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ビバ!政略結婚  作者: よだ ちかこ
第8章 フィアンセの噂話
105/195

~その9~ 「いちゃつくぞ」

 チュ。おでこに誰かが触れた?

 チュ。次はほっぺた。

 それから誰かの優しい手が私の髪を撫でる。


 これ、一臣さんなの?夢かな。夢ならまだ覚めないで。

 パチ。あ、目、覚めちゃった。


 と思ってがっかりしたら、すぐ目の前に一臣さんの顔が見えた。

「おはよう、弥生」

 そう言うと、一臣さんは私の鼻の頭にチュッとキスをした。

「お、おはようございます」


 もしかして、夢じゃなくてずっと私にキスしてた?!


「ねぼすけだな。もう7時になるぞ」

「え?!でも、アラーム」

「止めた。お前、全然起きなかったな」

「……一臣さんは起きていたんですか?」

「ああ。アラームで起きた。弥生の寝顔可愛かったから、そのあとずっと見てた」


 きゃ~~~~~~~~~~~~~。

「ははは。真っ赤になるなよ。本当に可愛い奴だな、お前って」

 チュ。唇に一臣さんはキスをして、それから起き上がった。


 一臣さんはバスローブを着ている。でも、昨日は裸で寝ちゃった気がする。あ、やっぱり、私は素っ裸だ。でも、ちゃんと今日は布団が肩までかかっていた。


「シャワーは浴びるのか?」

「いえ」

「じゃあ、俺は浴びて来るぞ」

「はい」


 一臣さんはバスルームに入っていった。その隙にパジャマやら下着を持って、ダッシュで自分の部屋に戻った。素っ裸で…。

 そしてそのまま、バスルームまで小走りでいき、シャワーを浴びた。


 一臣さん、いつもの一臣さんだった。優しくてスケベな…。

 ほっとした。クールで淡泊な一臣さんじゃなくて。


 他の女の人は、そんな一臣さんで寂しくなかったのかな。あっさりとしていて、いつも冷めてて、愛されているっていう実感もなくて、そんなで悲しい想いはしなかったんだろうか。それとも、遊びだって割り切っていて、気にならなかったのかなあ。


 私は…、冷たい一臣さんは、悲しい。あっさりとしていて、冷めている一臣さんだったら、きっといつも寂しい思いをしていないとならない。

 そう思うと、べったりしていて、スケベで、油断も隙もないエッチな一臣さんのほうがずっといいかも。そんな一臣さんだったのに、なんで私逃げたりしていたのかなあ。


 着替えと化粧が済むとすでに7時半。私は慌ててダイニングにすっ飛んで行った。すると、一臣さんと、その隣には汐里さんがいて、2人でコーヒーを優雅に飲んでいた。


 なんで、隣の席?い、いいけど。


「おはよう、弥生さん。よく眠れた?」

「はい」

「あなたって、すごいのね、びっくりしたわ」

「え?」


 なんだろう、突然。私は国分寺さんに椅子をひいてもらい、

「ありがとうございます」

とお礼を言って席に着いた。


「ふ~~ん。そういうところは、他のお嬢様より、お嬢様らしいのね」

「え?」

「でも、見ため一臣のタイプでもないのに、一臣のハートしっかりとつかんだんだ。ねえ、どうやってつかんだの?教えて?一臣は全然教えてくれないから」


「弥生、いいぞ。言わなくたって」

 一臣さんはクールな顔でそう言って、新聞を広げた。

「いいじゃない。聞かせてよ。あの絶対に人を入れようともしなかった、一臣のお城にまで入れてもらえるなんて貴重な存在よ。ね、どうやって、一臣の部屋まで侵入できたわけ?」


「え。そ、それは」

 侵入って言われても、私から入ったわけじゃないんだけどな。

「汐里、からかうのもいい加減にしたらどうだ?」

「からかってなんかいないわよ」


「じゃあ、なんでそんなことを弥生に聞くんだ?」

「だって、興味あるんだもの。それとも、フィアンセっていうのが理由だったりする?好きとか、嫌いとか関係なく、ただフィアンセだから、義務ですることはしておく…みたいな?」

