~その9~ 「いちゃつくぞ」
チュ。おでこに誰かが触れた?
チュ。次はほっぺた。
それから誰かの優しい手が私の髪を撫でる。
これ、一臣さんなの?夢かな。夢ならまだ覚めないで。
パチ。あ、目、覚めちゃった。
と思ってがっかりしたら、すぐ目の前に一臣さんの顔が見えた。
「おはよう、弥生」
そう言うと、一臣さんは私の鼻の頭にチュッとキスをした。
「お、おはようございます」
もしかして、夢じゃなくてずっと私にキスしてた?!
「ねぼすけだな。もう7時になるぞ」
「え?!でも、アラーム」
「止めた。お前、全然起きなかったな」
「……一臣さんは起きていたんですか?」
「ああ。アラームで起きた。弥生の寝顔可愛かったから、そのあとずっと見てた」
きゃ~~~~~~~~~~~~~。
「ははは。真っ赤になるなよ。本当に可愛い奴だな、お前って」
チュ。唇に一臣さんはキスをして、それから起き上がった。
一臣さんはバスローブを着ている。でも、昨日は裸で寝ちゃった気がする。あ、やっぱり、私は素っ裸だ。でも、ちゃんと今日は布団が肩までかかっていた。
「シャワーは浴びるのか?」
「いえ」
「じゃあ、俺は浴びて来るぞ」
「はい」
一臣さんはバスルームに入っていった。その隙にパジャマやら下着を持って、ダッシュで自分の部屋に戻った。素っ裸で…。
そしてそのまま、バスルームまで小走りでいき、シャワーを浴びた。
一臣さん、いつもの一臣さんだった。優しくてスケベな…。
ほっとした。クールで淡泊な一臣さんじゃなくて。
他の女の人は、そんな一臣さんで寂しくなかったのかな。あっさりとしていて、いつも冷めてて、愛されているっていう実感もなくて、そんなで悲しい想いはしなかったんだろうか。それとも、遊びだって割り切っていて、気にならなかったのかなあ。
私は…、冷たい一臣さんは、悲しい。あっさりとしていて、冷めている一臣さんだったら、きっといつも寂しい思いをしていないとならない。
そう思うと、べったりしていて、スケベで、油断も隙もないエッチな一臣さんのほうがずっといいかも。そんな一臣さんだったのに、なんで私逃げたりしていたのかなあ。
着替えと化粧が済むとすでに7時半。私は慌ててダイニングにすっ飛んで行った。すると、一臣さんと、その隣には汐里さんがいて、2人でコーヒーを優雅に飲んでいた。
なんで、隣の席?い、いいけど。
「おはよう、弥生さん。よく眠れた?」
「はい」
「あなたって、すごいのね、びっくりしたわ」
「え?」
なんだろう、突然。私は国分寺さんに椅子をひいてもらい、
「ありがとうございます」
とお礼を言って席に着いた。
「ふ~~ん。そういうところは、他のお嬢様より、お嬢様らしいのね」
「え?」
「でも、見ため一臣のタイプでもないのに、一臣のハートしっかりとつかんだんだ。ねえ、どうやってつかんだの?教えて?一臣は全然教えてくれないから」
「弥生、いいぞ。言わなくたって」
一臣さんはクールな顔でそう言って、新聞を広げた。
「いいじゃない。聞かせてよ。あの絶対に人を入れようともしなかった、一臣のお城にまで入れてもらえるなんて貴重な存在よ。ね、どうやって、一臣の部屋まで侵入できたわけ?」
「え。そ、それは」
侵入って言われても、私から入ったわけじゃないんだけどな。
「汐里、からかうのもいい加減にしたらどうだ?」
「からかってなんかいないわよ」
「じゃあ、なんでそんなことを弥生に聞くんだ?」
「だって、興味あるんだもの。それとも、フィアンセっていうのが理由だったりする?好きとか、嫌いとか関係なく、ただフィアンセだから、義務ですることはしておく…みたいな?」
