~その1~ 精神安定剤?
その日、本当に一臣さんは、分刻みで動いていた。午前中は訪問客の相手を、30分置きにしていて、午後は副社長といろんなところに出向いて行った。
私はというと、午前中は一臣さんと一緒にお客さんと会っていたが、午後は秘書課に残された。
「忙しそうね、一臣様」
デスクでパソコンを打っていると、細川女史が突然そう聞いてきた。他の秘書はみんな出払っていて、私と細川女史だけが秘書課に残っていた。
「はい。分刻みのスケジュールです」
「たまには、骨休みもできたらいいのにね」
細川女史はそう言ってから、
「でも今は、上条さんがいるから大丈夫かな」
とにっこりと微笑んだ。
「私ですか?」
「樋口さんも言っていたわよ。最近、一臣様の顔色もいいし、元気になられたって」
「……前は、そんなに具合悪かったんですか?」
「私も庶務課にいたから、よく知らないんだけどね。ストレスも抱えていたし、不眠症だったりもしたし、樋口さんも心配はしていたみたいなんだけど、上条さんがそばにいるようになったら、落ち着いたって言ってたわよ」
「……」
どう答えていいのかな。でも、正直言うと嬉しいかな。
「これからも、忙しいと思うけど、上条さんがそばにいるから大丈夫そうね。上条さんも、一臣様のそばにいられたら、元気でいられるんじゃない?」
「え?なんでわかるんですか?」
「くすくす」
あ、笑われちゃった。
「上条さんって、本当に一生懸命で健気よね。そんなところに一臣様も惹かれたんでしょうね」
うわ~~。顏が火照るようなことを言われてしまった。
「今、副社長と取引先を回っているんだっけ?一臣様は」
「はい。何件も回っています」
「じゃあ、早くに上条さんに会いたいって、そう思っているんじゃない?きっと帰ってきたら甘えるわよ」
「え?あ、甘える?」
「違う?なんか、お二人を見ていると、一臣様のほうが甘えているようにも見えるんだけど」
「そ、そうですか?」
「くす。一臣様って、信頼できる人には思い切りなつくって言うか、甘えたり、駄々コネたり、けっこう素をさらけ出すでしょ?」
「あ、はい。樋口さんの前では、駄々コネたり、わがままも平気で言ったりしています。あ、でも、心配もしていたり、優しかったりもしますけど」
「くすくす。やっぱり、わかってるのね。それ、あなたにもしているんじゃない?」
「え?私?」
そういえば。駄々コネるし、わがまま言うし、だけどいつでも心配してくれたり、支えてくれたり、守ってくれたり、優しくしてくれる。
「そ、そうですね…」
か~~~。顏が熱い。きっと今、真っ赤だな、私の顔。
「なかなか一臣様は素を見せてくれないのよね。私にですら見せてくれない。樋口さんの前では態度が違うなっていうのを、何度か見てて、ちょっと樋口さんが羨ましかったりもしたの。でも、あなたにも一臣様は素を見せてる。それだけ信頼もしているし、きっと大事な存在なのね」
「……嬉しいです。ありがとうございます」
「上条さんにとっても、大事な人でしょう?」
「もちろんです!」
「ふふ。即答なのね。いいわね~~」
また笑われてしまった。でも、細川女史の笑顔はとても優しかった。
細川女史もきっと、一臣さんのことは大事に思っている。それに、私のことも。
これからも、細川女史が秘書課を引っ張っていってくれるのかな。だとしたら、これからは秘書課も安心なんじゃないのかな。
「あ、細川さん。今度、手合せお願いしますね」
私はいきなり思い立ち、そう言ってから、突然すぎたかなと思った。けれど、
「空手?柔道?合気道はきっとあなたには敵わないと思うけど」
と細川女史はすぐに答えてくれた。
「え?敵わないって?」
「社長から聞いてるわ。上条家の4人兄弟のすごいことを。如月さんは剣道の達人で、卯月さんは柔道、葉月さんは空手、そして、あなたは合気道なんでしょ?」
「そんなに強くないです」
「でも、段ももっているって聞いたけど」
「…お兄様たちのように、強くはありません。合気道は戦うためのものではないし」
