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魔人種  作者: マーチ13
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序章 6    隠密蹂躙

ユウは、変身した姿を使い研究所の様々な所へ行き、人、キメラ、素材の魔獣と次々と融合した。

無論、誰にも気づかれぬ様、慎重、かつ素早く行動した。

ユウの融合は、魂を得て力を増大させる事から、ある意味食っているとも言えた。


研究所の一角で生まれた、恐るべき食人のキメラは、誰にも知られずに、犠牲者を増やしていく。

もっとも、この惨劇の引き金を引いたのは、彼ら自身である。

己の欲望のために、人間の尊厳を汚し、踏み躙り続けた、行為の果ての報いと言えなくもない。

人々が、研究所で行われてきた、数々のおぞましい所業を知れば、嫌悪してこの惨劇に対して、同情よりも喝さいを送るだろう。

ここには、定期的に奴隷が送られてくるが、キメラの材料にされる者は運がいいほうで、他の者は戦闘実験としてキメラと戦わされる。

キメラと戦わされる者は、死の恐怖のほかに、爪と牙による肉体的苦痛も受けてから殺される。

この光景は職員達の、格好の娯楽として定着しており、今日は何人死ぬだの、どうやって殺されるかだの、賭けの対象になったりもしていた。

また、賭けに嵌ったり、戦いの光景に熱狂した者は、自ら本来必要のない戦闘実験を、わざと繰り返し行ったりしていた。

まさにここは、人間の悪徳と狂気と欲望が生み出した、負の楽園だった。


ユウは、研究所の人間と融合して食らうたびに知る、あまりに腐った行いが、自身の更なる怒りと憎悪を滾らせ、今行っている虐殺に対する罪悪感が、ますます減っていくのを感じていた。