「汐里。弥生のことをいじめたいのか?」
「違うわよ。興味があるだけだってば」
汐里さんはそう言うと、私のことをじいっと見てきた。
「一臣が気に入ったとしたら、どのへん?元気な赤ちゃんを産んでくれそうっていうところ?」
「ああ。そうだな」
「そこだけ?やっぱり、跡継ぎを産んでもらうっていうのが、最優先なわけ?」
「しつこい。汐里」
「いいじゃないよ、教えなさいよ。私だって結婚をどうするか、悩んでいるんだから、参考までに教えてよ。どうやって、弥生さんと結婚を決意したの?弥生さんにも聞きたいわ。この女ったらしで、わがままで、自分の部屋に誰も入れようとしなかった変人と、よく結婚しようだなんて思えたわね。それとも、一臣のこと、あんまり知らないでいるんじゃないの?」
そう、汐里さんは私のほうをじっと見て聞いてきた。
「…え。私は」
なんて答えたらいいんだろう。実はずっと好きだったんですとか、言っちゃってもいいんだろうか。
「結婚をしようって決めるのは、みんなそれぞれだろ?汐里は汐里だし、俺は俺だ。理由なんかひとそれぞれでいいんじゃないのか?」
「それもそうね。一臣の場合は政略結婚なんだし、理由なんかただ一つ、会社のため。それだけか」
「まさか」
一臣さんが片眉をあげた。そして読んでいた新聞をテーブルに静かに置いた。
「え?」
「まあ、結婚を決意したのはそうだけど、こいつと結婚したいと思った理由はそうじゃないぞ」
「どういうこと?」
汐里さんが、不思議そうな顔をして一臣さんに聞いた。
「会社のために、結婚をせざるをえないなって覚悟はした。でも、こいつを知っていくうちに、こいつじゃないと結婚したくないってそう思った。今は、ずっと俺の隣にいるのは、こいつじゃなきゃダメだって、そう思っている」
「え?じゃあ、本気で一臣、弥生さんに惚れちゃってるの?」
「ああ。そうだ」
「それ、すごい…」
「きゃ~~~~~~~~~~!」
汐里さんが何かを言う前に、私の後ろで亜美ちゃん、トモちゃんが大きな叫び声をあげた。
「なんだ?」
一臣さんも汐里さんも、驚きながら亜美ちゃんたちを見た。私もびっくりして振り返った。
「弥生様、おめでとうございます!もう、本当に相思相愛なんですね!」
「私たちも嬉しいです!」
あ。それで、雄たけびをあげたんだ。
「何かお祝いがしたいです!」
「したいよね、トモちゃん。弥生様、お祝いを一緒にしましょう!」
「え?お、お祝い?」
まさか、相思相愛になったお祝い…とか?
「は~~あ。面白いだろ?汐里。弥生は屋敷中の従業員から好かれているんだ」
「…そ、そうなの?面白いわね。確かに」
「親父にも好かれているし、最初はおふくろも反対していたくせに、今では弥生のことを気に入っている」
「おばさま、パーティでそう言っていたもんね」
「ああ。それから俺の秘書の樋口、運転手の等々力、会社の連中も、弥生のことを気に入っているやつばかりだ」
「………それで、一臣まで気に入っちゃったわけ?」
「ああ。きっと汐里も、弥生と一緒にいたら気に入るぞ」
「……そう。でも、私はいいわ。さっさとアメリカに帰ることにするわ」
「なんだ?もう帰るのか?もっと日本でゆっくりしたらいいじゃないか」
「だって、一臣と遊べそうもないし、あんまり一臣と弥生さんがいちゃついているところ見たくないし、のろけももう、勘弁してって感じだし」
「のろけ?俺がのろけていたか?」
「いたわよ。鼻の下伸ばして」
「そ、そうか?」
うわ!一臣さんが照れたところ、初めて見たかも!