「護身術として習っていたんでしょう?」
「自分の身は自分で守れっていうのが、上条家の家訓ですから」
「すごいわね」
「いえ。細川さんや樋口さんのほうがきっとお強いです。私、ぜひ、カンフーとか習いたいんです」
「護身のために?」
「いいえ。一臣さんを護るためです」
私はそう言って細川女史の目を見た。
「ふふ。真剣そのものね。わかったわ。樋口さんにも相談しておくわ。ボディガードの訓練、受けられるかどうか」
「私がですかっ?!」
「目が輝くのねえ、あなたって。面白いわねえ。くすくす」
また、笑われてしまった。
「でも、一臣様には内緒かな。まさか、あなたが自分の身を護るために訓練をするだなんて、きっと危ないからやめろって言うだろうし。でも、護身術のためにってことなら、一臣様もいろいろと習っていたから、させてもらえるわよ」
「一臣様も習っていたんですか?」
「ええ。一臣様が気に入っていたのは、少林寺や空手。カンフーとかも好きよ。ああいう映画も好きで、子供の頃はまっていたらしいから」
「知りませんでした。全然教えてくれないし」
「そう?でも、引き締まった体してるでしょ?スーツ着ててもわかるじゃない?そういうのって」
「あ、はい。私も、ずっとそれは思っていました。ジムで鍛えているのかなって」
「ジムで鍛えて、武術は樋口さんたちから習っていたから、意外とお強いわよ、あなたが護らなくても…。なんでも、まだ8歳くらいの頃、女の子と柔道してて投げ飛ばされてから、絶対に強くなるんだと、頑張っちゃったらしくって。勉強はそこまで熱心じゃなかったのに、武術の訓練だけは熱心にしたらしいから」
それ、私だ。じゃあ、私に投げられてから、頑張っちゃったんだ。
知らなかった。そういうこと、一切言ってくれないんだもん。
「あなたと今戦ったら、どっちが強いのかしらね?ふふ」
「…一臣さんです」
「え?」
「あ、いえ。本気で格技場で戦ったらわかりませんが、普段は一臣さんのほうがお強いです」
「そう?意外と尻に敷かれそうだけど」
「いいえ。私のほうがいつも振り回されています」
「ふふ…」
細川女史はまた笑った。他の人がいると、こんなに和やかにはならない。なんだか、庶務課にいた頃を思い出す。
5時を過ぎた頃、ぞろぞろと秘書課に人が戻ってきた。いまだに秘書課の人たちも忙しくしている。
私は補助的なことしかしていないが、できるだけ役に立ちたいと思い、会議の資料作成や、プリントアウトなどを手伝っていた。
「細川女史、弥生はまだそこにいるのか」
突然、細川女史のインターホンから一臣さんの声がした。
ドキッ!15階にもう戻られたんだ。
「はい、おりますが」
「もう15階に返してくれ」
「はい。わかりました」
細川女史はインターホンを切ると、
「一臣様がお戻りですよ、上条さん」
とにっこりと微笑んだ。
「あ、はい。では、お先に失礼します」
そう言って席を立ちあがると、
「お疲れ様でした」
と、みんながやたらと丁寧に挨拶をしてきた。
「あ、お、お疲れ様でした。失礼します」
あまりにもみんなが丁寧なので、私のほうがびっくりしてしまい、おどおどとしながら部屋を出た。
私がドアを閉めた途端、中から話し声が聞こえてきた。
「上条家の令嬢だったなんてびっくり」
「見えないわよね。お嬢様には全然見えない」
「しー。そんなこと上条さんや一臣様に聞かれたら、クビになるかも」
ならないし、今さらだよ…。今のは大塚派の人の声だな。
「一臣様のフィアンセなんだよね。それも、びっくり」
そんな声もしてきたが、細川女史の咳払いと、
「皆さん、仕事を早く片付けてください」
という声で、秘書課は静まり返ったようだ。
「はあ…」
溜息交じりに私は廊下に出て、エレベーターホールに向かった。
なんだか、態度があからさまに変わるのは嫌だなあ。大塚さんはどうかな。江古田さんは、言葉使いは変わったものの、今までどおり、普通に接していてくれたけど。
エレベーターに乗り、カードキーを差し、15階に行った。そして、15階に着くと、
