~その7~ 汐里さん
お屋敷に着いて、車を降りた。一臣さんも車を降りると、さっさとお屋敷に向かって大股歩きで行ってしまった。
国分寺さんや喜多見さん、亜美ちゃん、トモちゃん、日野さんがお屋敷から現れ、
「おかえりなさいませ」
と深々とお辞儀をした。
「ああ」
一言そう言うと、一臣さんは2階に上って行き、私はあとから必死に追いかけた。でも、歩幅が違い過ぎて追いつけず、先に一臣さんは自分の部屋に入り、ドアをバタンと閉めた。
あれれ?
お屋敷でもいちゃいちゃし放題っていうのは、どうなったのかな?忘れたのかな?それとも。
私も自分の部屋に入った。もしかすると、一臣さんが私の部屋に来ているかもという淡い期待を持って。でもいなかった。
カバンを置き、スーツを脱いで、動きやすいキュロットを着た。そして、一臣さんの部屋のドアをノックした。
「入っていいぞ」
良かった。ダメだって言われたら、果てしなく落ち込みそうになってた。
「し、失礼します」
ドアを開け、中に入り、すぐにドアを閉めた。
一臣さんは着替えている最中だった。スーツのスラックスはすでに着替えていて、上半身はまだ裸のままだ。
うわ!
素肌、もろ目に入ってきた。ドキドキドキ!
「あの…」
一臣さんのほうは見ないようにして、声をかけた。
「なんだ?」
「いえ。なんでもないです」
特に話があったわけではない。ドアの前で私はまだ、佇んでいた。
「なんだ?なんの用だ?」
え?
実は用もない。ただ、一臣さんのそばにいたいだけだ。
「えっと」
どうしよう。何の用もないのに来たのかって怒られるかな。
「もう、食事の時間ですよね?」
「ああ。一緒に食堂にでも行きたかったのか?」
「い、いいえ」
「じゃ、なんだ?」
一臣さんはそう言うと、私のほうをじっと見た。まだ、上半身裸のままで。
「着替えているところでも、覗きに来たのか?」
「違います!!!」
私は慌てて一臣さんの部屋を出て、ドアを閉めた。
なんか、もしかして、変?
一臣さん、怒ってる?
やたらとそっけない。怒らせちゃった?
ドキバク、ドキバク。そっけない一臣さんにようやく気が付き、私はどんどん不安になっていった。
それからちょっとして、ドアをノックする音とともに、
「弥生様、夕飯の準備が整いました」
という亜美ちゃんの声がした。
「はい、今行きます」
私はすぐにドアを開け、亜美ちゃんと一緒にダイニングに向かった。
夕飯は私と一臣さんの席の前にだけ、準備がされていた。ああ、そうだった。もう他の誰もいないから、当分は2人きりなんだ。と思っていると、数か所開けた席の前にも、夕飯の準備がしてあった。
「あの、どなたかいらっしゃるんですか?」
そう亜美ちゃんに聞くと、
「汐里様です」
と、亜美ちゃんが答えた。
あ、そうだった。一臣さんのいとこの汐里さん、お屋敷に泊まっているんだっけ。
なんて思いつつ、国分寺さんが引いてくれた椅子に座ると、そこに楽しげに笑いながら、一臣さんと汐里さんが入ってきた。
え…。一臣さんが笑ってる。それもとっても、楽しそうだ。
そんな二人を見て、トモちゃんや亜美ちゃんはびっくりしている。でも、他の人はあまり気にする様子もなく、いつものように仕事をしている。
ああ。きっと前から、汐里さんとは仲いいんだろうな。それを知っている人は特に、驚くような光景じゃないんだ。
「弥生さん、こんばんは」
「はい。こんばんは」
私は汐里さんから挨拶されて、慌てて席を立って挨拶をした。
「あ、いいの、座ってて。ところで、昨日の琴の演奏良かったわよ」
「ありがとうございます。汐里さんのチェロも素敵でした」
そう言うと、汐里さんはにこりと笑って、自分の席に座りに行った。
