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変月  作者: ムー
7/7

記憶

 日焼けした肌に映えるスカイブルーのTシャツ――隼人だった。


「南月」


 隼人は早足で私の所まで来ると、いきなり腕を掴み立ち上がらせた。


「ちょ、どうしたの!? 待ってよ!」


 彼には私の言葉なんて聞こえていないようだった。

 強引に手を引き、教室から連れ出そうとする。


「やめてってば!」


 ……やっぱり聞いてくれない。

 抵抗しようにも、力が違いすぎてびくともしないし。

 急にどうしたんだろう?

 こんなのいつもの隼人らしくないよ。


「なんで……に……き……」

「え?」


 それは聞き取れない程小さな、呟きだった。


「そんなにアイツが好きなのか……」


 隼人の声はひどく悲しそうだった。

 アイツ?


「隼人、アイツってだ……」

「あんな目に合わされて、それでもアイツがいいのか?」


 そう言って隼人が向けた視線の先に、芹澤さんがいた。

 芹澤さんは驚くでも慌てるでもなく、挑発的な笑みを浮かべて隼人を見返した。


「あんな目って……芹澤さんに会うのは今日が2回目だよ? それに、二人は知り合いなの?」

「……友達だったんだ」


 答えたのは芹澤さんだった。


「友達?」


 隼人に大学生の友達がいるなんて聞いたことなかった。

  

「古い、ずっと昔のね」

「違う!」


 隼人は暗い色をたたえた瞳で芹澤さんを睨み付けた。


「俺の一番大切なモノを奪ったくせに……何が友達だ!」


 隼人の一番大切なモノ……?

 私はもう話についていけなかった。


「俺が奪ったモノって?」


 芹澤さんは隼人の視線にも怯むことなく、むしろ挑発的な態度を強めた。


「南月ちゃんの前で言えるのか?お前が……」

「ストップ!」


 突然、落ち着いた女の声が間を割った。


「二人とも何してるのかしら?」

「綾子先生……」


 先生は入り口に寄りかかるようにして立っていた。

 厳しい表情でため息をつくと、ヒールを鳴らしながらこちらに来る。


「松尾くん、駄目でしょう?」


 そう言って長い指を隼人の頬になぞらせた。

 ……まるで恋人同士がするように。


「っ……隼人!」


 私は思わず隼人の手を引こうとして――別の力に引き寄せられた。


「南月ちゃん」


 鼓膜を震わすように低い声が耳元で囁く。


「俺が嫌いなモノ、知りたくない?」

「い、いきなり何を……」 

「火」

「え?」

「嫌い、って言うより怖い、かな。嫌な事を思い出すんだ」


 ふいに浮かんだ、あの夢の炎。

 肉の焼ける臭い。

 自分の体が醜く崩れていく絶望感。

 陽炎の向こうで嘲笑う……篝の姿。


「……君は好きだよね」

「っ!」


 掴まれた腕に力が込められる。


「火にじわじわと焼かれる恐怖なんて……」


 心臓が苦しくて、息がうまく出来ない。

 頭がくらくらする。

 私の全てが、その言葉を拒絶しようとしていた。


「知らないだろ?」

「やめ……」

「――桜花」


 彼がわたしの名前を呼んだ。

 それが鍵であったように、沸き上がるわたしの膨大な記憶。

 舞い散る桜の花びら――そうだった。

 捕まえたら願いが叶うと教えてくれたのは、貴方だったね?


「南月……?」


 隼人が私を呼んでいる。

 だけど、なんでかな。

 もうそれが私の名前には思えないんだ。


「……篝」


 わたしは腕を振りほどき、彼と向き合った。


「ずっと……待ってたのよ」

「……桜花、様」


 抱き付くように、彼の首に手を回す。


「――復讐の時を」


 そう、貴方を殺す為に、わたしは生まれ変わったのだから。

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