「そうだ。一臣さんに会えるんだ。何時間ぶりかな」
と一気に気持ちがうきうきしてしまった。
何時間ぶりって、どうよ。午前中はずっと一緒にいたのに、たった数時間会えないだけで、私ったら寂しくなっていたのかな。
もう~~。どれだけ、一臣さんが好きなんだ、私は。なんて自分に突っ込みを入れながら、それでもうきうきと一臣さんのオフィスのドアを開けた。
「お疲れ様でした」
わ。受付に樋口さんがいた。顏がにやけていたのを必死に戻して、
「樋口さんも、お疲れ様でした」
と、早口で言って、一臣さんの部屋のドアをノックした。
「入れ」
とすぐに一臣さんに言われ、私はドアを開けた。
あ。もうすでに、ネクタイもはずしてくつろいでいる。
「お疲れ様でした」
「……」
あれ?無言?黙って私を見ると、手招きだけをしたけど。なんか、怒ってる?顏もむすっとしているし。
ドキドキ。怒られるようなことしたっけ?と思いつつ、私は一臣さんのそばにいった。
グイッ。いつものように、ソファに座っている一臣さんの膝の上に私を座らせ、
「疲れた」
と一言、一臣さんは小声で発した。
「だ、大丈夫ですか?」
「いいや。大丈夫じゃない」
わあ。駄々コネモード。
「そんなにお疲れですか?」
「……」
あれ?無言?でも、ムギュウと私のことを後ろから抱きしめて来た。
ドキドキ。数時間ぶりで抱きしめられ、なんだか、ドキドキしちゃう。
「温泉、予約取れたぞ」
「え?本当ですか?」
「ああ。部屋に露天風呂がついている宿だ」
「嬉しい。楽しみですね!」
「……早くに行きたいよな」
わあい。そんなふうに言ってくれるなんて、すごく嬉しいかも。
そっと私のことを抱きしめている一臣さんの腕に触れた。ドキン。
一臣さんのコロンの匂い。それから、ぬくもり。嬉しいなあ。
「弥生」
「はい?」
「お前、すごいな」
「何がですか?」
「一気に疲れがすっとんだ。気持ちが楽になった」
「…」
なんで?私を抱きしめていたらってことかな。
「精神安定剤みたいなもんだな、お前は」
う~~~ん。微妙。
でも、私も一臣さんに抱きしめられて、ドキドキしているけど、すっごく嬉しい。胸が満たされちゃう。
「今日は夜、2人きりだな」
「お屋敷でですか?」
「ああ。それとも、どこかで食って行くか?」
「いいえ。お屋敷で食べます」
「何がいい?今からリクエストしておくか」
「えっと。でも、お腹、今日はあんまり」
「壊しているのか?」
「いいえ。でも、ちょっと痛いような…」
「昼に変なもんでも食ったんじゃないのか?どこで食べたんだ」
「6階のカフェです。江古田さんと一緒に食べたんですけど…。一臣さんは?」
「副社長と食べたぞ。それも仕事の話を聞きながらだ。まったく食べた気がしなかった」
「……あ」
「ん?」
「ちょ、ちょっと手を離してください」
「なんでだよ」
「トイレ…」
「腹、下したのか?」
「違います。でも、ちょっと…」
私は鞄を持って、慌ててトイレに行った。
やっぱり…。
トイレから出て、一臣さんの部屋に戻った。
「どうした?やっぱり、腹、壊したか?夕飯はお粥にでもしてもらうか?」
「いいえ。そうじゃなくって。お腹が痛かったのは、その…。せ、生理痛です」
言いづらかったけど、ここは本当のことを言ったほうがいいよね。恥ずかしがらず。
「ああ。来たのか。良かったな、妊娠してなくて」
「はい」
「ん?がっかりしたのか?」
「いいえ。安心したんです。2~3日、遅れていたし」
「そうだったのか?そういうのも俺にちゃんと言えよ。一人で抱え込むなよな?」
「……はい」
「でも…」
一臣さんは突然、真剣な顔をして黙り込んだ。なんでかな。赤ちゃん、できたほうが良かったのかな。まさかね。
「そうか。生理か。じゃあ、今日はできないんだな…」
「は?」
「だから、できないんだろ?もしかして、1週間くらいは無理か?そんなに俺、もつかな」
「は?」
「我慢できるかどうか…」
何の我慢?!まさかと思うけど、やっぱりあれ?