扉が開き、ついさっきトイレと言って出て行った男が部屋に戻ってきた。

ハゲた頭をボリボリとかきつつ、自分の机に近づく。

昨日から、この場にいる全員で書類仕事をしていたが、今だに終わる気配がない。

机に座った男が、同僚に向けた目を戻し、ふたたび仕事に戻った時、その同僚から突然「眠れ。」と声が飛び、それが魔法だと気づく間も無く眠りに落ちた。


全員を眠らせてから、順番に食らっていく。

それにしても書類仕事をしている様子など、まるで普通のサラリーマンのようだ。

だが、そんなものかも知れない。

あの狂気の宴は単なるゲーム、死んで行くのは自分と同じ人間ではなく、奴隷と言う別の生き物、ここに居る者達はそう思っているのだ。

ユウは、ここの者達を腐っていると思いながらも、哀れだとも思った。

彼らは、自分の価値観が狂っていることに気づいていない。

ここに来てから狂ったのか、その前からなのか、いずれにせよ気づく機会はあった。

だが彼らは、気づくことを拒んだが故にここにいる。

今からでも、元に戻れる者は居るかも知れない、だがそれを考慮する義務も義理もない。

彼らは、今ここに居る、ただそれだけでもって、報いを受けるのに十分な理由になるのだ。

この場が生まれて、初めて現れた復讐者にとっては。



かなり人数が多い。

『後回しにするか?』

ユウは入り込んだ食堂で考える。

この人数を無力化できれば、ここから先が一気に遣り易くなるだろう。

悪魔の力で周囲を調べると、うまいこと食堂の周りに人が居なくなっている。

『中の人間を逃がしさえしなければ、どうにかなるかな。』

扉は二つあり、ユウの近くに一つ、厨房の近くに一つある。

警報装置も二つ、一つは同じくユウの近くに、もう一つも厨房の近くで、扉との小さな間にある。

『眠りの術を連発すればいけるか?』

ユウの魔力は大きく、これまで一度も失敗していない。

だがすべて不意打ちで、正面からかけたことはないし、効果範囲もこの部屋の三分の一ぐらいしかない、そのため少し不安があった。

最初以外は、正面からかける事になるので迷うが、時間もない。

誰も、入ろうとも出ようともしていない、今がチャンスなのだ。

ユウは迷いを捨て動くと決断した。


「眠れ。」

人が一斉に倒れる。

範囲外の人が、何事かとこちらに顔を向けた時には、すでに走っていた。

「眠れ。」

次の範囲内の人が倒れる。

非常事態と気付いた者が、慌てて警報に近づいていた。

「壁よ。」

三つ目は障壁の魔法で、扉と警報を覆い誰も近づけなくなる。

警報に近づこうとした男が、不可視の壁に阻まれ立ち往生する。

「おっ・・・お前!?いったい何のつもりだ!?」

一人の男が、事態の説明を求めるが、ユウは答えず無視して周りを見る。

二度目の術では、何人か眠らなかったりすぐに起きた者がいた。

「雷撃。」

攻撃魔法で起きかけた者を気絶させ、その後も次々と魔法を繰り出す。

「雷撃、雷撃、雷撃、雷撃、雷撃、雷撃」

一言で発動する魔法に、まったく対処する事が出来ずに、バタバタと人が倒れてゆく中で、

何人かが詠唱を終え、反撃をした。

「火矢!」「風矢!」「水矢!」

それぞれが、思い思いの魔法を使い攻撃するが、ユウは簡単にかわしてしまう。

防御魔法を使い、身を守ろうとした者もいたが、一撃で防御を崩され、ニ撃目で倒れた。

頭を働かせた者が、ユウの後方にある、警報を狙って魔法を飛ばす。

警報装置はスイッチの部分を壊わしても作動するからだ。

だが、不可視の壁に阻まれ届かない。

「なっ!なんでだ!!?」

ユウは自分の近くにあった、扉と警報は予め障壁で覆っていたのだ。

不可視なので、誰も気付かなかったのだ。


行動開始から一分と経たずに食堂の中は沈黙した。

改めて、力で周囲を調べて、近付く者も、ここの様子に、気付いた者も居ない様だと判断すると、倒れている者達を、食らっていった。

しばらくして全員を食らい終えると、次の獲物を求めて、この場を離れていった。


誰も居なくなった食堂の厨房から、人影が現れる。

それは料理を持ったゴーレムだった。

ゴーレムは、料理を注文をした者が、座っていた場所のテーブルに料理を置くと、他のテーブルから空の食器を回収して、厨房へ戻っていった。

厨房の中では、食べられることの無い料理を、ゴーレムが作り続けていた。



「妙だな・・・」

巡回中の警備兵が、人気の無い通路を歩きながら呟いた。

いつもなら、これだけ歩けば、他の人間を見かけるはずなのに、まるで見当たらない。

時間は昼を過ぎたあたりで、人気が無くなる時間ではない。

念のためと思い、夜でしか見回ったことの無い、部屋の中も見て回ったが、一人も見当たらない。

三度目まで、人が居なくても、何も思わなか思わなかったが、五度目から疑惑が大きくなり、十度目で確信に変わった。

異常事態が起きていと。


その後も大声を上げながら、部屋を次々と見て回るが、誰も見つからない。

「・・・なにが起きてるんだ?」

徐々に恐怖を感じ始めた彼は、走りながら警備室に戻って行った。

「おーーーい!!誰かいないのかーーーーー!!!」

大声を上げながら戻っていたが、誰も答えない。

結局、誰とも会うことなく戻ってきて、警備室に飛び込んだ彼の目には、更なる驚愕の光景が映った。


誰も居ないのだ。


通常この部屋には、絶えず十人以上の人間が詰めているはずで、彼が巡回に出た時には、確かに十数人の同僚が居たのに、今は誰もいない。

部屋はひどく荒れており、あちこちが焼け焦げていて、ここで戦闘があったのは間違いない。

全員やられたのか、やられたとすれば、死体が無いのは何故か、或いは、襲撃者を撃退して、全員で追っているのかもしれない。

ここで何が遭ったのかを想像していたが、ふと気付く。

戦闘があったのなら、必ず警報を鳴らすはずだ。

だが、警報は未だに鳴っていないし、鳴らし忘れる事などありえない。

「十人以上居て、警報を鳴らすことも出来ないなんて、いったい敵は何人いるんだ?」

敵の人数を考えながらも、彼は警報を鳴らして、この異常事態を周囲に知らせた。


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