汐里さんは、コーヒーを飲み終えると、
「最後にもう一つ聞かせて。ねえ一臣、一人の人に縛られるのって、嫌じゃない?そういうの嫌っていたでしょ?」
と、一臣さんに真面目な顔をして聞いた。
「ああ、縛られるのも、縛るのも嫌いだった。でも、今は弥生だけでいいし、弥生も俺以外のやつには渡したくないって思っている。それが不自由だとも思わないし、逆に大事に思えたり、思われたりして、けっこう満たされてるけどな?」
「おっどろいた。そんな独占欲まであるんだ。昔の一臣じゃ考えられないわね。本当に弥生さんに、骨抜きにされたんだ」
「骨抜き?ははは。まあ、そういう表現も当たっているかもな」
「そう。そんな一臣も面白いわね。私はまだまだ、一人の人に縛られるの嫌だし、しばらく結婚はやめておくわ」
「ああ。そうだな。汐里は独身の方が似合っているかもな」
「一臣も私と同じだと思っていたのにね…。ふふ。ま、結婚式にはまた呼ばれて出席することになると思うから、その時にね」
「ああ。またな」
汐里さんは席を立って、私にも、
「一臣って大変なやつだけど、頑張って」
とそう言ってダイニングを出て行った。
「素敵!」
後ろからまた、亜美ちゃんとトモちゃんの声が聞こえた。
「汐里がか?」
一臣さんがそう2人に聞くと、
「いいえ!一臣様と弥生様の関係性がとっても素敵だなって」
と、うっとりしながら亜美ちゃんが答えた。
「そうか」
一臣さんは片眉をあげ、それから口元を緩ませた。あ、今、何か企んだ?
「じゃあ、立川、小平。俺と弥生は仲がいい方がいいか?」
「もちろんです。仲がいいのが一番です」
トモちゃんが明るくそう答えた。
すると、
「そうか。わかった。じゃあこれからは、弥生と堂々と仲良くするからな?」
と一臣さんは、いつもは見せないような笑顔を2人に見せた。
2人はその笑顔を見て顔を赤らめた。
やばいかも。これってもしや、お屋敷内でいちゃいちゃし放題するぞっていうのを、実行しようとしているってこと?
「弥生」
「うわ。はい!」
いきなり私の名前を呼ばれ、びっくりした。
「早く朝飯食えよ。もう時間ないぞ」
「え?」
時計を見て私は慌てて、トーストをほおばった。
一臣さんはまた、余裕の顔をして新聞を広げた。
あれ?いちゃいちゃし放題はしない気かな?一臣さんの行動って、どうも読みにくいし、計り知れない。
朝食が済み、いったん部屋に戻った。それからすぐに1階に下りた。玄関には亜美ちゃん、トモちゃん、日野さんが並んで待っていた。
階段を下りて玄関に行こうとすると、後ろから一臣さんが、階段を颯爽と下りてきて、
「弥生、とっとと行くぞ」
と言って、私の背中に腕を回した。
あ。エスコートしてくれるんだ。いつもみたいに優しく…と思っていると、グイッと一臣さんの体に引き寄せられてしまった。
あれ?いつもここまで、引っ付かないよね。
「一臣様、弥生様、いってらっしゃいませ」
車に乗り込むと、みんなが頭を下げた。
そして等々力さんがドアを閉め、運転席に乗り込むと、す~~っと静かに車を発進させた。
「おはようございます。一臣様、弥生様」
「ああ。今日のスケジュールはどうなっている?樋口」
「はい。今日は午前中はI物産の専務がいらっしゃいます」
「I物産はどうだ?何か裏でもありそうか」
「いえ。いろいろと調べましたが、我が社と提携を結びたいだけかと」
「ふん。緒方商事の真似事ばかりしてきた商社が、今頃なんだってうちと提携を結びたがっているんだ」
「I物産も赤字続きですよ。手放した子会社もかなりあるし、立て続けに工場も閉鎖に追い込まれています」
「リストラも?」
「はい。かなり…」
「それで、なんでうちなんだ?緒方財閥の内情を把握していないのか?」
「いいえ。上条グループと提携を結んだ我が社だったら、安泰だと考えたのではないでしょうか」
「なるほどな。それで、庶務課にいった大塚のことは何かわかったか?臼井課長から連絡はあったか?」
大塚さん?