「あ、あの。変なこと…いえ。聞きたいことがあるんですけど」
「変な質問は受け付けない」
「我慢ができなかったら、どうするんですか?ほ、他の女性とまさか」
私は、思い切り勇気を持って聞いてしまった。だって、ものすごく気になるし。
「他の女とだと?するわけないだろ。まったく興味もないし…。多分、抱く気も失せてて、他の女とはできないだろうな」
え?
「弥生だけしか抱きたくないって、前にも言わなかったか?…まあ、一週間くらい、どうにか我慢するけど」
「……本当にですか?」
「なんだよ。実は弥生のほうが寂しいんじゃないのか?」
「い、いえ」
「安心しろ。ちゃんと隣に寝てやるし、キスぐらいならいつでもしてやるぞ」
う…。なんでわかったんだろう。なんにもしてくれないのは寂しいとか、隣に寝るのも駄目になったりしないかなとか、そういうことを考えていたの、全部ばれてる。
「ん?それだけじゃ不満か?」
「い、い、いいえ!」
一臣さんは、ソファから立ち上がり、私のことを抱きしめた。
「抱きしめるのもしてやるぞ」
ドキン。耳元で囁かれちゃった。
「それより、生理痛は大丈夫か?お前、いつもひどいのか?」
「大丈夫です。ちょっと痛くなるけど、薬を飲むほどじゃないですから」
「そうか。でも、きつかったら言えよ。俺でできることならしてやるから」
「え?たとえばどんな?」
「う~~~ん。こうやって抱きしめるとか?お腹さすってやるとか?」
ひゃあ!嘘でしょう。そういうこともしてくれるの?優しい!
「あ、あ、あの。今まで付き合っていた女性も、生理痛がひどくて、お腹さすってあげたりしたことあるんですか?」
ドキドキ。今までも優しくしてあげたりしていたのかな。
「ない」
あ、そうなんだ。即答だったな。今…。
「デート中に、腹が痛くなったとかだったら、即、車で送って行っておしまいだ。だって、面倒だろ?」
「わ、私は?」
「弥生?面倒じゃないぞ。お前は違うって言ってるだろ?」
「はい…」
ギュウ…。一臣さんの抱きしめる腕に力が入った。
「お前のことは、なんでだか俺もわからないけど、面倒を見たいって思っちゃうんだからしょうがないだろ」
「え?」
「ああ。そういえば、ランが病気の時も、ずっとそばにいたし、病院にもついていったっけ。病院でも寝ずにずっとそばにいた。大事なランが、俺がいない間に何かあったほうが辛いから、離れたくなかったな…」
「……あの」
「ん?」
「私が入院した時も、そばにいてくれましたよね」
「ああ」
「あれは、どうして?」
「……あの時は、なんでかな。もうすでに、弥生が大事だったのかな」
ドキン。
「意識戻るまで、怖かったしな」
「え?」
「怖かったぞ。なんでだか自分でもわからなかったけど。あの頃は、お前との婚約、破棄したいって思っていたのにな」
「私が怪我して、意識がずっと戻らなくなったら、婚約も取りやめですよね。もし、婚約したくなかったのなら、かえってラッキーなことだったんじゃないですか?」
「お前が怪我して意識が戻らないのに、ラッキーって喜べるわけないだろ?」
「でも、晴れて自由の身ですよ。私のこと、本当に嫌がっていましたよね?」
「……それ、俺に意地悪で言っているのか?」
「え?いいえ。事実を言ったまでで…」
「そこまで嫌がっているわけないだろ。確かに、親父の言いなりになるのは嫌だったけど…」