一臣さんも、私の前に座った。そして、お料理が運ばれてきて、黙々とそれを3人で食べた。
し~~~ん。ダイニングは静かだった。お料理は和食だ。それも、懐石料理のような上品なものだった。
もしかして、汐里さんのリクエストかな。
黙って食べ終わると、コック長が出てきた。
「喜多見コック長。ありがとう、私のために」
「いいえ。なんでもリクエストしてください。また明日も汐里様のためにお作りしますよ」
「ほんと?アメリカにいると、コック長の日本料理が懐かしくなっちゃうのよね。じゃあ、明日は…お刺身やてんぷらが食べたいわ」
「はい、かしこまりました」
やっぱり、汐里さんのリクエストなんだ。
「弥生様、いかがでしたか?」
「あ。美味しかったです」
「そうですか。良かったです。明日は、弥生様はなにかリクエストはございますか?」
「いいえ。私も天ぷらが楽しみです」
「かしこまりました」
コック長はそのまま、一臣さんの席まで行った。一臣さんは、お茶を飲むと、
「美味しかったぞ」
と一言だけそう言って、立ち上がった。
あれ?もうお部屋に戻るのかな。それとも、一緒にお部屋に行ってくれるのかな。
「汐里も食べ終わったんだろ?」
「うん」
「じゃあ、大広間に行くぞ」
「楽しみだな~~。一臣ったらピアノの腕落ちていなかったし。早く日本で一臣とコラボしたかったのよねえ」
「コラボ?」
私がぼそっと呟くと、
「俺のピアノと汐里のチェロだ。日本に汐里が帰って来た時には、必ずしている」
と一臣さんが教えてくれた。
わあ!素敵!ぜひ聞きたい。と思いながら、目を輝かせると、
「ごめんね?弥生さんには聞かせられないわ。これは2人の楽しみだから、他の誰にも邪魔させないの」
と汐里さんはそう言って、一臣さんと腕を組んでダイニングを出て行ってしまった。
え?
「弥生様、お茶のおかわりでもしますか?」
国分寺さんが聞いてきた。
「い、いえ。もう部屋に行くのでけっこうです」
「そうですか…。もしかしたら、一臣様の演奏を聞きたいのでは?大広間の前の廊下でこっそりと聞くことはできますが」
「………」
国分寺さんが小声でそう言ってくれたが、私は何も答えられなくなった。そして、黙って席を立ち、
「邪魔したら悪いですから、部屋に戻ります」
と、ダイニングを出た。
とぼとぼと階段を上がりだしたとき、ピアノの音が聞こえてきた。なんていう曲だろうか。そのあとにすぐチェロの音も。
綺麗なハーモニー。
そうか。汐里さんが日本に来ると、いつもこうやって2人で演奏をしていたんだ。それが楽しみだったんだ。
仲いいんだな…。
2階に上がり、私の部屋に入ると演奏はまったく聞こえてこなくなった。
私はなんだか、無性に寂しくなり、自分の部屋のシャワーを浴びて、パジャマにさっさと着替え、自分の部屋のベッドに潜り込んだ。
体がベッドに沈み込んだ。
私の知らない一臣さんは、まだまだいっぱいいるんだな。知らない顏、知らない笑い声、知らない仲のいい人たち。
お付き合いしていた人だって、どんな人と付き合っていたのかも把握していない。そんなことどうでもいいことだと思うけど、やっぱり簡単には割り切れない。
いきなりそっけなくなっただけでも、こんなに不安になるし、一臣さんはちょっとの間変だっただけで、本当は私にも冷たくなるかもしれないし、いきなり淡泊になっちゃうかもしれないんだよね。
もし、これから社内で仲良くしてくれても、それも会社のための演技かもしれないんだ。
駄目だ。また、信じられなくなってる。私、浮き沈みが激しすぎる。
でも、帰りの車でもそういえば、一臣さん変だったし、オフィスでも、膝の上に座らせてくれたけど、いつもなら一臣さんのほうから私に抱きついたり、膝の上に座らせたりしてた。
あれ?