「はい。特に裏があるわけではないようです。弥生様のことも上条グループの娘だとはご存じないようですし、I物産に入られなかったのは、どんな理由があるかはわかりませんが、特にスパイというわけでもなさそうですし、信用はできるようですよ」
「本当か?弥生をいじめていたのは、ただの新人いびりだな?」
「はい」
「大塚さんがなんで、I物産に?何か関係があるんですか?それも、スパイって?」
私が一臣さんに聞くと、
「I物産の社長の娘だ。とはいっても、お前みたいに一人娘じゃなく、上に2人も姉貴がいるみたいだけどな」
と一臣さんは答えた。
「じゃあ、大塚さんもご令嬢なんですね」
「う~~ん。あんまり質のいいお嬢様じゃないがな。なにしろ、新人いびりをして楽しんでいるくらいだからな」
そ、そういえばそうか。
「I物産のお嬢様方は、マンションを買ってもらって優雅に暮らしていたようですね。ただ、ここ数年、経営がおもわしくなく、マンションも手放し、贅沢三昧もできなくなり、社長の住んでいた豪邸まで売ったようですよ」
「豪邸?」
樋口さんの言うことに、聞き返した。
「うちの屋敷ほどじゃないが、かなりの豪邸に住んでいたらしいぞ。そこも手放したのか」
一臣さんが樋口さんに聞いた。
「ええ、ここ1~2年、I物産はかなり追い込まれているようですよ」
「なるほどなあ。I物産はうちみたいに、歴史ある会社でもないし、先代の社長が一代で築いた会社らしいが、その息子があとを継いで、金使いまくって、贅沢三昧して、今のありさまになっているってことか」
「それをうちの祖父は阻止するために、父も高校の時に家を追い出され、一人で生活しないとならないはめになったみたいで」
「ああ。上条グループの会長は立派だな。贅沢もしないし、いまだに質素な暮らししているんだろ?家もけっこうぼろいしな」
酷い。そこまでぼろくないと思うんだけど。まあ、一臣さんのお屋敷に比べたら小さいし、ぼろく見えるかもしれないけどさ。
「大塚も贅沢三昧していたのに、いきなり貧乏暮らしをしないとならなくなったのか?それがもとであいつは、性格がねじれたのかなあ。お前は本当に素直にまっすぐ生きてこれたのにな?」
「うちの場合は実家にいた頃から、質素でしたけど…。贅沢三昧したことなんか、一回もありません」
「ははは。そうか。上条家はやっぱり、立派だと思うぞ?だから、お前も大学時代、質素に暗く暮らせたんだな。その暗さに俺が怖い思いをしたけどな」
う。それ、ストーカーのように暗いって言いたいんだよね。グッサリ。
一臣さんは私の手を掴んだ。そして指を絡ませ、
「でも、あれかもな。大学時代にお前のことをちゃんと知っていたら、やっぱり俺はお前に惚れていたかもな」
と優しい声でそんなことを言いだした。
「…え?で、でも、瓶底メガネで、髪もひっつめてて、薄汚い格好していましたよ?」
「ああ。そうだな。惚れていろいろと、俺がお前を変えていったかもな」
「え?」
「そう思うと悔しいな。お前の化粧や髪形変えたのって、久世なんだろ?」
「いいえ。久世君のお姉さんです」
「でも、久世があいつの姉貴がやっている美容院に連れて行ったんだろ?」
「はい」
「……悔しいよな。あいつも、いろいろと調べさせたが、裏があるわけじゃなかった。お前に会って、本当にお前に興味を持ったからだよな。あいつのほうが俺より先に、お前の良さを見抜いていたかもしれないってことだろ?」
え?私の良さ?そうかな。私があまりにも酷い化粧をして、酷い恰好をしているから、見るに見かねてって感じだったみたいだけどな。それに、脚立持ってふらふらしているから、変な奴だって思ったんだろうし。
「樋口」
「はい」
いきなり、一臣さんは私の肩を抱いて私を引き寄せると、樋口さんの名前を呼んだ。
「俺はこれからも、弥生とべたべたするからな」
「は?」
べたべた?突然何を言いだすの?ほら、樋口さん、何も言えなくなっているじゃない。
「無理強いするなとか、いろいろお前、俺に注意して来たけど、無理強いはしていないからな。ただ、弥生とはどこでもこれからはいちゃつくから」
はあ?!