「汐里。弥生のことをいじめたいのか?」


「違うわよ。興味があるだけだってば」

 汐里さんはそう言うと、私のことをじいっと見てきた。


「一臣が気に入ったとしたら、どのへん?元気な赤ちゃんを産んでくれそうっていうところ?」

「ああ。そうだな」

「そこだけ?やっぱり、跡継ぎを産んでもらうっていうのが、最優先なわけ?」

「しつこい。汐里」


「いいじゃないよ、教えなさいよ。私だって結婚をどうするか、悩んでいるんだから、参考までに教えてよ。どうやって、弥生さんと結婚を決意したの?弥生さんにも聞きたいわ。この女ったらしで、わがままで、自分の部屋に誰も入れようとしなかった変人と、よく結婚しようだなんて思えたわね。それとも、一臣のこと、あんまり知らないでいるんじゃないの?」

 そう、汐里さんは私のほうをじっと見て聞いてきた。


「…え。私は」

 なんて答えたらいいんだろう。実はずっと好きだったんですとか、言っちゃってもいいんだろうか。

「結婚をしようって決めるのは、みんなそれぞれだろ?汐里は汐里だし、俺は俺だ。理由なんかひとそれぞれでいいんじゃないのか?」


「それもそうね。一臣の場合は政略結婚なんだし、理由なんかただ一つ、会社のため。それだけか」

「まさか」

 一臣さんが片眉をあげた。そして読んでいた新聞をテーブルに静かに置いた。

「え?」

「まあ、結婚を決意したのはそうだけど、こいつと結婚したいと思った理由はそうじゃないぞ」


「どういうこと?」

 汐里さんが、不思議そうな顔をして一臣さんに聞いた。

「会社のために、結婚をせざるをえないなって覚悟はした。でも、こいつを知っていくうちに、こいつじゃないと結婚したくないってそう思った。今は、ずっと俺の隣にいるのは、こいつじゃなきゃダメだって、そう思っている」


「え?じゃあ、本気で一臣、弥生さんに惚れちゃってるの?」

「ああ。そうだ」

「それ、すごい…」

「きゃ~~~~~~~~~~!」


 汐里さんが何かを言う前に、私の後ろで亜美ちゃん、トモちゃんが大きな叫び声をあげた。

「なんだ?」

 一臣さんも汐里さんも、驚きながら亜美ちゃんたちを見た。私もびっくりして振り返った。


「弥生様、おめでとうございます!もう、本当に相思相愛なんですね!」

「私たちも嬉しいです!」

 あ。それで、雄たけびをあげたんだ。


「何かお祝いがしたいです!」

「したいよね、トモちゃん。弥生様、お祝いを一緒にしましょう!」

「え?お、お祝い?」

 まさか、相思相愛になったお祝い…とか?


「は~~あ。面白いだろ?汐里。弥生は屋敷中の従業員から好かれているんだ」

「…そ、そうなの?面白いわね。確かに」

「親父にも好かれているし、最初はおふくろも反対していたくせに、今では弥生のことを気に入っている」

「おばさま、パーティでそう言っていたもんね」


「ああ。それから俺の秘書の樋口、運転手の等々力、会社の連中も、弥生のことを気に入っているやつばかりだ」

「………それで、一臣まで気に入っちゃったわけ?」

「ああ。きっと汐里も、弥生と一緒にいたら気に入るぞ」

「……そう。でも、私はいいわ。さっさとアメリカに帰ることにするわ」


「なんだ?もう帰るのか?もっと日本でゆっくりしたらいいじゃないか」

「だって、一臣と遊べそうもないし、あんまり一臣と弥生さんがいちゃついているところ見たくないし、のろけももう、勘弁してって感じだし」

「のろけ?俺がのろけていたか?」


「いたわよ。鼻の下伸ばして」

「そ、そうか?」

 うわ!一臣さんが照れたところ、初めて見たかも!