「え?」
「こっち向け」
一臣さんは私の顎を持って顔を上にあげると、チュッとキスをしてきた。
「会議室に現れたお前は、確かに妙ちくりんだった。化粧も変だし、格好も変だし。なんだ、こいつって思ったけど、そのあと、トイレの修理をしに来た時は、化粧も薄くなっていたし、お前の素に近かったろ?」
「はい」
「やけに明るいし、元気だし。何やってるんだ、こいつって思いつつ、可愛いとは思っていたぞ」
「は?!」
「お前の素の顔って可愛いんだなと、あの時も思っていたぞ。言わなかったがな」
「でも、婚約解消してやるって、総おじさまのところにまで行ったんですよね?」
「ああ。行った。親父にいい加減、大人になれ…みたいなことを言われて、すごすごと帰って来たけどな?それで…」
「……それで?」
「次は…。ああ、また電気交換をしにきたよな。俺が脚立を支えてやったんだよな。お前、太もも露わにして電気交換していたよな?」
「あ。短めのキュロット履いていましたけど。それで、怒られた」
「当たり前だ。あんな恰好、俺はフィアンセだからいいものの、他の奴に見られたらとんでもないだろ」
「え?え?」
「それも、久世のやつに連れて行かれた久世の母親のブティックで買ったもんだろ?久世からもいろいろとプレゼントされたんだろ?」
「…知っていたんですか?」
「お前にはあの頃から、日陰がついていたようだからな。俺は知らなかったが、樋口が教えてくれた。久世っていう宅配便のアルバイトが、弥生に接近していて危ないってな」
「…えっと。それで、怒られたんですか?」
「そうだ。他の男からのプレゼント、平気で喜んで着て、それも、こんなムチムチの太もも、平気でさらけ出して…。冗談じゃないって、頭に来た」
「……え?」
それって?ヤキモチ?うそ!あの頃にもう、ヤキモチ妬いてくれてたの?
「か、一臣さんって、いったいいつから私のこと」
「いつから弥生に惚れていたのかを聞きたいのか?」
「はい」
「8歳の頃からだ」
「い、いえ。そうじゃなくて…。子供の頃の話は置いといて…。私が会社に入ってから…」
「さあな。いつだろうな。自分でもわからないな」
「わ、わからないって?」
「こんなやつ、絶対に婚約破棄してやると言いつつ、ずっとお前のことは気になっていたし…。久世の奴には、嫉妬していたし。いつ惚れたんだろうな?」
「……」
うわあ。そうだったんだ。
「嫌い嫌いも好きのうちとかっていう言葉があるな。あれか?まあ、自分では認めたくなかったから、好きになっているって気づかないふりはしていたけどな?」
「なんで認めたくなかったんですか?」
「だから、変態になるからだ。わかったか」
「………」
わかりません。とっても、微妙です。
「もういいだろ?俺は変態だったんだって認めたんだから。な?」
そう言って、一臣さんはまたキスをした。それも、熱い熱い大人のキス。
うわ~~~~~。腰砕けた。でも、一臣さんが抱きしめていてくれたから、へなへなと座り込むことはなかった。
「可愛いよな。やっぱり。弥生は化粧とかしないでも、素のまんまでめちゃくちゃ可愛いよな」
ひょえ~~~~~~~~~~~。
私も一臣さんは変だと思う。こんな、可愛くもない私が可愛く見えるんだから。
でも、やっぱり嬉しい。
私はドキドキしながらも、ずっと一臣さんの胸に顔をうずめ、幸せを噛みしめていた。