いきなり、本当に、そっけなくなった?
ドクン。
ああ。なんだかまた、とめどなく不安が押し寄せてきた。また、ギュッて抱きしめてくれないと、不安だらけだ。
ベッドの中で丸まった。スプリングがまた沈んだ。そのままどこまでも、深く沈んでいくような気がした。
カチカチカチ。時計の音。窓の外から、風で揺れる木々のざわめき。初めてこのお屋敷に来た時のような、静けさと怖さが部屋中に充満している。
もう、寝ちゃおうか。
一臣さんの部屋に行って、一臣さんの部屋のベッドに寝ていようか。
でも、なんでここにいるんだって怒られたらもっと落ち込む。
何の用だってまた冷たく言われたら、果てしなく落ち込む。
このまま、今日はここで寝ちゃおうか。そんなことを思いつつ、目を閉じた。
ざわざわざわ…。木々が揺れる音だけが響き、他の音が何も聞こえなくなり、知らぬ間に私は眠りに落ちていた。
夢の中でも、一臣さんは遠かった。遠くにいて、私は一臣さんに近づこうとしているのに近づけない。そんな変な夢だった。
そこは大学のキャンパスだったかもしれない。遠くで、華やかな女性と一臣さんは笑っていた。
私が呼んでも無視された。
なんだ。一臣さんと結ばれたとか、仲良くなったとか、あれって、全部夢だったんだなあ。そんなことを遠くにいる一臣さんを見ながら思っていた。
ムギュ。
苦しい。息、できない。なんで?
パチ!
目が覚めた。目の前に一臣さんの顔があった。私の鼻をつまんでいたようだ。
あれ?
「なんでお前、こっちで寝てるんだ?」
「え?」
「だから、なんだってここで寝ているんだよ?俺の部屋じゃなくて」
「………ここは?」
「お前の部屋だ」
「あ。夢だったんだ」
「…どんな夢だよ。うなされてたけど」
え?うなされてた?
「それより、俺の部屋に来いよ」
「……はい」
一臣さんは先にベッドから起き上がった。もしかして、私が起きるまで隣にいたのかな。
そしてドアを開くと、
「ほら」
と言って、私を先に通してくれた。
私が一臣さんの部屋に入ると、バタンとドアを閉め、そのまま一臣さんは、ソファに座りに行った。
まだ、バスローブにもパジャマにも着替えていない。今まで大広間にいたのかな。時計を見てみると、11時をまわっていた。
「髪、濡れたまま寝たのか?」
「あ、はい」
「疲れていたのか?」
「はい」
「でも、俺の部屋の風呂も用意できていたぞ?なんで自分の部屋のに入ったんだよ」
「暑かったし、シャワーだけでもいいかなって」
「それで、なんでお前の部屋で寝ていたんだよ」
「それは、勝手に一臣さんの部屋で寝ていたら怒られるかなって」
「ああ、そう」
え?へそ曲げた?思い切り今、片眉あがった。
「一臣さんはお風呂は?」
「今から入る」
「今まで演奏していたんですか?」
「いや。汐里と酒飲んでた」
「……」
そうだったんだ。どこでかな。大広間でかな。2人きりでだよね。
「風呂入ってくるから、お前髪乾かしておけよ。ドライヤーなら、そこに出ている」
「あ、はい」
一臣さんは、バスルームに入りに行った。
私はチェストの前に座り、髪を乾かした。ああ、半乾きで寝たからぼさぼさだ。もうすでに変な癖がついちゃって、直らない。
「はあ」
汐里さんは綺麗な人だった。でも、性格はなんとなく男っぽい感じで、サバサバした雰囲気だったな。
髪を乾かし終え、私はそそくさと一臣さんのベッドに入った。フワ。布団からは一臣さんのコロンの匂い。
私の部屋と違って、なんだってここはこんなに、心地いいんだろう。
でも、一臣さんが隣で私を抱きしめてくれたら、もっと心が安心するのになあ。
バタン。バスルームが閉まる音がして、一臣さんがこっちに向かって歩いてくる気配がした。私は背中を向け、体を丸くして、寝ているふりをしてしまった。
でも、一臣さんは特に私のことを気にかけるわけでもなく、すぐにドライヤーで髪を乾かし始めた。
それからしばらくして、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「一臣~~、いるんでしょ?」
ドキ。あれって、汐里さんの声?
