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変月  作者: ムー
3/7

夏のはじまり2

芹澤さんは届け物をしに来たらしく、手に持っていた書類の様なものを先生に手渡した。

「ありがと、大変だったんじゃない?」


書類に目を通しながら先生が言うと、


「ちょっとだけ。でも綾子さんの為ならなんてことないですよ」


と冗談っぽく答えた。

なんとなく艶っぽい雰囲気を感じるのは気のせいだろうか。

付き合ってる……のかな。


「先生、結果も聞いたし、もう帰ってもいいですか?」


なんとなく私は邪魔な気がした。


だけど綾子先生は、


「ストップ。さっきの話を忘れたの?」


「さっき?」


思い当たる話はない。

すると先生は、試験結果の紙で私を扇ぎながら、


「誰かさんの壊滅的な古典をどうするか、よ」


と言った。


「え、壊滅的?」


と芹澤さんが小さく反応したが、それにはあえて気付かない振りをした。


「ど、どりょくします……」


「どうやって」


「え?えっと、あ、古典の本をいっぱい読むとか?」


「あら、言葉の意味もわからないのに読めるの。すごいわね宮田さん?」


ごもっともです。


でもどうしたらいいかなんて全然分からない。

理解力も記憶力も悪くない方だとは思う。


現に歴史のような暗記系教科は得意だし。

だけど古典だけは無理!


いくらやってもなかなか記憶に残らない。


人間の脳は覚える気のないものをたった数分で忘れてしまう、とテレビで聞いたことがあるけど……


もしかしたら、私は無意識のうちに、こんなもの、って拒絶してるのかもしれない。


「好きになれ、なんて言わないけど、とりあえず平均点レベルまでは上げないとね。このままじゃ本命は厳しいわよ」


そう言って手渡された紙を、改めて見直してみる。


確かにこのままじゃマズイだろうなぁ……


そう思いながら私が試験結果と睨み合っていると、


「……と言うわけだから、よろしくね芹澤くん」


先生が驚くような事を言った。


「え?俺が、ですか?」


芹澤さんも驚いている。


「ちょうどいいでしょ?あなた教師志望なんだし、予行練習とでも思って引き受けてちょうだい」


ね?、と先生が艶やかな顔で芹澤さんに笑いかけた。


私は何だか言いようのない気分になった。


先生の媚るような目が気に入らない。


「いいで……」


「いりません!!」


発した声の大きさに、自分が一番驚いてしまった。

了承しかけた芹澤さんが、怪訝そうな顔をしている。



「す、すみません……でも、芹澤さんに迷惑がかかるだろうし」


取り繕うように笑顔を作って弁解する。


芹澤さんは、


「いや、別に俺の方は構わないけど……」


と言って先生を見た。

「じゃあどうするの?」


先生の声は少し呆れているような感じだった。


「隼人……松尾くんに教えてもらいます」


私はそう言ってから後悔した。


まるで誰かに当て付けるような口調だったと思う。


それに、隼人に教えてもらうなんてありえない。


あいつの成績は、どちらかと言うと下から数えた方が早いくらいなんだから。


そんなこと、担任である綾子先生は当然分かってるはず。


なんて言って誤魔化そうかと考えていると芹澤さんが、


「松尾くん?」


誰?と聞くように言った。


「あ、その、私の……」

彼氏です、なんて言うのが恥ずかしくてしどろもどろになっていると、


「宮田さんの彼」


さらっと先生が答えた。


芹澤さんは短く、へぇ、と言って私を見た。


「じゃあ俺より彼氏に教わる方がいいんじゃないですか?」


そう先生に言いながら私を見ている。


「……無理でしょう」



何も答えなかったが、芹澤さんは先生の一言で察したようだった。


「宮田さん、本気でH大を目指す気があるの?」そう言われてしまっては何も返せない。


「どうするの?」


追い討ちをかけるように言われて、


「……お願いします」


私の特別講習が始まることになった。

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