 汐里さんは、コーヒーを飲み終えると、

「最後にもう一つ聞かせて。ねえ一臣、一人の人に縛られるのって、嫌じゃない?そういうの嫌っていたでしょ?」

と、一臣さんに真面目な顔をして聞いた。


「ああ、縛られるのも、縛るのも嫌いだった。でも、今は弥生だけでいいし、弥生も俺以外のやつには渡したくないって思っている。それが不自由だとも思わないし、逆に大事に思えたり、思われたりして、けっこう満たされてるけどな?」

「おっどろいた。そんな独占欲まであるんだ。昔の一臣じゃ考えられないわね。本当に弥生さんに、骨抜きにされたんだ」


「骨抜き?ははは。まあ、そういう表現も当たっているかもな」

「そう。そんな一臣も面白いわね。私はまだまだ、一人の人に縛られるの嫌だし、しばらく結婚はやめておくわ」

「ああ。そうだな。汐里は独身の方が似合っているかもな」


「一臣も私と同じだと思っていたのにね…。ふふ。ま、結婚式にはまた呼ばれて出席することになると思うから、その時にね」

「ああ。またな」


 汐里さんは席を立って、私にも、

「一臣って大変なやつだけど、頑張って」

とそう言ってダイニングを出て行った。


「素敵!」

 後ろからまた、亜美ちゃんとトモちゃんの声が聞こえた。

「汐里がか?」

 一臣さんがそう2人に聞くと、

「いいえ!一臣様と弥生様の関係性がとっても素敵だなって」

と、うっとりしながら亜美ちゃんが答えた。


「そうか」

 一臣さんは片眉をあげ、それから口元を緩ませた。あ、今、何か企んだ?

「じゃあ、立川、小平。俺と弥生は仲がいい方がいいか?」

「もちろんです。仲がいいのが一番です」

 トモちゃんが明るくそう答えた。


 すると、

「そうか。わかった。じゃあこれからは、弥生と堂々と仲良くするからな?」

と一臣さんは、いつもは見せないような笑顔を2人に見せた。

 2人はその笑顔を見て顔を赤らめた。


 やばいかも。これってもしや、お屋敷内でいちゃいちゃし放題するぞっていうのを、実行しようとしているってこと?


「弥生」

「うわ。はい!」

 いきなり私の名前を呼ばれ、びっくりした。


「早く朝飯食えよ。もう時間ないぞ」

「え?」

 時計を見て私は慌てて、トーストをほおばった。


 一臣さんはまた、余裕の顔をして新聞を広げた。

 あれ?いちゃいちゃし放題はしない気かな?一臣さんの行動って、どうも読みにくいし、計り知れない。


 朝食が済み、いったん部屋に戻った。それからすぐに1階に下りた。玄関には亜美ちゃん、トモちゃん、日野さんが並んで待っていた。

 階段を下りて玄関に行こうとすると、後ろから一臣さんが、階段を颯爽と下りてきて、

「弥生、とっとと行くぞ」

と言って、私の背中に腕を回した。


 あ。エスコートしてくれるんだ。いつもみたいに優しく…と思っていると、グイッと一臣さんの体に引き寄せられてしまった。

 あれ?いつもここまで、引っ付かないよね。


「一臣様、弥生様、いってらっしゃいませ」

 車に乗り込むと、みんなが頭を下げた。

 そして等々力さんがドアを閉め、運転席に乗り込むと、す~~っと静かに車を発進させた。


「おはようございます。一臣様、弥生様」

「ああ。今日のスケジュールはどうなっている?樋口」

「はい。今日は午前中はI物産の専務がいらっしゃいます」

「I物産はどうだ?何か裏でもありそうか」


「いえ。いろいろと調べましたが、我が社と提携を結びたいだけかと」

「ふん。緒方商事の真似事ばかりしてきた商社が、今頃なんだってうちと提携を結びたがっているんだ」

「I物産も赤字続きですよ。手放した子会社もかなりあるし、立て続けに工場も閉鎖に追い込まれています」

「リストラも?」

「はい。かなり…」


「それで、なんでうちなんだ?緒方財閥の内情を把握していないのか?」

「いいえ。上条グループと提携を結んだ我が社だったら、安泰だと考えたのではないでしょうか」

「なるほどな。それで、庶務課にいった大塚のことは何かわかったか?臼井課長から連絡はあったか?」

 大塚さん?