一臣さんはドライヤーを止め、バスローブのままドアを開けに行った。
ドキン。何の用かな。部屋まで来るなんて。
「どうした?汐里」
「これ。一臣の時計、私の部屋で外して、忘れていったから届けに来たわよ。ロレックスでしょ?大事なものなんじゃないの?」
「ああ。サンキュ」
時計を忘れて行った?汐里さんの部屋でお酒飲んでいたの?
「一臣の部屋って、ジャグジーなのよね?」
「ああ」
「入らせてよ。一回くらいいいでしょ?」
「駄目だ」
「なんでよ。部屋にも入れさせないし、メイドですら、喜多見さん以外の子に掃除させないんだってね?」
「ああ。勝手にあれこれ片づけるから、喜多見さんじゃないと駄目なんだよ」
「それで、他の人はだ~れもいれないんだ。屋敷に連れ込んだ女はどうしているわけ?」
「屋敷に連れ込んだことはないけどな、一回も」
「徹底してるのね。相変わらず一臣の部屋は、自分のお城なわけね?」
「ああ」
「じゃあ、どうするの?あの弥生さんと婚約したんでしょ?あの子、この屋敷に住んでいるんでしょ?今はいいけど、結婚してもまったく別々の部屋で暮らすわけ?」
「そんな心配、汐里がしないでもいいだろ」
「だってあの子、一臣に熱あげてたみたいだし、ちょっとかわいそうだなって思って。あ、そっか。あの子の部屋、隣りだっけ。夜這いでもしに行くの?」
「しねえよ」
「じゃあ、子づくりの時だけあの子の部屋に行って、あとはほったらかし?」
「うるさいな。しつこいぞ、汐里。お前には関係ないだろ。早く部屋戻って寝たら?」
「そんなでいいわけ?」
「何が?」
「会社ではワンマンなんだって?女はいっぱいいるらしいけど、全部遊びでしょ?屋敷に戻ったら自分の部屋に引っ込んで、一人で過ごして。人間としてどうよって、私だって心配になるわよ。これから先、ずうっと、そんな感じで過ごすわけ?」
「女はみんな手を切った。だから、人間としてどうよなんて、汐里に言われる筋合いはないんだよ」
一臣さんは、面倒くさそうにそう答えた。
なんだか、話だけ聞いていると、まるでお姉さんみたいだ。年は汐里さんの方が上なんだっけ?
「え?それ、本当に?あんなに女遊びが盛んだったあなたが?手を切ることなんかできるの?」
「できるよ。そんなの簡単だ」
「でも、なんで手を切ったの?あ、会社のため?」
「フィアンセ決まったんだから、他の女と遊んでいるわけにもいかないだろ?」
「おじ様も言っていたけど、そんなに緒方財閥苦しいわけ?上条グループとの提携やばくなったら、そんなに大変なわけ?」
「まあな」
「うちの父親のせいもある?いろんな骨董品だの、美術品を多額のお金出して買っていたから」
「いや。あの頃は、緒方財閥も全然ゆるがなかったし。あ、でも、多少は健次郎おじさんの影響もあるのかもな」
「緒方財閥の財産、使ってたんだもんね。それを一臣が犠牲になって、政略結婚までさせられるの?なんか、腹だたしくない?一臣は、あの大金麗子が気に入っていたんでしょ?」
「俺?う~~~ん、でもあのお嬢様は、かなりのわがままそうだったから」
「じゃあ、本命は、鷺沼京子?」
「ああ、体弱そうだからパス」
「もう!私の悩みばかり聞いてもらってる場合じゃなかった。一臣の話も聞くから飲み直そう。一臣の部屋、入れてよ。まずは、自分の城に人を入れられるようにならないと」
え?入ってくるの?私、どうしよう。おろおろ。隣りの部屋に戻ったほうがいいのかな。
「駄目だ」
あ。一臣さん、断ってくれた。よかった。
「なんで?」
「それに、飲み直さないよ。もう寝るし」
「まだ、11時よ。明日仕事があるとはいえ、まだまだいいでしょ?少しくらい」
「駄目だって。一人にさせると寂しがるから、もう隣にいてやんないと」
「…誰が?あ!まさか。また犬でも飼った?」
「犬?いや、どっちかっていうと狸に近い?」
狸?私のこと?