「でないと、どこでどいつがこいつに惚れて、手を出してくるかわからないだろ?」
「あ。そういう理由でですか。わたくしはまた、そういう作戦でいくのかと思いました」
樋口さんがそう静かに言った。
「作戦?」
「はい。社内でいろんな噂があるようですから、わざとフィアンセの弥生様と仲がいいところを皆さんに見せて、一臣様がフィアンセを嫌がっているとか、ご結婚も嫌々するんだろうとか、そういう噂を覆そうとする作戦なのかと」
「ああ。そうだ。それもあるぞ。昨日もそんな話を、等々力ともしていたんだ。なあ?等々力」
「はい」
「それで俺は、堂々と弥生とは仲良く振舞うことにした。あ、ただし、弥生と上条グループの令嬢が同一人物だということを、誰もわかろうとしないから、その辺のことは頼んだぞ、樋口」
「はい?」
「どこからか、秘書課にいる上条弥生は、上条グループの令嬢だと噂を流せ。それも、一気に社内に広まるだろ」
「ああ。なるほど。そうですね」
わあ。なんか、一臣さん、悪巧みが似合う…じゃなくて、得意…、じゃなくて、えっと。ぴったりくる言葉が思い浮かばないけど、悪びれず平気でそういうことを樋口さんに言っちゃうんだな。
「龍二がいる時は、わざと弥生を嫌っているように演技をしなくちゃならなかったが、今度のは、仲良くしていたらいいんだもんな?楽だな?弥生」
「え?」
「べったり、いちゃいちゃし放題だぞ?それも、屋敷でも社内でも、車の中でも、どこでもだ。嬉しいだろ?」
「い、いえ」
「嬉しいだろ!?」
「………はい」
「ですから、一臣様、そういうことも無理やり弥生様に言わせるのもよくないかと」
「なんだよ、樋口。無理やりっていうのは…」
「弥生様も、本心を言えなくなってしまうのではないかと」
え?本心?!
うきゃあ!樋口さんのほうがきっと誤解している。だって、べったりしていてくれないと、私、不安になるってわかったし、変に冷たくされたり、そっけなくされたりしただけで、ものすごくへこむのに。
「あ、あのあの。私は…」
「ああ、言ってやれ、弥生。いちゃつくのも、俺にべったりされられるのも、嫌じゃないってな」
「……い」
「…い?」
一臣さんが私の顔を覗き込んだ。
「嫌だって言いたいのか?」
「いえ、そうじゃなくて。言いづらいって言おうとしたんです」
「なんでだよ?」
「だって、そんなこと恥ずかしくてっ!やっぱり、私の口からは言えません!」
「あははは。面白いですねえ、お二人は。本当に仲がよろしくて。樋口さん、心配しないでもいいですよ。弥生様は一臣様がべったりされていないと、どうやら不安になるようですし、お二人はあれで、ちょうどいいんですよ」
そう言って、また等々力さんが大笑いをした。
「……おう。等々力はちゃんとわかっているじゃないか」
そう一臣さんはほんのちょっと照れくさそうに言った。
あ。また、照れている一臣さんが見れた!嬉しい。
ビト…。私も一臣さんの肩に自分からもたれてみたくなり、引っ付いた。
「そうですか。わたくしが勝手に心配してしまっただけで、なんの問題はなかったんですね」
「はい」
私は素直にそう答えた。
一臣さんはというと、何やら隣でご機嫌でいる。ご機嫌でいるのが手に取るようにわかるくらいにご機嫌だ。
いちゃいちゃし放題って言葉に、びっくりして、どうしようって思ったけど、よくよく考えてみたら、それってとっても嬉しいことなのかもしれない。
お屋敷に龍二さんがいた時には、そっけなくて、それどころか冷たい視線まで私に向けていた一臣さん。それが演技だとわかっていても、悲しかったもん。
だけど、これからは、甘々のラブラブの、そんな毎日になるんだもんね。
きゃ~~~~~~~~~~~~!
いきなり目の前が、バラ色に変わった…気がする。
ドキドキの毎日には変わりないだろうけど、やっぱりこの事態を素直に喜んで受け止めよう。