「はい。特に裏があるわけではないようです。弥生様のことも上条グループの娘だとはご存じないようですし、I物産に入られなかったのは、どんな理由があるかはわかりませんが、特にスパイというわけでもなさそうですし、信用はできるようですよ」

「本当か?弥生をいじめていたのは、ただの新人いびりだな?」

「はい」


「大塚さんがなんで、I物産に?何か関係があるんですか?それも、スパイって?」

 私が一臣さんに聞くと、

「I物産の社長の娘だ。とはいっても、お前みたいに一人娘じゃなく、上に2人も姉貴がいるみたいだけどな」

と一臣さんは答えた。


「じゃあ、大塚さんもご令嬢なんですね」

「う~~ん。あんまり質のいいお嬢様じゃないがな。なにしろ、新人いびりをして楽しんでいるくらいだからな」

 そ、そういえばそうか。


「I物産のお嬢様方は、マンションを買ってもらって優雅に暮らしていたようですね。ただ、ここ数年、経営がおもわしくなく、マンションも手放し、贅沢三昧もできなくなり、社長の住んでいた豪邸まで売ったようですよ」

「豪邸?」

 樋口さんの言うことに、聞き返した。


「うちの屋敷ほどじゃないが、かなりの豪邸に住んでいたらしいぞ。そこも手放したのか」

 一臣さんが樋口さんに聞いた。


「ええ、ここ1~2年、I物産はかなり追い込まれているようですよ」

「なるほどなあ。I物産はうちみたいに、歴史ある会社でもないし、先代の社長が一代で築いた会社らしいが、その息子があとを継いで、金使いまくって、贅沢三昧して、今のありさまになっているってことか」


「それをうちの祖父は阻止するために、父も高校の時に家を追い出され、一人で生活しないとならないはめになったみたいで」

「ああ。上条グループの会長は立派だな。贅沢もしないし、いまだに質素な暮らししているんだろ?家もけっこうぼろいしな」

 酷い。そこまでぼろくないと思うんだけど。まあ、一臣さんのお屋敷に比べたら小さいし、ぼろく見えるかもしれないけどさ。


「大塚も贅沢三昧していたのに、いきなり貧乏暮らしをしないとならなくなったのか?それがもとであいつは、性格がねじれたのかなあ。お前は本当に素直にまっすぐ生きてこれたのにな?」

「うちの場合は実家にいた頃から、質素でしたけど…。贅沢三昧したことなんか、一回もありません」


「ははは。そうか。上条家はやっぱり、立派だと思うぞ?だから、お前も大学時代、質素に暗く暮らせたんだな。その暗さに俺が怖い思いをしたけどな」

 う。それ、ストーカーのように暗いって言いたいんだよね。グッサリ。


 一臣さんは私の手を掴んだ。そして指を絡ませ、

「でも、あれかもな。大学時代にお前のことをちゃんと知っていたら、やっぱり俺はお前に惚れていたかもな」

と優しい声でそんなことを言いだした。


「…え?で、でも、瓶底メガネで、髪もひっつめてて、薄汚い格好していましたよ?」

「ああ。そうだな。惚れていろいろと、俺がお前を変えていったかもな」

「え?」


「そう思うと悔しいな。お前の化粧や髪形変えたのって、久世なんだろ?」

「いいえ。久世君のお姉さんです」

「でも、久世があいつの姉貴がやっている美容院に連れて行ったんだろ?」


「はい」

「……悔しいよな。あいつも、いろいろと調べさせたが、裏があるわけじゃなかった。お前に会って、本当にお前に興味を持ったからだよな。あいつのほうが俺より先に、お前の良さを見抜いていたかもしれないってことだろ?」


 え?私の良さ?そうかな。私があまりにも酷い化粧をして、酷い恰好をしているから、見るに見かねてって感じだったみたいだけどな。それに、脚立持ってふらふらしているから、変な奴だって思ったんだろうし。


「樋口」

「はい」

 いきなり、一臣さんは私の肩を抱いて私を引き寄せると、樋口さんの名前を呼んだ。


「俺はこれからも、弥生とべたべたするからな」

「は?」

 べたべた?突然何を言いだすの?ほら、樋口さん、何も言えなくなっているじゃない。


「無理強いするなとか、いろいろお前、俺に注意して来たけど、無理強いはしていないからな。ただ、弥生とはどこでもこれからはいちゃつくから」

 はあ?!