「ひどい!」
あ!今、声でてた。でも、聞えてないよね?一臣さんや汐里さんには。
「え?今の、誰の声?」
しまった。聞こえてた?!
「俺のフィアンセ」
「え?!でも、一臣の部屋の中から聞こえたけど?」
「だから、今、ベッドで俺を待っているんだ。悪いな、汐里。酒ならまた今度だ。ほっとくとあいつ、勝手に落ち込みだすから」
「ちょっと待った!昨日、フィアンセに決まって、もう部屋に連れ込んでんの?っていうか、一臣の城にあのフィアンセ入れたわけ?」
「いいや。昨日からじゃない。弥生がこの屋敷に来てからずっと一緒に寝てる」
きゃあ!ばらしてる!
「ええ?」
「汐里も知ってるだろ。龍二のやばい性格。親父といろいろと策を練ったんだ。昨日のあれは、出来レース。弥生との婚約はもっと前から決まっていたし、俺と弥生はすでにそういう仲ってわけだ」
「そういう仲?」
「他の女と手を切ったのも、弥生一人に決めたからだ。わかった?いい加減、汐里も一人の男に決めたら?それか一生独身でいたいなら、それもいいかもしれないぞ?チェリストでやっていく自信がないからって、結婚に走らなくてもさ。じゃ、おやすみ」
バタン。一臣さんはドアを閉め、部屋の中へと入ってきた。そして、カタンと腕時計をチェストの上に置く音がして、ベッドに近づいてくる気配がした。
「こら、狸」
「た、狸じゃないです」
背中を向けたままそう言うと、一臣さんはベッドにドスンと座った。
「狸だろ?ずっと狸寝入りしていたんだろ?」
あ。そっちの狸…。
「ごめんなさい」
「俺と汐里の話、聞いてたな?」
「ごめんなさい」
「ま、いいけどな」
「時計、置いてきたんですか?」
「ああ。なんか、邪魔になって。外してそのまま忘れて来てた」
「大事な時計なんですか?」
「……まあ、な」
「……ずっと、汐里さんの部屋で飲んでいたんですか?」
「別に汐里といちゃついていたわけじゃないぞ。あいつとはそんな関係でもないんだし」
「う、疑ったりしていません。話を聞いていても、お姉さんみたいだなって思ったし」
「あ、そうかもな」
「……お、おやすみなさい」
「寝るのか?」
「はい。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
一臣さんは、おやすみのキスもしてくれず、ベッドから立ち上がると髪を乾かしに行った。私はずうっと、一臣さんには背中を向けたままだった。
でも、後ろから抱きしめてくれないかな、なんて期待はしていた。でも、してくれなかった。
やっぱり、そっけない。でも、ちゃんと私が寂しがるからって、戻って来てくれたし、お酒の誘いも断ってくれた。
モヤモヤ。それなのに、なんで胸がモヤモヤするのかな。
ううん。これはモヤモヤて言うより、モンモンかな。
ああ!もう!自分の感情すら、よくわかんない。もう寝よう。寝てしまえ。
そう思って目をつむった。でも、結局はまったく眠れなかった。