している噂のことを。
エレベーターに乗ると、数人の社員が乗っていて、4階で降りると、後ろから、
「あの噂って本当なの?」
「仮面フィアンセっていう噂でしょ?」
と言う声が聞こえてきたのだ。
仮面フィアンセ?!なんだ、そりゃ。
一臣さんもエレベーターのドアが閉まってから、顔をしかめた。
「仮面フィアンセってなんですか?」
そう一臣さんに聞くと、一臣さんは腕を組み、
「多分、仮面夫婦からとって、仮面フィアンセって言っているんじゃないのか。仮面夫婦と同じような意味だろ」
と、片眉をあげながら答えた。
仮面夫婦と同じと言うと、本当は仲いいわけじゃないのに、外ではそう見せているってことかな。
あ、そういう意味か。
「は~~あ。なんだって、ややこしくするんだろうな。仲がいいように見えたんなら、素直にそう受け取れって感じだよな」
一臣さんはとことん、嫌気がさしたって感じでそう言ったが、私はちょっと落ち込んでしまった。
仮面フィアンセだなんて。本当に一臣さんとは仲がいいのにな。今朝だって、ずうっとずうっとずうっと、いちゃついているんだけどなあ。
テンション下がった。でも、今からミーティングだ。気持ちを切り替え、私は会議室に一臣さんと向かった。