「でないと、どこでどいつがこいつに惚れて、手を出してくるかわからないだろ?」

「あ。そういう理由でですか。わたくしはまた、そういう作戦でいくのかと思いました」

 樋口さんがそう静かに言った。


「作戦?」

「はい。社内でいろんな噂があるようですから、わざとフィアンセの弥生様と仲がいいところを皆さんに見せて、一臣様がフィアンセを嫌がっているとか、ご結婚も嫌々するんだろうとか、そういう噂を覆そうとする作戦なのかと」


「ああ。そうだ。それもあるぞ。昨日もそんな話を、等々力ともしていたんだ。なあ?等々力」

「はい」

「それで俺は、堂々と弥生とは仲良く振舞うことにした。あ、ただし、弥生と上条グループの令嬢が同一人物だということを、誰もわかろうとしないから、その辺のことは頼んだぞ、樋口」


「はい?」

「どこからか、秘書課にいる上条弥生は、上条グループの令嬢だと噂を流せ。それも、一気に社内に広まるだろ」

「ああ。なるほど。そうですね」

 わあ。なんか、一臣さん、悪巧みが似合う…じゃなくて、得意…、じゃなくて、えっと。ぴったりくる言葉が思い浮かばないけど、悪びれず平気でそういうことを樋口さんに言っちゃうんだな。


「龍二がいる時は、わざと弥生を嫌っているように演技をしなくちゃならなかったが、今度のは、仲良くしていたらいいんだもんな?楽だな?弥生」

「え?」

「べったり、いちゃいちゃし放題だぞ?それも、屋敷でも社内でも、車の中でも、どこでもだ。嬉しいだろ?」


「い、いえ」

「嬉しいだろ!?」

「………はい」


「ですから、一臣様、そういうことも無理やり弥生様に言わせるのもよくないかと」

「なんだよ、樋口。無理やりっていうのは…」

「弥生様も、本心を言えなくなってしまうのではないかと」

 え?本心?!


 うきゃあ!樋口さんのほうがきっと誤解している。だって、べったりしていてくれないと、私、不安になるってわかったし、変に冷たくされたり、そっけなくされたりしただけで、ものすごくへこむのに。


「あ、あのあの。私は…」

「ああ、言ってやれ、弥生。いちゃつくのも、俺にべったりされられるのも、嫌じゃないってな」

「……い」

「…い?」


 一臣さんが私の顔を覗き込んだ。

「嫌だって言いたいのか?」

「いえ、そうじゃなくて。言いづらいって言おうとしたんです」

「なんでだよ?」

「だって、そんなこと恥ずかしくてっ!やっぱり、私の口からは言えません!」


「あははは。面白いですねえ、お二人は。本当に仲がよろしくて。樋口さん、心配しないでもいいですよ。弥生様は一臣様がべったりされていないと、どうやら不安になるようですし、お二人はあれで、ちょうどいいんですよ」

 そう言って、また等々力さんが大笑いをした。


「……おう。等々力はちゃんとわかっているじゃないか」

 そう一臣さんはほんのちょっと照れくさそうに言った。

 あ。また、照れている一臣さんが見れた!嬉しい。


 ビト…。私も一臣さんの肩に自分からもたれてみたくなり、引っ付いた。

「そうですか。わたくしが勝手に心配してしまっただけで、なんの問題はなかったんですね」

「はい」

 私は素直にそう答えた。


 一臣さんはというと、何やら隣でご機嫌でいる。ご機嫌でいるのが手に取るようにわかるくらいにご機嫌だ。

 いちゃいちゃし放題って言葉に、びっくりして、どうしようって思ったけど、よくよく考えてみたら、それってとっても嬉しいことなのかもしれない。


 お屋敷に龍二さんがいた時には、そっけなくて、それどころか冷たい視線まで私に向けていた一臣さん。それが演技だとわかっていても、悲しかったもん。

 だけど、これからは、甘々のラブラブの、そんな毎日になるんだもんね。

 きゃ~~~~~~~~~~~~!


 いきなり目の前が、バラ色に変わった…気がする。

 ドキドキの毎日には変わりないだろうけど、やっぱりこの事態を素直に喜んで受け止めよう。



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