意味深な問い
あっという間に時間は流れ、嫌だ嫌だと思っているうちに約束の時間が来てしまった。
教室のドアを開けるともう芹澤さんは着いていて、机の上には参考書やらプリントやらが広げられていた。
「お、おはようございます」
挨拶するのが精一杯、本当は走って逃げ出したい気分だ。
「おはよう、今日はよろしくね」
こちらこそ、と答えながら芹澤さんを横目で見る。
……綺麗な横顔。
「じゃあ始めようか」
「あ、はい」
まずは簡単な文から、と言って黒板に何か書いていく。
「読んでみて」
「えっと……うたた寝に、恋しき人を見てしより、夢てふものは頼みそめてき…??」
意味不明だ。
みそめてきって何……!?
そんな私の脳内を察したのか、芹澤さんが解説を始めた。
「これは恋の歌なんだ」
「うたた寝に好きな人が出てきた……って感じですか?」
「そう。ある日うたた寝をしていると夢の中に恋しい人が現れた、それからというもの夢を頼りにするようになってしまった……って歌」
強い視線に顔を上げれば、芹澤さんが真摯な瞳で私を見ていた。
「可愛い歌だよね、女の子はこうゆうロマンチックなの好きなんじゃない?」
軽い口調とは裏腹に、視線は私を威圧するようだった。
「そ、そうですね」
教壇からゆっくり近付いてくる気配がする。
「南月ちゃんの夢にも出てきたりするのかな?」
「え……!?」
机のすぐ側で立ち止まり、緩慢な動作で私の顔を覗き込む。
「出てきたりしない?」
息遣いが聞こえるほど近くで問いかけられる。
「だ、誰がですか」
かろうじて出した声は自分でも情けないほど掠れていた。
射抜くような瞳が私を見ている。
篝と同じ色の瞳が。
「彼氏」
……へ?
「かれし……?」
「そう」
そう言って芹澤さんは悪戯っ子みたいな顔で笑った。
なんだ……隼人のことか。
篝のことじゃなかったんだ。
何も知らないような顔でからかう芹澤さんに、何故か寂しさを感じた。
そう言えば……
制服のポケットを探り、携帯電話をチェックする。
メールの着信を知らせるライトが点滅していた。
まさか隼人?
「どうかした?」
「あ、いえ……」
わざわざ勉強教えてもらってるんだし、目の前で携帯チェックしちゃ悪いよね。
「なんでもありません、続きをお願……」
そう言いかけた時だった。
ドアが乱暴に開けられ、馴染みの顔が現れた。